一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

44 正義爆誕、その名はラブサンシャイン!! (帰還編END)

「美味しい所を持って行かれましたね。」


「良いんだよ、生き残っただけで上等だ。 それに誰が倒したって結果は同じだからな。」


「うむ、本物の勲章とは、胸に刻まれた経験だと私は思うぞ。」


「それで母ちゃん達はどうだった、あんなの見せられたら怖かったんじゃなのか? 下手したら死ねるんだぜ?」


「そうねぇ、アツシが戦ってる所を見たら、やっぱりちょっと怖かったわ。 でもね、息子がこの世界で頑張るって決めたなら、親としては逃げ帰る訳にはいかないのよ。 だから私は強くなるわよ!! 息子の為にも、いづれ生まれて来る孫の為にもね!!」


 何時の話だと言いたいが、俺も何時かそうなる事を望んでいる。 覚悟を決められた母ちゃんは大丈夫だと思うが、恋の足はガクガクと震えている。 あの敵の凶暴さを目の当たりにして、どれ程危険な事なのか感じ取れたのだろう。


「恋、帰りたくなったら何時でも帰って良いんだぜ。 無理に居たって怖いだけだからさ、もし帰りたくなったら、俺があの天使に頼んでやるよ。」


「・・・・・うん。」


「良し、じゃあ王国へ行こうぜ、ずっと此処に居たら危ないからな。」


「うむ、では帰るとしよう、私達の国にな。」


 少しずつ王国の町が見え始める、正門には俺の知り合いが何人もいる。 俺もこの国に居るのも長くなって来たからな。  賭け好きのガルーラ、世話焼きのスレッド、女なら誰でも行けるファーラン、国から出る時や、待ち合わせの時にたまにゲームなどして遊んだりしてる奴等だ。 


「お、アツシじゃん、今まで何処行ってたんだよ? まさかまた逃げ出してたのか?」


「おい、逃げるなら負けた分の金置いて行けよ、後で家に取りに行くからな!!」


「それより、あの女の人は誰だ? お前の知り合いなのか?」


「そうだよ、俺の母ちゃんと、友達の恋だ。 ちなみに金は持ってないから50年ぐらい待ってくれ、そのうち俺の子供が払うから。 んじゃ俺達は行くぜ、長い旅して疲れてるんだ。」


「待てやコラ、負けた分の金を置いて行け!!」


 若干一名面倒臭いが、知り合いの門番達に挨拶して、俺達は王国の町に無事にたどり着いた。 此処まで帰って来るまで長かった、約一ヶ月と半月。 無駄に長かったこの旅も、この国に戻って来れて無事に終わる事が出来た。 これでめでたしめでたしで終われればいいのだけど、ここからも大変なのだ。


 まずは永住許可を取る為に、女王陛下のイモータル様に挨拶して、それから住むべき所を探して、必要な物を買いそろえて、次はご近所周りに挨拶とか、町中の案内をして、こっちの常識やら出来ない事とかを知らなければならない。 それに働き口も探さなきゃいけないし、最後に天使に近寄ったら駄目だと教えなければ、またおかしな事に巻き込まれかねない。


 もし恋が帰りたいと願うなら、その天使にお願いして戻してあげないといけないのだが、一人で送るのもかなり危険な気がする。 また別の知らない世界に、恋一人で送られる様な事になれば、一人で帰る手段も無く、その世界に取り残されてしまう。 向うの世界に一緒に行って、見送ってから戻って来ないと安心出来ないのだ。 


 俺達は一つ一つの問題をクリアしていき、この日、恋が元の世界に帰る事になった。 恋もそれなりに頑張っていたけど、現代の便利さに慣れ過ぎた体では、この世界は辛過ぎたのだ。 それに、いい男を探したいって言うなら、こっちの世界じゃなくても出来るからな。


