一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
9 アスメライの好きなもの
エリメスに案内されたのは、大勢が住む住宅の一室だった。
二人で住むには少々狭いだろう。
「ここですアナタ。ここにアスメライちゃんが居ます」
「そのアナタって言うの止めてください。まず友達だって言ったでしょ。イバスと呼び捨てにしてくれればで良いですよ」
「そう呼べと言うのなら構いませんよイバスさん。それじゃあ妹を紹介します・さあ入ってくださいな」
扉を開けた先には、アスメライと呼ばれた女性が居る。
エリメスとはどことなく似ていて、血の繋がった姉妹なのだろう。
黒くウェーブが掛かった長い髪。
エリメスを若くした感じで、こちらの方が少し可愛らしい。
並べるとどうしても比べてしまう。
内面を比べない限りは、完全な上位互換だろう。
もしかしたらエリメスが結婚出来ないのは、近くに妹が居るからかもしれない。
「誰その人達、まさかまた変な人を連れて来たんじゃないでしょうね。お姉ちゃん、そろそろ私も怒るよ?」
「ち、違うのよ、実はこの人達に頼まれ事をしちゃってね。私と結婚する代わりに仕事を手伝ってくれって言うのよ。だから私、この人と結婚して、良い家庭を築いて行こうと思うの」
「いや、言ってないですよ! 任務を手伝って欲しいのは本当ですけど、結婚は嘘です。報酬は剣って事で納得してたじゃないですか!」
「おいイバス、結婚してやれよ。俺は別に剣じゃなくても構わないぞ。俺には害が及ばないからな」
「だったらこの件は諦めますか。一緒に仲良く牢屋に入りましょうか!」
「テメェこの野郎、男の尊厳を失っても良いって言うのか! よく考えろ、チャンスはこれだけなんだぞ。良し俺が悪かった。謝るから一緒に頑張ろうぜ!」
「そういう事なのアスメライちゃん。それでね、私だけじゃ戦力不足だから、アスメライちゃんも誘おうと思って此処に来たのよ。一緒に行きましょうよ」
「それお姉ちゃんが受けたんでしょ。私には関係ない事じゃない。三人で行って来たら良いんじゃないの」
「もう、アスメライちゃんったら、一緒に付いて来てくれても良いじゃないの。ねっ、一緒に行こ?」
「そ、そんなに言うんだったら付いて行ってあげるわ。全く、お姉ちゃんったら勝手なんだから」
その顔はなんだか嬉しそうだ。
アスメライって人は、随分と姉の事が好きらしい。
「それで、その仕事って言うのはどんなものなの? あんまりむちゃな内容だったら無理だけど」
「南東にある洞窟に住み着いたキメラを倒しに行くんだ。俺達だけじゃどうにもならないから、手伝って欲しいんだよ。報酬はこの剣だ。相当な業物だぞ」
「ふ~ん、私は剣を使わないから分からないわ。じゃあちょっと準備をするから、部屋から出て行ってくれないかな?」
「ああ、すみません。では入り口で待っていますから、用意が出来たら来てください。アツシ、見ていないで行くよ。それともストリーさんに言いつけて欲しいのか?」
「分かったよ。言い付けられちゃ敵わないからな。んじゃ、後でな」
部屋の扉が閉まり、僕は入り口に向かおうと思ったが、アツシが扉に耳を付けて、中の様子を探っている。
「おい、見つかったら更に不味い事になるぞ。早く行こう」
「まあ待つんだイバス、あいつ等がまた逃げないとも限らないだろ。もしまた逃げる様な事を相談していたら不味いだろう? お前も少し聞いておけ」
一理あるのか無いのか分からない言い分だったが、確かに逃げられたら困る。
僕も耳を当てて二人の声を聞いた。
「お姉ちゃんもそんな恰好じゃ駄目よ、私も手伝ってあげるから上を脱いで。ああお姉ちゃんのおっぱい、温かくって凄く気持ち良いわ」
「アスメライちゃん、このぐらい自分出来るから、自分の用意をしなさい。二人を待たせちゃうでしょ」
「駄目よ! 綺麗な体で行かないと、あの人もガッカリするでしょ! ほら、下着を履かせてあげるから、足を開いて。良いわ~、お姉ちゃん良いわ~、ああんもう、下着の前にちょっと手入れしなくちゃいけないわね。もうちょっと股を開いてみて…………」
「ああん、ちょっと恥ずかしいわ…………」
あの妹は姉に対して親愛以上の何かを持っている気がする。
たぶんもう逃げる気とかないだろう。
これ以上聞く必要は無い。
「アツシ、流石にこれ以上聞くのは駄目だ。逃げる気もないだろうし、外へ行こう」
「待て、今良い所なんだ。もうちょっとだけ待ってくれ。ほんの後五分ほどで良いんだ」
「じゃあストリーさんに…………」
「ふん、そう何度も脅しには乗らないからな。もう少しだけで良いんだ。もうちょっと聞かせてくれよ」
新婚だと聞いたのだが、こんな人と結婚しても長く続かないんじゃないだろうか?
