一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

9 どっちが危険か、そんなものはその時にしか分からない。

 不良達を回復し、まだ混乱している最中、俺達は見つからない様にその場から逃げ出していた。 メイの奴も俺達と同じ様に何処かへ消えていた。 俺はクソ重い鎧を担ぎながら家へと向かっている。


 その帰り道で俺は悩んでいた。 不良達の事じゃなく、隣に居るストリーの事で。 今まで行方不明だった俺が、いきなり女を連れ帰ってみろ、このまま家に連れ帰ると、母ちゃんに殴られる確率が大きい。


 だとしても隠して生活するなんて絶対にバレる。 向うで自炊していた俺には分かるのだが、食事代って物は案外掛かるのだ。 そして洗濯もしなくちゃならないし、一緒に住むならトイレとか風呂も使わなきゃならないんだ。 これでバレないという方がおかしいだろう。 それに、ストリーが押し入れにずっと隠れるなんて事はしたくないのだ。 


「どうしたアツシ、何かあったのか?」


「いやぁ、母ちゃんにどう説明しようかと思って、やっぱりいきなり連れて行ったら驚くだろ? しかも俺は最近まで行方不明だったらしいんだぞ。」


「ふむ、確かに・・・・・母上にはちゃんと挨拶をせねばならんな。 安心しろ、嫁として恥ずかしくない挨拶をしてやろう。」


「・・・・・嫁として?」


「夫婦だろ、当たり前じゃないか。」


 そうだった、向うでは俺は結婚しているんだった。 でも待ってくれ、こっちに住むとなるとどうなる? 日本だと男は18からしか結婚出来なくないか?  いや、それだけじゃない、戸籍とかそもそも持ってないし、ストリーと結婚出来なくない?


 まだある、もし万が一にでもストリーが日本人じゃないと知れたなら、日本じゃ確か滞在許可書? よく知らないがそんな物が必要だったはず。 異世界に帰れる訳でもないストリーがどうなるかというと、何処とも知れない外国へと強制送還になるかもしれない。 更に魔法なんて物を見られたら大変な事になるだろうし、こっちに残るリスクは高いかもしれない。


 いや、それだけでは済まない、そんなストリーを俺達が匿っていると知られたら、監禁? 誘拐? そんな噂も流れそうだ。 そうなれば罪に問われて刑務所へ何てことも?


 考えすぎか? いや、0パーセントってわけでもないんだ、頭に置いておくべきだろう。 しかしいかんぞこれは、こっちに住むの無理な気がしてきた。 ストリーと一緒に居たいなら向うに行かなきゃいけないか? なら母ちゃんの事はどうしよう? いっそ向うに連れて行くべきだろうか?


 母ちゃんを連れて行くとして、向うの世界に耐えられるだろうか、魔物が闊歩し、危険と隣り合わせの世界に。 王国の中は護られて安全だが、それが絶対とは言えないし、向うには娯楽が少ない、テレビやネットなんて物は無いし、スマホなんて当然使えはしない。


「私が嫁だと駄目なのか?」


「いや、違うよ。 いっそ母ちゃんを連れて行けるならと思ったんだけど、どうやって説得しようかなってな。 でもなぁ、母ちゃんが向うの世界に合うか分からないんだぞ? 行ってみて駄目でしたじゃ困るだろ?」


「向うの世界が合わない? よく分からんが、何処へ行こうとやる事は同じだろう? 仕事して、飯を食って、眠って、あとは楽しめば良いだけだ。 それはどの世界でも変わらないだろ? それともこの世界では違うのか?」 


「いや、まあ大体一緒だけど・・・・・」


 ブロロロロっと隣から車が通って行く、便利な移動手段の車や自電車だが、それと事故る確率ってどのぐらいだろうか? 彼方の魔物に襲われる確率と、どちらが高いだろうか?


