一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

25 無駄足だって言ってただろ?

 ここは人の手で作られた、迷宮の様だ。
 あれからアスメライが先頭を進み、一本目の分かれ道を左に、そして次は右に。
 それを何度か繰り返していると、来た道さえ分からなくなる程複雑に入り組んでいた。
 そんな道に迷い込んだ僕達は、困り果てていた。
 今アツシが発狂しそうになっている。


「あああああ、もう何時間同じ所回ってるんだよ! やっぱりこんな所来るんじゃなかった!」


うるさいわよアツシ、私の言う事を聞いてれば何時か出れるわよ! 今マッピングしてるんだから騒がしくしないで!」


「お前がそもそもドンドン進むから、入って来た道まで分からなくなったんじゃないかよ! 少しは反省しやがれ!」


「あんただって何も言わずについて来てたじゃないのよ! 此処まで来て文句言うんじゃないわよ!」


「終わった事を何時までも言ってても仕方ないだろ。誰もこんな広いなんて思わなかったんだ。何か方法を考えようよ」


「ふん、分かったわよ。じゃあ貴方が何か考えなさい。これからは貴方が指揮を取って!」


「はぁ、まあそれで良いならやるよ。このままアスメライに任せていたら永久に出れない気がするし」


「あんた、私の事舐めてるでしょ? こら、目を逸らすな! 任せるからには、きちんと脱出させなさいよね!」


「あ~、はいはい」


 アスメライとのやり取りを適当に切って、僕は考え始めた。


 さあ如何しようか?
 途中で洞窟に印がしてあるのを発見したけど、今更それが分かった所で、僕達にはその意味が分からない。
 さっきアスメライのマッピングを見たが、棒が描いてあるだけで、あんまりマッピングするタイプじゃない様だ。
 こうなったら僕達も印を付けて行くしかないか?


「それじゃあ、道に番号を書いて行こうか。今居る場所を壱番、分かれ道になったら番号を増やして行くんだ。進んだら来た道に同じ数字を、もし番号がぶつかったなら、書いてある番号、例えば進んだ所が三だったら、三-五とか来た道の番号を書くんだ。マップしなくても分かり易いだろ?」


「番号? 傷だけじゃ駄目なのか?」


「よく見ると壁に印があるだろ? 前に来た人が印を付けて行ったみたいなんだけど、僕達にはそれがどんなマークなのか分からないし、もし混ざったら分からなくなるからね。出来る限り同じ場所に、分かり易く書いて行こうか」


「何とかなりそうな気がするし、じゃあやって行こうかね。此処は壱で良いんだよな?」


「ああ、それで良いよ。じゃあこっちに行ってみるか」


「じゃあ私に付いて来なさい。さあ、行くわよ!」


「おい、ちょっと、行き過ぎないでくれよ。また迷ったら如何にもならないからね」


 僕達は、番号を付けながら進んで行くのだが…………


「…………な、なあ、もうそろそろ数が六十を超えそうなんだけど、本当に出口があるのか? まさか、誰かが壁を移動させてるんじゃないだろうな?」


「そんな事しても分かるって。壁だけじゃなくて地面にも番号付けてるんだからね。もうちょっとだけ頑張ろうよ、そろそろ何かあっても良いはずだ」


「進んだ先は、行き止まりがあるだけだったりしてな」


「その時はまあ、なんとか来た入り口を探すしかないんだが…………」


「お、待て、あれじゃないか。あそこに階段があるぞ! おい、行ってみようぜ!」


 アツシが階段を発見したらしい。
 見るとそれは上の方に伸びて、此処から出られそうなきがする。


「そうだなぁ、この上には何があるか分からないし、もしかしたら敵が居るかもしれないだろ? この辺りで一度休憩して行こうか。ほら、アスメライの息も切れてるし」


 アスメライは肩で息をしている。


「私は別に疲れてないわよ! こんな階段ぐらい直ぐに上がって行けるわよ! …………でも、敵が居るなら仕方がないわね。今回だけは言う事を聞いてあげるわ」


「あれだな、アスメライはツンデレって奴だな。そろそろ良い感じになるんじゃないのか?」


「はぁ? 何そのツンデレって? どんなものか言ってみなさいよ」


「ほう、言って欲しいのか? 良いだろう、教えてやるぜ。 お前みたいなキツイ奴が、好きな奴の前では優しくなって、大好きオーラを出しちゃう事だ!」


「なッ! 馬鹿じゃないの、私が誰を好きだって言うのよ! 私が好きなのはお姉ちゃんよ!」


 言われなくても知ってる。
 アツシが感じているのは気のせいだ。
 そろそろ本当に怒り出しそうだから止めて欲しいけど、今は空いた腹を満たしたい。
 僕は腰に吊るした袋から、パンと干し肉を取り出し、干し肉に少し水をかけて、そのままかじりついた。


「よし、食った。少し足りないけど、まあこんなもんだよな。それじゃ如何する、もう少し休んで行くか?」


「アスメライは行ける? 何ならもう少し休んでもいいよ?」


「舐めないで、このぐらいの事は慣れているんだから。私の心配をするぐらいだったら、自分の心配でもしていなさい。じゃあ進むわよ!」


 階段を上り、鉄の蓋を開けた先には、そこは普通の教会の中だった。
 教会に来ている人々や、シスターの姿も見える。
 その人の中には、何度か見かけた事がある人達も。
 …………ああ分かった、此処は王国の中じゃないか?
 やっぱり完全な無駄足だったじゃないか………… 


 僕は愕然がくぜんとしながら、その場で倒れこんだ。
 後ろから来た二人も此処が何処なのか気付いたらしい。
 おいて来た馬は如何しよう。
 やっぱり回収しないと怒られるよなぁ。


「僕ちょっと馬を取りに行くんで、二人は帰って良いよ。それじゃあ行って来る…………」


「待て待て、今から行ったら夜中になっちまうだろ。帰りに敵でも出たら、お前一人じゃ倒せないだろ? 仕方ないからついて行ってやるよ。まあ一応相棒だしな」


「私も行くわよ。此処で抜けて、貴方達に死なれでもしたら気分が悪いじゃないの。最後まで付き合うわよ」


 二人の友情に感謝し、僕達はまた階段を下り、迷宮へと足を踏み入れた。
 壁や地面に書き記した番号を辿り、最初の場所へと戻ると、そこから頑張ってロープが有った場所まで戻った。
 あのロープを登り切った時にはフラフラになっていたが、今日はとりあえず分岐していた所を無視して、馬車で王国まで戻った。


 今日の教訓…………無計画に突っ込んだら駄目、絶対!






 次の日、今度こそ分岐地点を調べる為に、アツシと待ち合わせをしていたが、そこに居たのはエリメスさんとレーレさん、もう一人、アスメライまでがその場で待ち構えていた。
 たぶんついて来る気なのだろう。
 まあ、戦力としては助かるかなぁ…………



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