一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

20 王道を行く者達予定34

 砂漠へと向かったリーゼ達。オアシスを発見したマッドを追いかけ、そこで休憩を取った。
 だが大人しくしていたリサがついに行動を開始しだした。
 催してたハガンの後ろに引っ付き、それを手伝おうとしている。
 だがリーゼはそれに気づき、リサとの戦いが始まった。
 だがその戦いも途中で終了する、大きな振動が起こり…………


リーゼ(赤髪の勇者?)   ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)      ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)


「何!? 何が起こったの!?」

 辺りの景色が揺れ、変わっていく。
 リーゼ達が居たオアシスが地面からせり上がり、その為に振動が起きたようだ。

「リーゼ大丈夫か!」

 ハガンはリーゼを心配し駆け寄った。

「ええ他の皆は?」

 リーゼは仲間の無事を確認する。

「私達は大丈夫だよ」

「ああ、問題ないよ」

 リサとラフィールも平気の様で、此処に居た全員の無事が確認できた。
 しかし、離れていたマッドの返事はない。
 リーゼ達はマッドの元へと向かったのだが、そこには何も無く、マッドの姿は見えなかった。

「まさかさっきの振動で、この高さから落ちたんじゃ?」

 リーゼは地面の端を見るも、その姿は発見出来なかった。

「マッドには魔法がある、生きていさえすれば怪我ならなんとかできるだろうが……」

 此処から地上まではかなりの高さがある。
 マッドがそう簡単に死ぬとは思えないが。

「マッドさん生きているといいのだけど」

 まだマッドが落ちていない可能性もある。
 リーゼは、まず周辺の探索を始める事にした。
 だが探索と言ってもそう広い場所ではなく、オアシスにある木陰ぐらいしか隠れる場所は無いようだ。

「やはり居ないか。しかしマッドなら大丈夫だろう。俺達も此処から降りる事を考えないとな」

 ハガンはマッドの事を信じ、自分た達の事を考える事にした。

「そうよね、マッドさんだけじゃなくて私達の事も考えなきゃ」

 リーゼも納得するが、その時また振動が起こった。
 先程の振動より小さかったが、まるで何かが動いている様に震動が続いている。

「おいおい、まさか此処って、巨大な魔物の上なんじゃないのか!」

 ラフィールの言葉に衝撃を受けたが、本当にそうならば確認しなけならない。

「このオアシスが魔物ですって? だったら進んでる方向に頭があるはずよね。行ってみましょう!」

 リーゼ達の進んだ先には、予想より遥かに巨大な魔物の頭が少し見えていた。
 しかしそれは余りにも巨大で、リーゼ達の持っている武器では倒せる気がしない。
 もし倒せたとしても、魔物が倒れる衝撃で、リーゼ達は地面に叩きつけられてしまうだろう。

「リーゼ、この魔物を倒すのは無理だ。また此奴が砂に潜った時に逃げるぞ」

 ハガンはそう判断し。

「それしか無いわね……」

 リーゼもそれに納得した。
 まず自分達の位置が何処なのかと、リーゼは地図を広げて魔物が進む方向を見ている。

「たぶん目的の町には向かってるけど、この魔物が町を踏み潰したりしないわよね?」

 リーゼは少し心配している。 

「これ程の魔物が町を襲っていたなら、とっくに町は壊滅しているだろう。しかしサタニアは町へ向かえと言っていたんだ。なら町は今まで無事だったんだろうさ。この魔物に何かない限りは行かないだろう」

 ハガンは大丈夫だとリーゼに言い聞かせている。
 この魔物が生まれて壱年だとは思いたく無かった。
 何年もこの地で暮らしているなら、突然町を襲いに行くとは考えにくい。

「はぁ、幸いここには水も魚もあるからね、移動もしてくれるし楽だわ。マッドさんには悪いけど、まあのんびりしましょうか」

 リーゼ達は腰を下ろし、魔物が止まるのを待ち続けた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 揺れが起きる前。
 マッドは一人休んでいた。

「ん? あれは何でしょう? 少しずつ地面が盛り上がって?」

 マッドはそれに近づいた時、地揺れが起きてしまう。

「ぬあああああああああああ!?」

 それにより、マッドは立ち上がる事が出来なくなった。
 揺れが収まった時、マッドの居た場所は、丁度地面の切れ目だった。

「危ないですねぇ、私は運が良いですから大丈夫ですけどね、ハッハッハッ! まあ兎に角リーゼさんの所に行ってみましょうかね、おおっと!」

 ギリギリで耐えて、マッドは余裕を見せている。
 しかしその時、マッドのバランスが不意に崩れた。

「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ!」

 マッドは足を踏ん張り、それを耐えた。

「ふう危なかっ……にょわああああああああああああ!」

 だが、踏ん張った足の砂がずるっと滑り、マッドも一緒に空中へと投げ出されてしまう。
 それはもう相当な高さで、人が豆粒に見えるぐらいのものだ。

「ちょ、死ぬ! この高さは死ねます! 勢いを殺さなければ! そうだ水を!」

 マッドは水を使い、勢いを殺す事にした。

「ウォーターボール!」

 マッドは目の前に水の球を作り出す。
 この魔法、目の前に、一メートル大の水の球を浮かせるだけの魔法である。
 マッドは水の球に突っ込むが、勢いはそれほど落ちず、地面が段々近づいて来る。
 このままでは死ぬと。

「ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール、げぺッ!」

 何度も水の魔法を繰り返し、落ちる速度を殺し続けた。
 マッドは水を使い勢いを殺す事に成功し、体を地面に叩きつけられたが、何とか生き残る事が出来たのだった。

「はぁ、はぁ、はぁ……つ、疲れました」

 魔力を使いまくったマッドは、落ちて来た上を見上げると、それがとんでもない大きさの魔物だと気付く。

「デカいですね。あの上にリーゼさん達が居るんですか? う~ん、どうしましょう」

 マッドは暫く考えていると、その巨大な魔物が動き出した。

「あれ、このまま魔物が行ってしまっては、私置いて行かれるんじゃ……ま、待ってください、置いてかないでくださいいいいいい!」

 一人で砂漠に置き去りは嫌だと、マッドはその魔物の後ろを追いかける。
 魔物の歩みは鈍かったが、その一歩は人間の歩みなどでは到底追い付けない。

「負けて堪りますかぁ! ぬおおおおおおおおおおお!」

 マッドは走った。
 兎に角走った。
 それでもズンズンと距離を開けられ、巨大な魔物が見えなくなる寸前、その魔物はピタリと止まった。

「今です! ぬがあああああああにゃあああああおおおおおおおおおおお!」

 それがチャンスであると、マッドは全力で走り続ける。
 しかし、魔物にもう少しで追いつきそうになった瞬間、また歩みが始まった。

「ランナーの町で私は負けてしまいましたが、人知れず特訓してたんですよおおおおおお! ぬぎょおおおおおおおおひょおおおおおおお!」

 魔物が見えなくなるも、それでもマッドは走り続けた。
 仲間の為、自分の使命の為、そして自分が置いて行かれたら魔物が怖いから。

「ぐひゅう、ぜひゅう……も、もう、少し、です」

 必死で走り続け、夜になる頃にはその魔物に追いついた。
 魔物は地面に潜り込み、静かなオアシスが現われている。

「ふふふ、追いつきましたよ。オアシスにリーゼさん達が居るはずです。さあ、私が来ましたよ!」

 マッドがオアシスを見た時、そこには誰も居なくなっていた。
 よく見るとマッドが休んでいた木陰に、小さなメモが置いてある。
 それには、『マッドさんへ、こっち』と書かれ、矢印が示されていた。
 その方向を見ても何もなく、リーゼ達は既に出発した後だったのである。

「まだ私に走れと? ふう、仕方ありませんね。私の実力を見せてあげましょう! ほんぎょおおおおおおおおおおおあああああ!」

 夜が明け、朝日が昇り始める頃、マッドはようやく町を発見できた。
 そして町の入り口でパタリと倒れてしまう。
 リーゼ達が向かった町へマッドは到着出来たようだ。

「げへぇ、ぜひゅう、ぜひゅう……も、もう、走れません……うぐ」

 そう言いマッドは意識を失った。

「お、おいあんた大丈夫か? おい、誰か来てくれ、行き倒れが居るぞ!」

 マッドは町の警備に助けられ、療養所へと運ばれて行く。

「マッドさんやっぱり生きてたわね。さあ出発しましょうか」

 その日の昼、マッドの居る療養所に、リーゼ達が迎えに来ていた。

「ま、待ってくださいリーゼさん、ちょっと私筋肉痛で動けないんで、もう少し待ってください! ふぎょおおおおおおおおおおお!」

 マッドの筋肉痛は相当痛い様だ。

「分かったわ、じゃあ私達だけで行って来るから、生きてたら迎えに来るわ」

 そこでマッドは自分の使命を思い出した。
 勇者の事を見守るのが使命だと。

「ま、待ってくださいリーゼさん! やっぱり私も行きますゆうううううう! だ、大丈夫ですので、向かいましょおいいいいいいいいいいい!」

 マッドは体の痛みを無視し、気力をもって立ち上がった。

「無理しないでいいから休んでたら?」

 リーゼや。

「そうだよ、キツイんなら休んでなって」

 リサに心配されるが。

「大丈夫です、私は這ってでも行きますので、気にしないでください……」

 マッドはギリッギリの笑顔でそれに答えた。

「マッドさん、邪魔になるようでしたら置いて行きますからね」

 リーゼはそう吐き捨てる。
 マッドはリーゼ達と合流して、この町の指定場所へと向かったのだった。

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