おっ、あれは?
「あ、ストリーさんだ。お~い、こっちにアツシが居ますよ! こっちです」
「そんな脅しにはッ…………!」
一瞬アツシは通路の方を見て、居たのが本物だと分かると、後ろに大きく跳び上がり、反転して逃げて行く。
よっぽど怖かったんだろうか。
ストリーさんが気付く前に消えて行った。
僕の声を聞いて、ストリーさんがやって来た。
話すのは初めてだが、噂だけは山程聞いている。
アツシが逃げる態度を見ると、この人が本当に怖いのだろう。
「お前か? 私を呼んだのは。アツシがどうのとか言っていた様だが、何か用か?」
「ああ、今度からコンビを組ませてもらう事になったイバスです。ちょっと挨拶しようと思って、お呼びしたんですよ」
「むっ、そうか。お前がか、浮気しているんじゃないかと思っていたんだが、ちゃんと仕事をしている様だな。アツシの奴はどうだ? 上手くやっているか?」
「はい、これから任務で外へ出る所です。この部屋の人達と一緒に行く予定なんですよ。ストリーさんもお暇なら一緒に来ませんか?」
「いや、私も用があるんだ。任務はアツシと頑張ってくれ。もし危険だと思ったなら逃げるのも手だからな、命だけは気を付けてくれ」
心配そうな表情をしているストリーさん。
こうして見ると噂が嘘の様だ。
おっと、中の二人がそろそろ出て来るかもしれないし、そろそろ離れた方が良いだろう。
「はい、じゃあ僕は行きます。また今度話でもしましょう。それじゃあまた」
僕はストリーさんと別れ、入り口へ行くと、そこには茂みに隠れ潜んだアツシが居た。
「おい、彼奴は行ったのか? 近くにいないだろうな?」
「たぶん、別の所に行ったんじゃないかな。用事が有るって言ってたから、誰かに会いに来たんじゃないかな?」
「そ、そうか、俺は此処に隠れているから、二人が出てきたら呼んでくれ」
そう言いアツシは茂みの中へ身を潜ませる。
「そんなに嫌なのか? 嫌いなら別れたらいいじゃないか?」
「いや、嫌ってる訳じゃないんだ。最近喧嘩したから会いづらいだけだ。これでも俺達は好き合ってるんだぜ」
この状態を見ると、とてもそうは見えないが、男女の関係は色々あるのだろう。
「お待たせいたしましたイバスさん。その、如何ですか?」
二人が着替えを終えて入り口にやって来た。
エリメスは綺麗な鎧を身に着け、長い髪は邪魔にならない様に後で縛っている。
女性は化粧で変わると言うが、普通だった顔が、今は中々綺麗に見えた。
しかしここで綺麗だ、可愛い等と言ったら、勘違いさせてしまいそうだ。
適当に答えて、はぐらかしておこう。
「急がないと時間が無いです。まず食料とか野営の道具を買って馬で行きましょう! さあ早く!」
「待ってくださいイバスさん、私も付いて行きます!」
僕は足を速め、商店へ向かった。
「ねえ君、あの二人って好き合ってるの? どう見てもそう見えないんだけど」
「いや、あの姉ちゃんが勝手にそう言ってるだけだ。イバスの方は全く気がないと思うぞ。心配しなくても、まあ上手くは行かないだろうな」
「ふ~ん…………」
僕達は商店で道具を買いあさり、馬を借りると洞窟へと出発した。(軍の付けで)
二人で住むには少々狭いだろう。
「ここですアナタ。ここにアスメライちゃんが居ます」
「そのアナタって言うの止めてください。まず友達だって言ったでしょ。イバスと呼び捨てにしてくれればで良いですよ」
「そう呼べと言うのなら構いませんよイバスさん。それじゃあ妹を紹介します・さあ入ってくださいな」
扉を開けた先には、アスメライと呼ばれた女性が居る。
エリメスとはどことなく似ていて、血の繋がった姉妹なのだろう。
黒くウェーブが掛かった長い髪。
エリメスを若くした感じで、こちらの方が少し可愛らしい。
並べるとどうしても比べてしまう。
内面を比べない限りは、完全な上位互換だろう。
