一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

20 王道を行く者達72

 魔都と呼ばれたこの国は、入ってみるとそうではなかった。 辺り一面に血がこびりつく、そんな感じも一切ない。 周りには魔族と人が姿に関係無く楽し気に会話している。 


「ふ~ん、噂って恐ろしいのね、こんな国を魔物の住む町というなんてね。 まあまだ内情は分からないけど、それでもちょっと言い過ぎよね。」


「さあねぇ、人間は見た目が全てみたいな事があるからね。 リーゼちゃんだって受け等入れられない奴もいるだろ? あのサタニアみたいにさぁ。」


「彼奴は別よ、私達を利用してるるだけじゃない!! 私達を道具の様に使っといて、好きになれも無いわ!!」


「それだって一つの差別だって事さ、肌の色、髪の色、体型、顔が綺麗かそうでないか、それを簡単に差別しちまうのが人間ってもんなのさ。」


「此処が理想郷、そう思う奴もいるのかもな。 だがそうであったとしても、それさえも嫉み、蔑む者だっているんだ。 そんな奴等が噂を流すのだろうな、この国が化け物の国だってな。 そしてそんな噂は拡散するんだ、一切の悪意もなく、簡単にな。」


「私はこの国自体には怨みは無いけれど、ただの噂を蔑簡単に信じて、それを拡散してしまうのは仕方ない話よ。 話を聞かされた時点で、悪だと決められているんだもの。 それを疑うのは本当に考えてる人しかいないんじゃないの?」


「そうだなぁ、何も考えずにただ伝えるんじゃなくて、もう少し考えてから伝えるべきなのかもね。 そうしたら世界は変わっていたのかな? リーゼちゃんは如何思う?」


「考えて伝える、ね。 でもそれだけじゃ変わらないと思うわよ? 考える事が出来るのは知ってる範囲だけだもの、考えは見た目に左右されるし、相手の心なんて分からないのよ? 考えたって真実が分かるかどうかも分からないし、逆に悪意に流されてしまうかもしれないわ。 それにね、人の考えなんて誘導する方法なんて幾らでもあるのよ?」


「じゃあリーゼは如何すれば良いと思うんだ? 何の手も考えられないか?」


「う~んと、自分の分かる範囲しか信じない、かしら? 親や友人だって嘘を言うし、ねぇハガン。j 


 嘘は付かないと言いたげだったが、リサの事があったので言えそうにないハガン。


「それはちょっと不味いんじゃないのかい? それじゃあ悪人に育てられたら更生出来ないじゃないのさ。」


「あ~そうか、育ちにもよるのよねぇ、じゃ・・・・・そうね、真実を知ってる人が、1から100まで知ってる事を出すしかないんじゃない? まあ難しいわね、やっぱり方法なんてないかもしれないわ。 もし方法が見つかったなら、この世界は平和になるのかもね。」


「んもう、何皆で難しい話なんてしてるんですか、そんな事よりこの串焼き美味しいですよ。 是非食べてみてください!!」


 マッドが屋台の串焼きを持って来た。 それは串に刺された鳥の肉で、甘く少し塩っけのあるタレが付けられている。 ラフィールがそれを一本掴み、口に入れると、噛む度にタレと肉汁が混じり合い、口の中で美味しさが弾けていく。


「おっ、本当に美味いなこれ、このタレはいけるよ。 リーゼちゃんも食ってみなよ。」


「うん、美味しいわね、何の肉かしらこれ、たぶん鶏肉だと思うけど。」


「私が聞いた話では、闘鶏とかいう種類らしいですよ? 鶏同士で戦わせ合う競技があるんですって。 なんかそれで賭けたりもするらしいですよ。」


「ふ~ん、そんなのがあるのね? まあ私にはあんまり興味がないわ。 それより、サタニアの事を調べてみましょうよ、あいつも此処出身なんでしょ? それと、待たせているあの魔族の事もね。」


「そうだな、奴等もこの国の重要人物だろうし、何か情報を得られるかもな。 それで何処へ行くかだが・・・・・」


「それなら私が案内しますよ、そっちに貸本屋があったので行ってみましょうよ。 たぶんその二人の事も書いてある物があるんじゃないですかね。」


「探す手間は省けるけど、良く見つけたわね。 ま、良いわ、じゃあ行ってみましょうか。」


 マッドが見つけた貸本屋は、道を少し戻って曲がった所にある小さな店だった。 その店の中へ入ると、ずらりと並べられた本が置いてある。 そこで本を一つ見つけると、マッドが代金を払いそれを持って来た。


「ありました、これなんて載ってると思いますよ。 ほらこれです!!」


 その本はこの国の成り立ち、歴代の王の名前から、その王が成した偉業、果ては珍事件等が載っている。 そしてそこには、本物と見まごう絵が付けられ、先代の王の絵が載せられていた。


「サタニアの話って本当だったのね・・・・・あいつが王か、出来れば何が得意なのか知りたい所ね。」


「大丈夫そうですよ、ほら、ちゃんと載っています、あの人は風の魔法が得意なんだそうです。 他にも色々とありますよ、この人元々は王族じゃなくて、王付きの兵士だったそうです。 その付き添っていた王子様と結ばれて、王族に入ったらしいんですが、戦争が起きて死にかけたらしいですよ? それであんな体になったんですって。」


「・・・・・ああそう・・・・・」


「それだけで終われば良かったんですが、そうはならなかった様です。 その姿を怖がられ、マリア―ドからの夜襲や、魔物達が襲って来た事もあったそうです。 果てはそんな姿になった為に、王とその仲間の五人が暴走を起こして、この国が壊滅状態になったり。 そして先々代の王、彼女の夫が、今も暴走状態で、会う事も出来ない様ですよ。 あの城に縛り付けられているそうです。 ほら、あそこの城の様ですよ、この絵と同じですし。」


 マッドが外を指さす、その先には、手入れもされずにボロボロになった城がある。 所々崩れ、下地が見えている。 とても使われているとは思えない。


「・・・・・あいつが不幸だからって、あいつの事を許す訳ないわよ。 私が、どれだけの思いで此処に来たのか分かってるでしょ。」


「はい、私も殆ど一緒に旅していますから知ってますよ。 旅の中でずっと見て来ましたからね。 だからこの辺りでもう言っておこうと思いまして。 驚くかもしれませんがちゃんと聞いてください、私はこの国の人間なのですよ。 リーゼさんを助け、見張るのが目的でした。 あの宝石も王国から持って来た物なんですよ。」


「なッ!!」


「マッド、あんた敵側だったのかい!!」


「・・・・・それを今言うのは何でなの? もう少し後でも良かったじゃないの。」


「私は皆さんが好きになったのです。 ですが・・・・・あのお方もお助けしたいと思っているのです。 私がお助けしたいと言ってる人は、リーゼさんはもう分かっていますよね? 私が今動かなければ、あの方は助けられません。」


「・・・・・私はあいつを殺すつもりよ。」


「知っています、ですから殺すなとは言いません。 一つだけ、一つだけ私のお願いを聞いてください。 あの城に居る、彼女の夫、メギド様をお救いください。 たぶんこれは、貴女にしか出来ない事なのです。 私の命が欲しいと言うのなら好きにお使いください。 この場で斬り殺されても文句は言いませんから。」


「分かったわ、その代わり私達の仲間として最後まで付き合ってもらうわよ。 マッドさん・・・・・」


「感謝いたします、リーゼさん。」






 その表情からも仕草からも、マッドの胸中は分からない。 裏切り者はただ静かに、仲間だった者達に寄りそうだけだった。



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