一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 脇役なんて言うんじゃないぞ

 黒い”何か”が迫って来る、これに話が通じるとは到底思えない。 援軍は期待出来ない、きっとマリーヌ王あたりが手を回し、この辺りに他の者が近寄らない様にしている筈だ。 僕達が動く前にブリガンテの隊長が動いた。


「敵の動きは速くない、取り囲んで一斉射撃!!」


 ブリガンテの隊長が命令を下し、九人の兵士が一斉に散開する。 大きな黒い”何か”を取り囲み、持っていた弓を構える。


「よし、放て!!」


シュピュン ピュン ピュン


 ”何か”の体に大量の矢が突き刺ささる。 効果があると見て二射目を用意している。


「二射目、放て!!」


 更なる矢が放たれ、”何か”の体には大量の矢が刺さっている。


「よし、このまま矢が無くなるまで放ち続けろ!!」


 表面にある動物の顔には幾つもの矢が刺さり、”何か”の体はまるでハリネズミの様になっている。


 だが、僕達が有利に戦えていたのはここまでだった。 矢の刺さった表面から、ズブズブと矢が沈み込み、全ての矢が体の中に埋まり、全ての矢尻が表面に出現した。


 まさか、あれを飛ばせる力なんて・・・・・表面の矢尻が体の中に少しずつ沈んで行ってる・・・・・僕は全員に聞こえる様に叫んだ。


「矢が飛んで来るぞ!! 急いで逃げろ!! 逃げられないなら盾を使え!! お二人も退避を、あの木の・・・・・間に合わない、病院の中へ急いで!!」


 ”何か”の体の収縮が止まり、バーンという音と共に全ての矢が空中を埋め尽くす。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


 僕達が隠れた病院の壁には、大量の矢が射ち込まれ、その壁には突き刺さった矢が生えている。 生き残ってる者は、六人、その中で動けそうな奴は二人だけ。 向うの隊長と、もう一人。 残りは腕や足に矢が刺さり、戦力としては使えそうもない。


 幸いなのか此処は病院の前、生きているならば助けてくれるだろう。


「隊長さん、生き残った部下を病院に運んであげてください!! その間此奴の相手は僕達がします!!」


「くッ、ゼシュレッド、仲間を運ぶぞ!! 運び終えたら直ぐに救援に駆けつける、それまで頼んだぞ!!」


「任されたぜ!! 救援なんか来るまでもないぜ、それまでに俺達が倒しておくからな!!」


「予定通り一撃離脱ですよ!! あの表面に触れたら飲み込まれるかもしれません。」


「応!! 行くぞレーレ、ブリガンテに俺達の力を見せつけてやるぞ!!」


「イバス様、それでは行って参ります、どうぞこの場で指示をくださいませ。」


「はい、僕が行っては足手纏いになってしまいます、このまま此処で弱点を探ります。」


 二人が”何か”の元へ走って行く。 表面の動物の顔や、黒い部分を武器で斬り付けているが、そのダメージの程はよく分からない。


 ”何か”の体から、地下でみた実験体の長い腕が生え、攻撃しだす。 リーチが長いとは言え、その攻撃は単調で、二人はその攻撃を簡単に避け、その体を武器で斬り付ける。


 だがそれを繰り返していると、”何か”が移動を始めた。 二人の攻撃を逃げる様に、病院の庭を周っている。 踏みつけた死体や、落ちている矢を取り込み、進んだ道が綺麗な道になっている。


 これは・・・・・此奴は逃げてるんじゃない、攻撃手段を集めているんだ!!


