一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 私のマスコットはどんなの?

 さてと、私としてはこのまま魔法を育てて行ってもいいのだけど、こっちの世界の魔法という物も興味がある。 こっちの世界の魔法も、私が使えるのなら使ってみたい。 アツシに相談するよりは、ストリーちゃんに相談したい所だけど。 実は今二人共出掛けている。 たぶん仕事に出掛けているんだろう。


 アツシの説明では、町に魔物が入り込んでしまったり、以前には他国からの襲撃があったとか無かったとか。 絶賛無職中の私だけど、今から普通に働くよりは、それなりに力を付けてある程度戦える様に鳴っておいた方が良いだろう。 他に知り合いはべノムさんと、フレーレさんしかいないけど、男の家に行くよりはと、フレーレさんの家に向かった。 フレーレさんは私を快く出迎えてくれて、私は此処に来た事情を説明した。


「実はですね。 私、この世界の魔法が使ってみたいんです。 フレーレさん、私に協力してくれませんか?」


「魔法? 私も一つなら使えるんだけどー。 え~とね、確か勝手に教えたら駄目なのよね。 でも最近は王国以外にも魔法が流出しちゃってるし。 う~ん、明日の朝ぐらいに許可貰ってくるからー、今日は我慢しててね。」


「すぐ教えてもらえる物じゃないのね? う~ん、分かったわ、有難うフレーレさん。 じゃあ今日は別の事をしようかしら。」


「少しなら手伝っても良いわよー? 何をするの?」


「魔法少女としては、やっぱりマスコット的な何かが欲しいわね。 何か小さな鳥とか? 子犬みたいな。 フレーレさん、何か思い当たる事ってあるかしら?」


 町には可愛い子供達を結構見かける事が出来たのだけど、人間の子供を勝手に連れて行く事は、この世界であっても犯罪だし、そんな事は私はしない。 そうなると魔物を連れて来る事になりそうだけど、それも問題がある。 そもそも此処の魔物は人間に懐くのだろうか? 外に居た魔物の凶暴性から考えると、ちょっと辛い感じだろうか?


「分かったわ、私に任せといてねー。 聖華さんを、良い場所に連れて行ってあげる。」


「じゃあお願いしようかしら、私にはこの国の事はよく分からないし。」


 私はフレーレさんの案内で、キメラ研究所別館という所に連れて行かれた。 別館なんだから本館もあるのだろうか? そんな事を考えながら研究所に入って行くが、此処はなんというか、グロテスクだった。 目玉やら内臓やらの標本とかが置いてあり、私一人だけなら、ちょっと用事があっても来たくない。


「聖華さん、こっちよー。」


「あ、はーい。」


 私が標本に目を奪われていると、フレーレさんとの距離が開いてしまった。 危ない危ない、こんな所に一人で置いて行かれたくない。 私はフレーレさんに奥の部屋に案内され、その部屋の中に入った。 一目見てこの部屋が所長の部屋だと分かった。 立派な机と椅子、何というか、雰囲気がそう告げている。 そしてその椅子に座ってるのが所長なのだろう。


 座ってるのは綺麗な女性だった。 長い黒髪をストレートで伸ばし、目にはお洒落なモノクルを付けている。 きっとこの女性は、私の様に出来る女性なのだろう。


「お客さんですか? 直ぐ終わらせますので、どうぞ椅子に腰かけてお待ちください。」


 女性はチリ―ンとベルを鳴らすと、何処からともなく走って来る人物が居る。 ド派手な服装に身を包み、リズムに乗りながら踊って此方に向かって来る。


「こんちゃーす、俺っちラグリウスって、言、う、ん、だ、YO!! お綺麗なお二人さーん、暇潰しに俺っちのお話しに付き合っておくれよ!! 俺っちぃ、実はこの研究所の所長だったんだぜぃ!! すんげぇだろぅ!!」


 恰好がチャラいその男は、名前をラグリウスと言うそうだ。 元は此処の所長だったと話してくれたけど。 何故この人を所長に選んだのか、私には不思議でしょうがない。


 そして今現在、このサラスという女性が所長を務めている。 お家騒動とかクーデターでも有ったのだろう、この世界でも色々ある様だが、自分の口から軽く語っているこの男には、サラスに恨みとかは全くなさそうに見える。 ボーとしながらその男の話を聞き流し、五分もしない内に、サラスさんが此方に来た。 


