一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
14 体育祭、騎馬戦
呼び出しを受けたアツシ達、多くの人達が集まりアツシの知識を頼りに何かイベントをしようとしていた。
アツシが思いついたものはコミックマーケット、皆はそのイベントで納得しそれを進めようとしている。
だがアツシの本当の目的は姿絵を使った薄い本の作成、女達を何とか追い出し男達とそれを進めるのであった。
イベント当日、ストリーに何かやってるとバレとっさに男達で何かやると言ってしまう。
そして…………
タナカアツシ(異界から来た男) バール(王国、探索班伝令係)
サックス (イベントの議長) ガーブル(王国、親衛隊)
バール (王国、探索班伝令係)
「……と、言う事なんだ。皆で何か考えてくれないだろうか?」
男達が集まる会議室。
議長のサックスが中心になり緊急会議が行われていた。
「歌はどうだ? 歌詞さえ覚えれば今からでも間に合うかもしれない。最悪は紙に書いた物を持ってもいいだろう」
額に一本角のあるアンドレスが発言した。
「なるほど、歌か。しかし練習不足は隠せないぞ。何か作るのは如何だろう。人数はいるんだ、何か出来るだろう」
黒い鎧を着たアーモンが答える。
「それこそ無理でしょう。何日もかけて作った物の代わりが一日出来るはずはありません。やはり模擬戦がいいのでは?」
しかし議長のサックスが否定をしてアイディアを出す。
「それはいつもやっておるからなぁ、出来ればもう少し別の形がいいのだが。何かないかアツシ?」
そしてガーブルまでが参加している。
他にも数々の男達が意見を出し合っていた。
確かにあまり酷かったら怪しまれるかな。
大勢で出来て完成度が問われないもの。
日本でそんな物あっただろうか?
う~む……。
スポーツなら……いや駄目だ。
ルールを覚えなきゃならないし、そう簡単に出来ないだろう。
カードゲーム……は無理だ。
今から作るとなると相当時間が掛かる。
格闘技は今更だ。
剣術も何時もやってる。
腕相撲? う~んちょと地味か?
マラソンはモニターもないし、ただ戻ってくるのを待ってるだけになってしまう。
逆に短距離なら……。
ふむ、行けるかもしれない。
どうせやるならもう少し盛り上げたいな。
うむ、体育祭をやってみるのはどうだろう?
短距離走とリレー、後は騎馬戦と、棒倒しかなぁ?
まあその四種類で良いか。
「思いついた! 体育祭を開催したいと思います!」
俺はそう宣言して手を上げた。
「アツシ殿、体育祭とは何ですか?」
バールの質問に俺はこう返す。
「体育祭とは、自分の身体のみを使って相手と平和的に戦い順位を付ける祭りだ。様々な競技があるが今回は四種類もやれば大丈夫だろう。一つ目は短距離走、二百メートルを誰が一番早く走るかの競争。二つ目はリレーで、チームを作り、二百メートル走り、一人ずつバトンと呼ばれる棒を手渡して繋げていくチーム戦。三つ目は騎馬戦で、三人、もしくは四人で壱チームを作り、人を馬にして相手のハチマキを取って点数を競うゲーム。四つ目は棒倒し。東西に別れ、相手陣地の棒を倒した方の勝ちのゲームだ」
どれも日本の学校で行われるものだ。
「走るだけなら俺にも出来そうだ。ならそれで行こう」
バールは納得し頷いている。
「三つ目の競技は中々面白そうだ。時間も無い、決めてしまおう」
今発言した奴の足は四本足で、馬の様になっている。
自分達が有利だから賛同しているのだろう。
そうか、二本足だけじゃないんだった。
ちょっと早まったかもしれないなぁ。
まあ盛り上がってるし、今更止めるのも躊躇う。
このまま進めようか。
チーム分け等はサックスに任せ、他は下見と整備に回された。
俺の指示でマーケットイベントの近くに線を引き、直ぐにそれは完成した。
そして体育祭当日。
「さあ時間だ。俺達の力を見せてやろうぜ!」
俺は高らかに宣言し。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
