一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達42

「ふう、美味しかったわ。やっぱり料理はちゃんと作らないとね」


「それじゃあこれから船を探すか。だが魔物の所為で出航できないかもしれないが」


「不吉な事言わないでって言いたいけど、可能性は高いわよね。まあそれでも行ってみるしかないけどね」


「悩む前にまず行動ですね。それじゃあ行きましょう。お~~~~!」


 食事を食べ終えたリーゼ達。
 船を探しに港へ移動した。
 港の中には船の姿を見る事が出来ず、全て出払っている様だ。
 魔物の所為で航海に出て無いのなら、船は港にあるはずだった。


「全部壊されたとかじゃなければ、船は動いてるのかしら。ちょっと聞いてみましょうかな」


 リーゼは皆と辺りに居る男に話しかけた。
 その男は港の清掃をしている。
 たぶんこの港の関係者だろう。 


「船? 船ならもう出航してるよ。明日には帰って来るんじゃないか? しかし何処へ向かう積りなんだい? 最近は物騒だからね、ガリーナにしか船は出てないよ」


「ガリーナ? ハガンそれって何処?」


「この海を越えた東だな、距離的には元の大陸と近くなるが、船が出て無いとなるとそこへ行くしかないな」


「一応人を探してみましょう。頼んでみて駄目だったらそこへ行くしか無いわね。ありがとうおじさん、じゃあね」


 リーゼ達はそのおじさんと別れると、そのままフラフラと町の中を見て回っていた。


「リーゼちゃん如何する? このまま町の中でも見て回るかい?」 


「そうね、買い出しも済ませなきゃいけないし、手分けして食料と道具の補充を済ませましょう。それじゃあ私と…………」


 リーゼはラフィールを共に買い出しをしていた。
 他の三人とは別行動している。
 マッドも居るので、リサの事は大丈夫だろう。
 店を探し、塩や保存食を買い込み、待ち合わせの宿に向かっている時。


「人魚を捕まえたぞおおおおおお!」


 そんな声が聞こえて来た。
 人魚。
 伝説上の生き物として、魔物が出る以前から色々な物語に登場する生物だ。
 そんなものが本当に居るなど聞いたことがないが。


「ふ~ん人魚ね、私達も見に行きましょうか。一度見て見たいわ」


「面白そうだね、じゃあそこに向かおうか」


 その場所には人だかりが出来ていた。
 大勢の人達に囲まれ、人魚の姿は見えない。


「うおおおおお! 本物だぞ! こいつはすげー!」


「マジか、すげー綺麗だ。俺これ欲しい!」


「やばい可愛いわ! 私の物にしたい!」


 見た人から本物だとの声が聞こえる。
リーゼは人を掻き分け、人魚がいる檻の前に出た。


「うわっ! 本当に居た。人魚って実在したのね」


 檻の中に居たのは本物の人魚、下半身が魚になっている。
 その魚の部分には、尾ヒレだけじゃなく、胸ヒレや背ビレまである。
 その下半身は、人の体と完全に同化しているようにしか見えない。
 青い色の長い髪、綺麗な顔をしている。
 当然何も着てはいない。


「人魚って良い物なんだね…………」


「そんなに見たいなら好きにしてたら? じゃあ私は帰るから、此処でずっと見てればいいわよ」


「ち、違うって! そんなんじゃないから! リーゼちゃん、そんなに怒らないでくれよ。ちょっと見てただけじゃないか」


「別に怒ってないわ。ほら、早く帰るわよ。皆が待ってるんだから」


 二人は集合場所の宿へと向かい、全員と合流した。
 そこで部屋を取り、今まであったことを話す。


「ねえ聞いて、私達本物の人魚を見たのよ。足ヒレの先まで動いていたから、偽物じゃなかったわ」


「ああ、私達も見たよ。人魚なんて本当に居たんだね。男共は裸の女に興奮してたみたいだけどね」


「そんなの当然です! 男に生まれたからには、あんなおっぱいを見て興奮しないわけがありません!」


「マッドさん、ぶん殴られたくなければ、ちょっと黙っていてください」


「あ、はい」


 ラフィールは兎も角、ハガンまでもが目を逸らしている。 


「まあいいわ、どうせ明日まで船は来ないし、今日は解散しましょうか」


 しかしそこで、部屋の扉が叩かれた。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!


「すみません、お願いがあるんです! 如何か僕の話を聞いて貰えませんか! お願いします助けてください。お礼はしますから!」


 冒険者をやっていると、たまにこういう人がやって来る事が有った。
 自分には出来ない事を頼んだり色々だが、大体は力仕事と決まっている。
 一応リーゼ達にもメリットはある。
 旅をしていると収入が安定しない、この暇な時に仕事があるのは嬉しい事だった。


 ガチャッ


 部屋の扉を開けると、細身で長身の男が立って居た。
 髪は茶髪、すこしおっとりとした顔の男。


「お願いします! イーベルを助けてくれませんか! 早くしないと彼女が売られてしまいます! お願いします、早く!」


「あのさぁ、ちょっと落ち着きなって。ゆっくり話してくれないと分かんないんだよ」


「そうね、まず貴方の名前を聞きましょうか」


 彼はゆっくり深呼吸をして話始めた。


「…………そうですね、ごめんなさい。僕はライルです。今日見つかった人魚を知っていますか? 実はその子は僕の恋人なんです。何時も誰にも見つからない浜辺の洞窟の中で会っていたんですが、たまには別の場所に行きたいって事になって…………たぶんその時に見つかって、僕が居ない隙を狙って彼女を捕まえたんだと思います。だから彼女を救ってやってくれませんか!」


「話を聞く限りでは、無理じゃないかしら。人魚って言っても人じゃないし、町の人達はその捕まえた人が捕らえたと思ってでしょ? それを奪って来るのは、私達が盗みや強盗をしないといけないもの。それに売られるって言ってたけど、貴方、それを買うお金がないからここに来たんでしょ? 私達が人魚を買ったとしても、貴方に払えるお金があるとは思えないわ」


「お願いします! 僕に出来る事なら何でもしますから! お願いします! 相手にはそれなりの護衛がいて、僕一人じゃあ無理なんです! お願いします!」


「ライルさん、私達は犯罪者になる様なことはしないですよ。払うお金もなければ他に行っても無理でしょうね。それとも他に何か…………そうだわ、貴方船とか動かせないかしら?」 


「僕には船なんて…………もしかしたら…………もしかしたら父が出来るかもしれません、昔船に乗っていたと言っていましたから」


「う~ん、じゃあその人に会ってみましょうか。もしかしたら元の大陸に帰れるかもしれないし」


「でも早くしないと、イーベルが売られてしまいます!」


「直ぐには売らないと思うわよ? あんなに大々的に見せたのは、買ってもらう為のアピールでしょうね。それで人数が揃ったら、競売にでも掛けるんでしょ。その方が高く売れるからね。兎に角私達に頼みたいのなら、貴方のお父さんに会わせてちょうだい。それが出来ないのならこの話はなしよ」


「…………分かりました、僕は貴方達に賭けてみます。父に会わせますので、付いて来てください!」






 この男の父親に会った所で如何にもならないかもしれないが、それはそれとして旅の手助けにはなりそうだ。
 ライルの父親に会う為に、私達はライルに付いて行った。



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