一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 女王の行方を追う兵士

 王国。 現在この国では継承問題に悩まされていた。 王国の王メギドは城で暴走し、国を収めているのはその妻イモータルだった。 度重なる戦いによって全ての継承権を持つ者が殺され、現在継承権一位となるのが養子となった子供達中の長女イブレーテだった。


 現王達と子供達との血の繋がりは無いが、その血肉を移植され、彼女達には継承権が認められている。


 そして今日、女王イモータルとイブレーテはブリガンテへの遠征の旅の準備をしている。 遠征の目的は大したものではないが、イブレーテの為、王国を収める為の勉強の意味合いが強い。


 イモータルの部屋の前、駆けて来る足音が聞こえる。 足音は軽く、小さな女の子のものだった。


タタタタタタタタタタタタタタタッ ガチャ


「女王様、そろそろ出発のお時間ですよ、さあ早く行きましょう。」


「あら、イブは、お母さんとは呼んでくれないの?」


「だって私は、お母さんを護る騎士になりたいんだもの、だから仕事中は女王様って呼ばないと駄目でしょ。 今私は親衛隊の騎士なのよ。」


 今現在イブレーテは親衛隊に席を置いている。 本当に在籍してはいるが、遊びの延長の様な物だ。 親衛隊の皆に、戦い方を教えられたり、可愛がられたりしている。


「はいはい、分かったわ、じゃあ一緒に城門前に行きましょうか。」


「はい!!」


 この日、王国の女王イモータルと、その子イブレーテは遠征の旅に出た。 護衛の人数は前の遠征よりも多く、キメラ達の襲撃はあったが、順調に撃退し、ブリガンテの国境を越えた辺り。 そろそろ日も落ち、野営の準備をしなければならない。


「お母さん、あそこに綺麗な川があるよ、あそこで休憩しようよ。」


「しょうがないわねぇ、ガーブル、馬車を止めてちょうだい。 あの川の近くで休憩を取りましょう。」


「はっ!!  よし、全体止まれい!! 近くの川縁で休息を取る!! 各自注意を怠らず、決められた順に休みを取れい!!」


 兵士達は川の近くでテントを張り、野営の準備を始めている。 この場所で朝まで休む様だ。 イブリーテははしゃぎ、川の浅瀬へと入り遊んでいる。


「お母さん、川の水が気持ちいいよ、一緒に入って遊ぼうよ。」


「イブ、もう夜も近いのです、暗くなると危ないですから戻って来なさい。 遊ぶのなら夜が明けてからにしなさい。」


「は~い。」


 イブレーテが岸へと戻って来ている。 だがその時、この大陸で滅多に起きない大きな地震が起こった。 二十秒に満たない揺れだったが、その揺れは激しく、川の中に居たイブレーテは足を滑らせ川の流れに流されて行った。


「イブ!!」


 川に流される娘を見ると、イモータルは川へと飛び込み、イブレーテを掴む。 必死に娘の頭に空気の球を作ると、急な水の流れにより頭を打ち付け気を失ってしまった。 そしてそのまま川に沈んで行った。


「イモータル様!! い、急げ、探せ!! 何としてでも助け出すのだ!!」


 兵士達が川の中を必死で探している。 だがもう日が沈み、空からの探索も不可能になっている。


「ガーブル殿、辺りが暗くてよく見えません。 早く灯りを、光を照らしてください!!」


 空を飛ぶ兵の一人が叫んでいる。 川は暗闇を吸い黒く変わりはて、川の中の様子など誰にも分からない。


「あ、灯りだ、灯りを灯せ!! 急げ急げ急げええええ!!」


 魔法の明かりが川の上空に浮かび上がる。 川の表面が照らされるが、辺りに人影はない。 兵達が川の中へと入り、二人の姿を探す。 川の中央は思ったよりも流れが速く、足を踏ん張っても流されそうになる程だった。


