一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 頑固者同士がそろうと、他人がどう言っても何も変わらない。

「魔物ですか!!」


 裸で現れたべノムに、若干引きながらメイが剣を構えている。 このまま放って置いたら面白くなりそうだけど、絶対後で怒られるから止めておこう。


「待てメイ、いやクロイツ。 それは魔物じゃない、俺が向うの世界で世話になったべノムって奴だ、ちゃんと言葉も通じるし、悪い奴じゃないぞ。」


「メイで良いですって!! それはもうやめてください!!」


「恋ちゃん恋ちゃん、中々大きかったわよ、よく見ておきなさい、あんなの、そう見る機会なんて無いわよ。」


「止めてください、あんな物見る訳ないじゃないですか!! それより此処は何処なんですか? その人だって変な仮面なんて付けて、何なんですか此処は。 私達高架下に居たはずだったでしょ!!」


 あんな物って言ってる時点でもう見てるんだろうな。 でも母ちゃん、恥ずかしいからセクハラはやめてくれ。 こっちじゃあんまり意味ないけど、止めといてくれ・・・・・


「恋ちゃん、信じられないかもしれないけど、此処は異世界なんだ。 あの声の人の話だと、1週間経たないと帰れないみたいだから、その時に送ってもらってください。」


「嫌です、私はメイ君と居たいの!! 例え恋が叶わなくっても、私はこの世界にいるわ!!」


「ごめん・・・・・ごめん恋ちゃん、僕には将来を誓い合った人がいるんだ。 お願いだ、僕の事は諦めてほしいんだ。」


「嫌です!! 私はメイ君が居る世界に居たいの!! 例え恋が叶わなくっても私はメイ君と一緒の世界に居るわ!! 私は諦めないから!!」


 やっぱり説得に乗らないか、二人共どっちも折れないから困る。 ここでメイが折れてくれたら楽なんだけど。


「メイ、いいじゃないか、これだけ愛されているんだ、もう恋ちゃんにしとけよ。 お前に振られたら、この世界で恋ちゃんは一人生きて行かないとならないんだ、可哀想だと思わないのか?」


「確かに可哀想とは思いますけど、それとこれとは別の話です!! 此処まで来て今更心変わりなんてしませんよ!! 今だって飛び出していきたいのを必死で我慢してるんですよ!!」


「うあああああああああああああん、メイ君にふられたああああああああ!!」


「恋、私も中々相手にされなかったんだ、その気持ちは十分分かるぞ。 だが安心しろ、振った相手を全力でぶちのめせば、かなりスッキリするぞ。」


「おいストリー、恋に変な事教えるなよ。 いやそれより、何時までもこんな所に居たらなんか出て来そうだし、まず何処かへ移動しようぜ。 メイ、此処お前の世界なんだろ? ここから如何すれば良いんだ?」


「えっと・・・・・マップを見ると此処はレイザード王国の端みたいです。 この近くに町は無いから、転移魔法でレイザードへ向かいましょう。」


「ん、分かった、じゃあ此奴を起こすからちょっと待っててくれ。」 


 落ち葉に埋もれたべノムを、とりあえず揺すって声を掛けてみた。


「お~い、起きろべノム、朝だぞ~。」


「何だよロッテ、まだ足りねぇのかよ? ほら、こっちに来いよ。」


 寝ぼけたべノムは俺を抱き寄せ、頭をガッチリつかみ、俺の顔を・・・・・


「おおいいいいいい、起きろってえええええええ!! ぎいやああああああああああああああああ!!」


 生暖かい物が俺の唇に触れた。 寝起きの何か酸っぱい様な、気持ち悪い味が口に広がっていく。 べノムが目を開けた時、俺の顔を見たべノムは、近くの草むらで嘔吐した。 勿論俺も吐いた、ストリーも見てないで止めて欲しかったゾ。


「「ウオエエエエエエエエエエェェェェェェェッ!!」」


 べノムは俺を見て驚いている、たぶん元の世界に飛ばされた事も知ってるんだろう。


「何でお前が・・・・・てか此処は何処だ!! お前等何しやがった!!」


「俺は何もしてないぞ、やったのはおかしな天使達だ。 まあ犬に噛まれたと思って諦めてくれ。」


「アホか!! 何でこんな所に、てか此処は本当に何処だ? 俺の服は?!」


「知らん、あの天使達のイタズラだろ? ちなみに此処は俺達の世界じゃないらしい。 一週間したら帰してくれるんだと。」


「一週間んん? んじゃあそいつ等は此処の住人って訳か? まあいい、何か着る物を何かくれよ、このままじゃあいつ等も困るだろ?」


「いや、この人は俺の母ちゃんと友達と知り合いだよ。 メイ、べノムが困ってるからお前のパンツを貸してやれよ。 俺のは貸したくないんだ!!」


「ええッ、ぼ、僕のですか?! で、でも・・・・・」


「お前勇者なんだろ、困ってる人を助けないでどうするんだ!! さあ早く!!」


「わ、分かりました、返さなくて良いですから、どうぞ持って行ってください・・・・・」


 べノムがメイから譲り受けたボクサーパンツを装着し、パンツ一枚にレベルアップした!! まだ変態レベルなので、俺の服を貸し与える事にした。 ダボっとしたTシャツで、狙った様にキューピッドの絵が描かれている。 下はフリーサイズのジャージを着ている。


「中々動きやすい良い服じゃねぇか。 まあ気に行ったぜ、デザインはどうかと思うけどな。」


「それじゃあメイ、レイザードへ出発だ!!」


 メイの魔法でレイザードへ転移した俺達。 何だかメイの奴が門番にも知られているみたいで、町にすんなり通された。 レイザードの町は中世の街並みって感じだろうか、石畳の道に、煉瓦で作られた家。 向うの王国とは少し違うが、そこまでの大差はない。


 メイの案内で宿を取り、全員に個室があてがわれた。 その支払いはメイが出したのだが、簡単に個室を取れる程には金を持ってるみたいだ。 この世界に居る内は全額支払ってもらうとしよう。


 俺は部屋で一人、自分の能力を確かめた。 視界にゲームの様な数値やらなにやらが見える、これがこの世界のデフォルトなんだろうか? 視界が遮られて物凄く邪魔だ。 慣れたら楽なんだろうけど、その数値が死角となってやられたら間抜けだ。 ちょっとばかり気を付けないと不味いだろう。


 他の物を順に見て行く、まずは体力、いわゆるHPヒットポイント、これは1200、さっき見た数値と変わらない。 MPマジックポイントが45、HPとえらい違いだ。


 しかし今まで見えなかったものが見えるから随分と楽かもしれない。 透明化の魔法を使ってみると、5ポイントが減らされ40になった。


 力が200、速さが120とか色々見える。 スキルとか何にも見当たらないし、透明化の魔法が一つあるだけだった。 そしてレベルはやっぱり1のようだ。 次のレベルまで69億7千万というとてつもない数字が見える。 レベル1でこれは、もうレベルを上げさせる気が無いとしか思えないんだが、他の人は違うんだろうか?






 まあ兎に角知りたい事は知れたから、俺は色々いじくって邪魔な表示を消す事に成功し、朝までぐっすり眠った。



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