一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達35

 マッドが見つけたオアシスにたどり着いたリーゼ達、そこで巨大な振動にみまわれる。
 その振動はオアシスを持ち上る巨大な魔物だった。
 しかしその魔物は余りにも巨大で倒す事を諦めた。
 マッドを探すリーゼ達だがその姿は見つからず無事を祈り辺りを探索する。
 結局マッドを発見する事は出来ず仕方なくオアシスで休息を取った。
 マッドは振動が起きた時、砂が盛り上がっているのを発見する。
 それを確かめようと近くに寄るが大きな振動にみまわれる。
 何とか淵で落ちるのを堪えたマッドだが、バランスを崩して地面へと落ちて行った。
 だが自信の魔法でその衝撃を殺し地面にたどり着くと。リーゼ達を追う為に走り出した…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)         ラウ(砂漠の町にいた結界師)
ゼペル(ラウの弟子)


 サタニアに言われた目的の家。
 リーゼ達はその家を訪ねると、白い髪を伸ばした老人と、その孫と思われる黒髪の少年が居た。
 きっとこの二人に会えと言う事だろう。

「どちら様でしょうか?」

 少年はリーゼ達の事は知らないらしい。

「サタニアに言われて来たんだけれど」

 リーゼはもう一度名前を言ってみるが。

「サタニアって誰です? ラウ様知っていますか?」

「わしゃ知らんわい。家を間違えたのではないのか?」

 その名前を聞いても老人の方も知らないと言っている。
 全くの出鱈目を言われたのなら完全に無駄足だが、ただ出鱈目を言ってるとは思えない。

「あいつ確か別の名で呼ばれていたんじゃなかったか?」

 ハガンの言葉でリーゼはその名前を思い出す。
 サタニアはルーキフェート様と呼ばれていたのだ。
 そこそこ権力でも持っているのだろう。

「そうだわ、サタニアの奴、確かルーキフェートとか呼ばれていたわ。この名前ならどうかしら? もしかしたら知ってるんじゃない?」

 リーゼが別の呼び名を告げると。

「ああ、ルキ様の事だったのですか。それなら此処であってますよ。じゃあ早速行きましょうか」

 少年はサタニアの事は知っていたらしい。
 二人が出掛ける準備を始めているが、まだリーゼ達はこの少年の名前も知らない。 

「私達は何も聞かされてないのだけれど、まず私はリーゼ、後は……」

 リーゼは自分達の名前と、何故ここに来たのかを説明した。

「僕はゼペル、あのお方は僕の師匠でラウ様です。実はですね、僕達はある物を封印している者でして、その封印がちょっと困った事になってしまったんですよ」

 少年は自分の名前を名乗り、老人のことも紹介している。

「困った事ってなんだい?」

 リサの言葉に。

「実は先代の結界師が居なくなってしまい、それで僕達が来たんですけど、先代の残した結界がま~ったく解除出来なくて困っていたんです。それでですね、同じ属性を持つ者なら解除出来るんじゃないかと思いまして、貴方方を、いえ貴方を呼んだのです」

 ゼペルはリーゼを見つめている。
 リーゼの属性とは炎の魔法の事だろうか?
 しかし炎を操る人間は他に何人も居る。
 他に変わったものなどない筈だ。

「私、炎の魔法しか使えないわよ?」

 リーゼは使える魔法を伝えると。

「魔法の事じゃないわい。人間は本来属性など持っておらんが、本物の勇者なら光の属性を持っておるはずじゃ。だからその力を使うのじゃ」

 ラウは光の属性があると告げた。

「なんで皆私を勇者とかにしたがるのよ! 私はそんなものになる積もりはないわ!」

 リーゼは勇者と呼ばれる事を嫌っている。
 そんなものになるつもりはなかった。

「お主が望もうが望むまいが、お主の属性は光だ。勇者なのは間違いないだろう」

 ラウはそれでも断言している。

「リーゼさんが勇者なのは前から分かっていましたよ! 私の目に狂いはありませんからね!」

「マッドさんはちょっと黙っててくれませんか! それにどうやって私の属性なんて調べたんですか?!」

 リーゼは自分の属性を調べた事など無い。
 それを相手が知ってる事が、不思議でならなかった。

「天使じゃよ。天使にお主を探してもらったんじゃ。光の属性を持ったお主をな。気付いておらんかっただろうが、ワシ達はお主を見守って来たのじゃよ。子供の頃からずっとな」

