一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
10 和解と復讐
帝国の町に付いたアツシ達、ルルムムのデート(復讐)の日は近い…………
タナカアツシ(異界から来た男) ストリー(ガーブルの娘)
ルルムム    (王国、探索班) ダラス・ラギッド(帝国の案内)
帝国の正門前。
正門に居た警備兵は、俺達の姿を見ると慌てふためき、誰かを呼びに行った様だ。
馬車はそこで止まり、その誰かを待っていた。
「良くお越しになられました皆様! 私はダラス・ラギッドと申します。さあ私が案内いたします。どうぞ此方へ」
正門には、俺達の到着を待っていた、帝国の偉い人っぽい人が居た。
服装からして立派な衣装だ。
勲章の様な物を服の至る処に付けて見せつけている。
その人の案内で門を潜り、町中を通された。
帝国の町は活気に満ちている。
聞いた話だと一年程前には帝国の王家が滅んだと聞かされたんだが、そういう感じは微塵も感じない。
勿論、この人達が王国の人間を許す事が出来るのかと言われれば、たぶん無理だと思っているはずだ。
王国の人達に家族を殺された人も多いだろう。
たった一年程度で許せる様な話じゃないし、俺の住んでた日本等は戦後何十年経っても今も戦争の事を言われる。
それが政治なのかそれとも感情なのか分からないけれど。
町の人は俺達の姿を見ると、とても恐ろしいものを見る目で道を開けていく。
これ簡単に行かないんじゃないのか?
「ストリー、これからどうするんだ? 何処かの宿にでも入るのか?」
何にも分からない俺は、ストリーに話しを聞く。
「いや、帝国の議会が用意した住居があるらしいぞ。まあ王を招くのだから、普通の宿には泊まらせないだろうな」
それはそうか。
日本でも普通の旅館に王様とか大統領とかが泊まったとか聞かないからなぁ。
ダラスに案内され、その住居へと通された。
「すっげ~!」
そこは俺みたいな子供が絶対に泊まれないような豪邸がある。
いやもう豪邸でもまだ足りない、もう宮殿と言った方がいいだろう。
天井まで十メートルはあり、その天井には細かな彫刻やシャンデリアが吊り下げられ、窓はステンドグラスになっている。
廊下は俺達の乗って来た馬車が余裕で通れる程の幅があり、柱の一つ、扉の枠までも、黄金で出来た飾りが付けられている。
此処に居るだけでも自分が偉くなった気分になってくる。
「おおおう……」
そんなキョロキョロしている俺を、ルルムムが窘めた。
「アツシ、恥ずかしいから声出さないでよね」
ルルムムの奴、俺を馬鹿にしているのか?
まあ良い、此処からは俺のターンだ。
だがどうしよう、まだ何も考えて無い。
俺が色々考えてる内に、この国に泊まる部屋へと到着した。
一番奥の部屋には王女様が、その周りの部屋を俺達が使う。
女王様の部屋は完全に独立していて、その部屋から通路を挟んだ所に十部屋以上はある。
どうやら全員に個室が割り当てられたらしい。
俺は自分の部屋に入ってみると、流石に護衛用の部屋はそれなりの装飾だった。
それでも高級ホテルにも負けないんじゃないだろうか?
……俺は泊まった事は無いけど。
今日と明日には旅の疲れを取るために、自由時間を設けられ、護衛は交代で行われる。
偶然にも俺はルルムムと同じ時間に自由時間を貰ったが、もし違う時間だったなら俺はそう希望する積もりだった。
つまりこれで俺はルルムムとデート出来るのだ。
そして自由時間はもうすぐ。
俺自体全く役に立たないので、買い出しやらは俺がやる事になっている。
完全に人間の俺なら、売る側も警戒したりしないだろう。
それに道に居た人達の目は俺達に毒でも入れかねない。
まあそれでも女王様達がその程度で死ぬとは思えないけどな。
一応言っておくが、これを考えたのは俺じゃないぞ。
ガーブルの奴に言われた事を喋ってるだけだ。
コンコンコンっと俺の部屋の扉が叩かれた。
どうやらお待ちかねの奴が来た様だぞ。
少しビックリさせてやろう。
用意してあったカップにお茶を注ぎ、扉の前に居る奴に入る様に声を掛けた。
「どうぞ~」
椅子に座り優雅にお茶を口に含んだ。
ガチャッと扉が開かれ、そこには目的のルルムムが居なかった。
「ア、アツシ、何で裸でお茶を飲んでるんだ……」
「おわあ、ストリー!」
ストリーは恥ずかしそうに顔を隠している。
俺の裸は何回か見た事があるはずなんだが、何故こうなった。
「わ、私は今からでも構わないぞ……」
そ、そういえばストリーも同じ時間だったな。
今のストリーと一緒になったら、さぞかし嬉しい……。
いやいやいや、今はルルムムに復讐するのが先だ。
「わ、悪いなストリー。俺はガーブルに頼まれた用事があるんだ。それに俺達はもう別れただろ」
俺はストリーに決別を告げる。
「え? い、何時?」
ストリーの顔がみるみる曇っていく。
手を取れと言った時に、あんなにハッキリお断りしますと言ったのを覚えていないんだろうか?
