一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

23 人種差別や虐め、それは人間が生まれてから一度も無くなっていない。

 高依礼次たかいれいじ(魔王)により転移魔法が使われ、レイザードの国に戻って来た俺達。 実はこの魔王、色々な町で買い出しをやってるらしい、流石に虫ばかり食べるのは辛いんだそうだ。 


 俺達はレイザードの宿屋に戻り、俺はメイに相談した。 一応勇者に面会する為に、この魔王も付いて来ていた。 母ちゃんと恋は、別の部屋で待機してもらっている。


「・・・・・って事なんだが、お前どう思う?」


「・・・・・そいつが魔王だって? しかも日本から来て獣人の為に戦っているですって!! 今更そんな事を聞かされても、死んだ仲間は帰って来ないんですよ!! 僕が協力なんて出来るはずがないでしょう!!」


 一度無くした仲間は戻っては来ない、それは何十年経っても変わらないし、世界が変わった所で同じ事だ。 その怒りは、差別を生んだり、時には暴行、酷く成れば虐殺まで及ぶ事が有る。 もうこれは呪いと言ってもいいかもしれない。


 俺だってストリーが殺されれば物凄く怒り狂うだろうけど、そうだとしても、このまま放って置いたら不毛な争いが永遠と繰り返されるだけだ。


 そしてこの争いに関しては何方が勝つのも不味い。 獣人側が勝っても、人側に復讐しだす事は目に見えている、例え魔王である礼次が命令したとしても全員がそれを聞く分けじゃない。 人側が勝っても同じ事だ、今まで以上に虐待、もしくは虐殺されるだろう。


「メイ、お前は勇者なんだろ? だったら正義の為に戦えよ、人の為の正義じゃなくて、世界の為の正義に動けよ。 このままお前が勝ったとしても、この世界に平穏は無いぞ?」


「しかしですね!!」


 やっぱり納得しないよな、だがメイが勇者と呼ばれるなら、やり様はある。


「良いのか? 獣人だって生きてるんだぞ? 言葉も通じるんだ、コミュニケーションも取れるんだぞ? 本当にそれで良いのか? それに今まで獣人は虐待や拷問まで受けてたって聞いたぞ? 恨まれるだけの事をしたんじゃないのか? お前の正義はそれで良いのか!!」


「で、でもですね・・・・・子供までも襲われているんですよ、そんな事をされて怒るなって方が無理でしょう!!」


「俺は子供が石を投げて獣人を虐めていたって聞いたぞ? 子供が石を投げぐらいに、害獣としか思われないとも言ってたぞ? そこにいる魔王本人に聞いてみろよ、本当かどうか分かるぞ。」


「・・・・・」


「そ奴の言う事は本当だ、我は見て来たのだ、人が獣人をいたぶる姿を。 だからこそ我は此方についたのだ。 勇者よ、お前は本当にこの機会を逃すのか? 今、この世界が変わるかもしれないのだぞ!!」


「分かりましたよ!! そいつを許す事は出来ませんけど、今回だけは手を貸してあげます!! 本当に今回だけですからね!!」


「納得したのは良いけどよぉ、方法なんて簡単には見つかんねぇぞ? 例えこの戦いが終わったとしても、人の恨みってのは中々消えやしないんだ。 何時また火種がくすぶるかわからねぇぞ?」


「じゃあ私がー、人側の勢力を全部ぶっつぶしちゃいましょうかー!!」


「フレーレさん、それは駄目です。 人側が崩れれば獣人側が攻めいるだけです。」


「え~、私が人の王になったら簡単よー? 獣人を虐めちゃ駄目って言えば良いんでしょー?」


 フレーレ様なら簡単にやれそうだから困る、でもそれも一つの手かもしれないぞ。 フレーレ様が王になるって事じゃなくて、虐めが悪い事だと認識させる事がだ。


 まあそれでも十年か、百年か、もっと掛かるかもしれない。 日本で何十年と言って来ても無くならないからだ。 いや、何十年じゃないかもしれない、人種差別なんて千年前にはすでにあったんだ、減らす事は出来ても無くす事は出来ないだろう。


