一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 トカゲのお姉さん

「ストリーさんなら如何だろう? 彼女なら実力も十分じゃないかな?」


「駄目だ、ストリーは今女王様と一緒に出掛けている。なんか女同士の秘密の買い物なんだってよ。何処へ行ったのか俺も知らないし、見つけるまで時間が掛かってしまう。誰か他の奴を探した方が早い。直ぐ探しに行くぞ!」


「分かった、急ごう!」


 僕達は仲間を探す為に町中を走り回った。
 アツシの提案でべノムさん、レアスさん、エルさん、フレーレさんと回ったが、誰も外出していて見つからなかった。
 何でこんな時に誰も居ないんだろう。
 運命だとでもいうのだろうか。


「もうこうなったら、強そうな奴に片っ端から声を掛けて行くしかないぜ。武器を持ってりゃいい、兎に角誘ってみるぞ!」


「でも僕達と同じで弱かったら意味が無いよ。キメラ化した人ならなんとか戦力になるんじゃないかな?」


「分かった、その線で行くぞ! 時間が無い、急ぐぞイバス!」


 僕達は町中を探索し、そして一人の女性を発見した。
 爬虫類の様な皮膚と尻尾を持つ女性だ。
 僕よりはかなり年上だろう。
 武具を装備しているから、彼女を誘えば戦力になりそうだ。


 まずは声を掛けてみるしかない。
 時間はどんどん過ぎて行く。
 もうこの人に頼むしかない!


 俺達はお辞儀じぎをしながら頼み込んだ。


「「お願いします僕達と付き合ってください!」」


「えっ? な、何いきなり……貴方達誰なのよ」


「あ、僕イバスです、こっちはアツシ。あのお姉さん、僕達と付き合ってくれませんか!」


「ふ、二人とそういうのはちょっと……う、でもチャンスなのかしら…………」


「僕達本当に困ってるんです。貴方とならきっとうまくやって行けると思うんです。どうぞよろしくお願いします!」


「ふ、二人と付き合うのは倫理的に問題があるんじゃないかしら……そ、それに私貴方達の事知らないし…………周りの目もあるしねぇ」


 何か勘違いしているらしい。
 僕達の説明が足りなかったかな?


「ああ違いま。、僕達に付き合って、一緒に任務に同行してください。僕達だけじゃどうにもならなくって、戦力を探していたんです。どうかか一緒に行っては貰えませんか」


「ああ、そういう事なのね。でも私こんなんだけどあんまり強くないのよね。あ、そうだわ、私の友達も連れて行けばきっと役に立つわよ。それで良いかしら?」


 戦力が増えるのは助かる。
 もうちょっと人数が欲しい所だが、時間も足りない。
 この人を逃す訳には行かない。


「うおおおおおおおおおお! 助かるぜお姉さん、四人も居れば相当戦力アップだぜ。あんまり時間がないんだ、その子と合流して早速向かおうぜ!」


「それでお礼はどれぐらい貰えるのかしら? 休日に働かせようって言うんだから、それなりに弾んでくれるのよね? あんまりショボかったら行かないわよ」


 お礼……確かに、タダで頼むのはかなりの重労働だ。
 でも僕にはお金がない。


「お、お礼ってお金ですよね…………アツシさん幾ら持ってますか? 僕まだ給料貰ってないからお金持ってないんですけど」


「いや俺だって持ってねぇよ。最近やっと生活費と給料が釣り合ってきたばっかりなんだぞ。払える金なんて持ってないぞ」


「残念ね、お金がなくっちゃ手伝えないわ。それじゃあ、またお金が有る時に会いましょうね」


 此処で逃がしたくないけど、僕には財力が無い!


「ちょっと待った! 金は無いが、この剣なら如何だ? この剣は結構な値打ちもんだぜ。その辺に転がってる剣とは比べ物にならないぞ!」


 アツシが腰の剣を手に持って見せている。
 トカゲの時に見せた切れ味は物凄かった。
 こんな事で投げ捨てられる物じゃない。


「良いんですかアツシ、その剣相当業物だよ。これ以上の剣はもう手に入らないんじゃないかな」


「いいさ、どうせ貰い物だしな。実は格好つけて持ってただけなんだよ、本当は重くて使いずらかったんだ」


「ふ~ん、まあ見せてみなさい。それが良いものなら考えても良いわよ」


「ああ、ほらよ」


 アツシは鞘ごと剣を放り投げ、お姉さんに渡した。
 お姉さんは鞘から引き抜き、その刀身を見始めた。
 そして剣を振り重さなどを確かめる。


「ちょっと試し切りをしてみても良いかしら? どの位なのか見たいのよね」


「良いぜ、ただしその剣で二人分だ。それと、その剣をやるのはちゃんと任務が終わってからだからな。気に入ってもまだやれないぜ」


「それで良いわ。まっ、私が気に入ったらだけどね」


「じゃあこれでいいだろ、これを普通に斬ってみろよ。その剣の凄さが分かるぜ」


 アツシが取り出したのはこの国の硬貨だった。
 掌からヒョイッと空に放り投げると、弧を描き落ちて来た。
 お姉さんは、こんな硬貨を捉え、その中心に剣を振り下ろした。