もしかして別れたと思ってたのは俺だけ?
しかし言ってしまったものは後には引けない。
「お前がルルムムに愛の告白をした時だよ」
「あ、あんなのただの喧嘩だろ、私はアツシと別れたつもりなんて無いぞ!」
えっ、そうなのか?
あれただの喧嘩だったのか?
ストリーの他に女の子と付き合ったことがないから分からない。
他の恋人はあんな激しい喧嘩をするものなんだろうか?
そういえば母ちゃんと父ちゃんが喧嘩した時、別れる別れないだの騒いでいたな。
あれ? そうだったのか?
そんな程度の事だったのか?
「じゃ、じゃあ俺、ストリーともう一度付き合っても良いのかな?」
「私は別れてないって言ったじゃないか。これからもよろしく頼むぞ」
にっこりと笑うストリーに俺は思わず抱き付いた。
ドンドンドンっと部屋の扉から音が聞こえる。
……ヤヴァイ、このタイミングで来る奴は一人しかいない。
「アツシ、居るんでしょ。早くデートしに行きましょうよ。早く出て来なさいよアツシ。約束だったでしょ!」
怒気を含んだ声で、ルルムムは俺の部屋のドアを叩いている。
「アツシ、これは如何いう事だ? 私の事嫌いになったの……か?」
ストリーは俯き今にも泣き出しそうだ。
「いや、違うよ。これはほら、え~と……」
言い訳が思い浮かばない!
ドンッ! っとまた扉が叩かれる。
「遅いよアツシ、早く出て来な……」
ルルムムが扉を開け、俺が素っ裸でストリーと抱き合っている所を見られた。
「アツシが裸で待ってたのはルルムムだったんだな……私、アツシと……」
ストリーはルルムムの横をすり抜け走って行ってしまった。
「待てストリー、誤解だ、誤解なんだああああああ!」
「あ、ごめん、私邪魔だったね。じゃあ私帰るから、二人で仲良くやっといて」
ルルムムは踵を返しこの場を去ろうとしている。
逃がさんっと、俺はルルムムの肩を掴みそれを止めた。
「離してよ! 裸で体に触れられるとか、すんごい気持ち悪いんだけど! それにストリーを追いかけなくてもいいわけ?!」
ルルムムは俺に掴まれることを嫌がっている。
「確かに追いかけたいが、こんな裸で追いかける事は出来ない。着替えている間に何処へ行ったか分からなくなるし、此処はもう先にお前に恨みを晴らしておこうと思ってなぁ。この尻の恨みは忘れていないぞ! デートと言う名の復讐を受けるがいい!」
俺は正直に気持ちを打ち明け、ルルムムに告げた。
「うわ~、復讐とか言っちゃったよ。そんなの私が受けると思うの? というか服着たら?」
ルルムムは、何やらムカつく顔をして笑っている。
「お前は嫌いな俺との約束を守り此処に居る。つまりお前は約束を破るのが嫌いな人間だ!」
俺は裸のままで指をつきつける。
「そんな得意げな顔で言われてもねぇ。まあ極力約束は守りたいけど、わざわざ復讐に付き合う程ではないのよね」
「お前はこの提案を受ける! ストリーと俺との仲を壊して、何となく罪悪感があるからな!」
もう一度ビシッと指を突きつけ、俺はルルムムに言い放った。
「……分かったわよ。でも、もしストリーに見つかったら、どうなっても知らないからね」
買い出しも兼ね、ルルムムとのデートが始まった。
タナカアツシ(異界から来た男) ストリー(ガーブルの娘)
ルルムム    (王国、探索班) ダラス・ラギッド(帝国の案内)
帝国の正門前。
正門に居た警備兵は、俺達の姿を見ると慌てふためき、誰かを呼びに行った様だ。
馬車はそこで止まり、その誰かを待っていた。
「良くお越しになられました皆様! 私はダラス・ラギッドと申します。さあ私が案内いたします。どうぞ此方へ」
正門には、俺達の到着を待っていた、帝国の偉い人っぽい人が居た。
服装からして立派な衣装だ。
勲章の様な物を服の至る処に付けて見せつけている。
その人の案内で門を潜り、町中を通された。
帝国の町は活気に満ちている。
聞いた話だと一年程前には帝国の王家が滅んだと聞かされたんだが、そういう感じは微塵も感じない。
