一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

36 王道を行く者達57

 リーゼ達は小人達を倒し、村へと戻って来ていた。
 村の入り口では、待っていたクロッカスに出迎えられる。


「帰って来たわよクロッカスさん、バッチリ全滅させてきたわ。これでもう村は大丈夫よ」


「おおお、そうですか! 皆さんのおかげで村が助かりました! お礼も兼ね、宴を用意させましょう。少し時間が掛かりますので、ご自宅でお待ちください」


「おっ、宴だってさ、行こうぜリーゼちゃん」


「そうですね、最近リーゼさんの料理にも飽きが来ていましたからね。違うものが食べられるのなら有難いですね!」


「…………マッドさんは辞退するみたいですね。生米でも置いておくので、家で留守番していてください」


「うえええええ! あやまりますから連れて行ってください! 私も美味しい物が食べたいです! お願いしますリーゼさん、なんなら靴でも舐めましょう、もうペロペロ犬の様に!」


「なんか臭いそうなんで舐めなくても良いです。まあでも今日は助けられましたからね、腕もちゃんと治してくれたし、今回は許してあげます。ちゃんと反省してくださいね」


「はい、勿論ですとも!」


 リーゼ達は、村人達と楽しく食事をし、じっくりと休養を取って、出発の朝に備えた。
 朝になり、出発の時、そこには村の全員が集まっている。


「皆さん、今回は有り難うございます。これは村の全員からの贈り物です。さあこれに乗って出発を」


 クロッカスに言われ、村の皆から送られた物は、二頭立ての馬車だった。
 この前に護衛していた馬車よりも立派で、リーゼ達の旅には不釣り合いな程だ。


「こんな物どうしたんですか? これを使っても返せる当てなんてないんですよ」


「気にしなくても大丈夫だよ。昔偉い人が乗って来たんだが、運悪く村の前で魔物に襲われてねぇ。誰か回収しに来るんじゃないかと、しまってあったんだが、結局今まで誰も来なかったんだ。村に置いておいても宝の持ち腐れだし、馬の餌もあげなくちゃならないからね。リーゼちゃん達に使って貰えるんならその方が嬉しいのさ」


「そうなの? まあそれなら、有難く使わせて貰うわね。皆、本当にありがとう。じゃあ、また帰って来るからね! さあ行くわよ皆!」


「世話になったな、クロッカス。この旅が終わったら直ぐ此処に戻って来る。それまで俺の家を頼むぞ」


「ああ、ハガンさんもお気をつけて」


 村から出発したリーゼ達。
 馬車に乗りブリガンテを目指す。 


 道中は快適だった。
 リサが馬を操り、馬車の椅子はとても乗り心地が良かった。


「はぁ、快適だわ。敵が出て来るまではこのまま休む事が出来るわね。このまま出て来ない事を祈ってるわ」


「食料や何かも積んでありましたからね、当分は食事にも困らないでしょう。まあ馬が襲われたら、全部無くなっちゃいますけどね」


「流石に馬を護りながら戦うのは無理かな。出来る限りは頑張るけれど、戦いの邪魔になるようなら見捨てるしかないかな」


「出来ればブリガンテに付くまで敵が来て欲しくないわ。でもこんな事言ってると…………」


「皆起きてるかい?! 前方左から何か来るよ! 馬車を止めるから、武器を抜いて準備しな!」


「やっぱり敵が来るのよねぇ…………」


 武器を抜いて待ち構えると、そこにやって来たのは黄色いヒヨコだった。
 大きさは馬車ぐらいあるが、随分と可愛らしい姿をしている。
 姿が可愛いからといって、その力が可愛らしいものとは限らないが。
 走り寄って来るその黄色いヒヨコは、リーゼ達の元へ真っ直ぐ向かって来ている。 


「さあ、来なさい!」


 駆け寄って来るヒヨコに合わせ、リーゼの剣が煌いた。
 だがそこにヒヨコは居ない、大きく羽ばたきジャンプすると、リーゼ達を飛び越え、馬車の食糧を漁っている。


「ああああああああああ、此奴食料を食いやがったぞ! すぐに止めないと無くなってしまうじゃないか! 急いで止めないと!」


 ラフィールが剣をヒヨコに当てるが、それに気にする様子がなく、ヒヨコは食料を食べ続けている。
 リーゼは直ぐにラフィールに加勢し、剣で斬り付けると、そのヒヨコは痛みで飛び上がり、逃げ惑う。