「もういいから下がっていなさい、貴方が居ると話に重みが出ないわ。」


「OH、ショック!! んじゃサラスちゃーん、またよろ!!」


 奇妙な動きをして腰を振りながら、ラグリウスが去って行く。 少し気になったが、今はアレを気にしないでおこう。


「全く、あの男は何故あんな風になったのか・・・・・ほんの少し前んは真面だったのに。 ・・・・・やっぱりバールさんの所為かしら?」


 前は違ったのか? 今後の子育ての為に、なんであんな変な風になったのか聞いてみたい所だが、今は私にも用事があるのだ。 今は私のマスコットの話だ。 あの男の話は今度聞いてみよう。


「サラスちゃーん、こんにちはー。」


「貴女はフレーレさん、でしたね。 え~とそれと・・・・・」


「サラスさん初めまして、私は聖華と言います。 早速ですけど、ちょっとした御相談があるんです。 私、魔法少女を目指していまして、可愛い魔法少女になるために、私と同じぐらいに可愛いマスコットみたいな物が欲しいんです! 何か良い動物みたいなもの居ませんでしょうか!!」


「ま、魔法少女? 少女? よく分かりませんけど、魔法使いになりたいって事でしょうか? え~っと、マスコットとは一体どんな物なんでしょうか?」


 サラスさんの疑問に、私は答えた。 此処で変な事を言うと後々困るので、私は出来る限り詳細にそれを話し始める。


「はい、マスコットとは魔法少女にとって必須のものなんです!! 勿論ゲテモノは駄目です、私は正統派で行きたいんですから。 後は人の言葉が分かるのなら尚良いですけど、そう贅沢は言いません!! 従順で可愛くって、それでいて、それでいてやっぱりオスが良いですね!! それでですね、出来れば小さくって、掌に乗るサイズで、持ち歩いても不便にならないような、そんな可愛いのが良いんです!! 小さなペガサスとか、可愛らしい子犬ちゃんで、戦いのときになると大きく成ったり。 それでですね・・・・・」


「・・・・・何か物凄い難題を出されている気がしますが。 要は愛玩動物が欲しいって事ですよね? 普通の子犬とか、普通の子猫じゃ駄目なんですか?」


「それも可愛いんだけど、そうじゃないの!! もうちょっとファンシーな感じでね、敵の弱点を教えてくれたり、ピンチの時はたまに助けてくれたり。 そういう物が私は欲しいの!!」


「難易度が更に上がった気がします・・・・・まあなるべく頑張ってみますけど、難易度が高そうですので、それなりの金額を頂きますよ? 時間も掛かりそうですしね。」


「お、お金が要るのね、何処の世界でも世知辛いのね。」


 まだ働いても居ない私には、それを支払う能力が無い。 ・・・・・仕方ないわ、私の夢の為に、息子に全額出して貰う事にしましょう!! 私が働き出したら返すし、大丈夫よね?


「分かりました、それでは全額息子のアツシに付けといてください!!」


「では契約成立ですね、それでは書類をお持ちしますので、それにサインをお願いします。」


 この十日後、私の元にマスコットとなるペットが届いた。 私の注文通り、掌に乗るぐらいのペガサス?で、背中の緑の羽根をパタパタさせて、とても可愛らしく空を飛んでいる。 ?が付いたのは、それがペガサスと呼ぶしか名前が無さそうだからだ。 首から上は馬だけど、その首の下は犬かなぁ? もっこもっこで、ヨークシャーテリアみたいな感じだった。 翼を広げるとそれなりに大きいけど、たためば掌に収まるサイズだ。


 ちなみに私以外には懐かない、アツシが触ろうとしたら牙をむき出しにして、猫の様に表情が怖くなる。 その時の顔はちょっと怖いけど、そこまで贅沢は言えないだろう。 それに食費も掛からない、勝手に地面の草を食べてお腹を満たすので、この子は経済的だった。


 でアツシに請求書を渡したら、プルプル震えて怒ってた。 そんなに高かったんだろうか? でもいいわ、独り立ちしたんだから、今まで育てた分のお金と労力を、私に返したと思ってもらいましょう。






 ・・・・・後で金額を聞いたら、ちょっとしたお屋敷が買える金額だった。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品