「さてと、やってみるわ、ねッ!」


 硬貨は剣に当たると、そのままそれを真っ二つにしてしまう。
 普通の剣なら、硬貨に触れた時にはそのまま弾き飛ばすだろう。
 こんな事でなくすのは相当勿体ないが、俺達の貞操の為には仕方がない。


「凄いわねこの剣、ただ振っただけでこれなんて、売れば相当な額になるんじゃないかしら。貰っちゃって本当に良いの? あとで返せって言っても返さないわよ?」


「良いさ、それしか払える物がないからな。さっきも言ったが、それで二人分だぞ。ちゃんと任務が終わったなら持って行っても構わないぜ」


「じゃあこれで交渉成立ね。じゃあ仲間を呼んでくるから此処で待っていて」


「おう、早く来てくれよ。すぐ出発するからな」


 お姉さんが手を振って去って行く、その手にはまだ剣が握られている。


「ちょっと待ってください! 行く前に剣を置いて行ってください! 後払いだって言ったでしょう!」


「ああ、ゴメンね、これ気に入ったからこのまま貰っておくわね。じゃあバイバイ!」


 女が走り去る、このまま持ち逃げなんてされたら、もう別の人を雇う手段がなくなる!


「アツシ、追い駆けましょう!」


「あったり前だ! 持ち逃げなんてされてたまるか! おい待て、キメラ化してんなら調べりゃすぐ分かるんだからな! 止まらないと牢屋に叩きこむぞ! ちなみに俺は女王様と知り合いだからな、直ぐに豚箱に入れてやるぞ!」


「ふふ~ん、そんな嘘言っても騙されないからね、諦めて家に帰りなさい。私に追いつこうなんて無理だから」


「アツシさんの言った事は本当ですよ! だってこの人ストリーさんと結婚していますからねッ! これが知れたらボッコボコにされるでしょうね!」


「う、嘘だ。そんなことじゃ騙されないわ。ストリーが結婚なんて出来るはずないんだから。あんな破壊神が結婚出来るなら、私も結婚出来るはずだもの!」 


「お前ストリーの知り合いなのか! だったら言ってやる、あいつの右胸の下には小さなホクロがあるって事をな!」


 女の足がピタリと止まった、ホクロの事を知っていたんだろうか?


「本当に結婚したって言うの? あの破壊神が……あんなのが結婚出来るのに、何で私は結婚出来ないのよおおおおおおおおおお! うわあああああああああ!」


 その場で泣き出す彼女。
 まあそんな体じゃあ好き嫌いが分かれるよなぁ。
 その内良い人が現れると良いけどね。


「兎に角、僕達と付き合って貰いますよ。持ち逃げなんてさせませんからね。さあもう一人は何処に居るんですか? 一緒に行きますから場所を教えてください」


「付き合って? 結婚を前提に? 私と結婚するの?」


「そんなのしませんよ! 貴方には戦いに付き合って貰います! 仲間の場所は何処ですか!」


「イバス、結婚してやったらどうだ。お前恋人とか居ないんだろ? だったらチャンスじゃないか。決めちまえよ、俺達の命と貞操が掛かってるんだぞ!」 


「うっ、いきなり結婚なんて無理だから。と、友達からでなら…………」


「本当に?!」


「ああ、うん…………」


「有り難うダーリン、早速式を上げに行きましょう!」


「いやいや友達からだって言いましたよね。それより貴方の仲間は何処なんですか? 早く仕事しないと不味いんですよ」


「やったな、モテモテじゃないか。この勢いで結婚しちまえよ。それでお前も地獄を味わうが良い」


 結婚してもアツシの様な所は特殊だと思いうけど、そもそも僕はこの人と結婚なんてする積りはない。
 この人、僕よりかなり年上なんじゃないだろうか。


「いやもう早く行こう。間に合わなかったら全部アツシの所為にするぞ。アツシの方が俺より上って見られてるからな、責任も重いだろ」


「むっ、それは不味いな。良し、急ごうか」


「そうだお姉さん、名前を教えてください。知らないと不便ですからね」


「はいアナタ、私はエリメス、今後ともよろしくお願いします」






 エリメスを連れて僕達はもう一人を呼びに行った。
 エリメスさんに年齢を聞いたら二十五だそうだ、僕とは十も離れているし、流石にないよなぁ。



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