一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

9 王道を行く者達31 バトル

 ルマの家へと潜入したリーゼ達、無事その家から脱出した…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)         ルマ(元魔王軍の一人?)
サタニア(?)            ラム(?)


 リーゼとラフィールは宿に戻り、皆を集めていた。

「早く行きましょう。あいつらはあの家に居るわ」

 リーゼは仲間に提案するが。

「リーゼ、相手にはもう知られているんだろ。戦いづらい夜より、夜明けを待ってからの方がいいだろう」

「そうだよリーゼちゃん。夜には攻撃も見えづらいし、此方の連携も難しいからね。何方かというとこちらの方が不利だよ」

 ハガンとリサに説得されてしまった。

「でも……わかったわよ。だったら完全に全開にして挑みましょう。相手の拠点を知ったんだもの。もう逃げないわよ」

 夜の時間や仲間のやる気を考慮して、リーゼ達は宿で眠ることにした。
 十分な休息を取り、そして朝が来る。
 五人は早速ルマの家へと向かっていた。
 ルマの家の外には、テーブルと椅子が外に出されており、サタニアとラムがくつろいでいる。

「遅かったですね。怖気づいたのかと思ってしまいましたよ」

 サタニアはお茶を飲みながら、リーゼ達が来るのを待っていた。

「サタニア、私達と勝負しなさい!」

 リーゼはサタニアに向かって剣を抜く。

「私達と、ね。……まあいいですよ。ほら掛かっていらっしゃい」

 サタニアはそう言い、椅子に座りお茶を飲んでいるまま動かない。
 リーゼ達はそんなことは気にも留めず、瞬時に詰め寄った。
 そしてサタニアのいる場所へと剣を振り下ろす。
 剣はそこに有った椅子を両断したが、サタニアの姿は消えていた。

「リーゼ上だ!」

 リーゼはハガンの声を聴き、その場を飛び退のくが、サタニアは上空から動かず、ティーカップを持ち優雅に紅茶を飲んでいる。

「降りて来なさいサタニア! 掛かって来なさいよ!」

 リーゼはサタニアを挑発しているが。

「あらあら、私一人に五人がかりで、随分と卑怯な勇者様ですこと」

 サタニアはリーゼの事など歯牙にもかけず、紅茶を楽しんでいる。

「何処でそんな話を聞いたか知らないけど、私は勇者じゃないわ!」

 リーゼは自分が勇者じゃないと否定している。

「ふふふ、教会の剣を抜いていたじゃありませんか。ロープを使って引き抜いていましたよね?」

 空に浮いているサタニアは、リーゼを見下ろし笑っていた。

「! 何処から見ていたのよ!」

 リーゼは疑問をぶつけた。

「最初から。貴方達が家で襲われたその日からですよ」

 この旅の全ては、サタニアに覗き見られていたらしい。

「貴方、あの魔族と知り合いなの! あの魔族はどこにいるのよ!」

 その言葉にリーゼは気付いた。
 母親を殺した魔族を知っているはずだと。

「あの人は……そうね……もし私に勝てたのなら……ありえないですね。まあ何時か気が向いたら教えてあげましょうか」

 サタニアは自分の部屋の窓を開け、そこにティーカップを置くとリーゼの前に降り立つ。
 そして挑発は尚も続く。

「さあ今日は如何して欲しいのですか? その方の様に腕を切り落として欲しいのですか? それとも虫けらの様に地面に這いつくばってしまいたいのですか? ほら、あの時の様に」

「サタニアアアアアアアアアアアアアアア!」

 リーゼがサタニアに向かって走る。
 サタニアは右手に剣を出現させ、リーゼの剣へと斬り付けた。

 ギィイイイイイイイイインっと二つの剣が激しくぶつかり合い、剣音が鳴る。

「おや、随分強く鍛えた様ですね? ですがそれは私と戦う舞台に上がっただけのこと。剣の腕がこの短期間で上がる分けはありませんよね?」

 少しずつスピードを上げて行くサタニアに、リーゼは押され始めている。
 だがリーゼには仲間達が居るのだ。

「行くぞラフィール。リサとマッドはもう一人を見ていてくれ」

 ハガンが指示を出し。

「おう!」

 ラフィールも剣を引き抜く。

「分かったよ」

 リサは大剣を構え、ラムの下へ。

「はい」

 マッドはその場で待機し、やるべき行動を待つ。
 ハガンは足を、ラフィールは背後からサタニアの首を狙う。
 サタニアは体を空中で水平にしてそれを躱すと、ハガンの体を蹴り飛ばし、更に水平のままクルリと横へ回転する。
 そのままの状態で、ラフィールを斬り付けた。
 それにより、ラフィールの剣の防壁が一枚が割れてしまう。