男達の野太い声が響き渡る。
マーケットに来ていた女達も何が起こったのかと覗きに来ていた。
これは男達だけの秘密なんだが、一等を取った者と優勝したチームには本の無料チケットが貰え、今後は数に限りがある本を優先的に貰える権利が与えられる。
皆ギラギラにやる気を漲らせ、その権利を虎視眈々と狙っていた。
男達が白泉に並び短距離走が始まる。
見回りや魔物退治に出てる奴等は走者にあらかじめ賭け、勝った者には同じ様に賞品が贈られるのだ。
そろそろ時間だ。
十人がズラリと並び、その中には本命と思われる下半身が馬型や獣型の奴が居る。
当然人気は高く、見回りチームや討伐チームの印が体中に貼り付けられていた。
俺の知り合いではバールが一人出ているな。
「用意!」
ゴオォォォォォォォォォン……。
合図のドラが鳴り、皆が一斉に走り始めた。
「この勝負貰ったああああああああ!」
「お前より俺の方が速い!」
一気に跳び出そうとする本命の二人。
しかし馬型の男は隣のワニっぽい男に足を掴まれ、そのまま後に投げ飛ばされた。
獣っぽいもう一人は、隣の奴が押さえ込んでいる。
「行け、バール! 後で俺にも貸してくれ!」
抑え込んだ奴がバールに声援を送った。
「任せてくれー、今の俺はやる気十分だ!」
本命が出るから勝てないと踏んだのだろう。
一人で勝てないなら二人でという事か。
しかしこれ、短距離走とは別の何かになっているなぁ。
邪魔したらダメとも言わなかったし、まあしょうがないか。
今走っているのはワニ男とバールだ。
ちょうど並走している。
二人の足は互角で、後ろからは投げ飛ばされた馬型が追って来ている。
ゴール直前、ワニ男が横を向き、バールを狙って横なぎのチョップが襲う。
しかしバールは体を低く傾け、その体制のままゴールへ走る。
後ろから馬男が迫っている、もうほんの近く、背中まで迫っていた。
バールはそれに構わず、一歩、また一歩と足を進ませ、僅差で一位を勝ち取った。
「くそう! あの一撃が決まっていれば!」
「わはははは、伝令班の俺を舐めないでくださいね。危険なキメラ達や敵の隙間を通り抜け、数々の任務をこなして来たんですからね!」
ワニ男が嘆いている。
だがバールがあのぐらい余裕だと言い、勝ち誇っていた。
ニ走目、蝙蝠男が一位を掻っ攫ったが、飛んだのは反則だと言われ、二位の男が一位を奪った。
その後三回目、四回目と続き、短距離走は終了した。
次はリレーなんだが、何だか様子がおかしい。
さっき投げ飛ばされた馬男が、少し離れて走るワニ男を睨んでいる。
他の奴等もなんだか殺気立っていた。
「用意!」
ゴオォォォォォォォォォン……。
「死ねこらああああああああああ!」
ドラが鳴り、一秒後。
そこに立ってる者は居なかった。
全員が隣の相手をぶん殴ったり、腕を伸ばし引っかけたりして、もう地獄絵図の様だ。
やはりルールは必要だな。
もう少しちゃんと教えればよかった。
……観客は盛り上がっていたけど。
リレーは中止され、嫌な予感しかしない騎馬戦が始まる。
そこには嬉々として指揮を執る、ガーブルが見えた。
「一番隊と二番隊は敵の防御に徹しろ! 三番隊四番隊は遊撃、残りの隊は俺に続け!」
もうマジものの戦争なんじゃないかと思う程迫力がある。
だが何故か、その中に俺も参加させられたのだった。
ガーブルにお前が企画したのだから参加しろと言われ、無理やり馬に乗せられてしまった。
俺は五番隊に指名され、馬の上に乗らされていた。
馬と言っても普通は人の作った馬で、実質一部隊一人の様な物なんだが、この世界では違う。
馬は下半身が乗れるような人が務め、四人で二機の班編成となっているのだ。
その為に、実質八本の腕は完全にフリーになっている。
此方も二十騎、彼方も二十騎、これは相当な激戦になりそうだ。
「アツシ行くぞ。俺に付いて来い!」
俺がうんと返事をするまでも無く、馬役の人が勝手に動く。
これじゃあ逃げられないじゃないか!