 子供の頃から見られていたのは知らなかったが、それよりも天使が居ると言われた方が驚きだった。
 そんなものは噂ですら聞いた事が無い。

「天使ぃ? ならその人に頼めばいいじゃないの。天使ならどうせ光の属性なんでしょ」

 リーゼは二人を疑っている。

「そう出来たら良かったのだがの、残念ながらもう純粋な光ではなくなっしまっているのじゃよ。まあ彼女は幸せにやっておるがな」

 その天使は女らしい。
 だが天使など見た事がないリーゼは、それを信じてはいない。

「もういいわよ、どうせ私には出来ないんだから。とっとと終わらせ行きましょう」

 リーゼ達はその場所へと向かった。
 そこは地図に載っているオアシスの一つ、泉の横には小さな光の塊がある。
 あれが結界なのだろう。

「それでどうするの。私はやり方なんて知らないわよ?」

 リーゼはラウに方法を聞く。

「その光の塊に触れるが良い、少し押し込めばそれだけで消えるだろう」

 リーゼは言われた通りに光の塊に触れると、力を込めて地面まで押し込んだ。
 光の塊はパキリと割れると、中には潰れてしまった咲き掛けの花の蕾がある。

「あ、ごめん、潰しちゃったわ」

 もちろんそれはサタニアの思惑に乗らないためにやったことだ。

「ああ、何てことを! これじゃあ願いが叶えられません!」

 それを見てゼペルが慌てている。

「落ち着くんじゃゼペル、この花にはこれぐらい何ともないわい」

 ゼペル少年が叫んでいる、願いって何の事だろうか?

「願いって何の事なの? この花を使って何かするつもりなの?」

 リーゼは理由を尋ねるが。

「お主が知る必要は無いんじゃよ。もう用は済んだんじゃ、帰ってもらっても大丈夫じゃぞ」

 ラウは言うつもりがないようだ。
 こんな所まで来させられて、はいそうですかと帰るはずもない。

「此処まで来させて、それは無いんじゃないかしら。理由ぐらい教えてくれたっていいでしょ?」

 リーゼは二人に詰め寄り。

「砂漠越えは辛かったんだぜ。俺達にだって知る権利ぐらいあるだろ」

 ラフィールも同様にしている。

「駄目じゃ。お主達が知っても良い事は無いからのう。別に悪い事に使おうというわけではないから、大人しく帰ってくれんか?」

 ラウは良い事は無いと言っているが、この花は相当重要な物なのだろう。
 願いを叶えるとも聞いたのを忘れてはいない。
 やはりこのままタダで帰るわけにはいかない。

「どうしても駄目なの?」

 リーゼはもう一度聞くが。

「駄目じゃ!」

 ラウはそれを突っぱねた。

「ふーん、じゃあ結界を解いた報酬を貰いましょうか」

 リーゼはラウに要求する。

「ほ、報酬じゃと! う~む仕方がない、町に戻ったらそれなりの金額を払うとしよう。だからもう町に帰ってくれんか」

 リーゼの目的は最初から金ではない。
 母親を殺した魔族への復讐と、そしてサタニアへの再戦だ。

「そんな物は要らないわ。私達が貰うのはこの花にしておくわ!」

 リーゼは花の茎を剣で斬り落とすとその蕾を持ち去った。
 利用され、砂漠まで来させられただけでは我慢が出来ず、この花が何か仕返しに使えるんじゃないかと思っていた。

「ま、待て! それは危険な物なんじゃ! 持っていると酷い目に合うかもしれんぞ!」

 その言葉をリーゼは聞き流し、そして砂漠の町へと戻って行く。
 そして町の宿。

「良かったのリーゼちゃん、それ危険の物だって言ってたけど」

 リサが花の蕾を見ている。

「大丈夫よ、こんなのただの花じゃない。まあただの脅しでしょ。まあ念の為に袋にでも入れておきましょうか」

 リーゼは気にしてもいない。

「それでこれから如何するんだリーゼ。一度家にでも戻るか?」

 ハガンはリーゼに尋ねた。

「此処からが本番じゃないの。サタニアは私達だけにこんな砂漠を越えさせて、自分達はお茶でも楽しんでるんでしょ。サタニアはこの花を狙って、今度はちゃんと私達を追って来るわ。その時は今度こそ私達が勝つ番だからね。それから此処から北に向かうわ。サタニアにもこの暑さを体験させてあげないとね」

 リーゼは何とかサタニアを倒す方法を考えている。
 だがまだ勝つ道筋が見つからず、このまま全力で逃げる事にした。

「じゃあ北へ出発よ!」

 此処から北へ進むと直ぐに砂漠は終わり、そしてその先には新たなる町が待っていた。

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