一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 姉妹二人の捜索

 此処から戻ったなら、寄り道しなければ王国への道は今来たルートと同じだ。
 地面を良く見ながら移動し、僕達はエリメスさん達の手掛かりを捜索している。


「イバス、何かあったか? 砂と石ばかりで俺の方はさっぱりだ」


「いや、此方も何もないな。このまま地道に探すしかないか」


 こうしている間にも時は過ぎていく。
 二人の事が気になるが、早く移動して手掛かりを見落としても困る。
 ざわつく心を抑えながら、ゆっくりと歩みを進めた。
 だがそれも、時が一時間、二時間と過ぎて行くと、心のざわつきが抑えられなくなってくる。


「クッ、やっぱり何もない。こっちに来たんじゃないのか!」


「落ち着いてください。大丈夫です、ある程度の足跡が分かるなら、私の力で探す事が出来ます! 余りやりたくはないですが、緊急事態ですのからね」


 レーレさんは地面に膝を突き、四つん這いになる。
 地面に鼻先を地面に近づけ、鼻をヒクヒクさせながら、二人の匂いを探していた。


 猫の嗅覚は、犬よりも弱いと聞いた事がある。
 だからと言って馬鹿にすることは出来ない。
 その匂いの感覚は、人間の十万倍とも言われているのだ。
 犬の様に臭いを辿るのは難しいかもしれないが、近くに何かあるのなら、反応出来るかもしれない。


 彼女に任せておけば、きっと何か分かるはずだ。
 ちょっと安心したら、僕は彼女の尻尾が気になりだした。
 お尻を上げて尻尾をフリフリされていると、何だか凄く誘われている気分になる。


「おい、今何しようとしてた? まさかお前、こんな時にセクハラしようってんじゃないだろうな?」


 うを、いけない、いけない。
 無意識のうちに手が伸びていた。
 アツシが来てくれて助かった、あのまま続けていたら、僕は完全に変態になってしまう所だったっぞ。


「そんな訳ないよ! ただちょっとレーレさんの尻尾が気になっただけだ!」


「お前、結構末期だぞそれ…………はあ、もう良いから早く探せよ。こんな事している場合じゃないだろ?」


 うぐ、アツシに言われるとは思わなかった。
 次からは気を付けよう。
 それから暫く捜索を続けていると、レーレさんが何かを見つけた。


「ッ! 発見しました! お二人共、これを見てください。これはアスメライさんが付けていたアクセサリーの破片です。この欠片が彼方の方に続いている様ですよ!」


「なるほど、此処で何かあったのでしょう。もしかしたらキメラに襲われたのかも…………分かりました、このまま先に進んでみましょう」


 馬に乗れないアスメライさんが、もしもの為に目印を残したのか?
 他に手掛かりはない。
 キメラが居るとしたら、注意して進まなければ。


「こりゃあ行くしかないよな。二人共行こうぜ!」


 三つ、四つ、とアクセサリーの残骸が続いて行く。
 だが五つ目からは何も発見出来なくなってしまう。
 このまま真っ直ぐ進んで行くしかない。


「おい、あれを見ろ! 何かあるぞ!」


「これは…………血の痕ですね。エリメスさん達のものではないようです。この臭いは嗅いだことがありません。おそらくは敵となる者の血でしょう。二人は逃げながら戦っていたのでしょうね」


 この先に何かあるか探る為に、地図を確認してみた。
 如何やらこの先には村があるらしい。
 だが村の上には×印が付けられて、すでに潰れてしまった村の様だった。


 誰も住んで居ない村、逃げるのならそこだろうか?
 馬もそう何時間も走れない。
 キメラをやり過ごし、その村に隠れたのだろう。


「この先には朽ちた村があるらしい。二人共今からそこに行こう。きっと二人は生きているはずだ!」


「はい、直ぐに向かいましょう!」


「やったな、あの二人ならきっと生きていると思うぜ!」


 僕達は村の入り口に到着すると、その入り口に無残に食い散らかされた馬の残骸が残っている。  馬を見分ける事は出来ないが、この色は二人が乗っていた馬と同じ色だ。


「此処に来たのは間違いない様だな。でもよ、此処に逃げたのなら、追って来た敵は何処行ったんだ?」


「さあね。倒されていないなら、その辺りに潜んでいるかもな? アツシ、一応剣は抜いて置けよ」


「おいおい、マジか。何処に居やがるんだ!」


 村といってもそれなりに広い。
 家の周りには畑が広がり、家同士はかなり離れている。
 見晴らしは良いのだが、だから居ないとは言えないだろう。
 キメラには土の中に潜む奴もいるらしい。


「いえ、この辺りには居ない様ですよ。二人が居る気配も無いですから、もう少し奥に進んでみましょうか」


 なる程、猫の探知能力か。
 音を聞き分ける能力は、犬よりも優れている。
 その力は人の四倍程で、敵の居る位置や距離まではっきり分かるらしい。
 もしかしたら近くに居る僕の鼓動まで聞こえているのかもしれないな。
 ああ、尻尾触りたい。


「戦力が増えれば戦うのも楽になるし、出来れば先に二人を見つけたいな」


「むしろそんな奴と戦いたくない。出来れば何処か行っててほしいぜ」


 村の中はとても静かだ。
 誰も居ないから当然なんだが、その静けさが今は恐怖に感じられる。
 一軒、二軒と探し周り、次に見つけたのは崩れた民家だった。
 レーレはその中に気配を感じると言う。


「たぶん、お二人はこの中に閉じ込められています。何かを話しているみたいなのですが、声が籠ってよく聞き取れません」


 話しているなら、二人は生きているという事か。
 耳をましても、僕には全く聞こえない。
 家の残骸が音を吸収して、此方まで音が届いていないのだろう。


「おい、生きているのなら返事をしろ! 俺達が助けに来たぞ! …………チィ、聞こえないぜ。まさか死んでるんじゃないだろうな?」


「アツシ、こういう時は、打音で知らせるのが良いと聞いた事がある。此方の声が届いているのなら、その事を伝えてみよう」


 レーレさんの事を信じない訳ではないが、僕達にも何か証拠が欲しい。
 二人の生存が分かるなら、此方もそれだけ頑張れる。


「おい、聞こえるか二人共! 聞こえてるなら何か叩いてみてくれ。こっちに声が聞こえないんだ!」


 アツシはコンコンと、剣の鞘で崩れた家の材木を叩き出す。
 そして音を止め、少し待つと、材木の奥からコーン、コーンと何か叩く音が聞こえだした。


 よし、二人は生きている。


 二人の無事を確認し、救助を始めようとした時、僕達の声に誘われて、二人を追っていたキメラが現れた。


「お二人共、敵が接近しています! 戦いの準備をしてください!」


「クソッ、見つかったか。ここで勝たなきゃ二人は助けられないぜ。気合入れろよイバス!」


「それはこっちのセリフだ。アツシこそ油断してると食われるぞ!」






 二人を救出する為に戦いが始まる。



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