「虐めが悪いと認識させるのは良いんじゃないか? 物凄く時間が掛かると思うけどな。」


「ふむ、それはそれでやらにゃ駄目なんだろうな。 まあそいつはメイの奴に任せるぜ、直ぐ帰る俺達にそれは無理だからな。 まあ俺達は別の事を探そうぜ。」


「はい、この世界の事ですから僕がやりましょう。 ですが納得した訳じゃないんですからね? 許した訳じゃないんですからね!! では僕は早速行って来ます。 何か用が有ったらこれで呼んでください。 これは通信機みたいなものです、呼びかけてくれれば僕と通信出来ますよ。」


 メイから渡されたのは宝珠の様な玉だ、仲間と話せるとか言う、ネットゲームで良くあるあれだろうか? メイが部屋から出てから、玉に向かってフォ!!っと叫んだら、驚いているメイの声が聞こえて来た。 うむ、感度は良好だな。


「それじゃあこっちは如何するんだ? そう良い手なんて思いつかないぞ? フレーレ様じゃないけど、王様同士の殴り合いで決着付いたら楽なんだけどなぁ。」


「殴り合いねぇ・・・・・本当に殴り合う訳じゃねぇが、王同士の会談なんて悪くねぇかもな。 相手が話し合えると分かれば多少は軟化するかもな。 つってもどちらも犠牲者が出てるとなると、そう簡単にはいかないけどな。」


「ふむ、此方から呼びかけたとしても簡単には合意しないだろうな。 それに、仮に会談が行われたとしても、罠や暗殺等に気を遣わねばなるまい。 無事に終わったとしても、進展も無い事もあるだろう。」


「だとしてもだ、やらないよりはやった方が良いぜ。 俺達の時間は後六日? フレーレが今日来たなら七日か? どの道そんな短い時間じゃ強硬策しか思いつかねぇ。 そっちにいる姫さんには悪いんだが、レイザードを潰すしかねぇかもな。」


 自分の国が滅ぼされると聞いて、ピクリと反応するプリーム姫。 フレーレ様の実力を見た彼女なら、それが本当に出来ると分かるはずだ。 柱の影に隠れるしか出来なかった彼女には、反論する勇気もない様だ。


「ま、安心しなよ姫様。 潰すと言っても圧倒的な力を見せる為に、誰一人殺さねぇつもりだぜ。 っても絶対って言われると困るんだがな。」


「んじゃそれをフレーレ様が行くとして、俺達は何するんだ? 他の国の様子でも見て来るか?」


「あん? 何言ってんだ、フレーレだけに行かせる分けねぇだろ、俺達も行くんだよ。 あ、魔王、お前は勇者の奴に事情を知らせてくれ、勇者にはそっちで防衛そろってな。 後はもう帰って良いぜ、城に帰ってろよ。」


「我は手伝わなくて良いのだろうか? 我が居れば少しは楽に戦えるはずだぞ?」


「俺達は魔王の部下として戦うんだ、お前が俺達と同等とか弱いとか思われちゃ困るんだよ。 良いから帰ってろ、邪魔になる。」


「う、分かったぞ。」


 少々プライドを傷つかれた魔王、は城へと戻って行った。 メイへの連絡もしてくれると思う。 それは良い、それは良いんだ。 しかし俺が戦場に行くのは納得出来ん!!


「・・・・・お、おいいいいいいいい、俺は行かないぞ!! 一国相手に戦うなんて正気じゃないぞ!! 魔王城を落としたフレーレ様一人でも十分じゃないかよ!!」


「こっちの方が人数が多いんだ、フレーレ一人じゃ辛ぇだろ? まあ行きたくねぇってんなら仕方ねぇ、ストリー命令だ、ちょっと眠らせろ。」


「うむ、了解した。」


 了解じゃないわああああああああああ!! 俺との夫婦の絆は如何した、べノムの言う事なんて聞くんじゃねえ!! そう反論したい所だったが、俺はそんな事には構わずに、二階の窓からダイブした。 しかしそれが間違いだと気づいたのは、べノムに追いつかれ、ストリーにボコられてからだった。



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