一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

32 王道を行く者達56

 大蝙蝠を退治し、マッドが、痛みで暴れるリーゼを抑え込み、回復魔法を唱えている。


「あああああああああああああああああああああ!」


「動かないでください! 変な風にくっ付いたら、また切らなきゃ治せませんよ! 良いですか、少しだけ我慢してくださいね。 …………いきますよ……ヒーリング!」


 リーゼの千切れかけた腕がゆっくりと繋がり、その痛みが徐々に収まって行く。


「…………よし、繋がりましたよ。これで大丈夫、もう痛みもないでしょう? もし何かあったら言ってくださいね。ああ、まだ動かないでください。もう少し安静にしていてくださいね」


「…………うん、大丈夫、ちゃんと動くわ。マッドさん、ありがとう、助かったわ。ちょっと頭が痛いわね。血が足りないのかしら」


「流れた血はゆっくり増えて行きますから、後五分もすれば治るでしょう。これは私が回復魔法が得意だから出来るんですよ、他の人には出来ない芸当なんですからね!」


「はいはい、分かったわよ、ありがとうマッドさん」


「いえいえ、戦闘ではお役に立てませんからね。その分は回復魔法で補っているだけですよ。お礼を言われる事じゃありません。それより、まだ戦いは終わっていませんよ。もう少しの間は離れて見ていましょう」


「あいつまだ生きているの? もう少ししたら倒しに行ってやるわ。 …………うっ、頭痛い」


「血が足りないと言ったでしょ、暴れないで横になっていてください。それに相手は先ほどの蝙蝠じゃありません。今は蝙蝠を倒され焦ったのか、あの小人達が攻めて来ているのですよ。あれならたぶん大丈夫でしょう。皆さんなら直ぐに片づけて戻って来ますよ」


「三人で大丈夫なの? 相手の数は? 皆に怪我は無い?」


「え~とですね、数は三十です。先ほど数えましたから。皆さんに怪我はありませんし、あの三人でしたらきっと大丈夫ですよ」


「そうよね……今の私が行っても足手纏いになるだけだろうし、皆を信じて待ちましょうか」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 ハガン達三人は、大勢の小人達に周りを取り囲まれ、もう戦いが始まりそうだった。


「ラフィール! 今防壁は幾つだい?! まだ残ってるなら盾になっておくれ!」


「もうとっくになくなってるさ、悪いけど自分の事は自分で護ってくれよ! 数が多すぎてあんまり余裕がなさそうだからね!」


「チィッ、弱いとはいえ数が多い。あの大きさならお前の魔法で吹き飛ばせないか?」


「良し、試してみよう。魔法を使うから俺の前には出ないでくれよ! 行くぞ……風よッ標的を吹き飛ばせッ!」


 ラフィールの放った魔法が、目の前の五体を吹き飛ばす。
 一体はそれに耐えたが、ハガンが走り、それを蹴り殺すと、ハガンは吹き飛んだ相手二体に止めを刺した。
 それが戦いの合図となり、他の小人達が一斉に襲い掛かった。


「残りは何体だ? まだうじゃうじゃいるな!」


「数えてる暇があるのなら手を動かしなよ! 気ぃ抜いてるとやられるよ!」


 リサは相手の攻撃を受け止め、力で押し返し、そのまま剣を振りぬくと三匹を同時に斬り倒す。
 ハガンは敵の頭を足場にし、その頭を踏みつぶすと、敵の攻撃を避けながらリサを狙った一匹を蹴り倒す。
 更に体を捻り、回転して別の敵の頭へと一撃を叩きこんだ。
 ラフィールは盾を構え、前進して行く。
 敵の攻撃を構わずに押し返し、そのまま盾を左へと払い、二体を弾き飛ばす。
 右手に構えた剣で、眼前の敵へと一撃し、斬り返して右へと薙ぎ払い、もう一体を斬り倒した。
 一歩下がって敵の攻撃を誘いこみ、攻撃して来た二体を撃破した。


「もう一回だ! …………風よッ標的を吹き飛ばせッ!」


 小人達が慌てて避けようとしているが、間抜けにもぶつかり合った。
 二体だけが吹き飛ぶが、その隙を狙い、小人の軍勢がラフィールへと攻め寄せる。
 リサはそれを防ぐ為に大剣を振り、二体を斬り倒す。
 ハガンは、吹き飛ばされた二体へ向かい、止めを刺した。
 敵の残りは半数を切り、ここからはハガン達が攻め込む番だ。


「そろそろ、攻め落とすぞ! 行くぞ、二人共!」


「応!」 「さあ、つっこむよ!」


 三人が一斉に走り、相手の本陣へと攻め立てる。
 リサが相手の武器ごと斬り倒し、まずは一匹!


「最初の一体は貰ったよ!」


 リサの剣が通り過ぎた所へハガンが向かう、敵の頭上へと踵の一撃が落ちる。


「これで二体目だ!」


 ハガンは右側へと進路を変え、二匹の足を払い、ラフィールがそれに止めを刺した。


「四体目!」


 リサはハガンと逆へと動き、横薙ぎから遠心力を付け、上段からの一撃。
 目の前の一体だけでなく、後に居たもう一体までも両断し、これで…………


「六体目だね!」


 小人の石斧がラフィールの首筋を狙っている。
 ラフィールはそれに気づき、体を捻ってそれを回避した。


「うをっと! 危ないなッ、これでもくらえ!」


 ラフィールは盾を使い、相手の顔へとぶつけ、止めにと剣で突き刺し、剣を引き抜いて更に一体を斬り倒す。


「七体、八体!」


「よし、今度は此方が囲む番だ、二人共散開しろ!」


 残り七匹を取り囲み、三人は一気に距離を詰める。
 鋼鉄を仕込んだハガンの足が二体を捉え、ラフィールの剣の一撃が、敵の一体を斬り裂く。
 逃げ道を塞ぐ様に、リサの大剣が三体を同時に倒した。
 そして残りはたった一体。
 だがその一体は、攻撃を潜り抜け、逃げて行った。


「逃がすな、また増えるぞ!」


 追い掛ける三人だが、そこへ、小人に炎が飛ぶ。


「バースト・ファイヤー!」


 逃げた小人に、リーゼの放った炎が直撃し、その体を墨へと変えた。


「あ~、ちょっとスッキリしたわ。もうこれで終わり?」


「ああ、これだけだね。後はこいつの巣を壊して終わりだね。それより、リーゼちゃんは大丈夫なのかい? もうちょっと休んでいた方が良いんじゃないの?」


「大丈夫よ、もう痛みも治まったし、でもちょっとお腹が空いたかな」


「死体だらけで少し気が引けるが、今の内に食事を取っておいた方が良いかもな。少し腹に入れたら、敵の巣を探すとしようか」


「ええ、そうしてくれると有難いわね」


 リーゼ達はかたいパンをかじり、少し腹に入れると敵の巣を探し出した。
 小さな洞窟の中にあるそこには、少数の小人の兵と、水の球の様な物に入った小人の子供達いる。
 それがズラリと並び、もしかしたらこれが卵なのかもしれない。


「一体も残すなよ、また増えだしたらたまらんから」


「そうね、容赦なく、斬り倒すわ!」


 合計百五十もの卵を潰し、リーゼはその洞窟の内部へと魔法を放った。


「バースト・ファイヤーッ!」






 洞窟の中が炎で焼き焦げ、もう生き残ってる小人は居ないだろう。
 リーゼ達は村へと戻り、戦いが終わった事を報告した。



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