一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
2 天下一品の逃げ足の速さ
「ふう、また助けて貰いましたね。このまま助けられっぱなしだと俺の気が済みません。そうですね……ちょっと待っててください。良い女の子を紹介してあげますから。大丈夫! 絶対最後まで行けます。俺に任せておいてください!」
「い、いえ、そういうのはイイです。そんな事より仕事しないんですか? また怒られますよ?」
「仕事? ああ、そうでした。まだ食事もしてないんでしたね。じゃあ飯を奢ってあげますよ」
今度こそ食事が出来るんだろうか?
まあ、僕はそんなにお腹は空いていないんだけど。
でもこの人に恩を感じられて付きまとわれても困る。
ここは大人しく奢って貰おうかな。
「じゃあ、それでお願いします。それで貸し借り無しですね」
「任せておいてください。美味しい料理を食合わせてあげますよ」
連れて行かれたのは、本当に美味しい店だった。
そこで適当に食事を済ませると、やっと仕事を開始するらしい。
「さてと、お腹も膨れたし、ボチボチ仕事をしますかね。え~っと今日は…………何するんでしたっけ? ああ、縛られていたから仕事が分からないじゃないですか! と、取り合えずブールの所に行かないと。ちょっと急ぎますから、もし迷ったら中央広場で待っていてください」
もしかして舐められてるんだろうか。
僕も訓練で結構走っている。
あんまり見くびってもらったら困るんだけど。
「迷うって、生まれた国でそうそう迷ったりしませんって。じゃあ走って行きましょうか。足には自信があるんですよ」
「そうですね。じゃあ走りましょうか」
甘かったのは僕の方だった。
…………走り出したバールさんとの距離は、物凄い速度で離されていく。
見た所人の姿だけど、もしかしたら何処か変わってるのかもしれない。
キメラ化した人と実際に比べたのは初めてだ。
まさかこれ程差があるなんて思いもしなかった。
もう追い掛けるのは無理だろう。
言われた通りに中央広場で待つしかない。
僕はトボトボと歩き出し、中央広場に到着した。
しかしただ待ってるだけだと暇だな。
何か暇つぶしの物でもあればいいのだけど。
まあそうそう都合よく何かあるわけないか。
「ん? あれは…………」
何だろう、人が集まって行く。
バールさんは何時来るか分からないけど、ちょっとだけ見に行ってみよう。
僕は人垣を掻き分け、騒ぎの中心を見ると、そこには殴り合いをしている男が二人いた。
片方は色黒で禿げ上がった男と、もう一方は、金髪で長髪の男。
賭けを始める者まで出だして、騒ぎがドンドン広がっている。
このままではいけない。
ここは兵士として止めなければ。
「あの、こんな所で喧嘩しないでください! 賭けも無しです! 今直ぐ退散しないと酷い目に合いますよ!」
「ああんッ、何だお前! 俺達に文句でもあるっていうのかよ! ぶっ殺すぞテメェ!」
「邪魔しようってんなら、お前から先にやってやろうか!」
二人共僕に喧嘩を止められた事を怒ってる様だ。
大丈夫、学校でもちゃんと訓練して来たんだ。
二人ぐらい何とかして見せる!
相手の二人は僕より大きく、武器は持っていない。
対して此方は剣もあるシ、負ける訳がない。
腰の剣を引き抜き、相手の前で構えた。
剣を向けただけでも、気の弱い者や、冷静な者ならここで引いてくれる。
だが…………
「はぁ? 素手の俺達に剣を向けるなんざ、どんだけビビりなんだよ! そんな物がなけりゃ止められないってのか? ダセーなおい。悔しかったら、そんな物捨てて掛かって来いや!」
「お前それでも男かよ、玉付いてんのか! ビビってんなら帰って寝てろよ。ヒャッハッハ!」
挑発されてるのは分かってる。
この二人は武器を捨てさせたいんだろう。
僕は冷静に剣を持ちづ付けた。
「貴方達こそ、よくそんな事が言えますね。怖いなら逃げても良いんですよ! 今なら許してあげます。早く帰ったらどうですか!」
「おい、やっちまえ!」
二人は動かなかったが、後から羽交い絞めにされ動けなくなっている。
此奴は先ほど賭けをしていた奴だ!
こんなはずじゃなかったのに!