もう覚悟を決めるしかない。
痛いのは勘弁だ、受けるダメージを最小限にするようにだけ努力しよう。
「来るぞアツシ、俺から離されるなよ!」
馬の人から注意が飛んだ。
「どわああああああああああああああああ!」
しかしその数とあまりの迫力に俺は悲鳴を上げる。
相手は素手だが鱗が生えていたり刺が生えていたり、当たったら物凄く痛そうだ。
「おやー、アツシじゃないですか。こういうのには向いて無いでしょ? 大人しくハチマキ渡したら痛い目には遭わずに済むぞ」
俺の目の前にはバールが居た。
確かに此奴にハチマキを渡せば安全だ。
良し渡しちゃうか。
俺はハチマキを手に取り、バールにそれを渡そうとした時、馬役のブレッドがバールの顔面を強打し、バールは地面へ崩れ落ちて行く。
落ちたら当然負け判定。
「アツシさん作戦通りですね。此処からドンドン行きましょう!」
俺はブレッドにこんな作戦を指示した覚えはない。
勝手に作戦だと思ってぶん殴ったんだろう。
「騙し討ちとはやるじゃないか、俺を倒してもまだ此方には十九騎の騎馬が居る。必ず血祭にしてあげようか、フッフッフ!」
バールは捨て台詞を言うと会場から去って行く。
「おおやるではないか、さあ皆の者アツシに続くぞ!」
ガーブルの指揮で調子づく此方の軍、だが戦力は拮抗している。
向うにも俺と同じで強くない者がいるんだろうか?
「アツシさん、どうやら今回は敵の様ですね」
聞いたことのある声が聞こえる。
「お、お前はベルト! 何で此処に!」
同士だった男だが、今は敵側に回ってしまったらしい。
「俺だって男なんですからね、この作戦に参加してたっておかしくは無いでしょう」
ベルトが此処に居るのはむしろ当然だ。
エロい事に命賭けの組織の隊員なんだからな。
だが俺は此奴にだけは負けるビジョンが見つからない。
「ベルト、良い事を教えてやろう。このイベントは俺が企画したんだ。つまり、俺は全ての本を既に手に入れている! 分かるかベルト、俺は全部の本を持っているんだ。お前の態度次第では、俺の本を……」
「うわ~突然強風がああああ、体制が崩れてしまうううううう!」
俺の言葉でベルトはワザとらしく地面へと転がると、親指を立てて会場の外へと出て行った。
残り十八騎、いや、見ると随分減っている。
騎馬同士のぶつかり合いで、相当数落ちた様だ。
此方が九騎、向うが八騎。
もう少しで勝負がつきそうだ。
しかしもう俺が勝てそうな奴は見当たらない。
敵を見渡すとリーダーっぽい奴が居る。
あの顔は知ってる奴だ。
会議で議長を務めていた男サックスで、彼奴を何とか出来れば俺達の勝ち。
幸い俺達の方には敵は来ない。
イベント主催の俺に恩義でも感じてるんだろうか?
