一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

26 この砦からの帰還

 疲れ果てた俺達は、砦で十分な睡眠と休息を取った。 そして朝、俺達男三人はまだ眠りについていた。 そんな中バタンと騒々しく、部屋の扉が開かれた。 その音で意識が覚醒したが、誰が来たのかは想像がつく。 きっと女達だろう、あいつらはグッスリ寝てたからな。


「あんた達何時まで寝てるのよ!! デンドロって人が話があるって言ってたわよ!! 食堂にいるらしいから、ついでにご飯でも食べてきたらどうなの!!」


 話か・・・・・もしかしたらお礼も兼ねて御馳走でもしてくれるんだろう。 俺はむくりと体を起こし、まだ寝ている二人に声を掛けた。 ・・・・・いや掛けようとした。


「さあイバス様、お目覚めのお時間ですよ。 ふふふ、まだ起きないのであれば、ここはもう私のキスで目覚めさせてあげましょう。 さあ、イバス様・・・・・」


 俺の声が掛かる前に、レーレが寝ているイバスの頭を、手でガッチリと固定すると、そのまま唇を近づけて行く。 このまま行ったらイバスの唇は奪われる、だがそんな事をさせないのが、残りの二人だ。 二人がかりでレーレの頭を引っ張り後へ引っぺがすと、三人の壮絶な喧嘩が始まった。


 レーレの拳がアスメライの左頬に炸裂すると、アスメライが杖を空ぶって、エリメスの額にぶつかる。 反撃に、エリメスの蹴りが飛ぶが、それは躱され、レーレの足元へと直撃している。


 俺は気付かれない内に男二人を起こすと、見つからない様に三人で部屋から脱出した。


「朝っぱらから元気な奴等だよな、イバス、もう全員貰ってやれば良いんじゃね?」


「それは嫌だよ!! あんなのが毎日続いたら僕の身が危ないじゃないか!!」


 選ばなくても同じ事だと言ってやりたい。


「なんなら俺が一人貰ってやろるぞ? レーレは昔っから知ってるからな、俺に任せて貰っても良いんだぞ?」


 クロッケルがちょっかい掛けてたのは知ってたが、意外と本気なのか? 俺としては何方がどうなろうと構わないが。


「そういう事はレーレさんに言ってよ、レーレさんがクロッケルさんを選ぶなら、僕は構わないよ。」


「お前まさか男の方が良いとか言い出すんじゃないだろうな? それなら良い男を知ってるんだが、何ならそいつを紹介してやっても良いんだぞ?」


 それは俺が知ってるあの男の事じゃないだろうな? べノムを追い掛けていたあの男の事じゃ?


「違うから!! 僕はもっと普通の恋愛がしたいんだ、ああゆうのはちょっと。 ・・・・・選択肢を間違ったら死ぬかもしれないし・・・・・クロッケルさんが代わってくれても良いんですよ。」


「・・・・・いや・・・・・俺もちょっと、朝っぱらから喧嘩の仲裁とかしたくはないが。」


「こんな所で喋っててもなんだ、デンドロさんが呼んでるって言ってたし、行ってみようぜ。 きっとお礼に美味いもんでも作ってくれてるのかもよ。」


「そうだね、行ってみようか。 まだ喧嘩は続きそうだし。」


 喧嘩している女達を置き去りにし、俺達は食堂へと向かった。 食堂には多くの兵士が使う為に広めに作ってあるのだが、今はその広さが感じられない程人が集まっている。 人が居て奥が見えないけど、きっと後には豪華な料理が有るのだと思う。 まあ分かっていても言わないのがマナーだろう。


「ようこそお越しくださいました皆様方!! 今は残念ながら全員とまではゆきませんが、この砦に居る全員が感謝をしております。 わが軍全員で作り上げた料理、どうぞご堪能くださいませ!!」 


 デンドロさんがザっと場所を開けると、後ろを見えなくしていた兵士達が道を開いた。 その後ろには、予想を超える程の豪華な料理がズラリと並んでいた。 鳥や豚の丸焼きに、何かの肉のステーキ。 それにサラダから色々なパンと、パスタみたいな物、スープに、見たことも無い様な料理まで。


 もうこの砦の備蓄を全部つぎ込んだんじゃないかと思う程だが、たぶんそれだけ感謝してるって事なんだろう。 俺はこんな歓迎を受けた事なんて今までにない。 だから知っていても物凄く嬉しかった。


「よっしゃー、じゃあ今出てる奴等の分は残して、他は皆で食っちまおうぜ!! じゃあパーティーの始まりだ!!」  


 俺の掛け声と共に、兵の皆が一斉に料理へと食らいついた。 朝早く料理を作って、余程腹を空かせてたのだろう。


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


 正直朝っぱらからこんなに食えないけど、俺達三人は頑張って食えるだけ食い尽くした。 あの女達も喧嘩なんてせずに来ればよかったものを。 今頃は三人仲良くダウンしている頃か。


 豪華な料理を堪能すると、俺達は部屋へと戻り、帰りの支度を済ませた。 気絶した女達を馬車に積み込み、今は砦の門前に居る。 馬車の横には左右に別れ、ズラリと並ぶ兵士達、そして屋上や、見張り台からも手を振っている。


「全軍、英雄達に礼!!」


 デンドロさんの号令で、全兵士が、剣を鞘に入れたまま顔の前に構える、そしてクルリと回転させ鞘の方を上に地面に柄の方を突いた。 たぶんこの国の敬礼か何かなのだろう。


「じゃあ俺達は行くぜ、じゃあまたな!!」


「さよならー!!」


「料理美味かったぜ、もうそろそろ王国へ帰る予定だからな、その時にもう一度来るぜ。 じゃあ名残惜しいが、そろそろ出発するぞ。」


「貴方方の道中に、神のご加護があらん事を。」


 ドロシーさんの祈りを聞くと、俺達の馬車が動き出した。 皆が見えなくなるまで手を振ると、なんだかちょっと寂しくなった。 もうそろそろこの国ともお別れだ。 やり残した事がないようにしなければ。


「アツシ知ってる? あの敬礼、あれは僕達に対して剣を簡単に抜きませんって事らしいよ? 僕達は大分信用されたみたいだね。」


「そうか、そんな意味があるのか。 ・・・・・今度は仕事じゃなくて普通に遊びに来たいな。」


「そりゃ無理だろ、向うにも仕事があるんだ。 運が良ければ・・・・・悪ければかもしれんが、また任務があれば来る事もあるだろうさ。 さてと、どうやら敵が居やがるようだぜ? 二人共戦闘準備しとけよ。 三人は役に立たねぇからな。」


「おう、これで砦に逃げ帰るなんてしたくないからな!! イバス、気合を入れて倒すぞ!!」


「うん、さあ戦闘開始だよ!!」


 俺達は馬車を飛び出し、敵との戦闘を開始した。






 ・・・・・その五分後俺達は砦に逃げ帰り、砦の兵士達に助けてもらった。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く