クソッ、剣まで取られてしまった。
もう僕に勝ち目はない。
「こいつはお節介なお前への礼だ。黙って受け取りな。ゴラァ!」
「がはッ!」
「そら、もう一発だ、オラァ!」
「ぐはあああ!」
喧嘩していた二人の男は、仲良く僕を殴り続ける。
もう駄目だ、首を突っ込むんじゃなかった。
「止めだ! 此処で死んでろコラッ!」
色黒の男が放った拳は、僕には届かなかった。
眼前に迫る拳を止めたのは一人の男。
その男は僕を羽交い絞めにした男を殴り飛ばし、僕を解放してくれた。
それはさっきまで一緒に居たバールさんだった!
「おっと、俺の友達に何してくれてんですか? 武器が如何とか言ってたようですが、武器なんて使わないから掛かって来なさい」
「なんだと、やってやろうじゃねぇか! おい皆やっちまえ!」
群衆の中に居た男達の仲間がどんどん出て来て、その数は二十を超えている。
まさか、殆ど仲間だったのかッ?!
一人増えた程度では如何にもならない!
「バールさん、こんな数相手じゃ無理です。撤退しましょう!」
「イバス君、このぐらいで逃げていたら、王国の兵士は務まりませんよ。じゃあ戦いますよ。まあ俺はこういうの苦手なんで逃げますけどね。じゃあ皆さん、さようなら!」
「あっ!」
バールさんは俺を置いて一人で逃げて行った。
あの人戦う様な事を言ってたのに逃げるなんて、おかげで逃げ遅れてしまった。
「逃がすな! 追え、追い駆けてやっちまえ!」
バールさんは敵の半分を連れて逃げて行く。
あんな颯爽と登場して、僕を置いて逃げるなんて、何しに来たんだあの人は!
動ける様になったは良いが、状況はさっきよりも悪くなっている。
この人数じゃ囲まれてまた同じ事になりそうだ。
「おい、此奴もやっちまえ。奴が戻って来た時に見せてやろうぜ」
色黒の男は僕を囲む様に命じた。
大勢に囲まれジリジリとにじり寄られる。
駄目だ、同じ事の繰り返しだ。
このままじゃまた羽交い絞めにされてしまう。
背後から迫る男に拳を振り回したが、逆方向から腕を掴まれまた…………
そんな僕を助けたのは、大回りをして戻って来たバールさんだった。
「てぃ!」
「なッ! またお前かッ! 仲間達は如何したんだ、まさかお前が? いや、こんな奴があの数を相手に出来るはずはない。おいお前達、此奴から先にやっちまえ! 逃がすんじゃねぇぞ!」
「あはは、こっちですよー。悔しかったら掛かって来なさい。ほらほらこっちですよ!」
バールさんを追い掛け、囲んでいた全員が居なくなる。
此処に残ったのは喧嘩していた二人だけになった。
もしかしたら、バールさんは僕の為に敵を引き付けてくれているのかも。
あとたった二人、これなら僕でも倒せる!
「はっ、やる気だぜ此奴。良いぜ、来いよ! 掛かって来いよ!」
「ボッコボコにしてやんぜ! 覚悟しろコラッ!」
色黒の男は僕の前に、長髪の男には後を取られている。
僕は左手方向へと走りだし、二人が追って来ると、体を反転して攻撃に転じた。
先手必勝!
相手の攻撃が来る前に、此方から仕掛ける!
金髪に拳を突き出すが、これはフェイク。
相手が避けている間に、もう一人の色黒の男に足払いを食らわせた。
色黒の男は転んだが、それは後回しだ。
金髪の男のパンチを躱し、右の拳で腹に一発、左のフックで一人を殴り倒した。
色黒の男が立ち上がりかけている、そこに跳び蹴りで顔面を蹴り飛ばす。
「まだやるか! 続けるのなら本気を出すぞ!」
本当は本気を出していたんだけど、これはただのハッタリだ。
「わ、分かった。もう止めるから、落ち着いてくれ」
「あ、ああ、俺達はもう喧嘩はしない。な、なあ!」
「お、おう」
反省した二人の男が逃げて行く。
僕は相手が完全に見えなくなるまでは構えを解かなかった。
「ふう…………」
「おー、イバス君結構やりますね。少し殴られてる様ですが、怪我は大丈夫ですか?」
バールさんでも、あの人数を倒せるとは思えない。
あの足の速さで撒いて来たのだろう。
「このぐらい平気です。バールさんも怪我はない様ですね? じゃあ仕事に戻りましょうか」
僕達は残りの仕事を済ませ、帰路に付いた。
「い、いえ、そういうのはイイです。そんな事より仕事しないんですか? また怒られますよ?」
「仕事? ああ、そうでした。まだ食事もしてないんでしたね。じゃあ飯を奢ってあげますよ」
今度こそ食事が出来るんだろうか?
