一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 戦場で育った女の子は、こんなに立派になりました。

「落ち着いたか? それじゃ俺達の話を聞けよ。」


 それから俺はメイにちゃんと謝った、一応騙してないとは思うが、何となく少しだけ悪い事したかなぁとか思ったからだ。 そして改めて理由を教えると、それでメイは少しだけ態度を軟化し、俺達に提案を持ちかけた。


「納得はしていませんけど理由は分かりました、でも其方アツシの世界も異世界には変わりないでしょ。 もしかしたらそちらの世界から渡る事が出来るかもしれないじゃないですか!! 僕も其方に連れて行ってください!!」


「いや、だからまだ決めてないんだって。 俺はお前の意見が聞きたかったんだよ、こっちの世界には本当に何の未練もないのか?」


「僕にだって友人の一人ぐらいは居ます!! でも彼女に会いたいんだ!! 何方かしか選べないというなら僕は向こうの世界を選ぶ!!」


 その一瞬の為に向うへ行くのか、それは羨ましいけど、北海道から沖縄へ引っ越したとかアメリカへ移住したとか、そんな話じゃないんだ。 もう二度と帰る事も出来ない、誰とも会う事は出来ない、それはもう死別と同じ事だ。 そんな思いを自分だけじゃなくて家族や友人に背負わせて良いのか?


 その俺の思いを、このメイという男には言わなかった。 言った所で聞きはしないだろうから。 でも、もしかしたらこの男は正しいのかもしれない。 選びきれないなら、思いが強い方に行くしかないんだから。


「よし、俺はいけないかもしれないが、もしかしたら送ってやれる事は出来るかもしれない。 如何だストリー?」


「さて、如何だろうな? 一応帰りの方法は知っているが、送れるかどうかは知らんぞ? あの天使達は信用出来んからな。」


 そうだった、あの天使は駄目だったんだ。 人の常識なんて無いから、思った事を全力でやってくる。 もしかしたら俺達の周り1キロぐらいを、向うに転移させたりするかもしれない。 ま、まあそこまではしないよな? な?


「まあ私達が残るとしても、お前には彼方に行く方法を教えてやる。」


「本当ですね、絶対、約束ですよ!!」


 メイの奴がストリーの手を掴み懇願している。 当然俺はイケメンがストリーに近づく事を許さない。 億が1だったとしてもストリーが心変わりする様な事になったら困る。 とりあえずメイの鼻の穴に指を突っ込み、グイっと頭を上げさせる。


「はひふるんですかはふひはん、ふひほふひへふははい!!(何するんですかアツシさん、指抜いてください!!)」


「悪いが、お前の様なイケメンを、ストリーに近づける訳には行かないのだ。 その手を放して後に下がれ、万が一にでもイバスの様なハーレム体質だったら困るからな。」


「ひはふってはへへふか!!(イバスって誰ですか!!)」 


「良いから手を放すんだ、まず話はそれからだ。」


「ははりはした。(分かりました。)」


 メイがストリーの手を放し、後ろに下がった時に指を抜いてやった。 勇者とか言ってたからきっと女の前でこんな事された事がないんだろう。 メイの奴は何となく恥ずかしそうにしている。 俺はメイに結界を解くように頼み、また放課後に話しをする事にした。


 そして結界を解いた時に、周りにいた人達が動き始めた。 メイの話では時間を止めてる訳じゃ無く、俺達の精神だけがあの中に入り、超加速状態となってるらしい。 あの中で怪我しても肉体に怪我を負う事は無い。 しかし何の怪我もしてないが、斬られた感覚と痛みの様な物を感じるっていうよく分からん感覚になるらしい。 


 俺は何度かなった事があるが、悪い夢で腕を切り落とされて、目を覚ました時なんて、そんな感覚になったりする事がある。 まあたぶんそんな感じだと思う。


 無事に授業が続いて行き、帰りの時間。 メイの奴が俺の近くへとやって来た。 机をバンと叩き、大きな声で話し出した。


「アツシさん、やっと終わりました!! さあ、話しをしましょう!!」


「五月蠅いな、もうちょっと声を落とせよ。 それと此処だとちょっと目立つから、何処か別の場所へ行こうぜ。 行こうぜストリー。 ・・・・・ストリー? お~い。」


 見るとストリーはクラスの仲間に囲まれて質問攻めに合っている。 マラソンで男女の中で最初にゴールした為に、ヒーロー? ヒロイン? どっちか知らないけど、そんな感じになった様だ。


 俺がストリーを連れて行こうとするが、人の壁に阻まれ近づけない。 ストリーは地理にも詳しくないし、一応10分程待ってみたがそれは収まらず、メイの奴も五月蠅いので、人の居なさそうな体育館裏へと行ってみる事になった。


「お~いストリー、俺ちょっとメイと話してくるから、ストリーは学校の門らへんで待っててくれよ。 んじゃちょっと行って来る。」


 返事は聞こえなかったけど、たぶん大丈夫だろう。 まあ一応は俺の家も知ってるからな。 俺とメイの二人は体育館裏に移動し、そこでまた話しを始めた。


「それで、何時行くんですか!!」


「一ヶ月って言ってたから、たぶんあと29日ぐらい? それとも27日かそんなもんじゃないか?」


「遅いですよ!! そんなに待てません、今向うがどうなってるのか分からないんですよ!!」


「んじゃ他に方法があるんだったらそっちで行けば良いよ、俺達の事は方法が無かった時に使ってくれ。 じゃあそういう事で俺は帰るから。 まあ頑張って探してくれ。」


「待ってください、アツシさんは一緒に探してくれないんですか? 僕達は仲間じゃないですか一緒に探してください!!」 


 何時仲間になったのだろう? もしかしてさっき戦ったからか?


