一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達68

 サタニアに負けたリーゼ達、観念してサタニアの話を聞く事になった。


「では話を再開いたしましょうか、此方の事情も何も知らずただ悪者と言われるのは心外ですからね。」


「ふん、さっきの話以上に何があるって言うのよ、貴方達は私達の敵、それだけでしょ。」


「確かにその通りです、私は貴女の敵。 しかしまずは話を聞きなさい。 ・・・・・そうですね、まずはお母様のお話を・・・・・あのお方はイモータルと呼ばれる王国の女王であらせられました。」


「はぁ? あいつが女王ですって? 何かの冗談でしょ? それなら部下にでも任せれば良かったじゃないの。」


「貴方の家にお邪魔した時には、我が兄妹の一人、イブレーテへと王位を引き継ぎ、王の座を引退なされましたわ。 積もり積もった十六年の恨みの所為でしょうね。 部下も連れる事も無く、貴方達の住処へと一人で向かって行かれました。」


「ふん、ジバルって男を殺されてそんなに怒ったって言うの? 可哀想だとは思うけど、貴方達には関係ない男なんでしょ?  それとも何? その男の事がよっぽど好きだったのかしら? 例えそうだとしても、それは私が生まれる前の話よ、私には全く関係ない話だわ。」


「そうかもしれませんね、貴女が生まれる以前の話、そんな事で自分の母親を無くすのは我慢が出来ないかもしれませんね。 それでも、お母さまは貴女の両親を恨んだ。 十六年、我が父メギドが苦しんだ時間。 古き城の中へ閉じこもり、その心は狂われてしまわれました。 お母様がどれ程書物を読み漁っても、決して助ける事も、会う事すら出来なかった日々。 長き時間は心を闇に落とし、誰かを恨まずにはいられなかった。 全ての原因を作った貴方達が恨まれるのは当然でしょう。」


「そんな事知らないわよ!! 結果がそうなったからって、それは私達の所為じゃないじゃないわ!! 何でもかんでも私達の所為にしないでよ!!」


「全てが、とは言いませんが、原因の一端をになっているのには間違いないでしょう? 潔白だと言い張るのは少し図々しいのではないですか?」


「ッ、うるさい!! 結局何が言いたいのよ!! もう良いわよ、皆帰りましょう!!」


 部屋を出ようとするリーゼをハガンが引き止めた。 


「リーゼ、全部俺が悪いんだ、もうお前が悩む必要はない。 サタニアよ、いやルーキフェートと言ったか、恨みがあるのなら俺に言えば言い、これ以上リーゼを巻き込むな。」


「嫌よ!! 私は行くわ、お母さんの仇を討つんだから!!」


「・・・・・どの道ハガンさんが関わるのなら、リーゼさんは付いて行くのでしょう? それに、私達には貴方達が必要なのです、無理にでも付き合って貰いますよ。」


「そんな話をして、結局私達に何をさせたいのよ!! 言いたい事があるなら早く言いなさい!!」


「そうですね・・・・・では言いましょうか。 貴方達に・・・・・お母様を殺して欲しいのです。 我が兄妹達は貴方達を使い、お母様を救う計画を立てております。 しかし、お母様はそれを望んではおりません。 貴女の母を殺した償いとして、自分の命を貴女に捧げるつもりなのです。 どうぞ貴女の手でお母様の命を終わらせてはくれませんか?」


「ッ・・・・・やっぱりあんたは人じゃ無いわよ。 自分の親を殺そうだなんて、あんたはただの魔物だわ!! 良いわよ、行ってやるわ!! さあ何処に居るのか教えなさいよ!!」 


「お母様は王国の南、大土竜の墓標にて貴方方を待っているはずです。 どうぞ安らかなる死を与えてあげてください・・・・・」


「・・・・・そう・・・・・もうこれ以上こんな奴等と話す事はないわ。 その大土竜の墓標に目的の魔族が居るのね。 じゃあ行きましょう、後少しよ。」


 リーゼ達が部屋を後にし、その姿が見えなくなる。


「ルキ様、何であんな事言ったんですか? イモータル様が本当に殺されちゃったら如何するんですか。 絶対そんな事思ってないくせに。」


「あのリーゼという娘、どうあっても心を変える気がないわ。 お母様が死にたがっていると知れば、相手の望みを叶えたくなくなると思ったのだけど・・・・・さて如何なるかしら。」


