一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

15 簡単に頼み事を受けない方が良い、後で困るのは自分だから。

 次の日、俺とストリーは小さな公園で、れんに昨日の事を話した。


「という訳で駄目そうだぞ。」


「私が!! 私が伝える前にアツシが伝えてどうするんですかああああああああああああ!! 折角の計画が潰れちゃったじゃないですか!! どうしてくれるんですかああああああああ!!」


 恋は以外な力で俺の首を絞めて行く。 ガクガクと揺らされて結構キツイ。


「・・・・・わ、悪かった、悪かったからあああああ。 ちょっ手ぇ放して・・・・・マジで。」


 俺の意識がドンドン失われて行く。 抵抗しようと思えば出来るのだけど、恋に手をあげるのはちょっと気が引ける。あ、もう駄目・・・・・


「落ち着けれんアツシが意識をうしなってるぞ。 それにまだ逆転のチャンスはある。」


「本当ですかストリーさん!!」


「ぬあああああああああ。」


 れんが俺の事を突き飛ばし、俺は地面に転がって行く。 まあ受け身を取ったからダメージは皆無だ。 ピョンっと立ち上がって何事も無かった様に話を続けた。


「それで、逆転のチャンスって、具体的に何をすれば!!」


「だ、大丈夫だ、私に任せておくがいい。 きっと何とかなるはずだ!!」


 ストリー、実は何にも考えて無いんじゃないだろうか。 俺と付き合うのが最初だって言ってたし、恋愛には全然疎いからなぁ。


「じゃあ方法は任せますから、必ず何とかしてくださいね!! じゃあ私、今日は用事があるので、後は任せますけど。・・・・・絶対何とかしてくださいね!!」


 恋は俺達ストリーに方法を任せると、この場から去って行った。


「アツシ、如何しよう? 私には方法が思いつかないんだが・・・・・」


「知ってた、でもたぶん方法なんて無いぞ。 メイの奴はガッチリ心を決めちまったし、今さら何しようと無駄だと思うけど。」


「それは不味い!! 私は恋と約束したんだ、何か方法を、アツシも一緒に考えてくれ!!」


「分かったストリー、一つ方法がある。 恋に謝って出来ないって言っちまおう。 それで解決するだろ。」


「馬鹿者、つ、妻が恥を掻いても良いと言うのか!! 協力してくれないと言うのなら・・・・・り、離婚してやるからな!!」


「本当にぃ?」


「ほ、本当だ!!」


 ストリーは結構頑固な所があるし、万が一って事もある。 少しぐらい協力しても俺としてはいいのだが、上手く行く気は全くしない。


「手伝ってもいいけど、上手く行くとは限らないぞ? 彼奴も中々考えを変えない奴だしな。」


「それでも良いから手伝ってくれ、私一人じゃ如何にもならないんだ・・・・・」


「んじゃ、なるべく頑張るって事で行こう。 俺達が頑張ってれば、恋も分かってくれるって。」


 それから一日、二日と経ち、一週間が経つ。 何度かメイとも話し合ったんだが、もう一切聞く耳を持たないでいる。 それでも頑張って説得を続ける俺達を見て、恋は俺達にこう言った。


「何時まで掛かってるんですか!! 任せてくれって言いましたよね? まさかこのまま時間切れを狙ってるんですか?!」


「ち、違うぞ恋。 わ、私はあの・・・そう、チャンスを狙ってるんだ。 あの男自分を勇者だと思い込んでるからな。」


「それで具体的には?!」


「う・・・・・分かった。 ちょっと捕まえて来るから、あとは煮るなり焼くなり好きにするが良い。」


「だから駄目だって言っただろ。 もう謝っちまえって、出来ないって謝っちまえって。」


「出来ないんですかぁ?! あれだけ任せろって言ってたのに!! もう良いです、貴方達には頼りませんから!!」


 恋が机をバシンと叩き、恋は怒りながら去って行った。 そして俺達との接触も無く時間はドンドン過ぎて行き、学校最後の日。 ほんの少しの別れの会と、ちょっとだけ泣く人も居たけど、概ね平和な時間が流れる。 恋はというと、俺達の事を無視している。 最後だと言うのにちょっと寂しい。


 学校が終わり夜、俺とストリー、そして母ちゃんにメイ、四人が大量の荷物を持って、人気のない高架下へと集まっている。 周りには人の姿は無い、此処で向うの世界に行く予定だ。