「いや、戦って決着付いたら仲間とか無いから。 そんなんならもう全世界が平和になってないとおかしいじゃないか。」


「そうじゃなくて、異世界に飛ばされた仲間でしょ!! 一緒に飛ばされたよしみで僕を手伝ってくださいよ!!」


「いや、行った世界違うし。」


「・・・・・なんでも良いので助けてください!!」


「え~、でもなぁ・・・・・」


 そんな俺達の声を聞いたのか、隠れていた5人の男が俺達の元へとやって来た。 強面で、簡単に言うと不良さんって奴だろうか。 髪型から服装からそんな雰囲気がしている。


「おうコラお前、下級生を虐めてるんじゃねぇよ。 虐められてたのか、可哀想に。 おう、お前はさっさと帰んな。 此奴の相手は俺達がしてやるからよぉ。」


 この人は良い人達だ、恰好は悪いけど、良い人だ。 途中から聞いて助けてくださいに反応したのか? 俺は別に虐めてた訳じゃないので、誤解を解かなければ。


「いやぁ、俺は何もしてないですよ。 なあメイ、俺達友達だよな?」


「・・・・・違うんじゃなかったんですか?」


「おい!! こんな時に変な事言うなよ!! めんどくさくなるじゃないか!!」


「ほら、違うって言ってるじゃねぇか。 まあとりあえず、お前の名前を教えてもらおうか?」


 同じ学校なんだし、逃げても直ぐに誰か分かるか? あ~如何しよう、あんまりバイオレンスな展開はしたくないんだけど。 透明になって逃げるか? でもなぁ、どうせすぐに俺の事はバレるだろうしなぁ。 そうだ、適当に負けて反省した事にしよう。


「ご、ゴメンなさい、俺ちょっと反省したので許してください。」


 マジもんの狂気を体験した事が有る俺は、こんな奴等なんてチッとも怖くない。 可愛い子供がただじゃれついて来たぐらいにしか思わない。


「アアン? 許される分けねぇだろ? オウラ、反省しやがれ!!」


 男の一人が拳を握り、俺の鼻面へと殴り掛かる。 勿論そんな所を殴られるつもりはないので、ちょっとだけずらして頬の位置にさせる。 そしてそのまま後へと自分で飛ぶ。 よし完成だ!! これで周りにいる奴も、俺が凄くぶっ飛ばされたと思っただろう。 勿論ダメージなんて無いに等しい。


「ひぃいい、もう二度としませんから、許してくださいいいい・・・・・」


「ふん、もう二度とするんじゃねぇぞ? 次やったら容赦しねぇからな!!」


「は、はいいいいいいいいいい・・・・・あっ・・・・・」


 本当はそれで終わる話しだったのだが、タイミングが悪く、ストリーが俺を探して此処へ来てしまっていた。 ぶん殴られてる俺、相手は五人とメイの奴が一人。 もしかしたら罠にはめられた、そんな風に思ったりして?


「お、おい・・・・・」


 俺が話しかける間もなく、男達の後ろから襲い掛かるストリー、まず一番後ろの奴に耳の穴に強烈な掌底を叩きこむ。 もしかしたら鼓膜が破れたかもしれない。


 その音に振り向いた一人の顎を拳で打ち抜く。 完璧に顎が割れた、かもしれない。


 反応したもう一人の腹を前蹴りで一撃。 内臓をやったんじゃないだろうか?   


 同時に殴り掛かる二人の足を払い、倒れこんだ男の鼻へ踵が落ちる。 言うまでもなく鼻が折れたな。


 起き上がり、逃げようとした最後の男の後頭部を掴み、後頭部を地面に打ち付ける。 ・・・・・死んだかも? これは不味い!!


「ストリー!! ちょっ待てって、ただふざけてただけだから!! そのままにしてたら死ぬって、治して早く!!」


 ストリーは次の得物を求め、メイに襲い掛かろうとしていたが、俺は急いで引き止めると、何の感傷も無く回復魔法を掛けて行く。 襲われそうになっていたメイまでが手を貸し、傷すら残らずに回復させた。


 余りの痛みに動けなかった不良達も、何でこんなに痛かったのか理解していないようだ。 どうせ魔法の事を言っても信じないだろう。






 ちょっとだけ思った事がある、この世界にいたらストリーは警察に捕まるんじゃなかろうか? いや、もしかしたら何人か殺し・・・・・ 駄目だ、向うの世界の方が良い様な気がしてきた。



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