一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

23 倒せないならどうしよう

 俺達は敵が来るまで休憩室で休んでいる、ちなみに女性陣は別の部屋を用意されている。 もし何か出たら連絡や掛け声が聞こえる手筈になっていた。 此処に来てからかなりの時間が流れ、今日はもう来ないんじゃないかと思ったのだが、少しウトウトしている時に、砦中に兵士の声が響き渡った。


「き、来たぞ!! 例の黒い奴だ、ブリガンテ側北の壁沿いに出現!!」


「ブリガンテ側南、敵の気配有り!! 至急応援を頼む!!」


「ブリガンテ側正面、敵襲!! 兵を回してくれ!!」


 来た!! その声に俺達は目を覚ます。 バチッっと自分の頬を叩き、気合を入れて置いてあった剣を取る。 まずは、まだ眠っていたイバスとクロッケルを叩き起こし、北側の奴が黒い奴だと言っていたが、比較的に近い正面へと向かった。


「女達はまだ来てない様だな、何してやがるんだ全くよ!! おいイバス、お前が起こして来い。 お前ならたぶん大丈夫だろ。」


「嫌です!! クロッケルさんが自分で行ってきたら良いんじゃないですか!!」


「う、いや俺も行きたくねぇ、あそこに行ったら、絶対的に酷い目に合う。 じゃあアツシ行って来いよ、女の部屋に入れるチャンスだぞ。」


「嫌に決まってるだろ、あんな魔境に入るなら、此処に居た方が百倍マシだ!! もしかしたらあっちの方が死ねる確率が高いかもしれないんだぞ!!」


 皆行きたがらないのは、女達の寝相の悪さを知っているからだ。 一度クロッケルがあの魔境に起こしに行った時には、寝ぼけた三人にマウントを取られ、そのまま顔面を殴り続けられる事件があった。 あれ以来誰も近づこうとする者は誰も居ない。 起きるまで放っておくのが吉だ。


 やっぱり危険な生活をしているからなのか、防衛本能が働いているのかもしれない。 一度イバスを投げ入れたらどうなるのか見てみたいが、イバスに恨まれるから止めておこう。


「「「・・・・・」」」


「もしかしたら、まだ準備中なのかもしれんな。 此処は来るのを待った方が良いだろう。 お前等如何思うよ?」


「下手に猛獣に触るよりは良いんじゃないか。 今は戦いに集中しようじゃないか。」


「うんそうだね、僕達はただ気が付かなかったんだ、仕方ないよね。」


「だが此処でタダ待ってるのも馬鹿らしい、まずは正面の応援に行くぞ。 二人共俺に付いてきやがれ!!」


「よっしゃー、任せとけ!!」 「頑張ります!!」


 女達が来ないのであれば、俺達がやる事は魔物の討伐だ。 クロッケルの号令と共に俺達は戦線に赴いた。


 戦いは始まっている、黒い獣が、三匹、四匹、・・・・・五匹。 十人もの兵士が、手分けをして戦っている。 数が多い、一匹を相手すれば良いと思い込んでいたけど、デンドロさんも言ってくれればいいのに。 ・・・・・それとも今日だけが特別に多いのか?


「俺が先頭に立ってやる、お前等二人じゃ盾役は無理だろうからな。 俺が敵を止めている間に、隙を付いて攻撃しろよ。」


 クロッケルが敵の攻撃を防いでくれるらしい、あの硬い体なら、敵の攻撃にだって耐えられるはずだ。 つまりは囲んで袋叩きにしちゃう訳だ。


「行くぞイバス、俺達の力を見せてやろう!!」


「分かったよ、動けない敵を後からぶっ刺すんだね!!」


 危なくないと知ると、俺達は調子に乗って剣を振るい続けた。 クロッケルが抑える、俺達が後から斬り掛かる。 頭と体は鎧の様に硬かったが、足や腕はそうでもなく、何度か斬り付けている内に、胴体だけになってモゾモゾと蠢いている。