もしかしたらエリメスが結婚出来ないのは、近くに妹が居るからかもしれない。
「誰その人達、まさかまた変な人を連れて来たんじゃないでしょうね。お姉ちゃん、そろそろ私も怒るよ?」
「ち、違うのよ、実はこの人達に頼まれ事をしちゃってね。私と結婚する代わりに仕事を手伝ってくれって言うのよ。だから私、この人と結婚して、良い家庭を築いて行こうと思うの」
「いや、言ってないですよ! 任務を手伝って欲しいのは本当ですけど、結婚は嘘です。報酬は剣って事で納得してたじゃないですか!」
「おいイバス、結婚してやれよ。俺は別に剣じゃなくても構わないぞ。俺には害が及ばないからな」
「だったらこの件は諦めますか。一緒に仲良く牢屋に入りましょうか!」
「テメェこの野郎、男の尊厳を失っても良いって言うのか! よく考えろ、チャンスはこれだけなんだぞ。良し俺が悪かった。謝るから一緒に頑張ろうぜ!」
「そういう事なのアスメライちゃん。それでね、私だけじゃ戦力不足だから、アスメライちゃんも誘おうと思って此処に来たのよ。一緒に行きましょうよ」
「それお姉ちゃんが受けたんでしょ。私には関係ない事じゃない。三人で行って来たら良いんじゃないの」
「もう、アスメライちゃんったら、一緒に付いて来てくれても良いじゃないの。ねっ、一緒に行こ?」
「そ、そんなに言うんだったら付いて行ってあげるわ。全く、お姉ちゃんったら勝手なんだから」
その顔はなんだか嬉しそうだ。
アスメライって人は、随分と姉の事が好きらしい。
「それで、その仕事って言うのはどんなものなの? あんまりむちゃな内容だったら無理だけど」
「南東にある洞窟に住み着いたキメラを倒しに行くんだ。俺達だけじゃどうにもならないから、手伝って欲しいんだよ。報酬はこの剣だ。相当な業物だぞ」
「ふ~ん、私は剣を使わないから分からないわ。じゃあちょっと準備をするから、部屋から出て行ってくれないかな?」
「ああ、すみません。では入り口で待っていますから、用意が出来たら来てください。アツシ、見ていないで行くよ。それともストリーさんに言いつけて欲しいのか?」
「分かったよ。言い付けられちゃ敵わないからな。んじゃ、後でな」
部屋の扉が閉まり、僕は入り口に向かおうと思ったが、アツシが扉に耳を付けて、中の様子を探っている。
「おい、見つかったら更に不味い事になるぞ。早く行こう」
「まあ待つんだイバス、あいつ等がまた逃げないとも限らないだろ。もしまた逃げる様な事を相談していたら不味いだろう? お前も少し聞いておけ」
一理あるのか無いのか分からない言い分だったが、確かに逃げられたら困る。
僕も耳を当てて二人の声を聞いた。
「お姉ちゃんもそんな恰好じゃ駄目よ、私も手伝ってあげるから上を脱いで。ああお姉ちゃんのおっぱい、温かくって凄く気持ち良いわ」
「アスメライちゃん、このぐらい自分出来るから、自分の用意をしなさい。二人を待たせちゃうでしょ」
「駄目よ! 綺麗な体で行かないと、あの人もガッカリするでしょ! ほら、下着を履かせてあげるから、足を開いて。良いわ~、お姉ちゃん良いわ~、ああんもう、下着の前にちょっと手入れしなくちゃいけないわね。もうちょっと股を開いてみて…………」
「ああん、ちょっと恥ずかしいわ…………」
あの妹は姉に対して親愛以上の何かを持っている気がする。
たぶんもう逃げる気とかないだろう。
これ以上聞く必要は無い。
「アツシ、流石にこれ以上聞くのは駄目だ。逃げる気もないだろうし、外へ行こう」
「待て、今良い所なんだ。もうちょっとだけ待ってくれ。ほんの後五分ほどで良いんだ」
「じゃあストリーさんに…………」
「ふん、そう何度も脅しには乗らないからな。もう少しだけで良いんだ。もうちょっと聞かせてくれよ」
新婚だと聞いたのだが、こんな人と結婚しても長く続かないんじゃないだろうか?
