一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 忠誠心とは

 イバスと女王様が話していると、物凄い勢いで何かがやって来る音がする。


「女王様あああああああああ!! お待たせいたしましたああああああああ!! まだ馬車が到着していないもので、持って来た服はありませんでしたが、近くで買って来たドレスと下着で御座います。 さあ、どうぞこれをお付けください!!」


 全力で走って来たのだろう、ガーブルの汗ばんだ手で握られた下着が、その汗でぐっちょりと濡れている。


「・・・・・ドレスだけ使わせてもらいます。 では、着替えるので、部屋を出て行ってくれませんか?」


「それでは私がイブレーテ様のお手伝いを!!」


 この爺さん、まさか女性の着替えを手伝おうというのか? 随分堂々とした変態だ。


「良いから出て行きなさい!!」


「ハッ!!」


「じゃあ僕も出ています、大丈夫だとは思いますが、一応窓の外にも注意してくださいね。 他国では何が起こるか分かりませんから。」


「ええ、ありがとうイバスさん。」


 僕と爺さんは部屋の扉の前に待機した。 ほんの少しの時間で女王様達が部屋出てきている。 急遽用意された衣装にしては随分と似合っている。


 そして爺の持って来たドレスのサイズはピッタリと合う。 この変態はどんな忠誠心をしているのだろうか、まさか下着のサイズや、洋服の寸法まで知ってるっていうのだろうか。 あまりイブレーテ様に近づけたら危ない気がする。


「お待たせいたしました、それでは城へと赴こうではありませんか。 さあ行きましょうか。」


 ブリガンテの城へと向かい、僕達は歩き出した。


「イバス、お前の噂は聞いているぞ、女を何人も侍らせていい気になってる様ではないか。 一応言っておくが、王女様には手を出すなよ?  もしそんな事になれば、ワシはお前を殺すからな。 よく肝に銘じておけよ。」


「大丈夫です、僕にはそんな趣味はないですから。」


 それとあれは侍らせているというより、勝手について来ているだけだ。 僕はこの変態とは違う、まあ後6、7年もすれば分からないが、そのころには僕にも特定の人が出来ている・・・・・気がする。


 ふとイブレーテ様を見下ろすと、ニカっと微笑まれた。


「よろしくねイバス!!」


「はい、宜しくお願いしますイブレーテ様。」


 王女様も随分と気さくな方だ、僕の様な一兵卒に気軽に話しかけてくれる。 良い意味で王族らしくないな。 この方にも色々あったのだが、その事はもういいだろう。


 僕達は城へと向かって行く、城の城門で門番に止められてしまったが、直ぐにそれも解除された。


「あなたは・・・・・イモータル様でしたか、まだ今日は面会の日ではないと思うのですが。 何かご用でもありましたか?」


「はい、マリーヌ様に至急お取次ぎください、急ぎの用事がありますので、直ぐにお会いしたいのです。」


「そうですか、では少しお待ちください、マリーヌ陛下にお伝えしてきます。」


「はい、宜しくお願いしますね。」


 話しかけてきた兵士が城の中へと入って行き、そのまま十分が経過した。


「ガーブル殿、ちょっと遅くないですか?」


「向うにも事情があるのだろう、大きな城の中では、歩くだけでも十分ぐらい掛かってしまうわい。」


 目的の場所に居なかったら、探すだけでも大変だよねぇ、もう少し待ってみようか。 だが更にニ十分が経ち、イブレーテ様が座り込んでしまう。 流石にこれは待たせすぎだと思うのだが、何か時間稼ぎでもしているのかな?


「イブレーテ様、そんな地面に座ってはいけません!! どうぞこの私の背にお座りください!! イモータル様もどうぞワシの背へ!! さあどうぞ!!」


 四つん這いになり背中に座れという変態、見方によれば忠誠に見えるのだろうか? 一応護衛を任せれてる僕としては、イブレーテ様の教育によろしくないので、即刻止めて欲しい所だ。


「ガーブル殿、そんな恰好をしていては、もしもの時にお二人をお護りできませんよ? もし敵でも出てきたら如何するんですか。」


「む、しかしお二人を立たせたままにして置く事など!! うむ、やはり私の背にお乗りになった方が。」


 駄目だこの変態、僕はガーブルを放っておいて、門番の一人に話しかけた。


「あの~、お二人を立たせたままにしておくのは忍びないので、何か椅子でももらえませんか? あんなのに座らせるのは申し訳ないので・・・・・」


「・・・・・休憩室の椅子でよければ直ぐにでも。」


 他国の使者を待たせて、王に安そうな椅子を勧めるとは、やはり何かあるのか? 王国との同盟を解除でもする気なのか? それはちょっと不味いぞ。 だがお二人を立たせたままにしておく訳にもいかず、その椅子を貰う事にした。


「じゃあそれでお願いします。」


 持って来られた椅子は、とても王が座る様な椅子ではなかった。 これを薦めるのは気が引けるが、仕方がないだろう。


「椅子をお持ちしました、どうぞお使いください。」


「ええ、ありがとう。」


 僕が持って来た椅子をお二人が使ってくれている。 イブレーテ様は女王様と同じ様に、真っ直ぐに城門を見つめている。 


「イブレーテ様、退屈でしたなら、何か遊び道具などを貰ってきましょうか?」


「大丈夫よ、私はお母さんと一緒でいいの。」


 僕の提案を断ると、また城門を真っ直ぐと見つめる。 イブレーテ様は物凄く良い子だ、僕としてもこんな子は護ってあげたい。 いや、僕が良い子等というのは失礼か。


 時間はドンドンと過ぎ去り、一時間が経過した頃、ガーブルが限界に達した。


「んぐぐぐぐぐッ、遅いッ!! 遅すぎるわ!! これ言おうこんな場所でイモータル様を待たせる訳にはいかん!! このまま城門をぶち破って、直接会いに行ってくれるわ!!」


「落ち着きなさいガーブル、此処は友好国なのですよ? 力ずくなどしてはいけませんよ。」


「し、しかしこれ以上こんな場所に居てはお二人のお体に障ります!! もしお二人が病気にでもなったら、私が直ぐに乗り込んで、全員ぶちのめしてやりますぞ!!」


 お~い、この国の門番の前で言う言葉じゃないよ、関係悪化でもしたらどうするんですか。 僕がそんな事を考えていると、そのタイミングで城門の扉が開かれた。






 中からはかなり良さそうな恰好をした男がやって来た。 恰好から見ると、それなりに上の人物だろう。 大柄で太っていて、口髭を蓄えていた。



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