一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

16 王道を行く者達38

 五人は魔物を釣り上げる為、鶏を投げて魔物が掛かるのを待っていた。
 鶏の血は魔物を引きつけ、仕掛けに食いつくと五人で力いっぱい引っ張るのだった。
 残り一メートルまで引き寄せたが、リーゼが魔物に水中引きずり込まれてしまう。
 だがラフィールの救援で魔物を倒し、川の先へと進むことが出来た…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)


 ウィンドミルの町。
 風車の回るその町は、バッタの魔物に悩まされている。
 リーゼ達もその魔物に追われ、この町に逃げ込んでいた。
 何とか宿にまで避難したが、外には大量の魔物が犇めいている。

「リーゼさん、これ如何するんです!? こんな大量だと倒せないですよね!」

 マッドは外の光景を見て怯えている。

「落ち着くのを待つしかないわね。この町も何度も襲われてるみたいだし」

 宿の窓には格子がはめ込まれており、更に網までもはめ込んである。
 魔物に何度も襲われている証拠だろう。

「お客さん悪い時に来たね。こうなったら二日は収まらないよ。まあその間此処に止まって行ってくれよ。勿論お金は貰うけどね」

 宿の店主が宿泊を催促している。
 今此処から出るのは無理だろう。
 何とか退治したいが、一体ずつ倒して行ってもどれ程掛かるか分からない。

「しょうがないよ、泊まっていこうぜリーゼちゃん。どうせ今は出られないからね」

 ラフィールは出ることを諦めたようだ。

「確かに今は無理そうよね。今日は宿に泊まって作戦を練りましょうか。きっと何か手があるはずだわ」

 リーゼ達は宿に部屋を取り、その店主と情報のやり取りをした。

「そうですね。あの魔物が出て来たのはここ最近の事です。町の畑を次々と食い漁り、もう食料が付きかけているのです。このままではこの町を捨てなければいけませんが、私達には旅をするほどの力は持っていないのです。もし貴方達があの魔物達を倒してくださるのなら、私達は幾らでもお礼をしましょう。お願いします、何とか私達を助けてもらえないでしょうか!」

 店主はリーゼ達が魔物を倒そうとしている事に気づくと、口をにごすこともなく言葉を発した。
 魔物が落ち着いてから町を抜けるのは簡単だ。
 しかし放っておけば町の人達は壊滅してしまうだろう。

「お礼は要らないわ。私達だけじゃどうやったって勝てないし、この町の人達全員に協力してもらうからね」

 リーゼは町の人に頼むように店主に話を通す。

「分かりました。魔物が落ち着いたら町の皆に集合を掛けますので、それまではゆっくりしていってください。ああ、でも宿代はまけませんからね。生活もきついですから」

「ええ、それで良いわ」

 リーゼは返事をすると、仲間と共に宿の部屋へと移動した。
 気を使ってくれたのか、部屋はそこそこ広くベット等も良い物だった。
 リサ、ラフィール、マッドも違う部屋を用意してくれたが、今はハガンの部屋に全員が集まっていた。

「リーゼ、あの大量の魔物を如何する? 俺達には一度に倒せる火力は無いぞ」

 ハガンは今後の展開を予想するが、自身に手が無いのに気が付いた。

「う~ん、そうなのよねぇ。私達の魔法を合体させても、全部は巻き込めないからね。何処かに魔物を閉じ込める事が出来ないかしら?」

 リーゼは手が無いかと考えている。

「建物の間に網を張ったらどうでしょう。そこに追い込めば一気に燃やせますよ。どうです、中々良い作戦でしょう!」

 マッドの提案は悪くなかった。
 網が持つかどうかは別だが、追い込む事が出来れば倒すのも楽だ。
 ただ炎で燃やしたら魔物だけではなく建物も巻き込んで町にも被害が出てしまう。

「そんな事したら建物まで燃えちゃうじゃない、最悪大火事になって町まで燃えちゃうわよ」

 リーゼは否定するが。

「私は良い手だと思うけどね、要は建物を燃やさなきゃいいだけの話だろ。此処には大勢人が居るじゃないか」

 リサは町を見回している。

「そうか、私達の味方は町一つなんだ。最初から燃える所が分かっていれば、対策だって立てられるわね」

 リーゼは希望を持ち頷いた。

「他にももっといい作戦があるかもしれないぜ。町の人達の意見も聞いてから決めようぜ」

「確かに此処の人達の方が地の利があるわね。まあ魔物が落ち着くまでには幾つか作戦を考えておきましょうか」

 ラフィールの意見にも加味して、リーゼは店主に人を呼ぶ様に言いつけた。
 時間が経ち魔物の群れが町を去ると、宿の店主が町の人々を集める。
 その中には小さな子供達の姿も見える。
 だがその体はガリガリに痩せこけ、あまり食事をしていない様だ。
 この状況をリーゼ達に見せる為に呼んだのだろうか?