「イモータル様の方もどうなるか分かりませんけど、本当にメギド様をお救い出来るのでしょうか? 私にはあの娘が如何にか出来るとは思えませんけど。」


「さあ? しかしあの娘が勇者の力を持っているのは事実です。 砂漠で結界を解かせたのは本物だったか確認する為。 予言が本当ならば、あの娘がお父様と対峙する可能性がある。 魔王を倒すという事は、救えるという可能性も秘めているはずです。 ほんの一握りの希望をね。」


「ご兄妹達の動きも気になりますね、あの方々はイモータル様を溺愛されてはいますが、メギド様の事はきっと忘れているのでしょうね。」


「十六年、その時の重さは計り知れません。 私ももうおぼろげにしか覚えていないあの方の姿。 私達兄妹を救ってくださったお父様・・・・・ほんの数か月過ごした楽しい思い出は、最早記憶の奥底に沈み、誰一人として覚えてはいないでしょう。 十六年・・・・・長すぎたのです。 兄妹達がその恩を忘れる程に・・・・・」


「あの城の事を知らない人間が、城に入って黒焦げになった、そんな事件も頻発しています。 あの方を魔王等と呼ぶ者さえ現れるしまつ。 ご兄妹達も動かざるを得なかったのでしょう。 残る期限はほんの少しですね。」


「ええ、あの城の破壊まであと数日。 それまでに間に合え場良いのですが・・・・・さて、お茶が冷めてしまいました、入れ直してちょうだい。」 


「はいルキ様。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 リーゼ達はキーの馬車に乗り、ブリガンテから王国へと急ぐ。


「あの話何処まで信用出来るのかしら、全部胡散臭く聞こえたわ。」


「殆どは本当だろう、全てが、とは言わないがな。 リーゼ、此処から村に戻る、そんな選択肢は無いのか? 此処からは本当に敵の腹の中だ、一瞬で溶かされるかもしれんぞ? 此処が戻れる最後の地点だぞ。」


「そんな選択肢は無いわ、今まで旅をしてきた意味が無くなってしまうもの。 私に聞くより他の皆に聞いたら? 皆には関係ない話でしょ?」


「前にも言ったけど、俺はリーゼちゃんに付いて行くよ。 この際だから言っておくけど、俺は・・・・・」


「私の使命はリーゼさんを見守るのが使命ですから!! 今更帰る事なんて出来ませんよ!! 魔族なんてぺぺいっと千切って、放り投げてあげますよ!!」


「家族を助けるのは当たり前さ、もう私達は家族も同然なんだからね。 ねぇハガンさん。」


「・・・・・ああ、まあそうかもしれんな。」


 二人の距離がなんとなく近づいている気がする。


「・・・・・待ちなさい、何その微妙な感じは? まさか私が寝てる間に何かしてたんじゃないでしょうね?」


「さあ、何の事だか分からないね。 ねぇハガンさん。」


「そ、そうだな、今まで通りだぞ。 特に何もしていない。」


「へぇ~・・・・・そうなんだ。 へぇ~・・・・・はぁ、もう良いわよ、やりたい事があるならやっておけば良いわ。 この先どうなるかなんて分からないしね。 その代わり、最後まで付き合ってもらうからね。」


「リーゼちゃん、お、俺は・・・・・」


「あ!! 国境が見えてきましたよ!! 流石キーちゃん速い、速すぎる!! 良い子ですねぇ、いよ~しよしよし、おっここが気持ちいいんですか。 ふおぉおおおおおおおおお!!」


「さあ国境を抜ければいよいよ魔王の領土よ、さあ皆気合入れて行くわよ!!」






 国境を抜け、王国の地へと踏み入れたリーゼ達、此処から本当の戦いが始まるのかもしれない。



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