一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 魔法少女最初の依頼

 私は此方の世界の魔法を習得し、今は部屋で、ちまちまと魔法を使って、その魔法のレベルアップを目指している。 最大六発しか撃てない此方の魔法、そして弱いけどほぼ無尽蔵に撃てる彼方の魔法、私は彼方の魔法を・・・・・少し分かりづらいかしら? 向うの魔法を第一魔法、こっちの魔法を第二魔法ってしましょう
か。


 まあ今やってるのは第一魔法の方で、陶器のお皿の中で、魔法を何度も使ってる。 どれも百を超えた辺りから威力が一段階上がった様だった。 火の力は熱を上げ、温かかった物が少し熱いレベルになった。 水の力は振れると手が濡れる程度に進化し、風も風量を増している。 出せる砂粒は二つに増え、光は輝きを増す。 闇は密度を増して少しだけ色が濃くなった。


 これを実践で使えるレベルにするには、あと何日掛かるんだろう? もしかしたら何か月も掛かったりして? 特に土の魔法、次のレベルアップで三粒になったら如何しよう。 もしそうなったら、手の平一杯に作るまでには何億回も唱え続けなくちゃならない。 果たして私はそれに耐えられるだろうか?


 例えそうだとしても第二魔法だけではたった六回しか使えない、自分が真面に動けるレベルなら五回だけだ。 前詠唱を使ってしまうと更に階数が減ってしまうし、必殺技としては良いけど、大量の敵が出て来た時には、私一人で対処出来なくなってしまう。


 第一魔法の成長は急務だけど、今でも相当キツイ。 魔力が如何とかいう事じゃなくて、精神的にキツイ、もう頭がボーっとして、そろそろ喉も痛くなってきそうだ。


 私はちょっと休憩しようと思い、椅子から立ち上がってストレッチを始め出す。 今まで縮こまっていた筋肉が伸ばされ、ちょっとだけリフレッシュ出来た。 そんな中、私の部屋がノックされた。 アツシでも来たのかと思い私は扉へと近づいて行く。


「あのあの、大魔法使い様のお部屋ですよね? 聖華様、私ヒルデと言うんですけど、少し頼み事を聞いてはもらえないでしょうか? 貴女にしか出来ないお願いがあるんです!!」


 私が大魔法使い? どうせなら魔法少女と呼んで欲しかったけど、まだ認知度が低いからしょうがない。 それより頼み事か、私に頼むって事は、そんなに危ない事じゃないと思う。 魔法を覚えたての人間に魔物退治とかさせないわよね? まず話を聞いてから考えてみましょう。


 部屋の扉を開き、ヒルデという人物の観察をする。 黒髪の短めのボブ、アツシよりも年上だろう。 性別は女ね。 切羽詰まってるみたいな雰囲気をしてるけど、その位は演技でも出来ちゃうから、気にしない方がいいわね。


 取り合えずヒルデさんを部屋に通し、私はお茶を出して椅子に座らせた。


「それじゃあヒルデさん? 私にどんな要件があるのかしら? 言っとくけど魔物と戦えとか言われても、私一人じゃたぶん勝てないわよ?」


「あ、はい、魔物退治は王軍に任せていますので大丈夫です。 聖華さんに頼みたいのは、私の家の横にある丘の上にある大岩を何とかして欲しいんです。 王軍の皆さんに頼んでみたんですけど、魔物退治が忙しいからと断られてしまって。 それで今回、大魔法を習得されたという聖華様に頼みを聞いて貰おうと思って。(依頼料が安そうだし。)」


「ん? 最後何か言った?」


「気のせいです。 それで丘にある岩なんですが、最近丘が崩れて来まして、もうそろそろ落ちて来そうなんです。 私はもうあの家で眠りたくありません、何時あの岩が落ちて来るのかと思うと、もうおちおち眠る事も出来ませんから。」


 大岩ねぇ? 私の魔法だけで出来るかしら? 記念すべき最初のお仕事だし、あんまり断りたく無いわね。 失敗したくないから、アツシかメイ君でも呼んで行きましょう。


「ヒルデさん、その依頼引き受けます。 この私に任せておいてください!! 正義の魔法少女聖華ちゃんが、見事に解決してみせるわ!!」


「魔法少女? 何だか分かりませんけど、それじゃあお願いしますね。 あ、依頼料はこれでどうでしょう?」


 私はこの世界の物価も知らないし、こういう依頼の額は分からない。 出された額が多いのか少ないのかさっぱり分からなかった。 でも置かれた金貨は三枚ほどで、たぶんあんまり多くないと思う。 まあ最初だし、少ないのはしょうがないわね。


「わかりましたヒルデさん、その金額でお引き受けします。 でも私も初めてだから、失敗しても文句言わないでね!!」


「えっと・・・・・成功報酬って事でよろしくお願いします。 それでは早速行きましょう、さあ馬車を用意していますからどうぞ此方に。」


「あ、仲間を呼んでくるのでちょっと待って。 直ぐに呼んで来るから。」


「聖華様だけで十分です。(それに人が増えたら食費と馬車代が掛かるし。)」


「え? 何?」


 小声で言ってるようだけど、私には全部聞こえている。 そういう事はあんまりケチらない方が確実だと思うんだけど。


「何でもないです、さあ急ぎましょう!! 何時までも馬車を待たせるのも悪いですし!! さあ行きましょう聖華様!!」


「あ、ちょっと、背中を押さないで。 自分で歩いて行くから!!」


 私はヒルデさんに背中を押され、馬車にまで押し込まれてしまった。 でも本当に私一人で大丈夫だろうか? もし出来なかったらどうしようと思いながら、ヒルデさんの村に向かって行った。


 馬車は王国の町から南の森を抜け、そこから東の辺りにある村、名をアットハインという。 百人にも満たないその村の奥、ヒルデさんの家の横、言われた通りそこには大きな丘があった。


 確かに丘なんだけど、途中でぶつ切りにされて、家の横は絶壁と言っても良い崖だった。 その上にある大岩は、その崖から少し飛び出し、もう少し崩れたら落ちて来そうな気もするけど、多少崩れた程度では落ちて来ない気がしないでもない。






 一番確実なのは、この家から引っ越せ場良いけど、依頼料さえケチっているこの人がそんな事をする訳がないか・・・・・



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