「私が町長のラギウスと申します。この度は魔物退治を引き受けてくださってありがとうございます。この町は今非常に危険な状態にあり、このままではもう町を捨てなければならないのです。ですから貴方達の……」

「大体の事は宿のおじさんから聞かされてるわ。それよりも作戦を考えましょう。また何時魔物が来るか分からないんだからね」

 リーゼは町長の無駄に長い話を遮り、町の人々に情報を提供してもらう。
 魔物を閉じ込めるなら良い場所があると、持ち主の無い住居を教えて貰い、現地へと足を運ばせた。

「ここみたいね。うん、建物もしっかりしているし、行けるんじゃないかしら」

 建物は一階建てだが天井は髙く、実質二階分の広さがあった。
 此処に誘導できれば殆どが駆除出来るだろう。 

「だが問題は餌だ。この中に入って無事に脱出できる者と言ったら……」

 ハガンは仲間達を見渡すが、リーゼはマッドの方を見ているようだ。
 マッドの不死身度に期待しているのだろう。

「わ、私は行きませんからね! 川の時だって危なかったんですから、もう無理です!」

「ま、此処は俺だろうね。防御結界も使えるし、囮にはうってつけだろ」

 ラフィールが手を上げた。
 彼以外には適任はいないだろう。

「じゃあそれで。一階の窓から脱出出来る様にして、入り口は何か仕掛けで閉めれる様にしましょうか。仕掛けを作ってから魔物を連れて来て」

 リーゼはラフィールに頼むことにした。
 仕掛けは無事完成し、ラフィールが魔物を見つけに出かけようとしていた。
 人を襲う習性を利用すればたぶん簡単に集められるだろう。

「流石に徒歩じゃ無理だから馬を借りて魔物を見つけて来るよ。皆は町の人達に知らせておいてくれよ」

 ラフィールは仲間に声をかけている。
 そして馬を借り受けると。

「じゃあ気を付けて行って来てね」

 リーゼは手を振ってラフィールを送り出す。

「ああ、任せてくれ!」

 リーゼはラフィールを待ち、暫くすると大量の魔物を連れて戻って来た。
 体を見ると傷が付き、もう防御結界は剥がされている様だ。

「思ったより多いわね。ギリギリ入るかしら?」

 しかしこの為に用意していた物がある。
 ロープを引っ張れば、網が辺りを覆うように仕掛けを作ってあった。
 ラフィールは出れなくなるが、脱出経路は確保してある。

「来たわよ! 魔物が入るだけ入ったら扉を閉めて」

 町の人達と一緒に網の入り口を閉めたが、ラフィールは入った建物から出られないでいた。
 網に入りきらなかったバッタが出口の窓に張り付いて開かなくなっている。

「兎に角窓の魔物をどかさないと! ラフィールが危ないわ!」

「リーゼ! 剣で解体しろ。急ぐんだ!」

 リーゼガ剣を抜くと、魔物に突き刺し切り裂く。
 ハガンが家の中に蹴り飛ばし、通路が開いた。
 だがラフィールは近くには居なかった。
 出口を求め、家の中を移動していたのだった。

「リーゼちゃん!! 仕掛けを使って火を付けるんだ! 大丈夫、俺にはまだ一つ結界が残っている。三秒後だ! 行くぞ!」

「わかったわ!」

 大量の魔物に襲われ、ラフィールの体はボロボロのはずだ。
 ここまで戻って来れる体力は無いだろう。

「三!」

 もうラフィールを信じるしかない、このまま永久に建物が持つとも限らない。

「二!」

 仕掛けのロープを引っ張ると家の中に小麦粉の粉が充満していく。

「一!」

 リーゼは覚悟を決めその時を待った。

「零!」

「ファイヤーッ!」

 一階の窓、ラフィールが出て来るはずだった場所に炎の塊が迫る。
 その炎が小麦粉に接触すると大爆発が起こった。
 炎が家と共に魔物達を焼き尽くす。
 だが一瞬後、その炎はガラスが割れるような音を立て割れると、ラフィールの声が聞こえて来た。

「うぉーい、助けてくれないか。魔物に埋まって動けないんだ」

 急いでラフィールを助け出すと、息がありそうな魔物を家ごと焼き払い、全てを退治した。

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