一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

6 頑張って岩を動かしてみせるわ!!

 この丘自体はそんなに高くない。 高さは精々十メートル有るか無いかだけど、この丘から岩が落ちれば、ヒルデさんの家は半壊、もしくは完全に壊れるかのどちらかだろう。 そうなったら何方にしろ人は住めなくなる。


「それではお願いします聖華様、私は夕飯の買い出しをして来ますから、出来ればそれまでに終わらせといてくださいね。 それじゃあお願いします。」


「あ、ちょっと・・・・・」


 ヒルデさんが買い物に出掛けてしまった。 残された私は現状を知ろうと、丘の上に登ってみた。 丘の上には迂回すれば簡単に登れて、最上部には目的の岩がある。 此処から見ると、その岩は大きく平べったい岩で、崖からはみ出しているのは、ほんの少しだけだった。 地面に埋まっていないので、動かそうと思えば動かせると思う。


 でもこのままほっといても簡単には落ちないと思うけど、崖崩れとか起こったらどうなるか分からない。 そういう事故は元の世界でも頻繁に起きてるから。 でも如何やって動かそうかしら? 相当な力を出さないと動かせないわね。 それとも定番の熱を使って割ってみるとか? でも素人の私がやってもうまく割れるかしら? 下手したら割れた物が崖下に落ちて行ったりとか? ・・・・・他の方法を考えてみましょう。


 これは馬一頭で動かせる重量じゃないわね、たぶん二頭にしても結果は同じだわ。 だったら大きな船の帆の様な物があれば、大風を起こして浮かせる事は出来ないかしら? でもこの村にはそんな物は無いわよねぇ。


 岩の隙間に水の魔法を使てこの岩を持ち上げたり? でもこの岩を持ち上げるのには、相当な水の力が要りそうだわ。 前詠唱を使えば浮かせる事も出来るかもしれないけど、私の力が尽きてしまえば、そのまま元の位置に戻るだけよね。 それに、浮かせたまま他の事をする事は出来ないわ。


 いっそこの平な岩の上にもう一つ岩を乗せて、もう動いたりしませんからって言ったら駄目かしら? まあ駄目よね・・・・・


 う~ん、詠唱を使って、魔法の効果を変えてみたら? ものは試しね、やってみましょう。


「え~っと~、う~んと、極限の大岩よ、(大きさ指定最大値)我が心のままに姿を現せ。(形指定)
エターナル・ストーン!!」


 私の魔法はちゃんと発動し、丘の坂にほぼ球体の岩が現れる。 今までの岩より大きく、出現するとそのまま転がらずに留まっている。 


「あ~、出来た、けど・・・・・やばいわこれ、たった一回で限界っぽいわ・・・・・ ちょっと休まないと・・・・・」


 私はその場で倒れこみ、あまりの眠気に目を閉じた。 気が付いた時、空は夕焼けに染まっていた。 このまま作業を続けるのは危ない時間だ。 私はノロノロと起き上がり、ヒルデさんの家にお邪魔した。 家の中に良い匂いが漂って来ている。


「あ、お帰りなさい。 岩はどうなりましたか? もうやってもらえましたか?」


「あ~、ちょっと準備してたんだけど、流石に夜やるのは危ないかなーって・・・・・まだ出来てません。」


「そうですか、それじゃあ明日の朝また頑張ってくださいね。(高いお金払ってるのに、頼む人間違えたかしら。)」


「・・・・・はい、そうします。」


 ヒルデさんの独り言がちょっと心に痛い。 だけど私はめげないわ!! 魔法少女として最初の一歩で躓いただけよ!! これから頑張って取り返せばいいわ!! 


 という事でヒルデさんの料理を頂く事にした。 キャベツと人参、それにコーンと鳥のササミのコールスロー。 オニオンスープに、豚肉のステーキ。 後は水分の無くなった様な硬いブレッド。 全体的にレベルが高い。 やっぱり毎食作ってると、料理が上手くなるんだろうか? 硬いブレッドも、スープに付けると柔らかくなり、随分美味しく頂けた。


 ヒルデさんに一部屋貸してもらい、毛布をかぶってベットに寝転がった。 朝起きると最悪な事に、外には雨が降っている。 この中で作業しなきゃならないのは正直辛い。 レインコートも何も持ってないから、きっとビショビショに濡れてしまう。 私は部屋を出ると、ヒルデさんにお願いをしに行った。


「あの、ヒルデさん? 今日やらなきゃ駄目よね?」


「朝食も作ってありますから、食べたら元気に行って来てください。 私家で待ってますから。(馬車代と食事代も結構高いんですよ。)」


「あ~、行きま~す・・・・・あ、その前に、ロープとかってありますか? 出来ればいっぱい。」


「それ必要なんですか? 普通の家にそんなにロープが有る分けないですよ。 この家に有っても、たぶん一本ぐらいしかないです。」


「じゃあこの村の何処かで売ってない? 出来れば長くて丈夫なのが欲しいんだけど。」


「雑貨屋さんなら取り扱ってるかもしれないですけど、そんなに多くないと思いますよ?」


「じゃあそこを教えて? 必要経費で、ちょっとロープ買って来るわ。」


「え? 何か言いました? 必要なんとかって・・・・・」


「必要なんだから仕方がないわ。 大丈夫、ちゃんとヒルデさんに付けといてもらうから。」


「え? それで本当に出来るんですよね? 失敗したりしないですよね?」


「さあ? やってみないと分からないわ。 でもそれしか方法が無さそうだし、出来なかった時は報酬は返すから大丈夫よ。 それとも諦める? 最初の仕事を失敗したくなかったけど、道具が無いとどうにもならないし。」


「分かりました、支払えば良いんですね!! その代わり全力でやってくださいよ、凄いお金が掛かるんですから!!」


 ヒルデさんに教えられ、私は雑貨屋さんにやって来ていた。 雑貨屋さんの中には、目的のロープが売っている。 売値を見ると、一本金貨一枚だそうだ。 私はロープ三本分で雇われたのね。


 私は売ってた長いロープの全部、計十本を買い。 店の人に荷台を借りて、買ったロープを雨に濡れながら運んだ。


 後は動いていない球体の岩と、動かす岩をロープで繋いで・・・・・出来た!! これでこの球体の物を動かせば・・・・・


「うにゅうううううううううう!! ぐにいいいいいいいいいい!!」


 駄目だわ、さっぱり動かない。 これは人の力じゃ無理ね。 私は風の魔法を唱え、球体の岩に向かってそれを放った。


「ウィニング・ウィンド!!」


 風の魔法により、ほんの少し球が傾く、後は坂になった丘を転がり落ちるだけだ。 その力によりロープは引っ張られて、繋がれていたガコッと移動した。






 残念ながら一メートルも移動しないまま、繋げたロープ全部が千切れ飛んでしまった。 これは強度が足りなかったみたいだわ。 でも崖からはみ出てる部分は無くなったから、これで許して貰えないかしらね?



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