まあ、僕はそんなにお腹は空いていないんだけど。
でもこの人に恩を感じられて付きまとわれても困る。
ここは大人しく奢って貰おうかな。
「じゃあ、それでお願いします。それで貸し借り無しですね」
「任せておいてください。美味しい料理を食合わせてあげますよ」
連れて行かれたのは、本当に美味しい店だった。
そこで適当に食事を済ませると、やっと仕事を開始するらしい。
「さてと、お腹も膨れたし、ボチボチ仕事をしますかね。え~っと今日は…………何するんでしたっけ? ああ、縛られていたから仕事が分からないじゃないですか! と、取り合えずブールの所に行かないと。ちょっと急ぎますから、もし迷ったら中央広場で待っていてください」
もしかして舐められてるんだろうか。
僕も訓練で結構走っている。
あんまり見くびってもらったら困るんだけど。
「迷うって、生まれた国でそうそう迷ったりしませんって。じゃあ走って行きましょうか。足には自信があるんですよ」
「そうですね。じゃあ走りましょうか」
甘かったのは僕の方だった。
…………走り出したバールさんとの距離は、物凄い速度で離されていく。
見た所人の姿だけど、もしかしたら何処か変わってるのかもしれない。
キメラ化した人と実際に比べたのは初めてだ。
まさかこれ程差があるなんて思いもしなかった。
もう追い掛けるのは無理だろう。
言われた通りに中央広場で待つしかない。
僕はトボトボと歩き出し、中央広場に到着した。
しかしただ待ってるだけだと暇だな。
何か暇つぶしの物でもあればいいのだけど。
まあそうそう都合よく何かあるわけないか。
「ん? あれは…………」
何だろう、人が集まって行く。
バールさんは何時来るか分からないけど、ちょっとだけ見に行ってみよう。
僕は人垣を掻き分け、騒ぎの中心を見ると、そこには殴り合いをしている男が二人いた。
片方は色黒で禿げ上がった男と、もう一方は、金髪で長髪の男。
賭けを始める者まで出だして、騒ぎがドンドン広がっている。
このままではいけない。
ここは兵士として止めなければ。
「あの、こんな所で喧嘩しないでください! 賭けも無しです! 今直ぐ退散しないと酷い目に合いますよ!」
「ああんッ、何だお前! 俺達に文句でもあるっていうのかよ! ぶっ殺すぞテメェ!」
「邪魔しようってんなら、お前から先にやってやろうか!」
二人共僕に喧嘩を止められた事を怒ってる様だ。
大丈夫、学校でもちゃんと訓練して来たんだ。
二人ぐらい何とかして見せる!
相手の二人は僕より大きく、武器は持っていない。
対して此方は剣もあるシ、負ける訳がない。
腰の剣を引き抜き、相手の前で構えた。
剣を向けただけでも、気の弱い者や、冷静な者ならここで引いてくれる。
だが…………
「はぁ? 素手の俺達に剣を向けるなんざ、どんだけビビりなんだよ! そんな物がなけりゃ止められないってのか? ダセーなおい。悔しかったら、そんな物捨てて掛かって来いや!」
「お前それでも男かよ、玉付いてんのか! ビビってんなら帰って寝てろよ。ヒャッハッハ!」
挑発されてるのは分かってる。
この二人は武器を捨てさせたいんだろう。
僕は冷静に剣を持ちづ付けた。
「貴方達こそ、よくそんな事が言えますね。怖いなら逃げても良いんですよ! 今なら許してあげます。早く帰ったらどうですか!」
「おい、やっちまえ!」
二人は動かなかったが、後から羽交い絞めにされ動けなくなっている。
此奴は先ほど賭けをしていた奴だ!
こんなはずじゃなかったのに!
