一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

39 土竜の首領

 地中から現れたデカブツ、あの角竜よりもひたすら大きかった。 角竜が一軒家ぐらいだとすると、これは東京ドーム並のサイズだ。 此奴がこの空間を作った主だろう、こんなものに剣で挑むなんてバカげている。


「うおおおおおおおおおおお!! あいつ、入り口にいた奴の親か。 これは今までの比じゃないぞ、トリケラトプスが可愛く見える!!」


「王国の地下に、こんな空間でも作られてみろ、何かの拍子で、地面が崩れでもしたら、王国は全滅しちまうわ。 何としてでもこの場で倒さねぇとなぁ。 さぁてと、ラストバトルの時間だぜ!! お前等、気合入れて行くぞ!!」


「貴様に言われずとも、戦場で油断なんてしませんわ。 余計な事を言ってないで、さっさと行きますわよ。」


「・・・・・うん。」


「ええ、お姉さま!!」


「待てべノム、俺はあれの小さい奴と戦った事がある。 彼奴ああ見えて結構早いぞ、腕の動きに注意してくれ。 彼奴には斬る攻撃が通じない。 あの体毛がポイントなんだ、炎で燃やして、地肌なら斬る事が出来るぜ。」


「いい情報だ、有難く聞いておくぜ。 お前等は地上に戻ってろ、剣で彼奴の相手はキツイだろ。じゃあ今度こそ行って来るぜ、勝利を祈っていてくれよ。」


 べノム達は、気合を入れて飛び立とうとしたが、それはバールによって止められた。


「あ、駄目です、まだ行かないでください。 今から大規模な天井落としを決行するので、全軍撤退します。 他の隊にも伝えてありますので、皆さんも撤退を。」


「はぁ? 天井落としぃ? この天井を落とすって? 出来るのかそれ、相当に分厚いぜ。」


 広大に広がった地下の洞窟、その天井は俺でも分かる程に分厚い。 五メートル、十メートル、もしかしたらもっとありそうだ。 本当にこんな物を落とせるのだろうか? まあこの小さな剣で戦うよりは可能性はあるか?


「俺達はこの大きな空間を見回りながら計っていたんですよ。 この地下の空間と、地上の位置ね。 ある程度の目安はつきました、後はイバス軍師がなんとかするでしょう。」


 あのイバスが軍師ねぇ、まだ一週間ぐらいだというのに、何でこんなに差が付いた? これが彼奴の才能だって言うのか? おかしい、俺と一緒に逃げ回っていただけのはずなのに。


「上手く行くのかそれ? 相手は待ってくれねぇぞ。 俺等が撤退したら、彼奴も追って来るんじゃねぇか? 彼奴を引き付けておくためにも、一人は残らなきゃならねぇぞ。 誰が・・・残るんだ?」


「・・・・・良いですか、良く聞いてください。 此処に残るのは隊長一人です。 彼奴を引き付けて、生き残れる可能性があるのは、此処には隊長しかいません。 良いですか隊長、天井を潜り抜けたとしても油断しないでください、地上から油と火矢を打ち込みますから。 逃げるならあそこにある入り口からです。」


「そいつはちょっとキツイな、本当に死にそうな配置だぜ。 だが彼奴は危険だ、倒し解かなきゃ王国が危うい。 ここにロッテが居なくて良かったぜ、居たら、彼奴も残るとか言い出しそうだしなぁ。」


「安心なさい、例え貴様が居なくなったとしても、ロッテさんには、もっと素敵な男性を紹介してあげますから、安心して死んで来なさい。」 


「ハン、そう簡単に死んでたまるかよ!! お前等が天井を落とす前に、あのでかぶつをぶっ殺してやるさ!! 目ぇ見開いて、俺の活躍を見とけよ!!」


 これは不味いんじゃないか? 何だかフラグっぽい事をポンポン言い出したぞ。


「待ってくれべノム、俺の世界じゃそんな事を言うと、直ぐ死ぬって分析されてるんだ。 歴戦の勇士でもそれを言った直後に死んでしまう様な言葉なんだぞ。 もうちょっと軽そうに、適当な感じで言った方が良いと思うぞ。 これ、マジで。」


「ああん? そんな事があるのかよ? そのぐらいで死なないなら苦労はしないが。 ・・・・・まあ良い、少しでも助かりそうなら、そうしてやるか。  それじゃあそこそこ頑張って、死なない様に頑張るぜ? これで良いのかよ?」


「たぶんな、さっきよりはマシじゃないのか? 気合入り過ぎて敵の事しか見えなくなると危ないんだ、出来る限り普通の感じで行った方が良いんだよ。」


「それじゃあ、帰って来たら飲みにでも行くか。 良い店知ってんだぜ。」


「だからそれを言ったら駄目なんだよ!! ほら、早く行けよ、敵が待ちくたびれてるぞ!!」


「良く分かんねぇが、後の事は後で良いか。 じゃ、行って来るぜ!!」


 べノムが巨大な土竜の元へと飛んで行く。 俺達も此処に居たら危ない、足を動かし、入り口の方へと向かって行った。


「アツシ、さっきの話はなんだ? 私には重要な話には見えなかったんだが、もうちょっと詳しく教えてくれないか?」


「いや、あれはとても重要な事なんだ。 俺の世界ではある一定の言葉を言って、戦いに行く奴は殆どが死んで行く、これを守らないと俺達も死ぬかもしれないぞ。 まず、本当に危ない所に行く時には、家族の事を話したりしてはいけない、さっきみたいに、先に倒してやる的な事も駄目だ。 他にも色々あるんだけれど、総省して死亡フラグと呼ばれているんだ。」


「ほう、そんな物があるとはなぁ、だがこの世界でもそれは通用するのか? それは私達には関係ない話じゃないのか?」


「俺はこの死亡フラグって物を考えた事があるんだ、戦いに赴く時に何でこんな事を言うのか。 それは心が不安になっているからだ。 死の事を考えたり、家族の事を思い出したり、戦いに集中出来なくなっているからだよ。 そんな状態で戦ったって良い結果は付いて来ないだろ? 要は平常心が大事って事なんだよ。」


「なる程、平常心か、確かに戦士はその為に訓練している様なものだからな。 ここぞという時に心に波を立てたら、良い結果は出せないな。 ・・・・・良い事を聞かせてもらったお礼と言う訳では無いが・・・・・今日はお前の部屋へ行っても良いかな・・・・・きょ、今日は仲間が沢山死んで、このまま一人で居たくないんだ・・・・・」


 え、マジで? やっと、やっとなのか!! あ、ルルムムは近くに・・・・・居ない!! これはチャンスだ、ルルムムに邪魔されない様に、何処か別の所に行かないと!! 燃えたぎれ俺、尻の痛みなんて気にするな!! 


「勿論だ!! 何なら今からでも・・・・・いや、今は不味いな。 ストリー、ルルムムには知らせるなよ、絶ッ対邪魔しに来るからな。 ふ、二人で、朝を迎えようぜ・・・・・」






 ストリーがコクリと頷くと、俺のテンションがMAXにまで跳ね上がった。 俺はこの夜の事を忘れないだろう、何があったのかは二人の秘密だが、良い事があったとだけ言っておこう。



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