一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

16 王道を行く者達71

 バール森林を抜け、べアトリクス平原を進むリーゼ達。 開けた地には魔物の姿は見えない、王国や帝国の手によって駆除されているのだろう。 この地にある陥没した大地に、目的の魔族が待っている。


「・・・・・もう少し、後少しで到着ね。」


「敵は強大だ、それに此処は魔族たちの根城の近く、何か仕掛けて来るかもしれんぞ。」


「大丈夫だって、その時は俺達が撃退してやるさ。 何時でも来いって感じだね!!」


 ラフィールの言葉に反応して、積み荷の方から女の声がした。


「それじゃあ、殺らせてもらおうか?」


 バッと振り向いたが、何の姿も見えない。 リーゼ達が武器を手に取ろうとしたが、その女の声は続く。


「動くな、動くとそのハガンという男の命はないぞ? そこに有ったボウガンで狙いを付けているからな。 お前達が動くより早く行動できるぞ。」


「・・・・・私達を殺す気? 黙ってやられると思っているの? 少しでも外してみなさい、その時は貴女が死ぬ番よ。」


 武器までも見えないのが厄介だった。 ただのハッタリかもしれないが、声が聞こえている。 敵が居るのは間違いないだろう。 魔法で不意打ちしても、どうなるかは分からない。


 リーゼの言葉に女の声が反応した。


「安心しろ、大人しくしていれば殺す気は無い。」


「何が目的だい? 私達はこれから物凄く大事な用事があるんだけどね。」


「姿を現せよ、話をするなら姿を現してもいいだろ? それとも、見せられない程酷い顔なのか?」


「その手には乗らない。 それに、お前達の目的など知っているさ。 私が王国に招待してやろうと思ってな。 別に取って食おうという訳じゃない、ほんの少し目的地を変えるだけだ。 さあ私に従うと良い。」 


「分かったわ、じゃあ、マッドさん・・・・・王国へ・・・・・ブレーキよ!!」


 マッドが手綱を引きブレーキを掛けると、馬車はガクンと大きく揺れる。 ラフィールがハガンを庇い、リーゼは炎の魔法を唱えた。


「ファイヤーッ!!」


 炎は声が聞こえていた辺りで燃える、だが敵の悲鳴も聞こえず、後方にあった扉が開いている。


「逃げた? 姿が見えないから分からないわ。 マッドさん、馬車を・・・・・」


 マッドの首筋にナイフを突きつけた女の姿が見えた。 その女は赤いマフラーで口元を隠し、赤みが掛かった金髪をしていて、歳の頃は、リーゼよりも少し下位だった。 姿を見る限りでは魔族という訳ではない。


「貴女が誰だか知らないけれど、残念だったわね、マッドさんがナイフを刺されたぐらいで死ぬとでも思ってるの。 たとえ刺したとしても、1分待てば復活するわよ!!」


「いや、無いですから!! 私そんな特技持ってないですから!! ほらリーゼさん、私に何かあったらキーちゃんを動かせませんよ、此処は大人しく従おうじゃありませんか!!」


「リーゼ、マッドをこんな所で失う訳にはいかない、せめて穴までは運転して貰わないと積み荷まで無駄になるぞ。」


「荷物まで無駄になるのは勘弁してもらいたいわね、マッドさんはたぶん死なないとは思うけど、少しだけ言う事を聞いてあげるわよ。 貴女に聞くけど、武器まで捨てろなんて言わないわよね?」


「・・・・・そうだな、あまり要求を言うと、この男を犠牲にするかもしれんしな。 ではこのまま王国へ直進してもらおうか。」


「分かったわよ、それで、貴女名前は? 呼び方ぐらい教えてくれても良いんじゃないの?」


「私はラーシャインと言う。 さあ自己紹介も終わった所だ、さっそく向かってもらおうか。」


 仕方なく馬車の進路を変え、王国へと向かって行った。 キーの速度で進み続けると、王国の門が見え始める。 魔城などと呼ばれたこの国だが、晴れた空により、明るい雰囲気が漂っている。


「まさか、このまま突っ込め何て言わないわよね?」


「ふん、当然だ。 敵になりたくなければ、ゆっくり門前で止まるんだな。 止まらなければお前達は兵士達に追われる事になるぞ。」


「・・・・・マッドさんお願い。」


「ええ、分かりました。」


 馬車は門前でゆっくりと止まった。 門番達は見た感じでは人間で、ラーシャインが首元にナイフを突きつけているというのに、慌てる様子も見せない。 この女は王国の者に間違いないのだろう。


「では入国を許可しましょう、どうぞ楽しんで行ってください。」


 簡単な検査を受け、リーゼ達は門を通された。


「さあ、町に到着したわよ、何の目的で私達を襲ったのか言いなさい!! それからついでに、マッドさんも放してあげて!!」


「良いだろう、もう私の目的は達した。 お前達も王国に着けて良かっただろ? 私の案内が無ければ、道に迷っていたぞ。 私に感謝するが良い。」


「はぁ? 何言ってるの貴女、私達は道に迷ってなんか・・・・・あんたまさか、首にナイフ突きつけて、自分が道案内だとか言わないわよね?」


「その通りだが? 何か問題があったのか?」


「あんたが道案内なら、普通に話せばよかったでしょうが!! なんで武器を使って脅してるのよ!!」


「私が、ただ走ってる馬車に乗り込んだだけでも、皆驚いて武器を抜くんだ。 先に命を握った方が面倒な言い争いをしないでも済むだろうが。 まあ安心しろ、私は慣れているからな。」


「慣れてるって、走ってる馬車に乗り込むのも驚きだけど、何回もこんな事やってんのかい。 アンタ、もうちょっと常識を持った方が良いんじゃないのかい? 流石にこれは私でもやり過ぎだと思うよ。」


「そうなのか? 今度からは少し善処しよう。 私はもう行くぞ、まだ任務があるからな、では王国を楽しんでくれ。」


 ラーシャインが町の外へ走って行く、もしかしたらまた同じ事をするんじゃないだろうか。 あまり関わり合いになりたくない。


「何? 門番も驚いて無かったし、此処に住んでる奴等ってこんなのばっかりなの?」 


「いやぁ、あの人が特別なだけなんじゃないかな? あんな人ばっかりだったら国が立ちいかないと思うけど・・・・・」


「それで如何するんだい? 今からもう一度外へ向かうかい?」


「はぁ・・・・・気が削がれちゃったわ。 今から外に出たらまたあの女に会いそうだし、今日は此処で宿を取りましょうか、襲って来る雰囲気もなさそうだし・・・・・」


「サタニアが住んでる国だ、くれぐれも油断はするなよ?」


「ええ、夜襲を掛けて来る様なら、返り討ちにしてやるわ!!」






 リーゼ達は宿を見つけ、チェックインを済ませると、王国の町の中を探索していった。 王国の中は綺麗に整理され、ゴミ一つ落ちていない。 魔族と人とが普通に世間話をして、楽し気に会話していた。



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