「んじゃストリーよろしく。」


「うむ、じゃあ始めるぞ、全員準備は良いな?」


「これで魔法少女になれるのね、小学校からの夢がやっと叶うわ!! ストリーちゃん、何時でも良いわ、やって頂戴!!」


 まだ考えていたのか、向うに行ったら何とか止めなければ。 俺のSAN値が減ってしまう。


「僕もいつでも大丈夫です。 姫様、待っていてくださいね、もう直ぐ僕が行きますよ!!」


 だから行けるとは限らないんだって。 


「おし、行くぞ!!」


 チリーン、チリーンっとストリーが鈴を鳴らし続けると、俺達の頭の中に声が響き出す。 これは駄目天使、べールの声。


(何でこんなに夜中に鳴らすんだ、五月蠅くて寝られないじゃないか!! 鳴らすのなら朝にしてくれ、俺は眠いんだよ!! 昨日やっと解放されたんだぞ!! 俺を寝かせろよ!!)


「悪いな、この時間しかないんだよ。 こっちだと昼は目立って仕方ないからな、寝たいなら早く飛ばしてくれよ。 それとそっちに行く人数増えたから。 まあお前なら行けるだろ?」


(チッ、当然だ。 しかし接触している人間しか飛ばせないからな、ちゃんと手でも足でもくっ付けとく事だな。 じゃあやるからな? 途中で止められないから動くなよ?)


「凄いわ、ストリーちゃん、私にも声が聞こえるわ。 どうなってるのかしらこれ?」


「母上、今はちょっと黙っていましょう。 アツシの邪魔をしてはいけませんよ。」 


 ベールが何だかよく分からん呪文みたいな物を唱え、俺達の体が光り出した。 そして光が最高潮まで達した時、そこに大荷物を持ったれんが現れた。 こっちに駆け寄りやって来ている。


「私も、私も連れて行ってください!!」


「如何して此処が、ていうか今は不味い!! 恋、こっちに来たら駄目だ、俺達に触れたら帰れなくなるぞ!!」


「アツシさん、そんな事を言ったら恋ちゃんが触るでしょう!! もうちょっと考えてください!!」


 恋は輝く俺達に怯むことなく、メイの手を掴むと。 目の前の景色が歪んで行く。1分もするとその景色が安定し、俺達五人は、暗い森の中へと出現した。


「ん? 何処だ此処? 南の森辺り?」


「凄いわよアツシ、目の中に変なゲージが見えるんだけど。」


 ゲージって何? っと言おうとしたが、直ぐに俺もそれに気づいた。 目の下? 目の中? よく分からんけど、ゲームみたいな表示が見えた。 何か俺の体力は千二百ってことだった。 ストリーは千五百、母ちゃんが四十、恋は二十五、あとレベル百だと言ってたメイは五百二十五だった。 もしかしてこれって・・・・・


「な、何が起こったんですか? メイ君、此処は何処ですか? 何処なんですか!!」


 動揺が隠せないれん、こんなのは想定外だったんだろう。


「まさか・・・マップは・・・有った、やっぱりそうだ!! 此処は僕の世界だ!!」


「つまり、あの天使は失敗したのだな? おい聞いているんだろう? 返事をしたらどうだ。」


(う~む、失敗したみたいだな、何か予想外の力が働いたのか? まあ安心しろ、一週間もすればもう一度飛ばしてやるから。)


「おま、ちょっと待て、一週間も掛かるのか? 今直ぐ飛ぶ事は出来ないのかよ?」


(無理だな、時間を置かないと存在が安定しないんだ、一週間ぐらい我慢しとけ。 それじゃあ俺は寝るから、もう起こすなよ。)


「こら待て!! こんな世界に置いて行くなら、誰か応援を送ってくれよ!! あれだ、フレーレ様を送ってくれたら、こんな世界なんて余裕で攻略出来る。 プリーズ、ヘルプミー!!」


(あ~んフレーレ? 俺はそいつを知らんぞ。 まあ適当に誰か送ってやるからまあ安心しろ。)


「適当じゃ駄目だ、べノムに聞けば分かるから!! お願いだから呼んでくれ!!」


(あーメンドクセェ、もうべノムで良いだろうが? それなら今直ぐ送ってやれるぞ。)


「じゃあそれでお願いします!!」






 五分後、空中から現れたのは、完全に素っ裸で眠っているべノムだった。 デローンとしたアレまで見えている。 これを道で見かけたとしたら、完全に変態だと思われるだろう。 取り合えず葉っぱでも乗せてみた。



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