勿論、この人達が王国の人間を許す事が出来るのかと言われれば、たぶん無理だと思っているはずだ。
王国の人達に家族を殺された人も多いだろう。
たった一年程度で許せる様な話じゃないし、俺の住んでた日本等は戦後何十年経っても今も戦争の事を言われる。
それが政治なのかそれとも感情なのか分からないけれど。
町の人は俺達の姿を見ると、とても恐ろしいものを見る目で道を開けていく。
これ簡単に行かないんじゃないのか?
「ストリー、これからどうするんだ? 何処かの宿にでも入るのか?」
何にも分からない俺は、ストリーに話しを聞く。
「いや、帝国の議会が用意した住居があるらしいぞ。まあ王を招くのだから、普通の宿には泊まらせないだろうな」
それはそうか。
日本でも普通の旅館に王様とか大統領とかが泊まったとか聞かないからなぁ。
ダラスに案内され、その住居へと通された。
「すっげ~!」
そこは俺みたいな子供が絶対に泊まれないような豪邸がある。
いやもう豪邸でもまだ足りない、もう宮殿と言った方がいいだろう。
天井まで十メートルはあり、その天井には細かな彫刻やシャンデリアが吊り下げられ、窓はステンドグラスになっている。
廊下は俺達の乗って来た馬車が余裕で通れる程の幅があり、柱の一つ、扉の枠までも、黄金で出来た飾りが付けられている。
此処に居るだけでも自分が偉くなった気分になってくる。
「おおおう……」
そんなキョロキョロしている俺を、ルルムムが窘めた。
「アツシ、恥ずかしいから声出さないでよね」
ルルムムの奴、俺を馬鹿にしているのか?
まあ良い、此処からは俺のターンだ。
だがどうしよう、まだ何も考えて無い。
俺が色々考えてる内に、この国に泊まる部屋へと到着した。
一番奥の部屋には王女様が、その周りの部屋を俺達が使う。
女王様の部屋は完全に独立していて、その部屋から通路を挟んだ所に十部屋以上はある。
どうやら全員に個室が割り当てられたらしい。
俺は自分の部屋に入ってみると、流石に護衛用の部屋はそれなりの装飾だった。
それでも高級ホテルにも負けないんじゃないだろうか?
……俺は泊まった事は無いけど。
今日と明日には旅の疲れを取るために、自由時間を設けられ、護衛は交代で行われる。
偶然にも俺はルルムムと同じ時間に自由時間を貰ったが、もし違う時間だったなら俺はそう希望する積もりだった。
つまりこれで俺はルルムムとデート出来るのだ。
そして自由時間はもうすぐ。
俺自体全く役に立たないので、買い出しやらは俺がやる事になっている。
完全に人間の俺なら、売る側も警戒したりしないだろう。
それに道に居た人達の目は俺達に毒でも入れかねない。
まあそれでも女王様達がその程度で死ぬとは思えないけどな。
一応言っておくが、これを考えたのは俺じゃないぞ。
ガーブルの奴に言われた事を喋ってるだけだ。
コンコンコンっと俺の部屋の扉が叩かれた。
どうやらお待ちかねの奴が来た様だぞ。
少しビックリさせてやろう。
用意してあったカップにお茶を注ぎ、扉の前に居る奴に入る様に声を掛けた。
「どうぞ~」
椅子に座り優雅にお茶を口に含んだ。
ガチャッと扉が開かれ、そこには目的のルルムムが居なかった。
「ア、アツシ、何で裸でお茶を飲んでるんだ……」
「おわあ、ストリー!」
ストリーは恥ずかしそうに顔を隠している。
俺の裸は何回か見た事があるはずなんだが、何故こうなった。
「わ、私は今からでも構わないぞ……」
そ、そういえばストリーも同じ時間だったな。
今のストリーと一緒になったら、さぞかし嬉しい……。
いやいやいや、今はルルムムに復讐するのが先だ。
「わ、悪いなストリー。俺はガーブルに頼まれた用事があるんだ。それに俺達はもう別れただろ」
俺はストリーに決別を告げる。
「え? い、何時?」
ストリーの顔がみるみる曇っていく。
手を取れと言った時に、あんなにハッキリお断りしますと言ったのを覚えていないんだろうか?