「後は母ちゃんがどう思うかだけかなぁ?」


 俺達は家に帰り着く。 家の中には電気も付いておらず、母ちゃんはまだ帰って来ていない。


「ただいまーっと。」 「ただいま。」


 俺が電気を付けると、家の中を見回すストリー。 向うから来たストリーには色々珍しい物もあるだろう。 朝はバタバタしていたからあまり見せられなかったが、今の内に色々見せておこうか。 リモコンを使いテレビを付けてやると、ストリーがちょっとだけビックリしていた。


「アツシ、これは面白い魔法だな、何処かの風景を映しているのか?」


「違うよ、この世界は基本的に魔法なんて物は無いんだ。 あのメイの奴は特別なんだよ。 この世界に居る時は使う所を見られないようにしろよ。 誰かに見られたら変な事に巻き込まれるかもしれないからな。」


「ん、了解した。 しかしこの男はなんであんな頭をしているのだ? 随分と斬新なデザインだな。」


 ストリーが見ているのは、暴れちゃいそうな、馬に乗ったお侍さんだ。 いわゆる丁髷ちょんまげの事だが・・・・・昔の人と今の俺達とでは感覚が違うんだろうけど、俺から見てもあまり恰好良いものとは思えない。 まあ一応理由は知ってる。


「兜をかぶった時に、頭が蒸れない様に剃ってるんだってさ。」


「そうなのか? ふむ、この世界に来たのなら私もあれをやらねばならんか? 少しばかり躊躇われるが、仕方ないのだろうか?」


「止めてくれ、俺はそんなストリーは見たくないぞ!! それに今の人は誰もやってないよ、あれは昔話の劇みたいなものなんだよ。」


「そうか、安心したぞ。 ならあの武器は何だ?」


「あれは刀と言って・・・・・」


 ストリーはこの世界の武器に興味を持ち、俺は知ってる限りの話しをした。 それからネットで検索をかけ、画像を見せて行く。 剣や槍、それに弓。 忍者が使うマキビシなんて物まで。 そこそこ面白がっていたが、近代兵器を見せると、顔色が変わっていく。


「お、お前達はよくこんな恐ろしい物を作ったものだな。 銃にミサイルだと? それに、何だこれは? 核兵器だと? 赤ん坊が使っても国が亡ぼせる平気だと? よくそんな物がある場所で生きていけるものだな。 誰かがボタンを押すだけで私達が死ぬのだろ? キメラよりも余程危険なものではないか。」


「そりゃそうなんだけど、厳重に管理されてるし、一番偉い人の承認とかないと発射出来ない様になってるんだよ。」


「お前は馬鹿じゃないのか!! 今この瞬間に押されたら如何にもならないじゃないか!! 私はもうこんな世界には居たくない、母上が戻ったなら直ぐに向うへ行こうじゃないか!!」


 少し震えているのか? 映像を見せたのは不味かったかもしれないな。


「まあ落ち着けって、この日本にはそれを撃ち落とせる技術があるんだ。 射程に入る前に撃ち落とすから、こっちにはダメージはないんだよ。」


 実はよく知らない、そんな技術があるだろうって事は知ってるけど、本当に出来るのかって事はよく知らない。 それで本当に撃たれた場合、それがミスったなら、俺達は終わるかもしれないって事だが。 今は落ち着かせるためにこれで良いだろう。


「本当に大丈夫なんだろうな? 私はこれでも怖がってるんだぞ!!」


「ああ、大丈夫だよ、だから落ち着けって。」


 俺は立ち上がったストリーを優しく抱き寄せ、ちょっと落ち着くまでそのまま待っている。 そのまま何分か過ぎ、俺はちょっとだけムラムラして来た。 ちょっとキスしちゃおうかなー、とか思って唇を近づけた時。


「ただいまー。」


 俺の母ちゃんがタイミングよく帰って来た。 俺はストリーを離そうとしているが、その腕はしっかりと絡みつき、全く動かない!! 母ちゃんが居間まで来ると、そんな俺を白い目で見つめている。


「何してるのアンタ。 まさか勉強もせず学校でナンパして来たんじゃないでしょうね!!」


「い、いや、違うって!! ほらストリー、離れろって。 おおおおおおおい!!」






 全く離れないストリー、気まずい時間が流れて行った。



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