一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

21 悪いのはアイツだと思うんだ!!

 ダラクライ大臣の屋敷。


 王国の方々はもう砦に着いた頃だろうか、もうそろそろワシも出るとしよう。 ではジュリアン、もしもの時は全てお前に任せるぞ。」


「はい父上、もしもの時などあり得ませんが、私にお任せください。 そのお力を試すには絶好の機会です、存分にお力を振るわれると良いでしょう。」 


「ウム、この溢れるチカラ、使いたくてウズウズシテオルワ!! デハ、砦までトンデ行くゾ、フハハハハハハハハ!!」


 窓から飛び出したダラクライは、翼を広げ大空を飛び立ち、アツシ達の居る国境の砦へと進んで行った。


 その速さは尋常ではなく、二刻程の時も掛からず砦の上空へ到着した。 ダラクライが地上の様子を観察すると、もう戦いは終わった後だった。 何があったのか確かめる為に、体を人へと戻し、少し遠くから歩いて門番へと話しかけた。


「君、ちょっと聞きたいのだが。」


「ダラクライ様、視察に来るとは聞いておりませんが・・・・・」


「まあ抜き打ちの様な物だ、それとも、いきなり来られては何かあったのかね?」


「いえ!! そんな事はございません!!」


「それでこれは何の騒ぎなのだね? 随分と酷く荒らされているが・・・・・」


 頑丈な砦の門は、凹まされ、砦の壁には幾つもの傷、地上には大量の矢が突き刺さり魔物の死体が幾つもある。


「はい、実は先ほど魔物の軍勢が攻めて来たのですが、ジュリアン様が雇われた、王国の方が手を貸してくれまして、殆ど怪我人もなく撃退出来たのです。 実は私は直接戦闘には関わっていませんが、砦の見張り台でその雄姿を確認させてもらいました。 確かアツシさんと言われる方が、全兵士達が退避する中、ただ一人残り、二匹もの魔物を倒してしまったのです!! もしかしたらああいうのを英雄と呼ぶのかもしれません。」


「ほほう、それはそれは、会ってみるのが楽しみだ、フフフ。」


「で、その方達は何処なのだ?」


「あ、はい、少し前にブリガンテに戻られましたよ。 予定では夜に魔物を退治する予定だったようですが、大分お疲れだったので、此処の責任者のデンドロが、ジュリアン様に直訴状を出された様です。 確か内容は、大量の魔物を退治されたので、依頼はこれで果たした事にしてくれないかと、そういう感じだったかと。」


「あ~・・・・・そうなのか~・・・・・いやご苦労、ワシも戻る事にするよ、急用を思い出してしまったからな。 はぁあああ・・・・・」


 ダラクライは再び飛び上がり、ブリガンテへと帰って行く。


 ドゴーン!!


「痛ってぇ!! よそ見してたら何かぶつかったかよ、何だ、鳥か? くっそう、ついてねぇなぁ。 お、見えて来たぜ、んじゃ定期連絡を聞きに行くか。」


 何が起きたのかも分からず、ダラクライは地上へと落下して行った。


「ば、馬鹿なああああああああああああああ!! ワシはまだ何もしていないのにいいいいいいいいいいいいい!!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 アツシは馬車に仲間を待たせ、ジュリアン(ダラクライ)の屋敷の扉をコンコンコンっとノックした。 何のためかと言うと、魔物退治の報告へとやってきている。


「おーい、ジュリアン居ますか? ランセさんでも良いんだけど?」


 出て来たのはランセフォーゼというメイド。 チラチラと周りを見渡し、イバスが居ないのを残念そうにしている。 そして何だかやる気が無さそうに、俺をあしらう様に対応してきた。


「アツシ様でしょうか? 今回は何のご用件でしょうか? ご用件があるのならもう一人の方を連れてきてくれると嬉しいのですが。 ・・・・・いえ、何でもありません、今のは忘れてください。」


「大した事じゃないんだ、この書状をジュリアンに渡しといてくれよ。 砦のデンドロって人が、俺達が魔物を倒した事を証明してくれたんだ、一応報告をしとかなきゃと思ってな。」


 俺は、デンドロからの書状をランセに手渡した。


「そうですか、ではお預かり致します。」


「おう、じゃあ頼むよ、じゃあ俺は宿に帰るから、んじゃ、またな!!」


「はい、お気をつけてお帰りください。」


 宿に戻ると、べノムの姿があった。 ストリーに回復魔法を掛けてもらい、何やら治してもらっている。 また無茶な任務でもやってたのかもしれないな。


「おう、お帰り。 定期報告を聞きに来てやったぜ、何かあるならチャッチャと話せよ。 それとよ、お前等来週王国に帰れるぜ、此処に交代要員が来るからよ。」


「やっと帰れるのか? まあ此処も悪くなかったけどな。 んで来週って言うと18日か?」


「交代要員が到着するのはその日だな、帰りたくないなら止めはしないが、宿代は自分でもてよ? お前の分まで金は出せねぇからな。」


「いや帰るよ、なぁストリー!!」


「帰れと言われれば帰るさ、向うにはルルムムも居るしな。 私達が居なくて寂しがってるだろう。」


 そうだった、向うにはルルムムの奴が居るんだった。 つまり、ストリーと二人っきりで過ごせるのは、もう後6日ぐらいしかないって事だ!!