もしかして別れたと思ってたのは俺だけ?
しかし言ってしまったものは後には引けない。
「お前がルルムムに愛の告白をした時だよ」
「あ、あんなのただの喧嘩だろ、私はアツシと別れたつもりなんて無いぞ!」
えっ、そうなのか?
あれただの喧嘩だったのか?
ストリーの他に女の子と付き合ったことがないから分からない。
他の恋人はあんな激しい喧嘩をするものなんだろうか?
そういえば母ちゃんと父ちゃんが喧嘩した時、別れる別れないだの騒いでいたな。
あれ? そうだったのか?
そんな程度の事だったのか?
「じゃ、じゃあ俺、ストリーともう一度付き合っても良いのかな?」
「私は別れてないって言ったじゃないか。これからもよろしく頼むぞ」
にっこりと笑うストリーに俺は思わず抱き付いた。
ドンドンドンっと部屋の扉から音が聞こえる。
……ヤヴァイ、このタイミングで来る奴は一人しかいない。
「アツシ、居るんでしょ。早くデートしに行きましょうよ。早く出て来なさいよアツシ。約束だったでしょ!」
怒気を含んだ声で、ルルムムは俺の部屋のドアを叩いている。
「アツシ、これは如何いう事だ? 私の事嫌いになったの……か?」
ストリーは俯き今にも泣き出しそうだ。
「いや、違うよ。これはほら、え~と……」
言い訳が思い浮かばない!
ドンッ! っとまた扉が叩かれる。
「遅いよアツシ、早く出て来な……」
ルルムムが扉を開け、俺が素っ裸でストリーと抱き合っている所を見られた。
「アツシが裸で待ってたのはルルムムだったんだな……私、アツシと……」
ストリーはルルムムの横をすり抜け走って行ってしまった。
「待てストリー、誤解だ、誤解なんだああああああ!」
「あ、ごめん、私邪魔だったね。じゃあ私帰るから、二人で仲良くやっといて」
ルルムムは踵を返しこの場を去ろうとしている。
逃がさんっと、俺はルルムムの肩を掴みそれを止めた。
「離してよ! 裸で体に触れられるとか、すんごい気持ち悪いんだけど! それにストリーを追いかけなくてもいいわけ?!」
ルルムムは俺に掴まれることを嫌がっている。
「確かに追いかけたいが、こんな裸で追いかける事は出来ない。着替えている間に何処へ行ったか分からなくなるし、此処はもう先にお前に恨みを晴らしておこうと思ってなぁ。この尻の恨みは忘れていないぞ! デートと言う名の復讐を受けるがいい!」
俺は正直に気持ちを打ち明け、ルルムムに告げた。
「うわ~、復讐とか言っちゃったよ。そんなの私が受けると思うの? というか服着たら?」
ルルムムは、何やらムカつく顔をして笑っている。
「お前は嫌いな俺との約束を守り此処に居る。つまりお前は約束を破るのが嫌いな人間だ!」
俺は裸のままで指をつきつける。
「そんな得意げな顔で言われてもねぇ。まあ極力約束は守りたいけど、わざわざ復讐に付き合う程ではないのよね」
「お前はこの提案を受ける! ストリーと俺との仲を壊して、何となく罪悪感があるからな!」
もう一度ビシッと指を突きつけ、俺はルルムムに言い放った。
「……分かったわよ。でも、もしストリーに見つかったら、どうなっても知らないからね」
買い出しも兼ね、ルルムムとのデートが始まった。
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