おっ、あれは?
「あ、ストリーさんだ。お~い、こっちにアツシが居ますよ! こっちです」
「そんな脅しにはッ…………!」
一瞬アツシは通路の方を見て、居たのが本物だと分かると、後ろに大きく跳び上がり、反転して逃げて行く。
よっぽど怖かったんだろうか。
ストリーさんが気付く前に消えて行った。
僕の声を聞いて、ストリーさんがやって来た。
話すのは初めてだが、噂だけは山程聞いている。
アツシが逃げる態度を見ると、この人が本当に怖いのだろう。
「お前か? 私を呼んだのは。アツシがどうのとか言っていた様だが、何か用か?」
「ああ、今度からコンビを組ませてもらう事になったイバスです。ちょっと挨拶しようと思って、お呼びしたんですよ」
「むっ、そうか。お前がか、浮気しているんじゃないかと思っていたんだが、ちゃんと仕事をしている様だな。アツシの奴はどうだ? 上手くやっているか?」
「はい、これから任務で外へ出る所です。この部屋の人達と一緒に行く予定なんですよ。ストリーさんもお暇なら一緒に来ませんか?」
「いや、私も用があるんだ。任務はアツシと頑張ってくれ。もし危険だと思ったなら逃げるのも手だからな、命だけは気を付けてくれ」
心配そうな表情をしているストリーさん。
こうして見ると噂が嘘の様だ。
おっと、中の二人がそろそろ出て来るかもしれないし、そろそろ離れた方が良いだろう。
「はい、じゃあ僕は行きます。また今度話でもしましょう。それじゃあまた」
僕はストリーさんと別れ、入り口へ行くと、そこには茂みに隠れ潜んだアツシが居た。
「おい、彼奴は行ったのか? 近くにいないだろうな?」
「たぶん、別の所に行ったんじゃないかな。用事が有るって言ってたから、誰かに会いに来たんじゃないかな?」
「そ、そうか、俺は此処に隠れているから、二人が出てきたら呼んでくれ」
そう言いアツシは茂みの中へ身を潜ませる。
「そんなに嫌なのか? 嫌いなら別れたらいいじゃないか?」
「いや、嫌ってる訳じゃないんだ。最近喧嘩したから会いづらいだけだ。これでも俺達は好き合ってるんだぜ」
この状態を見ると、とてもそうは見えないが、男女の関係は色々あるのだろう。
「お待たせいたしましたイバスさん。その、如何ですか?」
二人が着替えを終えて入り口にやって来た。
エリメスは綺麗な鎧を身に着け、長い髪は邪魔にならない様に後で縛っている。
女性は化粧で変わると言うが、普通だった顔が、今は中々綺麗に見えた。
しかしここで綺麗だ、可愛い等と言ったら、勘違いさせてしまいそうだ。
適当に答えて、はぐらかしておこう。
「急がないと時間が無いです。まず食料とか野営の道具を買って馬で行きましょう! さあ早く!」
「待ってくださいイバスさん、私も付いて行きます!」
僕は足を速め、商店へ向かった。
「ねえ君、あの二人って好き合ってるの? どう見てもそう見えないんだけど」
「いや、あの姉ちゃんが勝手にそう言ってるだけだ。イバスの方は全く気がないと思うぞ。心配しなくても、まあ上手くは行かないだろうな」
「ふ~ん…………」
僕達は商店で道具を買いあさり、馬を借りると洞窟へと出発した。(軍の付けで)
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