「よし、今日はデート・・・・・」


「おいアツシは居るか、ジュリアン様からの呼び出しだ、一緒に来てもらおうか!!」


 タイミングが悪い事に、何時も来ている二人がやって来た。 俺に用があるみたいだが、今依頼を受ける気は無い。 帰りの支度もしなきゃならないしな。


「おっ、リュークか、悪いが今から予定があるんだ、依頼があるならクロッケルに言えよ。 いや、今はもっと良い奴が居るぞ、べノムだったら直ぐ終わらせられるんじゃないのか?」


「おいコラ、勝手に何の話をしてやがる。 俺に何かさせたいなら要件を言いやがれ!! まずそいつ等が誰なのか話してもらおうか!!」


「こいつ等はリュークとメ―リって言って、大臣の息子のジュリアンの部下? みたいなもんらしいぞ。 何だか知らないが、いつも飯をたかりに来るんだ。 あとたまに仕事をくれて大金をくれたりするぞ。」


「はぁ? 他国で簡単に仕事を請け負うんじゃねぇよ。 幾らもらってるか知らねぇけど、もう受けるんじゃねぇぞ。 この次やったら懲罰もんだからな。」


「あんたべノムって言ったな? 悪いが今回の仕事がまだ続いてるんだ、ちゃんと最後までやって貰わなきゃ俺達が困るんだ。 それとも今までの代金全部返して、違約金まで払わされたいのか?」


 あの書状じゃ駄目だったのか、まあ確かに指定の魔物を倒した訳じゃなかったけど。 他のだといっても5匹も倒したんだ、終わりにしてもらいたかったぞ。 


「はん、違約金ぐらい返してやるよ、おうアツシ、返してやれよ。」


「いやいや、俺は金なんて貰ってないぞ。 持ってるのはあの女三人で・・・・・それになべノム、たぶんもう使われてると思うんだ。」


 その三人を見た時、俺は気付いてしまった。 指輪やらネックレスやら、何やら高そうな物を身に着けているのを。 女達は自分に飛び火しない様に、掃除なんてし始めている。


「はぁ・・・・・今回だけは俺が払ってやるよ、おい幾らだ、言ってみな。」


「まあざっと1億以上じゃないか? なあアツシ。」


「あ? ・・・・・マジか?」


「お、おう、このぐらいの金塊を、ざっと20本ぐらい貰ったし。 まあ、そんなぐらい行きそうだよな。」


「あのなぁ、お前等は金儲けの為に此処に来たんじゃねぇだろ? 金に目が眩んだのか? ちょっと説教してやるから全員そこに座れよ。」


「待ってくれべノム。 元々はイバスが、暇だし友好国を手伝うのも任務の内だって言ったから行く事になったんだ!!」


「僕の所為にしないでよ!! 僕は受ける気なんて無かったんだからね!! それもこれも、全部金に目が眩んだクロッケルさんが悪いんです!!」


「お前等俺の所為にするな!! 俺だって生活がキツイんだぞ、家にも仕送りしたいし、腹を空かせた弟達が待ってるんだ。 あんな金見せられたら誰だっておかしくなるだろうぜ!! それに、今回俺は金を持ってねぇ、持ってるのはあの女三人だ!!」


 べノムが女三人を見ると、女達の顔からダラダラと脂汗が流れ出す。 ストリーだけが関係ないといった感じで料理を作っていた。


「おい、まさか全部使ったなんて言わねぇよな? こっちへ来て金出しな。」


「「「はい・・・・・」」」


 三本程減った金塊の山、その減った三本だけでもかなりの金額になりそうだが。 もう俺達には受けるって選択肢しか残されていない。 そんな俺達を見てメ―リが話し出す。


「使ってしまった物は仕方ありませんねー、べノムさん、ちゃんと依頼を終了させれば良いんですよ。 そうすればお金も手に入るし、此方も助かります。 ねっ、いい考えだと思いませんか?」


 メ―リは、どうせ払えないんでしょって言いたげだ。 べノムが金持ちだとしても、そうポンポン出せる金額じゃない。


「返す当ても無ぇし、その依頼受けるぜ。 あの六人が。 残りの報酬は、全部王国の為に使わせてもらうぜ。 俺とストリーは此処で待たせてもらうから、きっちり全部終わらせてこいや!!」






 ストリーを除いた六人を指さすべノム。 報酬が無くなるって事は、完全なるタダ働きか。 やる気でねぇ。



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