一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 友好の証

 宴は続いている、戦いを終えた者や、見に来ていた民達に無料で御馳走が振舞われている。 そしてそろそろ友好国として王同士の握手が交わされるらしい。 その二人はというと、小さな声で何やら言い合っている。


(今回は許しますが、もう次はありませんからね? まだ何か隠している事があるのなら早急に破棄してください。)


(一体何の事を言ってるのか分かりませんが、何か私がやった証拠でもあるのですか? 言いがかりなら止めてほしいですね。)


 お二人は民衆に手を振り、笑顔のままで話を続けている。


(とぼけないでください、病院に地下施設を作るだなんて、貴方ぐらいしか出来ないでしょう。 素直に負けを認めて謝ってくれませんか? さあ早く、さあ。)


(別に私が命じなくても、病院のトップが言えば簡単に出来るでしょ? この国の事を全部私の所為にしないでくれませんか。)


(まあ、よくもそんな事を言えますね、その地下施設では人体実験までされていた様ではありませんか。 そんな事までして、国のトップが知らないと仰るのかしら? その方達に申し訳なく思わないのですか?)


(私は知りませんでしたけど、病院側が勝手に大罪人を使っていたらしいですよ? どうせ死ぬなら、何か役にたってよかったのではないですか? 勿論私は知りませんでしたけどね。)


(この国の病院に、牢から悪人を出せる権限があったとは知りませんでした。 全部病院の所為だと仰るなら、そんな重大な事を勝手にやっている病院とは悪ですね。 それでは私の力でその病院を潰してあげますわ。 勿論お礼は要りませんわよ?)


(その力を振り翳すやり方が不味いのではなくって? そんなのだから対抗する力を求めたのでしょうね! まあ私は知りませんけどね。)


(私は今まで、力を振りかざす様な事はしていませんでしたよ。 今回は貴方達が先に手を出してきたのでしょう。 よりによって私と娘後を盗むだなんて、まだ頭に来ていますよ!!)


(ふん、病院の治療についてよく知らない様ですね? 検査の為に血を抜くなんて事はよくある事です、血を介して病気を見極める技術があるのですよ。 ああ、王国には病院なんて高等な施設はありませんでしたね、フフフ・・・)


(私達が遅れていると? それはどういう意味なのかしら? まさか喧嘩を売ってるのではないでしょうね?)


 相変わらず爽やかに笑いっているが、内心では相当怒ってるのだろう。 ・・・・・大丈夫かこれ? 随分険悪な雰囲気になってきたぞ。


 しかし、それを止める様に司会者が二人を舞台へと上がらせる。


「さあお二人方、舞台へとお願いします。 さあ民にお声を掛けてくださいませ!!」


「ええ、それでは行きましょうかイモータル様。」


「そうですね、行きましょうかマリーヌ様。」


「「フフフフフ・・・・・」」


 見ているこっちがハラハラする、本当に大丈夫だよな?


 先ほど戦っていた舞台には、華やかに飾り付けられ、舞台の四隅にはなにやら動物の像が置かれている。 お二人が舞台に上がると、大歓声がおこっている。


「わあああああああああああああ、イモータル様お美しいわ!!」


「うおおおおおおおおおお、マリーヌ様最強!!」


「これからも二国の平和の為に、仲良くして行ってください!!」


 マリーヌ様によりその歓声は止められ、そしてお二人のお声が発せられた。


「会場の皆さん、我がブリガンテと王国はこれからも手を取り。 そして、永劫の繁栄を誓おうではありませんか!!」


「ええ、勿論で御座います。 これからも末永く手を取り合って行きましょう。」


「それではイモータル様、友好の証として親愛の握手をくださいませんか?」


「そうですね、それでは・・・・・」


 舞台の真ん中で、お二人の握手が交わされる。


「痛ッ!! ・・・・・い、頂いたお見上げは美味しく頂きましたわ・・・・・オホホ・・・・・」


「あいッ!!  ・・・・・あ、愛をもって対応されてとても嬉しく思いますわ・・・・・フフフ・・・・・」


 お二人の表情は崩れない。 何というか、上に立つってのも大変なんだな。 まあこの程度ですんで良かったな、下手したら戦争だったぜ。


 無事にこのイベントが終わり、宿へと戻った。


「さて皆さん、この国の事はまだ気になる事がありますが、残念ながら王国へ帰らなければなりません。 ですがこの国の事も放っておく訳にもいきませんからね。」


 イモータル様は何か考え込み、思いついた様だ。


「では、アツシさん、とイバスさん、それにレーレさんとクロッケルさん。 四名はこの国に残り、引き続き調査をお願いいたします。 資金は後でべノムにでも運ばせましょう。」


「あ、はい、引き受けます。」


「イバス様が残られるなら、私は問題ありません!!」


「俺はまあ一人身だし、かまわないですよ。」


「いや、俺いきなりこんな所へ連れて来られて、置いてきぼりなんて嫌ですって!! ストリーにも何にも言ってないんですよ、何とか帰りたいです、お願いしまッす!!」


 アツシだけがこの場に残るのを嫌がっている、気持ちは分からなくないが、透明化は便利なんだよなぁ。 潜入には最適の魔法だからな。


「アツシ、一人で残るのが寂しいんだろ? だったらストリーもこっちに呼んでやるよ、良いですよねイモータル様。」


「ええ、ではそうさせましょう。 夫婦が離れ離れになるなんて辛いですからね・・・・・」


「良かったなアツシ、ストリーも来て良いってよ。 それなら問題ないだろ? それにな? 二人部屋に泊まれば邪魔されずに・・・・・」


「そ、そうか!! ルルムムも居ないもんな、俺引き受けるよ!!」


「ストリー 一人なら、明日辺り連れて来てやるよ。 少し我慢してろよな。」


「おう!!」


 四人がこの国に留まる事を決意したが、どうやらまだ意見がある奴が居る様だ。 ビシっと手を上げ、気づかれるのを待っている。 こいつ等は確か、イバスと一緒に居たアスメライとエリメスと言ったか。


「お二人共どうかされましたか?」


「あの、女王様、イバスさんが残るのなら私もこの場に残りたいです!!」


「イ、イバスとはチームだから、私が居た方がいいと思います。」 


「悪いが無理だ、あんまり抜けられると帰りの護衛が辛くなるだろ? まあ今回は諦めて王国へ帰るんだな。」


「あらべノム、さっき負けたのに随分と偉そうですね? 負けるなって言いませんでしたっけ?」


「いや、あれを止めたのはイモータル様でしょ!! まさか本当にアツシの部下になれと!!」


「ほほう、べノムが俺の部下になるのか。 大丈夫ですよイモータル様、ちゃんとこき使ってやりますから!!」


「ちょ、頼みますイモータル様!! それだけは勘弁してください!!」


「確かに止めたのは私ですが、あの戦い、段階的にスピードを上げたらマリーヌ様が慣れるのも当然でしょ? 降格は勘弁してあげますから、今日中にストリーさんを連れてきて、帰りの護衛につきなさい。 それと王国に帰った後、このお二人もブリガンテへ送ってあげなさい。 良いですねべノム?」


「・・・・・了解です・・・・・」






 降格を逃れた俺に、その命令を拒否する事は出来なかった。 その日の内にストリーをブリガンテまで輸送し、眠る事すら出来ぬまま王国への帰りの護衛に着いた。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く