一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

31 キメラの巣攻略作戦

 壇上の上、僕は目の前に居る兵士達を見回す。
 カラスに似た形の者や、最強と言われている者、欠伸をしながらナンパしている奴も居る。
 その中にはアツシやストリーさん、エリメスさん達も参加していた。
 百は超えないかもしれないが七十人、八十人ぐらいはいるかもしれない。


「さあイバス君、挨拶をしなさい。最初の挨拶は肝心だぞ、ビシッと決めて来なさい」


 今隣に居るこの人は、僕をサポートしてくれるダディスさん。
 この人、実はすっごい偉い人で、学校の教科書とかにも乗っている。
 軍師ダディスと言えば、軍の中では有名人で、若い時には相当活躍したらしいのだが、今はもう半隠居生活をしている、八十近いご老人だ。


 先輩が上に報告に行く時に、何度か僕の活躍を聞いていたらしい。
 それで興味を持ち、弟子にしたいとか言われてしまった。
 僕としては乗り気ではないが、上からの頼みだからなるべく聞かなければならない。
 下っ端の辛いところだ。


「うえ、こんな所でですか…………わ、分かりましたよ。行けば良いんでしょ、行けば」


 ここで逃げ出したら後々何を言われるのか分からない。
 もし逃げたら、陰口やら虐めやらが待っていそうだ。
 緊張を抑えつつ、僕は挨拶をしてみた。


「えっと……僕はイバスです……し、死なない様に頑張りましょう…………」


 僕の気合の抜けた挨拶で、ズラリと並ぶ強面の面々の、指揮が下がるのを感じた。


 ザワザワザワ


「おい、本当に彼奴で大丈夫なのか? ダディスに任せた方が良いだろ」


「何だか頼り無さそうな奴だ。此奴に命を預けて良いのかよ?」


 次々に飛ぶ不安の声、全くその通りで、僕がそっちに居てもそう思う。
 サポートしてくれるとはいえ、こんな新人に指揮をさせるなんて、何てクレイジーなんだろう。


「さあイバス君、出発の命令を」


 全員が僕を注目し、沈黙の時間が流れ、皆が僕の言葉を待っている。
 僕は物凄い圧力を感じ、仕方なくそれを言った。


「…………え~っと、じゃあ……出発で」


「おっしゃああああああ、行くぞお前等! 新しい軍師様に、負担を掛けない様にしろよ! 全軍、南の遺跡に進軍だ。さあ行け、行け、行けえええ!」


 カラスっぽい人が、号令を掛け、全軍が動き出す。
 これ僕は必要無いんじゃないの?


 僕は立派な戦車チェリオットに乗せられ、進軍が始まった。
 何だかとっても居心地が悪い。
 もしかしてこれは虐めか何かだろうか?
 無事に南の遺跡に到着すると、ここから如何するのかとダディスに尋ねられた。


「さて、ここからは如何するかね? 思った通りに言ってみなさい」


 もし上手い事やったら、僕を軍師にでもする積りなのかな?
 軍師、自分で戦う分けでもなく、楽って言えば楽なのかもしれない。
 しかし、その言動一つで、何人も人が死ぬという狂気の仕事である。
 そんなのは僕には全く向いていない。
 僕がそんな事していたら、何時か心が狂ってしまう。
 あまり良い事はなさそうだ。


「え~っと……じゃあ魔法で壁を掘れる人居るのかな? あの道からは普通に降りられないんだよね。もし居たなら、別の道から遺跡の地下広場に出れるから、そこから穴を掘り進めて、敵の巣までつなげようか」


「ふむ……そこの者、伝令を伝えよ。まずは土の魔法を使える者を集めるのだ。集め終わったら、遺跡の地下広場から、敵の巣へと進む道を作れ」


「了解しました」


 ダディスの命令を聞き、すぐさま伝令兵が走る。
 そして何人か選抜され、遺跡地下へと入って行った。


「ふむ、あの人数ならば一時間も掛かるまい、その間に次に進めるぞ。イバス君、次は如何するね?」


「う~んと、上の入り口には、飛べる人を配置したいですね。それと、今掘ってる人達を半分上の道に行って貰って、もし撤退とかになったら、洞窟を埋めて貰うとか? 少しぐらいなら時間を稼げるかも?」


「崩すだけなら、二人も居れば十分だな。上の道と下の道に、各二名配置で良いな」


「あ、はい、じゃあそれで…………」


「それで次は如何する?」


 はあ、まだ僕に考えさせるのか…………う~んと、敵は多数だから、此方もチームを組ませるべきかなぁ?


「じゃあ四人ぐらいで各自チームを組ませましょうか? 何時もそうしているし、その方が戦い易いでしょう」


「ではそうさせるとしよう」


 ダディスは伝令を飛ばし、チーム分けが始まっている。
 流れる様に話が進んで行くけど、本当にこれで良かったのか?
 良く分からないけど、正解だったなら教えて欲しい。


「さてと、そろそろ、総攻撃と行くかね?」


 攻撃しろと言ってるのか?
 何か引っかけっぽいなぁ、う~ん、もう少し考えてみるか? 
 まず上の通路、飛べる者達を配置し、撤退の為、土の魔法を使える者が二名残っている。
 人数としては二人を入れて全員で十人。 


 遺跡の広場には通路が完成し、ここに地上の兵を置いている。
 此方の数は八十人、四人が撤退の為に残っているので、十九部隊が戦闘に行く訳か。
 このまま全軍で行ったとしても、敵の数の方が多い。
 僕が見た時には二十以上はいそうだった。
 となると、此方が不利だよなぁ。


 う~んと、如何しよう?
 敵の大型は拠点に入って来られないし、比較的小さいものは、拠点に引き込んで倒してしまうか。 数を減らして行けば、此方が有利に戦えるし。
 良し、そうしよう。


「まず拠点に敵を引き込んで、倒して行きましょうか。一匹ずつなら、簡単に倒せるでしょ? 大きなものは入って来られないし」


「宜しい。ではそれを伝え、実行しよう」


 引き込んだ敵は十を超え、もうそろそろ大型のものだけになっている。
 後は総攻撃で? いや、まだ残っている敵が居るかもしれない、二部隊ぐらいは辺りを見回らせて、対処させよう。


 残り十七部隊が暇をしている。
 僕はその部隊に命令を下した。


「じゃあそろそろ、大型の敵を倒して行こうか!」


「行くぞお前等、遅れるんじゃねぇぞ! 数が少ないからって、地上の部隊に負けるなよ!」


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」




「私に続きなさい、上の部隊なんかに負けるんじゃないわよー」


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」






 そして巨大キメラの討伐が始まった。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品