一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

41 天井の崩落

  大土竜に挑む隊は、徐々に引き始めている。 べノムは、自分に敵意を向ける為、敵の頭へと攻撃を仕掛けた。 ザシュッっと斬撃をくらわせて、土竜には大きな傷が付かなかった。 その攻撃に気づいたのか、土竜は俺を見下ろしている。


「畜生ッ、斬撃に耐性があるってのは本当らしいな!! ちっとも効きやしねぇ、炎で燃やせと言っていたが、こんな巨大なものを燃やせる様な炎はねぇぞ。」


 大きく振り回される土竜の腕は、俺を狙って上下左右と激しく振り回される。 体が大きいから鈍い何てこともなく、俺は避けるので手一杯だ。


 敵の攻撃を避けつつ、チラッと辺りを確認すると、殆どの隊が撤退したのを確認出来た。 残りは遠くに居た二部隊のみだ。あの部隊が撤退するまで、もう少し時間を稼がないと。


 相手の体は半分地面に潜っている、少し離れ、様子を窺う。 少しだけ避難出来たが、土竜は、その腕が届かないとみるや、埋まった体の地面を掘り返し、直ぐにその体を前へと進ませて来る。


「やっぱり無理か。 しゃあねぇなぁ、やっぱ、このまま避け続けるしかねぇか。」


 振り下ろし、横薙ぎ、振り上げ、突き、体力の減りを抑える為にギリギリで躱し、最後の隊が入り口に行ったのを確認した。 後は、上の奴等が天井を落とすまで、俺が頑張るだけだ。 当然死ぬつもりはない、ギリギリの所で脱出して生き延びる予定だ。


「さあ何時でも来やがれ、俺の速さを見せてやるぜ!!」




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 地上。 避難して来た兵士達が、慌ただしく動き回る。 ルルムムは地下空洞の上、丁度中心に立ち、両手を回しても掴みきれない程の鉄杭を半分ほど打ち込んでいた。


「私の準備は完了したわ、バール、此処からどうするの?」


「ルムちゃんは此処で待機ですよ。 今から岩盤が割れる様に、魔法を使って、地下まで穴を開けていくんです。 これだけ居るからそれ程時間は掛からない、準備が出来たら合図を伝えるけど、その前にも崩落する可能性もあるから、落ちない様にしてくださいね。」


「分かった、落ちない様にして、此処で待機してるわ。」


 地面に魔法で穴が開けられていく。 ほんの拳大の大きさだが、地下の空洞まで穴が開けられ、地下の様子が見える。 イバスはその穴を覗くと、その穴の先には一人残った兵士の姿が見えた。 空中を飛び回り、敵の攻撃を避け、何度も斬り付けているが、敵は未だ健在だった。


「イバス君、全ての穴が開き終わりましたぞ。 後は号令を掛けるのみだ、直ぐに伝令を出そうか?」


「まだ一人戦っています、彼をこのまま殺すのは、王国の為にもなりません。 この空いた穴から彼に合図を送ります。 もし彼が気付いたら、逃げるタイミングを得られるかもしれません。 誰か飛べる人に、魔法を打ち込んでもらいましょう。 彼が逃げれる逃げ道は用意していますから。」


「失礼、お邪魔いたしますわ。 宜しければその役目、わたくしに任せていただけませんか? わたくしならば飛べますし、あの小さな穴から合図を送る事も出来ますわ。 どうぞご考案くださいませ。」


 怪しく輝く瞳、背中から生えた翼、そして戦場には似合わないドレスを着た彼女は、僕でも知っている有名な人。 数々の武勲を上げたこの人は、確かレアスという名だったはずだ。


「レアスさん、それでは貴女にお任せします、一人残った彼を死なせないでください。」


「・・・・・ええ・・・・・お任せください。」


 ゾクッとする笑顔で微笑み、彼女がルルムムの元へと飛んで行った。


「ダディスさん、僕達も避難しましょう。 此処に居たら巻き込まれてしまいます、後は彼女達に任せましょう。」


「そうですな、我々は空を飛べませんからな。 それでは急ぐとしましょうか。」


 兵達は安全な場所まで撤退し、その中心には二人の女が残っていた。 立ちながら穴の底を覗き、下の様子を探っている。


「ルル、あの烏の運命は、わたくし達に託されました。 あの烏の命がわたくしの手の中・・・・・ああ、中々良い感じではありませんか。」


「はい、お姉さま。 合図を出さなければあれは潰れますね。」


「ええ、このまま叩き潰しても、特に問題はありませんが、それでは少々つまりませんわね。 やはり自分の手で首り殺した方が、気も晴れるというものです。 少し・・・・・いえ、随分と面倒ですが、あの烏の命を救ってあげようではありませんか。 わたくしに助けられた彼奴はどんな顔をするのでしょうかね。 いえ、もしかしたら手が滑ってしまうかも、フフフフ・・・・・」 


 べノムの運命は、彼女達の手の中だった。




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 全部隊が撤退して十分、まだ天井は落ちて来ない。 土竜の攻撃を避け続け、精神的に限界が近い。


「もうそろそろ全部隊が撤退して十分ぐらいか?」


 落とすなら落として欲しいんだが、このままじゃ敵の攻撃が何時当たるか分からねぇ、やるなら早くして欲しいんだがッ。 考えている間にも敵の攻撃は止まりはしない、俺を叩き落そうと大きな腕が振り回される。


「・・・・・うおッと!!」


 土竜の攻撃が直ぐ横を通り過ぎる、その風圧だけでも飛ばされそうになる程だ。 相変わらず敵のスピードは落ちないし、此奴の体力は無尽蔵なのか?


「上はどうなってやがるんだ、まさかトラブルか? 逃げれる様にもう少し下がっておくか・・・・・」 


 俺が少し下がると、土竜がそれに続き前へと進んでくる。 上の奴等がどうなってるのか知りたい所だが、もし既に決行していて、作戦が失敗していたら・・・・・逃げるべきか? もし、ただ遅れているだけだったら、作戦は失敗だが・・・・・


「決めた、俺は逃げる!! 後で何言われるか知らねぇが、此処で死ぬよりはマシだ!!」


 俺が後を向いて逃げ出すと、そこで何かが空中で弾けた。 逃げながら上を向くと、何か黒い物が飛び散っていた。 この洞窟自体が光っていて分からなかったが、上を見ると地上からの光が漏れている。 これは・・・・・合図か!!


 土竜を気にする事もなく、俺は地下空洞の入り口まで全力で進み、天井から何かビシビシと音が聞こえて来る。 パラパラと天井の土が崩れ始め、崩落が始まった。


「まぁにぃあぁええええええええええええええ!!」


 全力で飛ぶ俺の両隣に、天井の岩盤が落ちて行く。 これは、間に合わないッ。 最後の時を迎えるように、俺は天井を見つめると、そこには一つの道が残されていた。 今にも崩れ出しそうに、少しだけ残された天井。 その下へと逃げ込み、俺は入り口へと逃げ延びた。






 俺が入り口へと辿り着くと、残されていた天井の道も崩れさり、この入り口の前に大きな岩盤が落ち、この先は二度と行けなくなった。



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