それならそれで都合が良い。
「ブレッド、敵の大将格のサックスを狙う。一撃入れたら逃げるぞ。良し行け!」
俺は指示を出し。
「おうよ!」
ブレッドは従うように動き出した。
サックスの背後に忍び寄り、ハチマキを狙い腕を伸ばす。
だが相手は実戦なれしていて、俺の行動なんて簡単に読み切り、背後からの攻撃でさえ見もせずに躱してしまう。
「アツシ殿、このイベントを企画してくれた事に感謝はしていますが、敵として立ちはだかるなら容赦はいたしませんよ? 逃げているのなら見逃したのですがねぇ」
サックスは武器も持っていないというのに、すごく威圧感がある。
「サックス、これは実戦じゃない、ゲームなんだ。ここでは剣も槍も使えない、俺にだって勝ち目はあるんだぜ」
「ほう、勝つお積もりですか? 良いですよ、何処からでも掛かって来てください」
「行くぞブレッド!」
だが俺達は動かない。
俺はブレッドに動かない様に指示を出しているから。
「来ないのですか? それとも震えてしまいましたか?」
サックスは余裕で構えている。
あんな事を言ったが、俺に勝ち目なんて微塵も無い。
接触した瞬間、騎馬から落とされるだろう。
「今から行くんだよ!」
相手の騎馬をギリギリで避け、サックスのハチマキに腕を伸ばす。
しかし俺は直ぐに手を引っ込めた。
サックスが俺の腕を掴もうとしてきたのだが、俺はそれが目的じゃない。
騎馬をターンさせて、別の角度からもう一度腕を伸ばす。
やはりサックスの手が俺を掴もうとするが、俺の手は引っ込めた後だ。
俺は最初から戦う気なんて無い。
最初からただの囮役だ。
力の無い俺がリーダー格の相手を足止めできれば、他の隊が有利になる。
また一騎敵の騎馬が落ちた。
もうそろそろ良いだろう。
気付かれる前に撤退することにした。
「ブレッド撤退だ。逃げるぞ!」
「おう!」
「クッ、囮になったのですか! もう良い、別の隊の応援に行きます」
サックスは俺を無視して進みだす。
俺は先ほどの様に、何度も手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返し、相手の気を引こうとしているが相手にされないでいた。
此方が四騎、相手は三騎。 此方の方が若干有利だが、その若干が俺の分であんまり差は無いだろう。
「良し! 此方の方が有利になりましたよ」
サックスに味方が一騎やられた!
数は同じでも此方が不利。
先ほどからずっとサックスにアタックしているが、もう完全に無視されている。
しかし俺は気付いた。
完全に無視されているならこのままハチマキを掻っ攫ってやろうと。
サックスの頭の近くに腕を伸ばす。
大丈夫気付いていない。 良しもう少しだ!
俺の手が触れるか触れないか、そこでサックスは頭を振りそれを躱した。
「なる程、相手の隙を付く良い攻撃です。ですが私には通じませんよ」
くそう、気づかれた!
でもこれで俺の事を無視できなくなっただろう。
「ぐおああああああ!」
「くっそおおおおおおお!」
また騎馬が落ち、残りは二騎同士。
時間もそろそろ終わりに近い。
此方のチームで残ってるのはガーブルの隊、相手はサックスと角が特徴のアンドレスだ。
逃げ回る俺を捕まえるのは至難と見て、ガーブルの方へ二騎が向かって行く。
「ブレッド、もう一度サックスにアタックだ!」
俺はそう言いブレッドの肩を二回叩いた。
「任せろ!」
この指示で伝わったか?
肩を叩いた方向は、サックスが居る方向ではなく、アンドレスの居た右方面。
言葉に出したら相手にバレる。
ブレッドはサックスに突撃する。
どうやら伝わらなかった様だ。
此処は素直にサックスを狙うか。
左腕を伸ばしサックスのハチマキを……いきなり方向が変わりアンドレスの居る方向に!
アンドレスは俺の右、右腕を伸ばせば取れる!
腕を伸ばし……ハチマキを……取った!
