一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

10 蠢く”何か”

 目の前に並ぶ警備兵、数は・・・・・七、八、九、十。 誰にも気づかれてなかったはずだけど、こんなタイミングで出て来るとなると、誰かの差し金か? ここに来る事を知っているのはマリーヌ王とダラクライ大臣だけだが・・・・・


「なんだ? 警備兵か? 随分とバレるのが早かったな。」


「そうとは限りませんよ、邪魔な僕達を殺しに来たのかも。」


「イバス様、こうなっては仕方ありません、今回は戦うしかないです。」


 数の上では不利だ、何処か人数が少なくても戦える所は・・・・・病院の中、駄目だ、それでは忍んできた意味が無い。 他は・・・・・


「相手をして貰おうか・・・・・」


 兵士の一人の言葉が合図となり、敵兵の三人が動き出した。 その三人は僕達一人一人に襲い掛かり、攻撃が仕掛けられる。


「ぐおッ!!」


 その攻撃を必死で受け止め、剣と剣がぶつかり合う。 一度は拮抗するが、非力な僕の力はドンドンと押し返されていく。 相手はそれを見るとガンガンと剣を打ちだし、僕の体力がガシガシ削られて行く。


 今のままでは捌くので手一杯だ、とても攻撃まで手が回らない。 一度後へと下がり攻撃をやり過ごした。


「イバス様!!」


 名前を呼ばないで、と言いたいけど言えない。 そんな事を言ったら完全に確定してしまう。 僕だけ手配されたら如何するんですか。


「僕の事は良いですから、自分の相手を・・・・・ってもう倒したんですね。」


 レーレさんが僕が相手をしていた敵を横から蹴り付け、顔面を殴り付ける。 地面に押し倒しその喉元に爪を突き立てた。


とどめです!!」


「待って待って、殺しは駄目ですって、ちゃんと止められていたでしょう。 武器だけ奪って逃がしましょうよ。」


「くッ、そうでしたわ、忘れておりました。 貴女、さあ武器を捨てなさい。」


 倒れている兵士は、武器を置いてゆっくりと後退して行く。 クロッケルさんの方は・・・・・っと、すでに武器を叩き折り、敵は逃げ帰ろうとしている。 しかしオカシイ、残っている敵は動かず、僕達が構えるのを待っている様だ。


「よし、4、5、6番、進め!!」


 僕は敵を待ち構えるが、此方を無視してレーレさん達の方へ向かって行く。 僕を無視するとは中々分かってくれている。 ・・・・・というか、何だこれは? 警備兵が泥棒を無視するなんてありえないんだけど? そもそも何で三人ずつしか来ない? 数で囲んだ方が良いはずなのに。


 僕は辺りを見回した。 病院の周り、草むら、建物の陰、病院の屋上まで。 だが敵の気配は感じられない。 何か狙いでもあるのかと思ったが、そういう訳ではない様だ。


 何か訓練でもしている様な・・・・・ん? 本当に訓練しているのか? マリ―ヌ王が僕達の実力を図って、自分の兵を成長させる為に、ぶつけたとか? だからこそ僕みたいな雑魚には目もくれないって訳か・・・・・?


 僕はレーレさんの方に助けに入る。 敵がレーレさんに斬り付けるタイミングで、僕は背中を向けてレーレさんを庇った。 敵の攻撃は僕の背中を斬り付ける事はしなかった。 その剣は寸前で止められている。


 これは完全に訓練だ、だったらこんな事に付き合う必要はない。


「僕に考えがあります。 二人共、武器をしまってください。」


「は? こんな時に何言ってるんだ、お前も見てないで手伝えよ!!」


「はい、イバス様がそう言うのなら、従いまます!!」


 レーレさんが武器を納めると、敵に応戦していたクロッケルさんの方に三人が集まって行く。 あらら、僕の言う事を聞いていればよかったのに。


「おい、何でこっちに来るんだ!! ぐおッ、三人はキツイ、このッ、どうなってるんだ!!


「だから武器をしまってくださいって言ったでしょ。 早く武器をしまってください。」


「そんな事言ったって、こんな状態で武器をしまえるか!! おい、何だこれ、まさかイタズラか? 何かのイタズラなのか?」


 クロッケルさんは、敵の剣を剣で受け止め、その剣の形状で剣を絡め取り地面にぶつけ、その剣をひん曲げる。


 更に襲って来る一人を蹴り倒し、もう一人の剣を避け、避けた剣を弾き飛ばす。


 必至で戦っているクロッケルさん、どうしよう、笑ってしまいそうだ。 クロッケルさんに怒られそうだから、僕はこれが訓練だと知らせた。


「クロッケルさん、これたぶんマリーヌ様が仕掛けた訓練ですよ。 だから武器を納めても大丈夫です。」


「チッ、気づかれたか。 しかし俺達もこのまま帰る訳にはいかん、このまま付き合ってもらうぞ。」


「あ、はい、僕はしがない新兵ですから、ここはクロッケルさんに頑張ってもらいましょう。じゃあレーレさん僕達は帰っていましょうか。」


「はい、イバス様!!」


「おい待て、俺を置いて行くな!! 待て待て待て、本当に行くな、ちょ、おい!!」


 僕達が帰ろうと思い、病院を後にしようとした時。 病院の扉が壊れ、その中から何かが出てきた。


 あれは何だろう? 黒く、丸く、動物の顔だろうか、無数の顔が、パーツが、その黒い球体に張り付いている。まだ動いているものや、一切動かないものまで、おぞましさの塊の様な、もう何が何だか分からない。


「あ、何だあれは、あんなものが居るとは聞いていないぞ!! くッ、あいつを町に出す訳には行かん、この場で討伐するぞ!! 皆の者、俺に続けい!!」


「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


 ブリガンテの兵が”何か”に突撃して行く。


「イバス、俺達は如何するんだ? 一応任務は終わったが、あれを放って戻るのか?」


 僕達の任務は女王様達の血の回収、だがそれはもう不可能で、地下の実験体を殺したんだった。 


 そうだ、あの病院には、あんな化け物なんて居なかった。 だったらあれは、あの実験体が変化したものだというのか? 頭を切っても死ねないなんてかわいそうな人だ。 まだ死んでいないのなら、まだ任務は終わっていない。


「地下の実験体が、まだ死んでいなかったのでしょう。 だから、あれは僕達の得物です。」


「じゃあもう一仕事しないとな。 なんだか面倒臭そうな相手だが、何か作戦でもあるのかい?」


「さあ? とりあえずは、攻撃してみないとわかりませんね。 地下の動物を取り込んでるみたいだし、あまり近づかない方がいいのかも。」


「よし、じゃあ俺は一撃離脱で行ってみる。 イバス、お前は弱点を探ってくれ。 軍師までやったんだ、期待しているぞ。」 


「イバス様、私も行ってきます。 何か分かったら指示をお願いします!!」






 僕は二人の後ろ姿を見送り、敵の観察を始めた。



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