一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達75

 正面の部屋は、玉座が二つ並べられている。 逃げ遅れた何人かの鎧が落ちている。 今はもう何の臭いすらもしていない。 部屋の隅には幾つもの飾り鎧が武器を持って飾り付けられている。 その武器は本物だが、かなり重い鉄の槍だ。 武器として使うのは無理だろう。


 部屋の中でも電撃は落ち続けている。 それは何故か高い確率で槍の先端鎧へと落ち続けていた。 雷は流れやすい所へと流れると言われているが、その特性がこの魔法にもあるのなら、戦いを有利に進められるかもしれない。 


「此処には何も居ないわね、やっぱり上なのかしら? まあいいわ、また使える物を集めて行きましょう。」


「リーゼさん、玉座の後ろを見てください、あの絵に描かれているのがメギド様ですよ!! 並んでおられる方は若き日のイモータル様です!! これ程の物となるとたぶん国宝に加えられる程の物でしょうか!! 持ち帰ったら物凄い金額になりそうですよ!!」


「へ~あれが? ちゃんと顔を見るのは初めてだけど、やっぱり物凄くムカつくわ!! 燃えてなさい、ファイヤー!!」


 怒り任せに放った炎は、その絵を燃やし、焼いていく。 額縁だけを残して完全に灰となった。


「ぎゃあああああ!! 国宝が燃えていく!! リーゼさん、絵には罪はありませんって!! あーもう修復も出来ないじゃないですか!!」


「諦めろマッド、リーゼちゃんにその絵を見せたお前が悪い。 それより使える物を集めよう、またリーゼちゃんに怒られるぞ?」


「はぁ・・・・・燃えてしまったのは仕方ないですね。 今はメギド様を助ける事に集中しましょう・・・・・」


 集められた物は、落ちていた剣と槍。 燃えていない赤いカーテンが一枚、落ちていた鎧、絵の額縁ぐらいだった。


 まずは額縁、前の様に剣で斬り分け、鋭いナイフ状へと変える。 落ちていた鎧、これは使えない。 電撃が通るとなると、着ていても意味が無いからだ。 カーテンは幾つかに裂き、ロープ状へと変える。


 そして残ったのは剣と槍。 リーゼはその剣の一本を手に取り、高い天井へと投げ刺した。 天井へと突き刺さった剣は、電撃の流れを作り、殆どがその柄から下へと流れ落ちて行く。 少し遠くへ落ちるとはいえ、飛び退いた先がそこだった等と、運が悪い事にもなりかねない。 あと何本かを刺せば、安全に戦える場を作れるだろう。


「剣よりは槍の方が流れやすそうだから、一人二本は持って行きましょうか。」


「おう、任せてくれ。 二本と言わず四本ぐらいは持てるよ!!」


「そんなに重い物を持ったら、戦いに影響するわよ? 出来る限り無理はしない、体力は残す、鉄則でしょ。」


「そ、そうだね、あはははは・・・・・」


「ふっ、失敗しましたねラフィール、もう私に迷いは無いのです!! リーゼさんの事は私に任せておいてください!!」


「お、お前まさか、リーゼちゃんの事を・・・・・」


「ふふふ、何の事だか分かりませんねぇ。 まあ私達が結婚したなら、従業員として使ってあげますよ!!」


「告白してから随分と・・・・・」


「遊んでないで行くわよ!! 早く来なさい!!」


「「はい!!」」


 三人は上階へと上がる。 色々と部屋を見て回り、そして一つの部屋を見つけた。 その部屋の中には一人の男が立ち尽くしている。 あれは絵に描いてあった男の姿、十六年経っても、その絵と完全に一致していた。 リーゼ達を発見すると敵と認識し、上空から雷撃を放っている。 しかしその雷撃は尽く検討違いの所へ落ちていった。


「さあ、作戦通り行くわよ!!」


「応!!」 「はい!!}


 下の部屋でやったように、天井へと槍を突き投げる。 天井へ四本、両側の壁に二本。 雷撃は天井の槍から壁の槍へと伝わる。 この場の安全が確保され、戦いの場を整えた。 メギドはその場から動かない、虚ろな表情で雷撃を放っている。


「それで如何するの? このまま戦うの?」


「いえ、今から薬を打ち込みます!! そしたらメギド様が何分なんぷんか暴走するので、頑張って倒しましょう!!」


何分なんぷんって、何分なんぷんだよ。 ちゃんと時間教えてくれないか?」


「さあ? 何分なにぶん試す事が出来ないので、ハッキリとは分からないのですよ。 確か昔に一人試した方がいらっしゃいましたが、その時は十分じゅっぷん以上は動いていたとか。 しかし今は薬も改良されて、効果も上がってるはずですから、もう少し少ない時間だと思います。」


「暴走ねぇ・・・・・ま、いいわよ。 何も考えない猪なんて、私達の敵じゃないわ!!」


「それでは行きますよ、私が矢で薬を打ち込むので、お二人は戦いの準備をお願いします!! ・・・・・では行きます!!」


 マッドが薬入りの矢を発射すると、その矢はメギドに向かって真っすぐ突き進む。 そしてバシっと手で払われ、その薬は床に落ちて踏み潰された。


「・・・・・マッドさん、まだ薬あるのよね? 無ければまた帰らないといけないわよ?」


「だ、大丈夫です、まだ予備が二本あります。 だ、大丈夫、次こそ当てます!!」


 もう一度マッドが弓を構えるが、それをラフィールが静止した。 このまま何度矢を放っても当たりはしないだろう。


「待てマッド、正面からじゃいくらやっても無駄だって。 ここは戦いながらチャンスを待とう。 まず俺が突っ込むから、二人は援護を頼む。」


「ええ、雷撃が上から来るとは限らないから気を付けてね。」


 ラフィールはメギドに向かい真っ直ぐと突っ込んで行く。 それを見たのか感じたのか、メギドの攻撃は掌から直進し、ラフィールへと向かう。 雷撃は防壁により回避され、ラフィールは額縁で作った短剣を投げつけた。 短剣はメギドの左肩へと突き刺さり、赤き血が流れ始める。


「ファイヤーッ!!」


 その左肩を狙い、リーゼの炎が打ち出された。 炎はメギドの怪我をした腕で払い消されたが、炎の後ろからマッドの矢が放たれる。 回避する事もできずメギドの左腕へと刺さる。 今まで無表情だったメギドの表情に変化が表れ始めた。


「う、ぎ・・・・・ぎあああああああああああああああああああああああああああああ!!」






 メギドの暴走が始まった。 その体からバチバチと電流が迸り、空気中でバチンと弾ける。 そして目の前にいたリーゼ達に、激しく襲い掛かった。



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