「良くやったぞアツシ! これで俺達の勝利だ!」
ガーブルの声が聞こえる。
だがまだサックスが残っていた。
「まだ終わってはいないですよ!」
サックスの腕が油断した俺の頭へ伸ばされた。
「俺達の勝利だと言っただろう。俺が此処で油断でもすると思ったのか?」
歴戦の勇士のガーブルは、一切の油断も無く伸ばされたサックスの腕を止めた。
「我が軍の勝利だ!」
「「「「「 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」」」」」
ガーブルが勝利宣言をすると大歓声が上がった。
アツシが思いついたものはコミックマーケット、皆はそのイベントで納得しそれを進めようとしている。
だがアツシの本当の目的は姿絵を使った薄い本の作成、女達を何とか追い出し男達とそれを進めるのであった。
イベント当日、ストリーに何かやってるとバレとっさに男達で何かやると言ってしまう。
そして…………
タナカアツシ(異界から来た男) バール(王国、探索班伝令係)
サックス (イベントの議長) ガーブル(王国、親衛隊)
バール (王国、探索班伝令係)
「……と、言う事なんだ。皆で何か考えてくれないだろうか?」
男達が集まる会議室。
議長のサックスが中心になり緊急会議が行われていた。
「歌はどうだ? 歌詞さえ覚えれば今からでも間に合うかもしれない。最悪は紙に書いた物を持ってもいいだろう」
額に一本角のあるアンドレスが発言した。
「なるほど、歌か。しかし練習不足は隠せないぞ。何か作るのは如何だろう。人数はいるんだ、何か出来るだろう」
黒い鎧を着たアーモンが答える。
「それこそ無理でしょう。何日もかけて作った物の代わりが一日出来るはずはありません。やはり模擬戦がいいのでは?」
しかし議長のサックスが否定をしてアイディアを出す。
「それはいつもやっておるからなぁ、出来ればもう少し別の形がいいのだが。何かないかアツシ?」
そしてガーブルまでが参加している。
他にも数々の男達が意見を出し合っていた。
確かにあまり酷かったら怪しまれるかな。
大勢で出来て完成度が問われないもの。
日本でそんな物あっただろうか?
う~む……。
スポーツなら……いや駄目だ。
ルールを覚えなきゃならないし、そう簡単に出来ないだろう。
カードゲーム……は無理だ。
今から作るとなると相当時間が掛かる。
格闘技は今更だ。
剣術も何時もやってる。
腕相撲? う~んちょと地味か?
マラソンはモニターもないし、ただ戻ってくるのを待ってるだけになってしまう。
逆に短距離なら……。
ふむ、行けるかもしれない。
どうせやるならもう少し盛り上げたいな。
うむ、体育祭をやってみるのはどうだろう?
短距離走とリレー、後は騎馬戦と、棒倒しかなぁ?
まあその四種類で良いか。
「思いついた! 体育祭を開催したいと思います!」
俺はそう宣言して手を上げた。
「アツシ殿、体育祭とは何ですか?」
バールの質問に俺はこう返す。
「体育祭とは、自分の身体のみを使って相手と平和的に戦い順位を付ける祭りだ。様々な競技があるが今回は四種類もやれば大丈夫だろう。一つ目は短距離走、二百メートルを誰が一番早く走るかの競争。二つ目はリレーで、チームを作り、二百メートル走り、一人ずつバトンと呼ばれる棒を手渡して繋げていくチーム戦。三つ目は騎馬戦で、三人、もしくは四人で壱チームを作り、人を馬にして相手のハチマキを取って点数を競うゲーム。四つ目は棒倒し。東西に別れ、相手陣地の棒を倒した方の勝ちのゲームだ」
どれも日本の学校で行われるものだ。
「走るだけなら俺にも出来そうだ。ならそれで行こう」
バールは納得し頷いている。
「三つ目の競技は中々面白そうだ。時間も無い、決めてしまおう」
今発言した奴の足は四本足で、馬の様になっている。
自分達が有利だから賛同しているのだろう。
そうか、二本足だけじゃないんだった。
ちょっと早まったかもしれないなぁ。
まあ盛り上がってるし、今更止めるのも躊躇う。
このまま進めようか。
チーム分け等はサックスに任せ、他は下見と整備に回された。
俺の指示でマーケットイベントの近くに線を引き、直ぐにそれは完成した。
