一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

35 怪物達への挑戦

 べノムは空中を旋回しているた。
 地上の連中も気になるが、此方は此方で敵の相手をしなければならない。
 敵のスピードは俺よりも遅いが、全力を出してゆっくりと離せる程度だ。
 しかも此方の攻撃は全く当たらない。
 相手の方が旋回能力は高いらしい。


 敵の特徴は、毛が無い羽根のむしられた鳥、だろう。
 蝙蝠こうもりの様な羽根をしていて、毛が必要無いらしい。
 洞窟に入れない程には大きく、攻撃手段はそのくちばしと、足の爪ぐらいだ。
 だからといって、此方も彼方も攻撃が当たらないのなら、空を飛び回り続けるしかない。
 他の三人も似た様な状態だ。
 相手の攻撃は何とか避けられているが、他はさっぱり駄目だった。


「ダーク・アッシュ!」


 レアスは相手の動きを予測して、攻撃を続けているが、それが到着した頃には怪鳥はそこに居ない。
 魔法の球は明後日の方向へと飛んで行ってしまっている。
 ルルムムの大槌はかすりもしないし、炎が嫌いなのか、エルの方向へは全く行こうとしない。


カラス、敵の動きを止めなさい! もし止められないのなら、貴方の体でも食べさせてあげなさい! 貴方が食べられている間に、直ぐ倒してあげますから!」


「いやじゃボケ! 何で自分の体を食べさせにゃならんのだ! やりたいのなら自分でやれよ! お前が食われてる間に俺が倒してやるよ!」


「せっかくわたくしこまになれるチャンスだというのに、生意気な奴。ルル、あんな黒いのなど放って置いて、此方は此方で仕掛けますよ。エルさんもお願いしますわ」


「はい、お姉さま!」


「…………うん」


「魔法を撃とうにもあの黒いのが邪魔ですわね…………ああ、わたくしとしたことが、あんな黒いのの命を気にするなんて、馬鹿な事を考えてしまいました。全く、わたくしもまだまだですわね。お二人共、わたくしの元へ戻っていただけませんか。これからゴキブリ諸共もろとも、あの鳥肉を殺して差し上げますから!」


「…………分かった!」


「了解しましたわ」


「うおおおい、何言ってやがる! まさか本気でやるつもりかよテメェ。おい、ちょっと待て! ぬお、この糞鳥クソトリが、邪魔すんじゃねぇ!」


「さあ、直々に殺して差し上げますわ」


 彼奴レアスの目は本気だ。
 此処に居たら不味い!


 …………闇よ……漆黒よ……影より出でて……


「殲滅せよッ! ドレッド・レスト・ファング!」


 空が、いや、空気が少しずつ暗くなっていってる。
 透明度がなくなり、全てが見えなくなっていく。


「うおおおおおおおおおお、マジでやりやがった! 早く逃げねぇと巻き込まれる!」


 何処が安全だ?!
 地上なら…………
 駄目だ、地上にまでは行ってないと思うが、俺が行ったら敵まで追って来そうだ。
 そうなったら地上の兵に被害が広がってしまう。
 洞窟の入り口は遠い。
 後は…………あそこしかない!


「間に合ええええええええ!」


 俺は魔法に集中しているレアスに飛びつき、避難を完了した。
 魔法を発動した本人の場所なら絶対安全だ!


 空の闇が怪鳥へと収束して行く。
 怪鳥はその闇に包まれ、俺達の事は見えなくなっている様だ。
 怪鳥がいくら動こうと、その闇は怪鳥の周りにピタリと吸い付き離れない。
 そして、空気の様だったものが、一瞬にして刺へと変わった。


 ゾムッ


 それは怪鳥の体を引き裂き、バラバラの肉片へと変えて行く。
 飛ぶ事も出来ない肉片は、そのまま地上へと落ちて行った。


「…………それで、貴様は、このわたくしに言う事はないのかしら?!」


 殺気の籠った瞳で見下げられ、レアスの胸に埋まった俺は、慌ててその場から飛び退いた。
 さっきはマジで焦ったから、気にしていなかったが、これはちょっと不味いかもしれん。
 もしもロッテにでも見られていたら大変な事になりそうだ。
 いや、まあ今も物凄く大変そうだが…………