「だ、駄目です、何処にも見当たりません、もう下流に流されたのでは?!」


「くッ、二班に分かれるぞ、一班は此処から探しながら進め、もう一班はワシに付いて来い。 下流に行くぞ!!」


「ガーブル殿、お待ちください、馬車の荷物はどうしましょう、放っておくと馬も食料も獣等に食べられてしまいます。」


「イバス、そんなどうでも良い事を聞くな!! 今は女王様の安全が先決だ!!」


「で、でも、食料が無くなれば、我々も飢えてしまいます、最低限は馬を護る者を配置しないと。」


「え~い、分かったわい!! 三班だ、馬の護衛に一班 他は女王様を探しに行くぞ!! イバス、馬はお前の班が護れ、自分で言ったんだ、絶対に護り通せよ!!」


「あ、はい。」


 一分、二分と時間が過ぎて行く。 訓練すらしてない者にはその一分ですら長く苦しい思いをするだろう。 その時間もとうに過ぎ、一時間、二時間と時が流れ、二人の姿は朝になっても発見出来なかった。


 だが兵士達は諦めなかった、風の力を使うイモータルが、そう簡単に死ぬとは思えなかったからだ。


「クソッ、何処だ。 もっと下流に行くぞ、さあ皆の者、急ぐのだ!!」


「ガーブル殿、兵の体力がもうありません、少し休憩を・・・・・」


「何を言っておるイバス!! 女王様の危機だというのに、此処で踏ん張らなくて如何するというのだ!!」


「し、しかし・・・・・周りをご覧ください・・・・・」


 ガーブルが周りを見渡す、殆どの兵がぐったりと疲れ果て、実際に川縁で倒れて居る者までいた。 この状態で敵でも出てきたら全滅もありうるだろう。


「ッ!! 三十・・・・一時間だ、一時間だけ休憩を取る。 休憩が終わり次第、即座に行動せよ!! ワシは一人で先を見て来る、良いか、一時間だけだからな!!」 


「お待ちくださいガーブル殿。」


「またお前か!! 今度はなんだ!! 急がねば女王様の身が危険なのだぞ!!」


「お一人では危険です、この私も同行いたします。」


「そうか、ならばついて来るがいい!! 女王様はそう簡単には死なん、小さな手掛かりも見落とすんではないぞ!!」


「了解です。」


 川を下り、手掛かりを探して行く。 特に変わった所は・・・・・


「ガーブル殿、あれを見てください。」


「またくだらぬ事ではないだろうな? 今度はなんだ!!」


「あそこです、あの辺り。 川縁かわべりの石が不自然に濡れています。 もしや女王様達が倒れて居たのでは?」


「ぬ!! 確かに濡れておるな、だが助かったのなら我々の場所に戻れば良いではないか。 これは違うのではないのか?」 


「いえ、此方にも濡れている場所があります。 此処にお二人が此処に流されたのではないでしょうか? まだ乾ききっていないので、先ほどまで居たのではないでしょうか。 何かトラブルがあって戻れなかったのでは?」


「うむ、そうかもしれんな、だが此処から何方へ行かれたのか・・・・・」


 イバスは周りを見渡すと、ブリガンテの町が薄っすらと見えている。 向かうならあそこだろう。


「ガーブル殿、あそこに町が見えます、女王様達はブリガンテの町に向かったのではないでしょうか。」


「町か・・・・・うむ、ならば急ぐとするか。 行くぞイバス!!」


「待ってくださいガーブル殿。 私達が行ってしまうと、後から来る兵達が迷ってしまいます。」


「合流するまで待てというのか!! そんな時間は!!」


「なら目印でも置いて行きましょう、矢印でも作っておけば誰か気付くでしょう。 ちょっともったいないですけど、籠手でも並べておけば分かり易いんじゃないですかね?」


 ガーブルは躊躇いも無く、自分の防具を脱ぎ捨てると。 ブリガンテの町の方向へと一つずつ並べて行く。


「ならば行くぞイバス、これ以上お待たせする訳には行かん。 今度こそ急いで追うぞ!!」


「はい、分かりました。」






 女王の行方を追い、二人の兵士が追って行った。



「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く