そして体育祭当日。
「さあ時間だ。俺達の力を見せてやろうぜ!」
俺は高らかに宣言し。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
男達の野太い声が響き渡る。
マーケットに来ていた女達も何が起こったのかと覗きに来ていた。
これは男達だけの秘密なんだが、一等を取った者と優勝したチームには本の無料チケットが貰え、今後は数に限りがある本を優先的に貰える権利が与えられる。
皆ギラギラにやる気を漲らせ、その権利を虎視眈々と狙っていた。
男達が白泉に並び短距離走が始まる。
見回りや魔物退治に出てる奴等は走者にあらかじめ賭け、勝った者には同じ様に賞品が贈られるのだ。
そろそろ時間だ。
十人がズラリと並び、その中には本命と思われる下半身が馬型や獣型の奴が居る。
当然人気は高く、見回りチームや討伐チームの印が体中に貼り付けられていた。
俺の知り合いではバールが一人出ているな。
「用意!」
ゴオォォォォォォォォォン……。
合図のドラが鳴り、皆が一斉に走り始めた。
「この勝負貰ったああああああああ!」
「お前より俺の方が速い!」
一気に跳び出そうとする本命の二人。
しかし馬型の男は隣のワニっぽい男に足を掴まれ、そのまま後に投げ飛ばされた。
獣っぽいもう一人は、隣の奴が押さえ込んでいる。
「行け、バール! 後で俺にも貸してくれ!」
抑え込んだ奴がバールに声援を送った。
「任せてくれー、今の俺はやる気十分だ!」
本命が出るから勝てないと踏んだのだろう。
一人で勝てないなら二人でという事か。
しかしこれ、短距離走とは別の何かになっているなぁ。
邪魔したらダメとも言わなかったし、まあしょうがないか。
今走っているのはワニ男とバールだ。
ちょうど並走している。
二人の足は互角で、後ろからは投げ飛ばされた馬型が追って来ている。
ゴール直前、ワニ男が横を向き、バールを狙って横なぎのチョップが襲う。
しかしバールは体を低く傾け、その体制のままゴールへ走る。
後ろから馬男が迫っている、もうほんの近く、背中まで迫っていた。
バールはそれに構わず、一歩、また一歩と足を進ませ、僅差で一位を勝ち取った。
「くそう! あの一撃が決まっていれば!」
「わはははは、伝令班の俺を舐めないでくださいね。危険なキメラ達や敵の隙間を通り抜け、数々の任務をこなして来たんですからね!」
ワニ男が嘆いている。
だがバールがあのぐらい余裕だと言い、勝ち誇っていた。
ニ走目、蝙蝠男が一位を掻っ攫ったが、飛んだのは反則だと言われ、二位の男が一位を奪った。
その後三回目、四回目と続き、短距離走は終了した。
次はリレーなんだが、何だか様子がおかしい。
さっき投げ飛ばされた馬男が、少し離れて走るワニ男を睨んでいる。
他の奴等もなんだか殺気立っていた。
「用意!」
ゴオォォォォォォォォォン……。
「死ねこらああああああああああ!」
ドラが鳴り、一秒後。
そこに立ってる者は居なかった。
全員が隣の相手をぶん殴ったり、腕を伸ばし引っかけたりして、もう地獄絵図の様だ。
やはりルールは必要だな。
もう少しちゃんと教えればよかった。
……観客は盛り上がっていたけど。
リレーは中止され、嫌な予感しかしない騎馬戦が始まる。
そこには嬉々として指揮を執る、ガーブルが見えた。
「一番隊と二番隊は敵の防御に徹しろ! 三番隊四番隊は遊撃、残りの隊は俺に続け!」
もうマジものの戦争なんじゃないかと思う程迫力がある。
だが何故か、その中に俺も参加させられたのだった。
ガーブルにお前が企画したのだから参加しろと言われ、無理やり馬に乗せられてしまった。
俺は五番隊に指名され、馬の上に乗らされていた。
馬と言っても普通は人の作った馬で、実質一部隊一人の様な物なんだが、この世界では違う。
馬は下半身が乗れるような人が務め、四人で二機の班編成となっているのだ。
その為に、実質八本の腕は完全にフリーになっている。
此方も二十騎、彼方も二十騎、これは相当な激戦になりそうだ。
「アツシ行くぞ。俺に付いて来い!」
俺がうんと返事をするまでも無く、馬役の人が勝手に動く。
これじゃあ逃げられないじゃないか!