「い、いや、あの場合は仕方なかっただろ? 攻撃した事は忘れてやるから、今回は無かった事にしよう。まあ、お互いさまって事で…………」


「死ね」


 冷たく言い放たれた言葉と、首がもげそうな力で引っぱたかれ、俺は地上すれすれまで落ちて行く。
 ギリギリで体制を立て直して、なんとか助かった訳だが…………


「ッぶねぇだろうがコラ! 何度も何度も本当に殺す気か!」


「あら、生きていらっしゃったの? 流石に生命力の強いゴキブリだこと。ひしゃげて潰れれば良かったのに。はぁ……残念ですわ」


 余りの言い分に、今直ぐぶん殴ってやりたいが、こんな戦闘中にそんな事をしている暇はない。
 拳を震わせながら、我慢し、次の標的を探した。


「あんにゃろう、これが終わったら覚えていやがれ。今のこの怒りは、次の敵にぶつけてやる」


 敵を探す前に、地上を確認してみると、地上部隊はかなり苦戦している。
 アツシがペシペシと剣をぶつけているが、巨大な怪物には殆どダメージを与えられていない。


「ああ、もうグルグルと鬱陶うっとうしいわねー! ここはもうさっき思いついた、私の新必殺技を披露する時が来たわー!」


 おっと、フレーレが何かやるらしい。
 グルグル回る敵の背中から飛び降り、地上でその必殺技とやらを放った。


「旋烈脚ッ!」


 フレーレの蹴りが炸裂し、怪物の足の一部が弾け跳んだ。
 フレーレは受け身を取れず、地上へとぶつかったが、あのぐらいなら全く余裕だろう。


 そして怪物が片膝を突き、痛そうにしている。
 あの体だ。
 初めて負った傷の痛みに同様したのか。
 …………そういえばアツシが下に居たな。
 もしかしたら死んでるかもしれん。
 …………敵討ちという訳では無いが、少し参戦してやるか。


 俺は地上の兵では届かない、怪物の顔へと攻撃を仕掛けた。


 ギャンッ!


 それは物凄い硬さで、俺の斬撃ですら弾き返されてしまう。
 この大きさでこの硬さでだと、下の奴等だけではキツイかもしれない。
 あいつ等に頼むのはちょっと癪だが、俺達も参戦しないとキツイだろう。


「おい、お前等、降りて来い。まず此奴をやっちまうぞ!」


「ふん、まあ良いでしょう。二人共、行きますわよ!」


「…………うん」


「やってやります!」


 ルルムムの大槌と、エルの剣が、怪物の顔へと振り下ろされた。


「はああああああああああ!」 「・・・・・ッ!」


 ガインと完璧にヒットしたが、大きさの絶対値が違い過ぎる。
 衝撃は伝わっただろうが、そう大きなダメージは与えられない。
 大規模な魔法を使った所為で、暫くは魔法を使えないレアスは、爪で攻撃を仕掛けるが、傷一つ付かなかった。


「じゃあ此処ならどうかしらッ!」


 ルルムムの槌が今度は眼球を狙う。
 大きな瞼が閉じられたが、構わず槌をぶん回している。


 ドっゴーン!!


 槌の衝撃が、瞼の裏へと伝わって行く。


「グオオオオオオオオオオオオオ!」


 頭をブンブンと振り回すが、足場の要らない俺達には関係ない。
 二度三度と、同じ個所にぶつけられ怪物が嫌がっている。
 その間に怪物の死角へと回り込み、逆側の眼球へと斬撃を仕掛けた。


 プシャっとした手応えと共に、その瞳が両断され、もう一方は大槌で打ち続けられている。
 何も見えなくなった怪物は、その瞳を開けてしまった。


 グバーン!!


 その一瞬を捉え、ルルムムの大槌が炸裂した。
 両目を失った怪物は、大きく暴れ、別の怪物へと向かって行った。 






 そして怪物同士がぶつかり合い、一方は角で突き刺され、もう一方はその重さにより畳みかけられ、同時に命を落とした。



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