「二人共、これは武器を集めているんです!! 反撃に気を付けてください!!」


「むッ、了解だ。 だったらお前も巻き添えをくわない所に隠れてろ、流れ弾で死んでもしらないぞ。」


 落ちていた武器の回収が終わると、”何か”の反撃が始まる。 黒い体から落ちていた死体の腕が何本も生え、その腕の先には兵士の剣がある。 クロッケルさんの剣に対応し、派手に打ち合っている。


 レーレさんの方には、落ちていた矢が向けられている。


「レーレさん、矢が向けられています、気を付けてください!!」


「了解しましたイバス様!!」


 次々と飛び交う矢を躱し、レーレさんの針が突き刺さり、その傷を広げる。


「クロッケルさん、攻撃に矢が混ざるかもしれません、注意を!!」


「知ってるよッと!!」


 僕の忠告の直後、クロッケルさんの顔面に矢が飛んで行く。 本当にダメージがあるのかも分からない。 弱点は何処だ? 早く探さないと。 無駄な所に攻撃を当てて、此方の体力が無くなったら辛くなる。


 考えろ・・・・・あれは実験体のなれの果てだ。 頭を無くしても死なないのなら、何処が弱点なんだろう? 黒く大きく変化した体にダメージは無いと思う。 その体内に入り込んで中から・・・・・無理だ、あんな巨体の中に埋もれたら、良きも出来ず、最悪重さで殺される。 取り込まれた動物のパーツは違うだろう。


 可能性はあそこにしかない。 顔も体も大きく変わっているが、あの長く伸びた腕だけがその変化を見せていない。


「お二人共、あの長い腕です!! それがこの怪物の弱点です!!」


 言い切ってしまったが、それが本当に弱点なのか分からない。 でも今分かるのはその場所しかない。


「了解だ!! おおらあああああああああああああ!!」


「承りました!!」


 その腕に攻撃を仕掛けようとする二人だが、その攻撃を察知したのかその腕が体へと沈み込み、別の場所からそれが出現してしまう。 これはちょっと厄介だ、もう少し人数がいたなら・・・・・そうだ、あの隊長達は何処に? 居た!! 今最後の一人を病院に運び込み、今まさに戦線に復帰しようとしている!!


「隊長さん!! 僕達だけじゃ手が足りないんです、力を貸してください!!」


「何を言っている、ここはブリガンテだ!! 手を貸して貰っているのは我らの方!! さあ共に敵を打ち倒そうではないか!!」


「ありがとうございます。 早速ですが敵の弱点を見つけました、たぶん長い腕があの化け物の弱点だと思います。」


「うむ、了解だ。 行くぞゼシュレッド、ブリガンテの力を見せつけてやるぞ!!」


「はい隊長!!」


 二人の兵士が駆けて行く、これで死角はあの頭上だけだ。 地面に落ちている弓と矢を拾い上げ、僕はその死角へと何本かの矢を放つ。


 学校でもそう大した成績ではなかった弓術だ、僕もそう簡単に当たるとは思っていない。 しかし、死角の無くなったあの化け物は、その場で四人と戦うしかなくなった。 ブリガンテの隊長と、もう一人の兵士の元へ二本の腕が出現し、激戦を繰り広げている。


 レーレさん達が動こうとしていたが、僕はそれを止めた。


「レーレさん達は動かないでください、また死角に移動されてしまいます。 此処はあの二人にまかせましょう。」


「くッ、美味しい所を持っていかれたか。 だがまだ来ないとも限らないか? 俺の所に来い、来い、来い!!」


 レーレさんは集中して敵の動きを見ている、僕も敵が上に逃げない様に矢を射っとくか。 そしてそのまま隊長達の方に移動し、その戦いを見守った。


 二人の戦いは始まっている、相手の長い腕は二人の剣を弾いている。 簡単には勝たせてくれない様だ。


「お二人共、指の間を狙ってください!! 指がうごくように柔らかいはずです!!」


「よし分かった!! うおおおおおおおおおおおおおお!!」


「了解だ!! ・・・・・フゥッ!!」


ザシュッ!!






 二人の剣が同時にその指の間を抜けて行く。 骨と骨の隙間を通り、掌が真っ二つに切り裂かれた。 大きく膨れ上がった体が急速に縮み上がり、取り入れた者を全部吐き出す様に、ドバンとその体が爆発した。



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