もう覚悟を決めるしかない。
痛いのは勘弁だ、受けるダメージを最小限にするようにだけ努力しよう。
「来るぞアツシ、俺から離されるなよ!」
馬の人から注意が飛んだ。
「どわああああああああああああああああ!」
しかしその数とあまりの迫力に俺は悲鳴を上げる。
相手は素手だが鱗が生えていたり刺が生えていたり、当たったら物凄く痛そうだ。
「おやー、アツシじゃないですか。こういうのには向いて無いでしょ? 大人しくハチマキ渡したら痛い目には遭わずに済むぞ」
俺の目の前にはバールが居た。
確かに此奴にハチマキを渡せば安全だ。
良し渡しちゃうか。
俺はハチマキを手に取り、バールにそれを渡そうとした時、馬役のブレッドがバールの顔面を強打し、バールは地面へ崩れ落ちて行く。
落ちたら当然負け判定。
「アツシさん作戦通りですね。此処からドンドン行きましょう!」
俺はブレッドにこんな作戦を指示した覚えはない。
勝手に作戦だと思ってぶん殴ったんだろう。
「騙し討ちとはやるじゃないか、俺を倒してもまだ此方には十九騎の騎馬が居る。必ず血祭にしてあげようか、フッフッフ!」
バールは捨て台詞を言うと会場から去って行く。
「おおやるではないか、さあ皆の者アツシに続くぞ!」
ガーブルの指揮で調子づく此方の軍、だが戦力は拮抗している。
向うにも俺と同じで強くない者がいるんだろうか?
「アツシさん、どうやら今回は敵の様ですね」
聞いたことのある声が聞こえる。
「お、お前はベルト! 何で此処に!」
同士だった男だが、今は敵側に回ってしまったらしい。
「俺だって男なんですからね、この作戦に参加してたっておかしくは無いでしょう」
ベルトが此処に居るのはむしろ当然だ。
エロい事に命賭けの組織の隊員なんだからな。
だが俺は此奴にだけは負けるビジョンが見つからない。
「ベルト、良い事を教えてやろう。このイベントは俺が企画したんだ。つまり、俺は全ての本を既に手に入れている! 分かるかベルト、俺は全部の本を持っているんだ。お前の態度次第では、俺の本を……」
「うわ~突然強風がああああ、体制が崩れてしまうううううう!」
俺の言葉でベルトはワザとらしく地面へと転がると、親指を立てて会場の外へと出て行った。
残り十八騎、いや、見ると随分減っている。
騎馬同士のぶつかり合いで、相当数落ちた様だ。
此方が九騎、向うが八騎。
もう少しで勝負がつきそうだ。
しかしもう俺が勝てそうな奴は見当たらない。
敵を見渡すとリーダーっぽい奴が居る。
あの顔は知ってる奴だ。
会議で議長を務めていた男サックスで、彼奴を何とか出来れば俺達の勝ち。
幸い俺達の方には敵は来ない。
イベント主催の俺に恩義でも感じてるんだろうか?