クソッ、剣まで取られてしまった。
もう僕に勝ち目はない。
「こいつはお節介なお前への礼だ。黙って受け取りな。ゴラァ!」
「がはッ!」
「そら、もう一発だ、オラァ!」
「ぐはあああ!」
喧嘩していた二人の男は、仲良く僕を殴り続ける。
もう駄目だ、首を突っ込むんじゃなかった。
「止めだ! 此処で死んでろコラッ!」
色黒の男が放った拳は、僕には届かなかった。
眼前に迫る拳を止めたのは一人の男。
その男は僕を羽交い絞めにした男を殴り飛ばし、僕を解放してくれた。
それはさっきまで一緒に居たバールさんだった!
「おっと、俺の友達に何してくれてんですか? 武器が如何とか言ってたようですが、武器なんて使わないから掛かって来なさい」
「なんだと、やってやろうじゃねぇか! おい皆やっちまえ!」
群衆の中に居た男達の仲間がどんどん出て来て、その数は二十を超えている。
まさか、殆ど仲間だったのかッ?!
一人増えた程度では如何にもならない!
「バールさん、こんな数相手じゃ無理です。撤退しましょう!」
「イバス君、このぐらいで逃げていたら、王国の兵士は務まりませんよ。じゃあ戦いますよ。まあ俺はこういうの苦手なんで逃げますけどね。じゃあ皆さん、さようなら!」
「あっ!」
バールさんは俺を置いて一人で逃げて行った。
あの人戦う様な事を言ってたのに逃げるなんて、おかげで逃げ遅れてしまった。
「逃がすな! 追え、追い駆けてやっちまえ!」
バールさんは敵の半分を連れて逃げて行く。
あんな颯爽と登場して、僕を置いて逃げるなんて、何しに来たんだあの人は!
動ける様になったは良いが、状況はさっきよりも悪くなっている。
この人数じゃ囲まれてまた同じ事になりそうだ。
「おい、此奴もやっちまえ。奴が戻って来た時に見せてやろうぜ」
色黒の男は僕を囲む様に命じた。
大勢に囲まれジリジリとにじり寄られる。
駄目だ、同じ事の繰り返しだ。
このままじゃまた羽交い絞めにされてしまう。
背後から迫る男に拳を振り回したが、逆方向から腕を掴まれまた…………
そんな僕を助けたのは、大回りをして戻って来たバールさんだった。
「てぃ!」
「なッ! またお前かッ! 仲間達は如何したんだ、まさかお前が? いや、こんな奴があの数を相手に出来るはずはない。おいお前達、此奴から先にやっちまえ! 逃がすんじゃねぇぞ!」
「あはは、こっちですよー。悔しかったら掛かって来なさい。ほらほらこっちですよ!」
バールさんを追い掛け、囲んでいた全員が居なくなる。
此処に残ったのは喧嘩していた二人だけになった。
もしかしたら、バールさんは僕の為に敵を引き付けてくれているのかも。
あとたった二人、これなら僕でも倒せる!
「はっ、やる気だぜ此奴。良いぜ、来いよ! 掛かって来いよ!」
「ボッコボコにしてやんぜ! 覚悟しろコラッ!」
色黒の男は僕の前に、長髪の男には後を取られている。
僕は左手方向へと走りだし、二人が追って来ると、体を反転して攻撃に転じた。
先手必勝!
相手の攻撃が来る前に、此方から仕掛ける!
金髪に拳を突き出すが、これはフェイク。
相手が避けている間に、もう一人の色黒の男に足払いを食らわせた。
色黒の男は転んだが、それは後回しだ。
金髪の男のパンチを躱し、右の拳で腹に一発、左のフックで一人を殴り倒した。
色黒の男が立ち上がりかけている、そこに跳び蹴りで顔面を蹴り飛ばす。
「まだやるか! 続けるのなら本気を出すぞ!」
本当は本気を出していたんだけど、これはただのハッタリだ。
「わ、分かった。もう止めるから、落ち着いてくれ」
「あ、ああ、俺達はもう喧嘩はしない。な、なあ!」
「お、おう」
反省した二人の男が逃げて行く。
僕は相手が完全に見えなくなるまでは構えを解かなかった。
「ふう…………」
「おー、イバス君結構やりますね。少し殴られてる様ですが、怪我は大丈夫ですか?」
バールさんでも、あの人数を倒せるとは思えない。
あの足の速さで撒いて来たのだろう。
「このぐらい平気です。バールさんも怪我はない様ですね? じゃあ仕事に戻りましょうか」
僕達は残りの仕事を済ませ、帰路に付いた。
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