一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

43 終わりの時 (兵士は行くよ何処までも編 END)

 何故か空中で二人の兵士がじゃれ合ってる。 土竜がぐったりとその体を横たえ、完全に死んでいるのを確認された。


「さてイバス君、この軍を率いる軍師として、言う事はないのかね?」


 全兵士達(二名を覗く)が僕の声を待ち、此方を見つめている。 僕に勝利の宣言でもさせようというんだろうか? 正直こんな目立つ事はしたくないんだけど、僕が声を上げないと誰も動かないのか? じゃあ少しだけ・・・・・


「え~と、しょうり~。」


「「「「「お、おおお・・・・・」」」」」


 僕の気の抜けた声に、全軍の気の抜けた声が答えた。


「イバス君、もう少し声を張りなさい、もっと大きな声で答えるべきですぞ。 死んでいった者の為にも、生きている我らが喜ばなくてどうするのだ。 さあはっきりと喜びを表現してあげなさい。」


 やらないと終わらなそうだ、やっぱり僕には向いていないなぁ。 仕方ない、僕の采配で死んだ者もいるんだ、今回だけは全力でやってみよう。


 でも何を言おう? ・・・・・思いつかないぞ、何かないか何か。 そうだ、昔見た物語のセリフでも言ってみよう。 じゃあそれで・・・・・


 僕は大きな声でそのセリフを言った。


「皆の者、敵戦力は壊滅した!! 敵大将は沈み、我らは生き残った!! 死んで行った者の為に、我らの声を天に届かせようではないか!! さあ天にも届く声を上げよ!! えい、えい、おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


 兵士達の声が上がる。 その中には、仲間の死を悲しみ泣いている者も居た。 それを見ると少しだけ心が痛くなった。 その死の責任は僕にもある、此処で死んだ十二人は瓦礫の海に沈み、もう何処に居るのかさえ分かりはしない。 掘り返した所で、骨さえバラバラになって原型すらも無くなっているだろう。


「全軍撤退せよ!! 王国に付いたのち、各自解散せよ!!」


 軍師として最後の言葉を放ち、僕達は帰りの道を歩き出す。 大地に空いた大穴は、その姿を変えずに残り続ける。 僕は、花束の代わりに、自分の命とも言える愛剣を投げ入れた。


「今はこんなものしか持っていないんだ。 悪いけど・・・・・これで勘弁してくれよ。」


 それだけを言うと、後を振り返らずに帰路に着いた。 そのまま僕は家に帰ろうと思ったのだが、ダディスに呼び止められ、その部屋へと招かれた。


「どうだったかね今日の経験は、作戦が終わって早々なのだがね、どうだろうか、正式にワシの弟子になる気はないかね? まだ粗削りではあるのだが、君には才能があると思うのだよ。 直ぐに答えを出せとは言わんが、了承してくれれば出世コースだ、今の給金の倍、いや五倍にはなるだろう。 さあどうかね? 少し考えてはくれないかね?」


 出世かぁ、給料が五倍ってそれは凄いな。 こんなに美味しい話に乗らない訳にはいかないな。 僕はきっぱりとそれに答えた。


「ごめんなさい無理です、他の人を探してください。」


 そう、僕には夢がある。 適当に頑張って、そこそこのお金を貰い、ある程度の危険と、適当に暮らせる時間だ。


 軍師になれば危険な敵と戦わなくても良いし、高い給料を貰えるけど。 僕の指示で誰かが死ぬと、その家族や仲間が僕を恨むし、その数は決して少ない数じゃない。 今回だけでも僕を恨む人が居るかもしれない、そんなに恨まれてまで、お金は欲しくないな。


「い、いい今答えを出さんでも良いんだよ、もう少し考えて貰えないか? ほら、ワシもう歳だろ? そろそろ隠居したいんだ、戦いの無い日にはのんびりチェスでも出来るし、良い職場なんだよ、給料は今の十倍だそう、それでどうだ!!」


「嫌です、僕はそんな事には向いてません。 別の人を探してください。」


「そんな事を言わずに、もうちょっと考えておくれよ。 ワシもう恨まれるの嫌なんじゃ、こんな歳になっても人に恨まれて生きとうないんじゃ。 後生だからお願いじゃ、ワシをこの職業から解放しておくれ。」


 ダディスさんが僕にしがみ付き懇願してくる。 こんなにして辞めたいだなんて、どれだけ恨まれているんだろう。 やっぱり絶対やりたくない。


「放してくださいダディスさん!! そんなに恨まれるなんて僕も嫌です!! だから別の人を探してくださいって言ってるでしょう!!」


「他に良い人材が居ないんじゃよぉ、お金が足りないのならもっと出しても良い、だから、なっ、なっ!! そうだ、ワシの孫を嫁にしても良いぞ、それならどうじゃ!! 女には苦労しているんじゃろ、ほらどうじゃ。 もうスンゴイ事して貰えるんじゃぞ!!」


 幸運にも? 僕には何故か、三人の女性が好意を寄せてくれている。 これ以上増えられたらもう収集が付かない。 いや、もう今でも十分困ったものなんだけれど・・・・・


「ああ、いや、そういうのは間に合ってるんで。 じゃあッ!! 失礼しますね。」


「ま、待ってくれぇ、こんな老人の頼みぐらい聞いてくれたって良いだろう。 ちょっと待ってくれぇ。」


 僕は強引にダディスを引きはがし、足早にその場を後にした。 自宅まで逃げて来ると、そこには三人の女性が僕を待っていた。


「イバスさん、さっきのセリフ心に響きました。 私もう貴方無しでは生きて行けません。 さあ今直ぐに、直ぐに結婚いたしましょう!!」


 あのセリフ、ただのパクリなんだけど。


「お姉ちゃん待って、まだ此奴を信用しない方がいいわよ。 此奴結構駄目な奴だわ、私がちょっと強制するからちょっと待ってて。」


 自分が駄目なのは分かってる、でも強制されるのは嫌だ。


「お二人は少し黙っていてくれませんか。 イバス様は私と一生添い遂げるのですから。 この間の責任を取って貰いますよ!!」


 謝りますから、もうそろそろ勘弁してください。 殴り合いを始めた三人をすり抜け、僕は家の扉を閉めた。


「ああ、こら閉めるなイバス!! 開けなさいって言ってるでしょ!!」


「イバス様、開けてくださいませ。 イバス様!!」


「イバスさん、結婚を!! 結婚を!!」






 ドンドンと叩かれる扉、もうその内苦情が来そうだ。 取り合えず僕は耳栓をして、ベットに潜り、眠りに付いた。 もう放っておいて欲しい。



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