 此処に居るのは別の世界を一緒に旅した五人だけだ。 べノムとフレーレ様は残念ながら任務でで払っている。 


「恋ちゃん、本当にごめんね、僕がもう少しちゃんと断っておけば、こんな所まで付いて来なくても良かったのにね。」


「良いんです。 私は帰りますけど、それでも皆で暮らして来た少しの時間は楽しかったんですよ。 私の方こそごめんなさい、直ぐに帰る事になってしまって。」


「そんな事を気にしなくても大丈夫だ。 少しの間だってこの世界で生き延びて来たんだ、自信を持っていけ。」


「恋ちゃんは可愛いんだから、男なんて幾らでも寄って来るわよ。 大丈夫、私が保証するわ!!」


「じゃあ俺が向うの世界までついて行ってやるから、俺の手を握ってくれ。」


「うん。 有り難うね、アツシ。」


 恋が俺の手を握ってくる。 この手を放した時、それが俺達の別れの時となる。 飛ばされた魔法でそのまま戻れば、ちゃんとこちらへ戻って来れるって事だ。


「よし、じゃあベール、頼むぜ。」


(本来世界を飛び越えるのはルール違反なんだ、戻って来たらもうやらないからな。 じゃあ行くぞ。)


 景色が揺らぎ、懐かしい世界に到着すると、俺はその場で手を放した。


「あっ・・・・・」


「恋、じゃあな、元気でやるんだぞ。」


 俺はそれだけ言うと、直ぐに元来た穴へと飛び込んだ。 俺達の別れは、たった一言、それだけで終わりを告げた。 穴が塞がる時間が無かったのもだけど、此処でまたこっちに来たいと言われても困るからだ。 命懸けで旅をした親友との別れは、少し涙を出る程悲しくて、そして安全な所に行ってくれた嬉しさがあった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「・・・・・ちゃん・・・・・恋・・・・・ちゃん・・・・・恋ちゃん!!」


「えっ?」


「もう、何時までボーっとしているの? まさかまだ誘拐された時の後遺症とか? ・・・・・あっ、ごめん、私今酷い事言った。」


「良いのよ、別に気にしてないから。」


 あの日、私はアツシと別れ、家に帰ったら。 お父さんは私を誘拐されたと警察に連絡していたのを知った。 言い訳をして本当の事を言っても信じてはもらえないし、私はその嘘に乗っかる事にした。


 もうあれから三ヶ月も経つけど、今でも私はあの世界の事を考えてしまう。 あっちの世界の皆は元気だろうか? アツシは、ストリーさんは、聖華さんは、そして明君は、今如何しているんだろうか。


「恋ちゃん、そろそろ帰ろうか。」


「うん、行こうか。」


 この子は最近友達になった美夏みかちゃんだ。 今の所私の前には、向うの皆を越える様な人は現れて居ない。 でもあの人達と比べるのは少し可哀想かしら。


「あれ? あれは・・・・・確か隣のクラスの見城みしろちゃんね。 あの子隣何時も虐められてるのよ? 酷いわよね。」


「そうなの? へ~・・・・・」


「あ、美夏。 私ちょっと用事を思い出したの。 先に帰っててくれないかしら?」


「ん? そうなの、じゃあ私も付き合おうか?」


「良いわよ、ちょっと頼まれてた物を買いに行くだけだから。」


「そう、分かったわ。 じゃあね、また明日ね。」


「ええ。」


 私は美夏と別れ、見城の跡を付けて行った。 見城は案の定、女達に虐められていた。 そこで私は飛び出したのだ。 向うの世界出来ていた魔法少女の恰好をして。 顔にもちゃんと覆面をしている。


「待ちなさい悪党共!! 恋でハートを撃ち抜くわ!! 恋愛の使者、ラブサンシャイン!! さあ貴方達の悪事はお見通しよ!! 今直ぐ止めるなら勘弁してあげる、さあ如何するの?!」


「何あんた、そんな恰好して馬鹿じゃないの!!」


「何それ? コスプレ? バーカ、あんたみたいな馬鹿に付き合ってる暇ないのよ!! 消えろバーカ!!」


 二人組の女は止まらない、私は終わりのボタンを押した。 そのボタンは、生配信のボタンだ。  そしてもう二、三回ボタンを押すと、今まで取っていた動画が世界に公開されて行く。 もう彼女達には言い逃れなんて出来なくなる。


 今から彼女達がどうなるかなんて全然興味が無いけど、少なくとも、今この子は救われるんじゃないだろうか。 私はそれから、その子を抱えて逃げ出した。


「ありがとうございます、えっと・・・・・サンシャインさん?」


「良いのよ、でも私の事はラブサンシャインと呼びなさい、それが魔法少女としての私の名前だから!!」


「はい、ラブサンシャインさん!!」






 私の力は消えていなかった、それが向うの世界に行ったという確かな印だから。 この力を手に入れた私はこれからも戦い続けるなければいけない。 正義の味方として、ラブサンシャインとして!!


                   END



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品