それならそれで都合が良い。
「ブレッド、敵の大将格のサックスを狙う。一撃入れたら逃げるぞ。良し行け!」
俺は指示を出し。
「おうよ!」
ブレッドは従うように動き出した。
サックスの背後に忍び寄り、ハチマキを狙い腕を伸ばす。
だが相手は実戦なれしていて、俺の行動なんて簡単に読み切り、背後からの攻撃でさえ見もせずに躱してしまう。
「アツシ殿、このイベントを企画してくれた事に感謝はしていますが、敵として立ちはだかるなら容赦はいたしませんよ? 逃げているのなら見逃したのですがねぇ」
サックスは武器も持っていないというのに、すごく威圧感がある。
「サックス、これは実戦じゃない、ゲームなんだ。ここでは剣も槍も使えない、俺にだって勝ち目はあるんだぜ」
「ほう、勝つお積もりですか? 良いですよ、何処からでも掛かって来てください」
「行くぞブレッド!」
だが俺達は動かない。
俺はブレッドに動かない様に指示を出しているから。
「来ないのですか? それとも震えてしまいましたか?」
サックスは余裕で構えている。
あんな事を言ったが、俺に勝ち目なんて微塵も無い。
接触した瞬間、騎馬から落とされるだろう。
「今から行くんだよ!」
相手の騎馬をギリギリで避け、サックスのハチマキに腕を伸ばす。
しかし俺は直ぐに手を引っ込めた。
サックスが俺の腕を掴もうとしてきたのだが、俺はそれが目的じゃない。
騎馬をターンさせて、別の角度からもう一度腕を伸ばす。
やはりサックスの手が俺を掴もうとするが、俺の手は引っ込めた後だ。
俺は最初から戦う気なんて無い。
最初からただの囮役だ。
力の無い俺がリーダー格の相手を足止めできれば、他の隊が有利になる。
また一騎敵の騎馬が落ちた。
もうそろそろ良いだろう。
気付かれる前に撤退することにした。
「ブレッド撤退だ。逃げるぞ!」
「おう!」
「クッ、囮になったのですか! もう良い、別の隊の応援に行きます」
サックスは俺を無視して進みだす。
俺は先ほどの様に、何度も手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返し、相手の気を引こうとしているが相手にされないでいた。
此方が四騎、相手は三騎。 此方の方が若干有利だが、その若干が俺の分であんまり差は無いだろう。
「良し! 此方の方が有利になりましたよ」
サックスに味方が一騎やられた!
数は同じでも此方が不利。
先ほどからずっとサックスにアタックしているが、もう完全に無視されている。
しかし俺は気付いた。
完全に無視されているならこのままハチマキを掻っ攫ってやろうと。
サックスの頭の近くに腕を伸ばす。
大丈夫気付いていない。 良しもう少しだ!
俺の手が触れるか触れないか、そこでサックスは頭を振りそれを躱した。
「なる程、相手の隙を付く良い攻撃です。ですが私には通じませんよ」
くそう、気づかれた!
でもこれで俺の事を無視できなくなっただろう。
「ぐおああああああ!」
「くっそおおおおおおお!」
また騎馬が落ち、残りは二騎同士。
時間もそろそろ終わりに近い。
此方のチームで残ってるのはガーブルの隊、相手はサックスと角が特徴のアンドレスだ。
逃げ回る俺を捕まえるのは至難と見て、ガーブルの方へ二騎が向かって行く。
「ブレッド、もう一度サックスにアタックだ!」
俺はそう言いブレッドの肩を二回叩いた。
「任せろ!」
この指示で伝わったか?
肩を叩いた方向は、サックスが居る方向ではなく、アンドレスの居た右方面。
言葉に出したら相手にバレる。
ブレッドはサックスに突撃する。
どうやら伝わらなかった様だ。
此処は素直にサックスを狙うか。
左腕を伸ばしサックスのハチマキを……いきなり方向が変わりアンドレスの居る方向に!
アンドレスは俺の右、右腕を伸ばせば取れる!
腕を伸ばし……ハチマキを……取った!
「良くやったぞアツシ! これで俺達の勝利だ!」
ガーブルの声が聞こえる。
だがまだサックスが残っていた。
「まだ終わってはいないですよ!」
サックスの腕が油断した俺の頭へ伸ばされた。
「俺達の勝利だと言っただろう。俺が此処で油断でもすると思ったのか?」
歴戦の勇士のガーブルは、一切の油断も無く伸ばされたサックスの腕を止めた。
「我が軍の勝利だ!」
「「「「「 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」」」」」
ガーブルが勝利宣言をすると大歓声が上がった。
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