一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 コインの表と裏、それは何方を選んでもコインの金額は変わらない。

 べノム達が進んで行き、俺が何か諦めた頃。 俺はメイの率いる勇者のパーティー?に誘われている。


「それじゃあアツシさん、僕達と一緒に来てもらいますよ。 貴方を勇者のパーティーに編入させます!!」


「はぁ? これが勇者のパーティーだって?」


「アツシ、私の息子らしく、大人しく私達の仲間になりなさい!! 付いて来なかったらあんたの恥ずかしい秘密をばらすわよ!!」


 これだから母親は厄介だ、一緒に居るだけでも恥ずかしいと言うのに。 俺はこの四人を見渡す、メイには勇者と名乗るだけの力があるのだろう。 母ちゃんがいくら魔法を覚えたと言っても・・・・・あれ? 母ちゃんのレベルが上がってる。 レベル18だって? 俺より高いじゃないか。 全くどうなってるんだ? 他の二人も恋がレベル17 プリームが15になっていた。 レベルってそんなに簡単に上がるものなのか? 69億がそんなに簡単に上がると思わないんだが、もしかしてこんなに多いのは俺だけなのか?


 三人の情報を見ると、ステータスも大分伸びている。 確かにレベルは上がっているんだけど、べノム達からすれば、それでも素人同然のレベルだと思う。 多少レベルが上がろうと、そんな付け焼刃でべノム達に対抗できる訳がない。 まあ向うも手加減はしてくれるんだろうけど、こっちのレベルに合わせたら演技だってバレかねない。 このままじゃバランスが悪いし、俺が行くしかないんだろうな。


「あのさ、何で母ちゃん達を連れて行こうと思ったのよ? お前こっちにも仲間が居るんだろ? 何でそっちに連絡してないんだよ?」


「連絡しようとも思いましたが、他の仲間も魔王軍に殺されているんです。 僕が魔王軍に協力しているなんて事情を説明したら、もうどうなるか分かりませんよ。 下手したら仲間と斬り合いになるかもしれませんし、此処は事情を知ってる人の方がいいでしょう。 それに三人共時間が有る内に鍛えておきましたから大丈夫です。」


「ああ分かったよ、俺も行くよ。 一応ちょっと心配だしな。」


「流石私の息子ね、話もまとまった事だし、さあ皆、お城に向かって出発よ!!」


「はい!!」 「は~い。」 「分かりました、行きましょう。」 「う~い。」


 母ちゃんが先頭に立って歩き出した。 プリームは中々気合が入っている、自分の国の事だから心配なのだろう。 恋はたぶんメイについて行きたいだけなのかもな、そこまでやる気を感じない。


 城に向かう前に、俺には考えなければならない事がある。 俺達は誰が誰と戦うかということだ。 安パイはストリーだ、何時も戦ってるから癖も知ってるし、戦いやすい。 十分剣を打ちあえと言われても、何とか出来てしまう気がする。


 だが俺がストリーと戦ってしまうと、母ちゃん達三人が、べノムかフレーレ様と戦う事になってしまう。 もしフレーレ様と戦って万が一の事があっては困るし、べノムと戦ったら、べノムがかなりの手加減を要求される。 あれだけ素早く動いていたのに、いきなり遅くなったら変に思われるだろう。


 ふむ、母ちゃん達の事はストリーに任せよう、そして俺はというと、べノムは兎も角、フレーレ様とは絶対戦いたくない!! フレーレ様の事はメイに全部丸投げしてしまおう、良しそうしよう!! 俺は隣にいるメイの肩にポンと手を置き、言い放った。


「メイ、お前に任せたぞ!! お前は勇者なんだ、出来るよな!!」


「? はい、任せてください。」


「じゃあフレーレ様の相手を頼む、俺はべノムの相手をするから。 大丈夫だ、お前なら生き残れる可能性だって0じゃない、きっと虫の息になっても帰ってこれるから!! じゃあ任せたぞ!!」


 俺は一方的にそう言って、城へと走り出した。 別にメイを犠牲にしようって訳じゃない、そう、これは適性な所に配置しただけだ。 俺がどうやったって敵わないんだから、メイに任せるしかないじゃないか!!


「え、あの・・・・・あの人そんなに怖いんですか? ねえちょっと、アツシさん? 待ってくださいアツシさん・・・・・」


 俺達はべノム達の後を追い、この国の城へと到着した。 此処も魔王城と同じだ、周りには兵士達が傷つき倒れて居る。 まあ全員呻き声を上げて倒れて居るだけみたいだが。


「父上は謁見の間にいらっしゃるかもしれません。 私が案内します、此方です!!」


 この城の中を知り尽くしているプリームが道案内を買って出た。 直ぐにその場所へと向かうと、べノム達が王の側近の兵士達と戦っている。 本当は倒せるんだろうけど、俺達の到着を待っていた様だ。 俺達の到着を見ると、あっさりと殲滅し、残されたのは王様と俺達だけだ。 メイが王様へと駆け寄り、剣を抜いて構えを取った。


「安心してください王様、勇者クロイツと、その仲間が駆け付けました!!」


「おお、お前がそうなのか!! 良いタイミングで来てくれた、助かったぞ!! 早速こ奴等を退治してくれんか、褒美なら思うままだぞ!!」


「はい、ではスターさん達は彼方の女を頼みます!! アツシさんはあの黒い奴を、僕は彼方の強そうなのと相手をします!!」


「任せなさい!!」 「はい!!」「は~い。」


 全員がそれぞれの相手に向き合い、俺は剣を抜いてべノムの前に立った。


「そこの黒い奴、俺の相手をしてもらおうか!!」


「お前が俺の相手かよ、まあ何時でも良いぜ、掛かって来なよ。」


 べノムのマントが刃に変わる。 右手の甲の先に剣状の物が現れた。 俺は剣で攻撃を仕掛け、その刃に合わせる様に剣を打つ。


 ギャン!!


 俺の剣はべノムの刃と接触した。 一瞬俺の剣が両断されたら如何しようと思ったが、まあなんとか持ちこたえた様だ。


 これから戦うのだけれど、実はこれ魔王の下っ端が、たった三人で城を攻略したって事が重要なので、俺達が勝っても負けてもどっちでもいい。 圧倒的な力を見せつけて、もう戦うのは止めようとべノムが会談を持ちかける手筈だ。 上手く行くかは分からないけど、やれるだけやってみるか。 しかしべノムと戦うのは初めてだな、演技がバレない様になるべく頑張ろう。


 後に下がったべノムは、もう一度踏み込んで軽く上段から刃を振り下ろしてくる。 俺はそれを受けて剣を合わせた。 べノムの様なスピードで戦う相手に、飛び退いたり、躱すのはあんまり良くないかもしれない。 剣を打ち合いながら隙を窺ってみるか。


(おいアツシ、まだ行けるよな? 少しずつスピードを上げて行くぞ。) 


(ちょっと待て、今だって結構大変なんだぞ。 これ以上あげなくてもいいだろう。)


(王様にはそれなりの力を見せにゃいかんだろうが。 もう良いだろ、怪しまれるからもう喋るな!)






 ぐぬぬぬぬ、自分が負けたくないからってズルいぞ!! 俺だって簡単には負けてやらんからな!!



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