一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

21 王道を行く者達79

 その地はいきなり現れた、大地に空いた大穴、それこそが大土竜の墓場と呼ばれる場所だった。 その大地の穴の下に、たった一人の人影が見えた。 あれこそがリーゼが探し求めた母の仇、王国の王だった者だろう。 その横にはリーゼの母の物と思われる棺が置かれている。


 リーゼは逸る気持ちを抑え、地下への道を探す。 一つだけ上部に穴が開いているが、地下に出る道は見当たらない。 あの穴はハズレれだろう。


「来いって言っといて、地下へ降りる道も無いってどういう事なのかしら、ますます腹が立つわ」


「道がないとなると、ロープで降りるしかないか? だが、彼奴の前でロープ一本となると、少々危険だな。 ロープを切られたら助からんぞ」


「あの方はそんな事をしませんよ! 王として正々堂々と戦いはずです!」


「アンタはそう言うかもしれないけどね、敵に備えるのは常識だよ。 しかも帰りもその一本のロープを登らなきゃならないんだからさ、この高さを登るのは骨が折れるよ」


 上から見る高さでは四、五十メートルはありそうだ。 これを降りるだけでも相当な労力と時間が掛かるだろう。 下で待ち構えている女だけではなく、空中から敵が来た場合は何も手が出せなくなってしまう。 降りる方法も登る方法も幾つか思いついたが、一番安全なのは・・・・・


「・・・・・道がないのなら道を作っちゃいましょうか。 階段の切り出しぐらいならこの剣でやれると思うわ。 多少時間が掛かると思うけど、あの女には待ってもらいましょう」


「リーゼちゃん階段を作るのかい? でもどうやってやるんだい? 作れる様な材料は無いんだよ?」


「別に木材組み合わせて作る訳じゃないわよ、地面を切って広場を作って行くだけよ」


「ではやってみるとしようか、下に落ちない様に気を付けてやるぞ」


 やってみるとそれはかなりの重労働だった。 ある程度の岩は、斜めに斬り落とせば下に落とせたのだが、どうやっても落ちない岩の処理は、人力で落とすしかなかった。 それでも頑張って十メートルを掘り下げ、今日の一日が過ぎ、大きく広げた広場で夜を明かした。


「ねぇリーゼちゃん、あと一週間もあれば階段を作れるかもしれないけど、これはちょっと時間が掛かり過ぎるんじゃないかな?」


「安全ではあるが、確かに時間は掛かるな。 如何するリーゼ、このまま続けるか?」


「そうねぇ、思ってたよりキツイわよね。 本当は早く行きたい所だけど、あの女をあのまま待たせておくのもまあ一興じゃないかしら。 もし待てなくなたたら自分から来るでしょ。 それに、安全を確保するのが最優先よ」


「分かった、じゃあこのまま続けよう」


 地下にいる女はまだ一歩も動いていない。 食事も取らず、眠らずに、その場所にただ立つその姿は、もう死んでいたとしてもおかしくはないだろう。 しかしそれは無い、強力な力を持ったその体がそれを許しはしないからだ。


 それからも階段を作り続ける、上部の切り出しはこれ以上無理だと判断し、洞窟の様な階段を作り上げた。 それから五日、残り五メートル程を残し、そこからはロープで降りる事になった。 全員が地面に降り、その女の前に立った。 


「待たせたわね! まさか死んだなんて言わないわよね!」


 リーゼの言葉に反応を見せたその女は、呆れた様に言い放った。


「はぁ、本当に、随分と待たされました。 まさか階段を掘るなんて思いもしませんでしたよ。 私が攻撃を仕掛けるとでも思ったのでしょうか?」


「当たり前じゃない! 私達がどれ程振り回されたか知ってるでしょ! 貴方を信じられるはずがないわよ!」


「お前が俺達の事を恨んでるのは聞いた。 今更言っても仕方ないんだが、俺達の命だって掛かっていたんだ、簡単に任務を放棄する事は出来なかった。 王であったお前ならば分かるだろう」


「確かに、貴方を恨むのは筋違いかもしれませんが、それでも私は許せなかったのです。 貴方さえ居なければ、王国はもっと平和だったんじゃないのかと、逝ってしまった友人達も生きていたんじゃないかと。 狂ってしまったあの方とも何事も無く暮らしていけたんじゃないかと。 終わってしまった事は変え様がないというのに、私はそれを止める事が出来なかった」


「そんな所でずっと立ったままで、反省でもしてたっていうの? そんな事で許されると思っていたの!」


「少しばかりの反省はありますが、やった事に後悔はありません。 ですが貴女にとって私はただの復讐相手なのでしょう。 復讐は復讐を産む、よく言われる物ですが、それを止められる人間は少ないのです」


「私に止めろと言うの? 此処まで来させて今更よ! 決着はつけさせてもらうわ!」


「止めるわけではないのですよ、これはただの観照でしょうか。 たった一人が復讐を止めた所で、千人がそれを止めなければ世界は動かない、戦争は止まらない、今そう感じただけです。 そしてこの私も、それを止められない一人なのですよ。 この私の心は戦争に囚われたまま、十七年経ったところでその火は消せはしなかった!! ここで復讐されるのは貴方の達の方よ、私の戦争を、この時を持って終わらせる!」


「イモータル様! メギド様はお救いしました、もう復讐する意味はない筈です! 復讐なんて諦めて王国へ帰りましょう、メギド様も待っていますよ!」


「あの方が救われた? ふふふ・・・・・そうですか、有り難うマッド、しかし私が止めた所で、そちらは止まらないのでしょう? もう何方にしても戦わなければならないのですから、この戦いに勝って私はあのの方の元へ戻ります!」


「どっちが悪いのかなんて如何でも良いわ! 私は貴女を倒す!」


 リーゼ達とイモータルが戦いの構えを取った。 ただマッドだけは何方にも付けず、リーゼ達を裏切る事も出来ず、壁の方に逃げて行った。


「あ、あの方に武器を向ける事は出来ません、ですが回復なら致しますから、怪我を負ったら此方にいらしてください!」


「あーらら、マッドは戦力外になっちまったね、如何するんだいリーゼちゃん」


「別に、何時も通りなだけよ。 回復してもらえるんなら上等よ。 あんたも今更体調が悪いとか言わないでよね。 私はそんな事関係なく叩き伏せるわ!」


「私の体調を気遣う余裕があるとでも? 心配せずともこの体は常に万全。 何時でもかかっていらっしゃい」


「「さあ決着を付けましょう!」」


 イモータルは上空へと浮き上がり、リーゼ達に不可視の刃を飛ばした。 だがそれを予想していたリーゼ達は、煙幕を張ってその軌道を見極める。


 煙幕から抜けて来たのは四つの刃、リーゼ達四人へとそれぞれ迫っていた。 リーゼとリサが当たらない様に剣で迎撃し、何かが空中で破裂する。 ラフィールはその盾で攻撃を受け止め、ハガンは攻撃を躱して次の挙動を窺っている。






 攻撃を受けた三人の武器には、傷は付かなかった。 それはリーゼ達が戦う事が出来るという証明だった。



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