一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

19 勝利の臭いは鼻につく

 岩の魔物が倒れた事により、砦の門が開かれた。


「それじゃ私はちょっと休んでるから、あんたが頑張りなさいよ。」


 アスメライは大きな魔法を使った為に疲れ果てている、もう戦うのは無理だろう。


「まあ後二匹だからな、何とかやって来るぜ。 お前も流れ弾でやられない様にしとけよ、何なら部屋の中に入ってろよ。」


「そうさせてもらうわよ、私が寝ている間に終わらせときなさいよね!!」


「おう任せとけ!!」


 アスメライが砦の中へと入って行く。 門の外には残り二匹、何方かに行かないといけないが、俺が行くのは一つ目の方だ。 あの硬い装甲は、さっき戦った岩の奴よりは硬いと思わない。 といって、兵士達の持っている普通の剣では、ダメージを与えるのは大変だろう。 俺が行かないと如何にもならない。


 一応ヤギの方も見てみるが、大量の矢を受け、かなりのダメージを受けている。 たぶん俺の剣がなくても誰かが倒すと思う。 そんな事を思っている俺に、クロッケルが話しかけて来た。


「残り二匹か・・・・・よしアツシ、俺やヤギの方へ行くから、何方が早く倒せるか勝負しようぜ。 俺が勝ったらお前の賞金は俺が貰うからな!!」


「お前さっきケツの毛まで毟られたじゃないか!! そん時俺の分も持っていかれただろうが、俺に払える金なんてねぇよ!!」


「そうか、そういえばそうだったな。 なら俺が勝った時には、明日の朝飯はお前が作れ。 んじゃ行くぜ、生きてたらまたな!!」


 なんだか死亡フラグ的な事を言っているが、此奴がそんな程度の事で死ぬ訳がない。 金の為なら他人を犠牲をしてでも生き残る奴だ。 もし死ぬ様な事があるなら・・・・・うん無いな。


 俺は一つ目に向かい、その行動を観察する。 観察とは敵の行動パターンを見つけたり、弱点を探したりと、物凄く重要な事だとストリーから教えられている。 どんな能力が有るのか分からない魔物と戦うには必須の事だ。


 今の所、大木を振り回す事しかしていない。 あんな物を振り回すのだから、相当な力があるのだろう。 あの目玉が弱点に見えるが、木や腕を使い、目元をガードしている。 目さえ護れば自分に弱点は無いと思っているのだろう。 そんな所に一撃を入れるのは至難の業だ。


 その防御力があるからなのか、兵士達の攻撃を後ろからくらっても完全に無視している。 ということは、俺も後から攻撃すれば、簡単に攻撃を入れる事が出来るんじゃないだろうか。 うん、やってみよう。 


 兵士達の中に紛れ、俺は一つ目の後ろへと回り込んだ。 そして、俺は一つ目の背後から斬り掛かる。


 その時だった!! 酷使され過ぎた俺の足は、ほんの小さな小石を越える事が出来ず、つまずいてバランスを崩してしまった!!


「おっとっと・・・・・」


 バランスを崩した俺は、ピョンピョンと片足で跳ぶと、最終的に耐えきれなくなって、剣を前に突き出した。 ゲームだったなら必殺の一撃とかそんな感じなのかもしれない。


 ザクッというより、スポッ、とした感じで一つ目のケツの穴へと突き刺さった。


「ウゴッ!!」


 妙な声を上げる一つ目は、その刺激を受け、大量の屁が発射された。 ボフゥ、と本当に色が付いた風が、辺り一面に充満していく。


「クサッ!!」 「クセッ!!」 「目、目がぁ!!」


「あああああ、お気に入りの服に匂いが付くうううううう!!」


「鼻が、あ・・・・・駄目です、倒れそう・・・・・早くこの場から離れなければ・・・・・」


 皆がその臭いに鼻をつまみ逃げ出して行く。 ヤギの魔物の方にまでその臭いが行ってる様だ。 だが俺にはそれは見えない。 俺はその屁を真面の顔面にくらい、とんでもない事になっている。


 料理する時に魚の内臓を水場に置いて見よう。 三日程経つと物凄い臭いがしてくる。 その臭いを想像してみてくれ、その十倍は酷い臭いだ。 嗅ぐだけで意識が飛びそうになる。 鼻を塞ぐがもう遅い、すでに鼻の奥まで入り込み、防ぐのは不可能。 俺の目はと言うと、目の前10センチで玉葱を刻んでみよう、そんな感じで涙があふれ続け、地面にゴロゴロ転がりながら治るのを待ち続けている。


「ぐおぉ、状況が悪い・・・・・このままでは隊が・・・・・撤退だ、一時撤退しろ!! 全軍撤退!!」


 デンドロさんの指示で隊が退いて行く。 俺だけ一人残され、物凄くピンチだが、俺には今如何にも出来ない。 闇雲に逃げる事は出来ない、もし敵の居る所に突っ込んだら俺は助からない。 俺は必死で目を拭い、敵が何処に居るのかを探した。 まだ少しぼやけているが、敵の姿がぼんやり移り出す。


 俺が見たものは一つ目が大木を振り下ろし、俺に迫って来ている姿!!






 ・・・・・ではなく、自分の屁に目をやられ、うずくまった一つ目の姿だった。 俺はもう言うしかなかった。


「自分の屁でダメージくらってんじゃねぇよ!!」


 蹲った一つ目は、丁度良く斬り安い体制だった。 もう此処はヤラレル前にヤルしかない。 くさい臭いに耐えながら必死で持っている剣を振るった。 剣は首元に振り下ろされ、一つ目の首はごとりと落ちた。


 ヤギの方は・・・・・俺が見つめた先には、蹲ったヤギの姿があった。


「お前もかああああああああああああああああああああ!!」


 俺のツッコミと共に振られた剣は、ヤギの心臓を一突きに貫いた。 俺がヤギを倒すと、遠くにいた兵士の一人が声を上げた。


「一人で二匹もの魔物を倒すなんて、英雄だ!! 英雄アツシの誕生だ!!」


「まさかヤギの魔物までたおすとはな、賭けは俺の負けだぜ、やったなアツシ!!」


「アツシさん素晴らしいです、私感動しましたわ。」


「アツシ様、英雄と素晴らしい事です。 私は本当に嬉しいのですよ。」


「なんだか騒がしいと思って来てみたら、終わってたわね。 やるじゃんアツシ、褒めてあげるわ。」


 俺が英雄か、棚ボタだったけど、結構嬉しいぜ。


「おう、俺達の勝利だぜ!! じゃあ飯でも・・・・・」


 俺は気付いてしまった、俺が一歩踏み出した時、ザザッと全体が一歩下がった事を。


「おい待て、英雄とか持ち上げといて、逃げるなんて無いよな?」


 もう一歩踏み出した時、また一歩全体が下がって行く。


「悪いなアツシ。 お前が歩く度に臭いが迫って来るんだ。 こっちに来ないでくれ。」


「臭いわ、こっち来るな!!」


 ザワザワザワ・・・・・


 ・・・・・なる程、そうかそうか、臭いのか・・・・・


「俺も臭わあああああああああああああああ!!」






 俺は固まっている人の群れへと突っ込んで行った。 逃げ惑う人々、混乱し、戸惑う者達。 調子に乗った俺に、硬い鈍器が投げつけられ、丁度良い所に当たって気絶した。



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