一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

39 実際殺して肉にするのと、パックで買って来た物、一緒だけど一緒じゃない。

「な、なんだあの巨大な魔物は!! 駄目だ、あんなのを相手にしていたらこの船が持たない。 今直ぐ舵を切れ!!」


「だ、駄目です、もう間に合いません!!」


「船長見てください!! あの鳥、魔物と互角に戦っていますよ!!」


「なっ、そうか、あれは俺達を導く幸運の鳥だ、あの鳥が勝てば俺達は助かる!! さあ全員で応援するぞ!!」


「「「「「頑張れ、鳥さん!!」」」」」


(何か後が五月蠅ぇな・・・・・)




 そんなべノムの行動を俺達は知らないが、今は目の前の相手に集中しなければならない。


「来るぞ、メイは母ちゃんを・・・・・ストリー、母ちゃん達を守ってくれ!! メイは俺と正面の奴だ。 フレーレ様は・・・・・もう行ってるか。」


 メイに任せようとも思ったのだけど、今の所実力というものを見た事が無い。 しかも俺が倒しちゃったものだから、あんまり強いとも思っていない。 フレーレ様は右側の一匹に向かって行ってる。


「了解だ、母上の事は任せておけ。」


「何故外されたのか分かりませんが、まあ良いでしょう。 ・・・・・来い、宝玉剣、ルビーレッド!!」


 メイの手に真っ赤に燃え盛る炎の剣が握られる。 よく分からないけど、きっと強いのだろう。 他にも剣を持ってるみたいだし、俺にも一本ぐらい恵んで欲しいものだ。


 俺は走って来る敵を見る。 簡単に言えば、ユニコーンと言っても良いかもしれない。 馬に50センチ程の角が有って、長い首、その首の下には、ムキムキの熊だった。 それが三匹、人がどれ程鍛えても動物の力に敵わない。 此処はヒット&ウェイで攻める。


 俺は迫り来る馬熊うまくまの横をすり抜け、薙ぎ払いの一撃を腹に掠めた。 剛毛により斬撃が上手く刺さらない。 殆どダメージも無いだろう。


 メイはというと、敵の手の攻撃を受け止めてはいるが、力負けして押されている。 まあそれでもあんな物を耐えるとは、レベル百というのは伊達じゃないって事だろうか? 俺はメイが頑張ってる間に、敵の首筋を狙い、剣を振り上げた。


「待った!! そこじゃ、そこで止まるんじゃ!!」


 俺はその声で剣を止めた。 こんな状態で止めるなと、メイの奴も思っているだろう。 俺が見る限りでは、かなりギリギリそうだぞ? 俺が手を止めている間に、爺さんは色付きの旗を振っている。 何度か敵の目の前で振ると、別の旗を持って来てもう一度。 その間にもメイの体が段々沈んで行く。


 あ、もうメイがヤバそうだ。 馬熊が首を振り上げて、角で突き殺そうとしている。


「おわあ!!」


 1回は避けられたみたいだけど、これ以上は無理そうだ。 俺はその角を受け止め、敵の攻撃を防いでやった。


「おい爺ちゃん、これ以上は持たないぞ!! 一度此奴を倒して、1匹だけの奴で皆でやろうぜ!! これ以上無理、駄目、中止!!」


「ぐぬ、仕方ないのぅ。 ではそいつをさっさと倒して、別の奴を連れて来んか!! 急げ、日が暮れてしまうぞ!!」


 これは、思ってたより大変そうだぞ・・・・・


「うぬおおおおおおおお、もう無理です、無理 無理 無理 無理 無理 無理 無理!! ちょっと、急いで、ああああああ、ヤバイ、もう腰がッ!!」


「じゃあ倒すぞ!! おりゃあああああああああ!!」


 俺は今度こそ首筋を狙って、剣を振り被った。


「やはりもう少し待ってくれんか? もう少し実験がしたいんじゃ。」


 無理、今更止められない。 制止を振り切り、俺は馬の部分を斬り裂いた。 今度はキッチリと傷を与える。 あの剛毛が無い首ならば、簡単に斬り裂ける様だ。


 馬熊の首から血が噴き出し、怯んだ所にメイが反撃の一撃を、敵の頭上へと落とした。 メイの剣は馬の頭を両断するには至らなかったが、傷を与えた場所からほのおが燃え盛る。 馬熊の顔面が燃えて行く。 俺は止めとばかりに、首元の切裂いた傷口へと剣を突き入れた。 そして馬熊が倒れて行く。


 担当の敵は倒せた、他の四人が気になり様子を見る。 フレーレ様は・・・・・あれを相手に遊んでいる。 あっちは全然問題無さそうだ。


 ストリーは心配するまでもないが、問題は母ちゃん達だ。 俺が見ると、ストリーが前衛を務め、二人が後から魔法を放っている。 このまま行けばもう直ぐ倒せそうだ。 今俺が手を貸すのは、野暮ってやつかな? 助けに行こうとするメイを引き止め、実験をしようとする爺ちゃんも抑えて、俺は三人が勝つのを待った。


「むむ、折角のチャンスを逃したではないか、あれで実験をすればよかっただろう。」


「そう言うなよ爺ちゃん、後ろの二人は初めての戦いなんだからさ。 初めての勝利ぐらい味合わせてやりたいだろ。 今回だけみのがしてくれよ。 な、良いだろ。」


「ううむ、待つのは今回だけだぞ、まだ予定が詰まってるんだからな。」


「サンキュー爺さん、あれが終わったら、きっちり仕事を終わらせるぜ!!」


 俺達が見守る中、馬熊がストリー目掛けて角で突進を仕掛けた。 あのぐらいの攻撃ならストリーなら簡単に避けられるだろう。 しかしストリーは動かない、敵との距離は五メートルを切った。


 四メートル・・・・・


 三メートル・・・・・


 二メートル・・・・・


 一メートル・・・・・


 敵の角が刺さるその一瞬、ストリーは攻撃を躱しながら相手の角を根本から斬り落とす。 ストリーはそのまま吹き飛ばされたけど、軽く受け身を取って、回転して起き上がった。 その間にも母ちゃん達の魔力弾が馬熊にぶつけられ、少しずつ弱っていってる。


 勝ち目が無くなったと判断したのか、馬熊は反転して逃げて行く。 しかしそう簡単に逃がさないのがストリーだ、後ろを向いた馬熊の後ろ足に剣を投げ刺して、相手の体勢を崩す。 完全に倒れ落ちた馬熊に、ストリーは走り寄り、刺さった剣を引き抜いて最後の止めを刺した。


「・・・・・ちょっとグロイわね。」


「・・・・・」


 二人は敵の死体に若干引いている。 母ちゃんは料理とかして耐性がありそうだけど、恋はちょっときつそうか? でも慣れて貰わないと、これからの生活に支障が出る。 俺は全く認めてないけど、魔法少女で戦いの場に出るなら、死体で気が抜けた時に、別の敵にやられるからだ。


「何をぼさっとしておるのだ、さっさと仕事をせんか!! あの女の相手をしてるので良いだろう。 お前達も早く行って来い!!」






 フレーレ様が戦っていた敵はもう倒され、今は別の相手と戦っていた。 何処かに隠れていたんだろうか? 兎に角俺達は、その最後の一匹を全員で取り囲み、爺ちゃんの実験を手伝った。



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