一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 疑惑の男クロッケル

 ジュリアンの好意で、四頭立ての馬車と運転手を借り受け、今は北にある村へと向かっている。 俺としてはあまり行きたくなかったが、クロッケルが無理やり俺とイバスを引きずり、強引に馬車に放り込まれてしまった。 なぜかリューク達も見張りとして同行している。


「おいコラ、もう良いだろ、早くこのロープを解いてくれ。 もう逃げたりしないからさ。」


「そうだよ、もし敵でも出てきたら如何するんだ。 僕達の力が必要だろ、さあロープを解いてくれよ。」


「絶対だな? さっきはいきなり逃げ出しやがって。 お前達もちゃんと考えろよ、あんな金塊を貰ってみろ、一生働かなくても食っていけるんだぞ?」


「クロッケルさん、あれを三等分したら一生は食えないと思います。 それに、王国にきんを勝手に運ぶのは犯罪・・・・・」


「まあ確かに足りないかもしれないが、もしかしたら不遇にも誰かが死ぬかもしれないじゃないか。 二人も居なくなれば、俺は随分と儲ける事が出来るよな?」


「「・・・・・」」


 ヤヴァイ、この男俺達を殺す気だ。 に、逃げなければ!!


「ちょ降ろせ、今直ぐ降ろせ!! 俺は行かないからな、お前達二人も黙ってないで助けてくれよ!!」


「だから嫌だったんだよ!! 僕は関係ないでしょ、ロープを解いてくれよ!! キャー、殺されるううううううう!!」


「んもう、ゆっくり本も読めないじゃないですか、うるさいですねぇ。 ちょっと静かにして貰えませんか? 今良い所なんですから。」


「俺達はただの見張りだ、お前達がどうなろうと知った事じゃない。 まあ残念な事になったら、報告ぐらいはしてやるよ。」


「ギャ―、人殺しいいいいいいいいいい!!」


「助けてええええええええええええええ!!」


「今のは冗談だ、苦楽を共にしてきた仲間にそんな事をするはずがないだろ。 俺の事は信用しろよ。」


「本当だろうな? お前あの金塊を見てから目付きがヤバイからな、じゃあ早くロープを解いてくれよ。」


「・・・・・そうだな、解いてやろう。」


 おい、一瞬間があったぞ。 本当に信用しても良いのかこいつ。 背中に回られるのをビクビクしながら、縛られていたロープが解かれた。


「ほら、解いてやったぞ。 な? ただの冗談だったろ?」


「ああそうだな・・・・・」


今まで見えなかったが、外の景色にはもうブリガンテの国は見えない。 つまりもう逃げ場は無いって事だ。 イバスのロープも解かれ、俺達二人は覚悟を決めた。 戦う覚悟じゃない、クロッケルに殺されない覚悟だ。 あの男は金が絡むと信用出来ない、大金が手に入ると知って、友人すらも裏切る物語は幾らでもあるからだ。 戦いが終わった瞬間後ろからバッサリ何てこともあるかもしれない、やられない様に気を張っていなければ。


 これは今日中に帰れるだろうか? こんな遠くまで来る事になるとは思わなかったからな、あの書置きだと心配させてるかもしれない、帰ったら謝らないと。


「皆さん、村が見えて来ましたよ。 あそこの村の人達凄腕らしいですよ? 自分達で魔物を退治しちゃうみたいですから。」


「んじゃ、その村人に頼めばいいじゃないか、わざわざ俺達が行く必要ないだろ。」


「村人が強いだと!! それは困る、退治なんてされてたら報酬が貰えないかもしれんぞ!! おい、馬車を飛ばせ!! 間に合わなかったら酷い目に合わせてやるぞ!!」


「は、はい急がせます!!」


 馬車を操るこの馬車の運転手さん。 この人何にも悪くないのに、可哀想に。


「ジュリアン様の話では、俺達が行く事は伝えてあるそうだぞ。 まあたぶん積極的に辺りの魔物を退治している訳じゃないのだろ? せいぜい村に来る魔物を退治しているだけなんじゃないのか?」


「ㇰっ、そうだと良いのだが・・・・・」


 運転手さんには悪いが、むしろ俺的に退治されてて欲しい。 そしたらクロッケルが正気に戻るかもしれないし。 無事に村の入り口まで到着し、馬車は此処の村長が預かってくれるようだ。


「さて、村に到着したが、今から向かうにはちょっと時間が遅すぎるか?」


「あ、そうだクロッケルさん、僕報酬は一切要らないんで、この村で待ってますね。 僕の分はクロッケルさんにあげますよ!!」


「お、そうかそうか、ならお前は此処で待ってろよ。 俺達が退治して来てやるからな。 なあアツシ。」


「おい待てイバス、此処まで来てそれは無いんじゃないのか!! 俺だけに面倒事を押し付けるんじゃねぇよ!! こうなったらお前も道連れだ、引きずってでも連れてってやるぞ!!」


「いやお金も貰わないし、もう僕関係ないよね? 僕は此処で見守ってるよ、アツシがクロッケルさんに殺されないのを祈って、此処で待っているよ!!」


「おいお前等、本当に俺がそんな事をすると思っているのか? さっきのは冗談だって言っただろうが。 まあ仲良くやって行こうぜ。」


「「そーデスね。」」


「おい、何時まで漫才やってんだ。 空き家を貸してくれるって言うからお前等も準備しやがれ!! 俺達はただの付き添いなんだ、あんまり俺達に手伝わせるんじゃねぇよ!!」


「「「へ~い。」」」


 適当に掃除して、空き部屋に泊まる。 運転手のおっちゃんも入れて、男五人の中に女のメ―リが一人。 何となく居心地が悪そうに角の方に座って寝ている。 うむ、美少女の寝顔ってのも良い物だ。 ちょっとイタズラでもしてやろうかとも思ったが、もう一人の男の方がキッチリ俺達を見張って居る。 やはり手を出すのは止めておこう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 半覚醒の俺の鼻孔へと、美味しそうな匂いが吸引されていく。


ガンガンガンガンガン!!


 誰かが鍋か何かを叩き、朝っぱらから五月蠅うるさい音を出している。


「起きろ野郎共!! 朝食の時間だぞ! 折角俺が作ってやったんだ、冷めない内に食いやがれ!!」


 目を開けると、クロッケルが朝食を作り終え、美味しそうな料理がテーブルに並べられている。 まさか最後の晩餐的な事を言わないだろうな? 毒でも入ってるかもしれない、誰かが食った後に手を付けよう。


「あ~おはよ。 ・・・・これは美味そうだな、イバス、美味そうだぞ? ちょっと食ってみろよ。」


「うん確かに美味そうだ、じゃあ頂きます。 ・・・・・うん、美味いよこれ。」


 イバスが美味そうに料理を食べて行く。 やはり大丈夫そうだ、毒は無いだろう。


「じゃあ頂きま・・・・・ハッ!!」


 待て、イバスは報酬を放棄していた。 俺だけに何かして来る気かもしれないぞ。 待て待て、大丈夫だ、まだ敵がどんなのかさえ分からないんだ、俺の力も多少なりとも欲しいはずだ ・・・・・いやしかし、本当に大丈夫だろうか。 


 ビクビクと震えながらフォークを突き刺し、俺はその料理を口へと運んだ。 美味い!! 香ばしさの中にトロリとした舌ざわり、濃厚でいて繊細な後味。 これは食のビックバンだ!!






 動かす手を止められず、俺は全ての料理を堪能し尽くした。



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