 そんな体になっても結構元気で、芋虫の様にくねくね体を動かし逃げようとしていた。 傷口を見るが、あんまり血が流れて無く、もしかしたらトカゲの様に切り外す事が出来るのかもしれないぞ。


「おいクロッケル、これ以上は刃が通らんぞ、傷口から剣でも突き入れてみるか?」


「そんな奴は放って置け、さあ次行くぞ!!」


 本当に良いのか? 放っといたら手とか生えて復活しないよな? ・・・・・やっぱり気になる、ちゃんと止めを刺しておこう。


「おい、行かねぇのか!! 俺達は先に行くぞ!!」


「なんか復活しそうな気がしたんんだよ、俺は止めを刺し解くから、先に行っててくれ。」


「・・・・・確かに逃げられて明日復活しましたじゃ話にならねぇが・・・・・ じゃあお前に任せる、きっちり全部倒していけよ!!」


 クロッケルは次の相手に向かって行ったが、俺は蠢く黒い奴を転がし、腕の傷口から剣を突き入れた、結構硬かったが、少しずつ刃が沈んで行く。 五分も掛かり、一匹に止めを刺すと、倒された次の一匹に剣を突き入れた。 俺が二匹目に止めを刺した時には、この場の戦いは終わっていた。


「アツシ、俺達は別の場所へ向かうぞ。 お前は如何する? 此処に残って、そいつ等に止め刺しでもしとくのか?」


 何となく馬鹿にされてる気がする。 戦いから逃げたとでも思われてるんだろうか? といってこれを置いて別の所に行くのはやっぱり不味い気がする。 俺は一人残って敵の止めを刺す事にした。


「俺は此処に残るよ、二人は先に行っててくれ。」


「そうかよ、行くぞイバス!!」


「・・・・・クロッケルさん、僕も此処に残ります。 アツシ一人残して、他の敵が来たらどうにもならないでしょ。」


「もういい、俺一人で行って来る!! お前等はそこで掃除でもしてろ!!」


 クロッケルが残っていた兵士と共に、北へと走って行く。 残っているのは俺とイバスの二人っきりだ。 イバスが敵を押さえつけ、俺が剣をねじ込んで行く。


「お前は行った方が良かったんじゃねーの? 」


「いいよ、何時も普通に逃げてるしさ。 それにアツシは僕の相棒だろ? 相棒を一人残して行ける訳ないじゃないか。」


「そうか、後で後悔しても知らないからな? じゃあさっさと終わらせてしまおうぜ。」


「だね!!」


 そして四匹目に掛かろうとした時、黒い獣達の体に変化が起こった。 傷口からほんの少しだけ突起が生えてきていた。


「アツシ、これ・・・・・」


「止め刺しといて良かっただろ、さあ生え変わる前に倒しちまうぞ!!」


 手足が生え変わる前に四匹目を倒し、五匹目を見ると、手足を使って歩ける程になっていた。 今回は二本足で立つ事はなく、手足は鋭い刃物の様に変わっている。


「回復が早すぎるね、完全に変わる前に早く倒そう!!」


「よし、もう一度手足を斬り落としてやるぜ!!」


 ギュイーンっと、金属同士が擦れ合う嫌な音がした。 生え変わった刃物の様な腕は硬く、俺の剣すら殆ど通らなくなっている。 俺の剣すら効かないとなると、此処に居る全兵士が攻撃手段が無くなってしまう。


「ヤバイぞイバス、こんな奴が増えだしたら俺達じゃ如何にもならなくなるぞ!! 急いで何か手を考えてくれ!!」


「手って言われても・・・・・倒す事が出来ないのなら・・・・・木にでも吊るしちゃおうか。」


「それだ!!」






 手持ちのロープで黒い獣の首に縄を括り付け、木から吊るしあげると、イバスが持っているロープで完全に固定し、動けなくした。 吊り上げても死なないんだから中々生命力があるが、一週間も放置していたらたぶん死ぬんじゃないか?



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