一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

12 朱殷(しゅあん)の髪と攫われた赤子 8

 私が馬車に乗り込むと、私の隣に知らない男が座っていた。


「シャイイイイイイイイイイイン! 邪魔者は居なくなったよおおおおおおおおお、さあお父さんに再開のキスをプリイイイイイイイイイズ!」


 いきなり私の体に飛びつく馬鹿親父は、私に再開のキスを強請ねだる。 私がそんな物に乗るとでも思ってるのだろうか、再開の拳ならくれてやっても良い。


「くっ付くな馬鹿親父が、私はもう子供じゃないんだ、お前とキスなどするものか! そんなにしたいのならその辺の石にでもしていろ!」


「えええええええええ、お父さんさびしいいいいいいいいいい!」


「クネクネするな、気持ち悪い。 まだ任務が残ってるのだろ? とっとと家に帰れ!」


「大丈夫だって、もう直ぐ町に着くし。 そこから王国までは敵何て滅多に出ないよ。 な、バール」


「そうそう、王国の探索班は優秀なんですよ、町の近くなんて子供が出ても安全なぐらいだって。 へーきへーき」


 なんか増えてるし、まさかついて来る気なのか? 戦力は欲しいが、出来ればこの親父達は勘弁して欲しい。


 バールという男、優秀だと言う探索班から降格させられている、前に言った噂を流した男というのがこの男だ。 むしろその程度で済んで運が良かったとも言える。 その男が後の馬車にそのままに行けと合図して、馬車が去って行く。 先ほどの二人はちょっとだけ不安な表情をしていたが、余程運が無い限りは本当に出て来ない。 


 もし出て来たとしてもさっきの様な巨大なものは出ない、精々壱メートル程度の馬車にも追い付けない奴だろう。 その程度無視しても良いし、どうしても戦わなきゃならない事になっても、その位倒す訓練はしているはずだ。


「あ~ば~」


 騒がしい奴等が来た事に楽しくなったのか、レティシャスが久しぶりに声を上げた。 その声にガバっと馬車の中を見つめる二人の親父達。


「あ、相手は誰だあああああああああああああああああ! まさか幼馴染だった彼奴か?! いや、彼奴は二度と寄って来ない様に排除したはずだ! それとも最近知り合ったとか言ってたブルーって奴か! 許さん、俺のシャインを汚しやがってええええええええええええええ!」


「そうだよ、そんなに子供が欲しかったのなら、俺が幾らでも作ってあげるのに! いや、もう今からでも遅くないよ、この俺と子供を作ろうじゃないか!」


「何言ってるんだお前、お前なんかにシャインを渡すか! お前みたいな奴はとっとと死ねば良いんだ、この女の敵め!」


 ギャアギャアと騒ぐ二人の親父達、流石の私も頭が痛くなってくる。


「何なのこの騒がしいおじさん達は。 貴女の知り合いみたいだけど、どう言う関係なのよ?」


「はぁ・・・・・残念な事に、これは私の父親とその悪友だ。 私としては親と認めたくないんだけどな」


「お、ロリッ子が居るじゃないか? まさかこの子もシャインちゃんの子供なのか?!」


「いや、それは流石に無いだろ。 その頃はこのお父さんと一緒に仕事してたしな、そんな変化があったら見逃さないし、相手の男は殺しているはずだ」


「誰がロリっ子よ! 私はもう十九でシャインと同じ歳よ!」


「なッ、合法だと! 俺初めて見たぞ」


「ん、十九なら許容範囲だ、如何だろう、俺と子供を作ってみないか?」


 あ~・・・本当にわずらわしい。 こんな言い合いをしてたら全く話が進まないじゃないか。 私は追い返そうとも思ったが、噂を流したこのバールと言う男、このまま帰したら確実に私の事を言いふらす。 だとしたら追い返すのもあまり良い手とは言えない。


「「で、あの赤ん坊は誰の子なんだ?」」


 私は本当の事を言おうか迷っていた。 この男達は、戦いになればそれなりに強い。 ただ私の心情的には、大幅にやる気がダウンしそうだ。


「ねぇ、この人達で良いんじゃないの? どうせ戦力が足りないんだから仲間になってもらえば? それとも他にあてがあるの?」


「はぁ、分かった。 この親父達を帰しても碌な事にはならなそうだ。 どうせ何かしらの騒ぎを起こすに決まっている。 全部事情を説明するから、ちょっと黙って聞いていろ」


「「ふぁい!」」


「まずこの赤子は私の子供じゃない。 この子は・・・・・」


「おおおおおそれは朗報だ! やっぱりシャインちゃんの処女は俺の為に残してくれたんだね! 早速俺達の子供を作ろうじゃないか!」


「アホかあああああ! お前にやるぐらいだったら、シャインの初めては俺が貰うわ! お前にだけは例え倫理を犯したとしてもぜっっっっったいにやらんからな!」


 本当にそんな事を思ってるのか、この親父共!! 本気だったなら完全に抹殺しないと私の身が危うい!! もしそうなれば此奴は母さんに殺されるだろうけど、その前に私がやってやる。 イラっと来た私は、この馬鹿親父共に向かって、クロスボウを普通に撃ち放った。


「「危な!」」


 頭を狙ったと言うのに無駄な回避能力を発揮させる馬鹿達。 私は事情を説明する為に少しだけ脅しに掛かった。


「少し黙れ、次は本当にあてるからな」


「「イエッス!」」


 さっきも案外本気だったが、今度はもっと本気でやった方が良いんじゃないかと思い始める私だが、もう少しで爆発しそうな怒りを抑えて、今までの経緯を説明した。


「なる程事情は分かった。 じゃあ俺此処で降りるから、頑張って逃げるんだよシャインちゃん」


「おい待て、此処まで聞いて家の子を見捨てるつもりか? 此処まで聞いたんだからお前には共犯になってもらおう! よし、縛り上げるぞロリっ子!」


「私はクスピエよ! ロリっ子って呼ばないで!」


「や、止めろ、俺はもう牢屋には入りたくないんだ! 俺はあんな男臭い所に戻りたくないんだ! や、やめ・・・・・あ”あ”あ”あ”あ”!」






 三人がかりでバールを縛り上げ、四人となった私達は、当初の予定通りに帝国に向かう事になった。



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