「ピギャアアアア!」


 小さな傷が付いただけだったが、大げさに飛び回り、そのヒヨコは走り回っている。
 馬へとぶつかり、偶然にも馬を繋いだ留め金が外れ、二頭の馬は大慌てで逃げて行った。


「お早いご臨終ですね。まだ一時間も経っていませんのに」


「せっかくの馬車を、焼き鳥にでもしてやろうかしら!」


「これでもくらっときな!」


 リサの大剣は、ヒヨコの体を斬り付けたが、ヒヨコはそんな事を気にする素振りも見せず、また食料を漁っている。
 何度も斬り付けるが、それは止まらず、半分以上を食べられてしまった。


「この鳥ッ、食料だけを狙って! ここで死にしんどきなさい!」


 リーゼの剣はその体を捉えたが、ほんの少しの切り傷を付けただけで、また鳥は跳ね上がり、大きな鳴き声を上げて、また忘れた様に食べ物を漁る。


「お待ちください皆さん。このヒヨコ、どうやら人を襲う様なものではないかもしれません。魔物ならば積極的に人を食いに来ますが、これは人には目もくれず、馬車の中の食糧だけを漁っていますから」


「魔物じゃないって、これがか? まあ確かにデカイだけで襲って来ないけど。どうしましょうか、ハガンさん」


「これが何であれ、食料を食い漁り、馬を逃がしたんだ。それなりの仕置きは必要だろう。この鳥には食料にでもなってもらおうか」


「お待ちくださいハガン殿、ここは私に任せてはもらえないでしょうか! こんなに可愛いのですよ? 私に少しチャンスをください。直ぐに手なずけて見せますので!」 


「こんな物手なずけて如何するんですか。こんなバカ食いする鳥なんて飼えませんからね!」


「食べられた物の分は働いてもらえば良いだけです。馬の代わりに馬車を引いてもらいましょうよ。大丈夫です、私、鳥の扱いには自信がありますので。五分、いや、三分で手懐けてみせましょう!」


「ふ~ん、やれるのなら良いのだけど、本当に出来るの? 襲われても知らないわよ?」


「任せてください、私の手に掛かれば…………はあああああああああ!」


 マッドがヒヨコへと近づき、その体を撫で始める。


「いよ~し、よしよしよしよし」


 頭の天辺から、足の先まで全てを。
 最初は少し警戒していたヒヨコだが、直ぐにその表情が和らぎ、うっとりとした表情を浮かべた。


「ふふふ、この通りですよ。さあ皆さん、馬車に乗っていてくださ痛ッ、あいたたたたた! 痛い、痛いですって!」


 我に返ったヒヨコは、マッドの体を嘴でつつき出した。


「失敗したみたいね。やっぱり退治しましょうか」


「お待ちくださいリーゼさん、これは毛繕いをしてくれているだけなのです! 別に攻撃されている訳ではありません! さあキーちゃん、此方に来て馬車を引いてくださいね」


 キーちゃんと呼ばれたヒヨコは、大人しくマッドの後ろへと付いて行く。
 マッドの事を随分と気に入ったらしい。
 マッドがロープを使い、馬車へと繋ぐと、その場で大人しく座っていた。


「へ~、マッドがこんな特技を持っていたとはねぇ。まっ馬車を引いてくれるなら良いさ。さあハガンさん、私と一緒に座りましょうね」


「リサさんは運転席じゃないのかしら? 他に馬車を運転出来る人なんていませんから。大人しく運転席に行ってください」


「残念ながら私には鳥類の扱いなんて出来ないのさ。さっきみたいにマッドが動かすんじゃないのかい?」


「…………それじゃあ、仕方ないですね。じゃあリサさんはマッドさんの席と交換しましょうか、そっちの窓際の席ですよ」


「ハガンさんは何処に座るんだい?」


「こっちの窓際よ」


「なんで対角なんだよ。このぐらい良いだろ! ほんの少しじゃないか、席を変えておくれ!」


「じゃあ俺の席と交代しようか。俺は別に何処でも良いからさ」


「ラフィールは黙っていなさい! ほんの少しが後々面倒な事になるのよ。そこで大人しく座ってなさいよ」


「はい…………」


「さあキーちゃん、準備は良いですか? もうそろそろ行きますよ。さあ飛ばして行きましょうか! ハイヨー、キーちゃん!」






 馬よりも速く走りだすヒヨコのキーは、ブリガンテに向かい爆進して行った。



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