 リーゼはその回転している瞬間を狙い、剣を振り下ろすが、サタニアはすくっと立ち上がりその剣をギリギリで避けたようだ。
 しかし避けられたと同時に、リーゼは二つ目の剣を振る。
 更にハガンとラフィールが続くが、サタニアは空中で後に下がって行く。
 三人の攻撃は届かない。

「バースト・ファイヤー!」

「風よッ吹き付けろ!」

 リーゼとラフィールは、サタニアが後に下がるのを見ると魔法を発動した。
 何時も一緒に戦っているラフィールには、リーゼが魔法を使うタイミングを分かっていたのだ。
 魔法の掛け合わせにより、強化された炎がサタニアに迫る。
 サタニアはそれを気にする素振りも見せず、中に突っ込むと、パキーンと炎が崩れ落ちた。

「これでどうでしょうか?」

「リーゼちゃん!」

 壊れた炎から出現したサタニアは、リーゼの腕を斬り付けようと迫るが、ラフィールは自分の体を滑り込ませ、その一撃を受ける。
 ラフィールの二枚目の防壁が割れてしまう。

「あんたも防御魔法を!」

 リーゼはサタニアを睨みつける。

「私が防御魔法を使ったっておかしくは無いでしょう? 逃げたくなったら何時でもどうぞ。私は追いかけませんので」

 サタニアは、まだまだ余裕だという感じだ。

「誰が逃げるものか! 此処で決着を付けてあげる!」

 リーゼとハガンは、サタニアに攻撃を仕掛ける。
 サタニアはそれに応じ、三人が接近した。

「風よッ吹き付けろ!」

 三人が接触する瞬間、ラフィールの魔法が二人の体を押している。
 タイミングを外されたサタニアは、剣を振ることを事を諦め、リーゼの剣をガードした。
 しかし二人の攻撃はまだ続く、ハガンの蹴りがサタニアの腹部に命中し、二枚目の防壁が割れたのだ。

「ここだあああああああああ!」

 そしてリーゼの二つ目の剣がサタニアを捕らえた。
 剣はサタニアの首を捕らえ、キュンと通過していく。
 サタニアの最後の防壁を破壊した。
 どれだけの魔力をもってしても、自身では三つまでしか防壁を作る事が出来ないのだ。

「ル……サタニア様、私も戦います」

 生身となったサタニアを心配し、ラムと呼ばれた魔族が参戦の意を告げた。

「必要ありません。もう少し本気を出しますから」

 しかしサタニアはそれを断る。

「今まで遊んでいたとでも言うの? 無理せず仲間に頼ればいいじゃないの」

 リーゼはサタニアを見据えながらそう言った。

「そう思うのなら別に構いませんが、気を抜いたら死にますよ」

 サタニアの雰囲気が変わっていく。
 張り詰める空気は今までとは比較にならない。
 リーゼが気付いた時には、サタニアの姿が掻き消えていた。

「一人目」

「なッ……クソ!」

 ラフィールは防御する間も無く、サタニアの攻撃を食らってしまった。
 それにより防壁の三枚目が割れた。
 ラフィールの後ろに回り込み、もう一撃。
 最後の防壁が割れてしまい、サタニアによる三撃目が来る。

「させるか!」

 その攻撃はハガンの蹴りにより阻止されたが、蹴りは空を切る。
 ハガンの後ろに回ったサタニアに、背中を斬り付けられてしまう。
 斬撃はハガンの背中を斬り裂いたが、新たに作った防具により肩の辺りを斬られるに留まった。
 しかしそれですら放って置けば死ぬだろう。

「ラフィール! ハガンをマッドの元へ早く!」

 リーゼは直ぐに指示を出した。

「分かった、でも無理をするなよリーゼちゃん」

 ラフィールがハガンを引きずり、マッドの元へと向かって行く。

「あら一人でいいのですか?」

 サタニアはリーゼに微笑みかけている。

「一人で十分よ!」

 剣と剣がぶつかり合う。
 一撃、二撃、三撃、四撃、リーゼは全てを受け止めているはずなのに、細かな傷がドンドン増えて行く。
 サタニアは斬り結ぶ前に、リーゼに一撃、二撃と腕を止め、細かい傷を付けていたのだ。
 何回かそれが繰り返された後、リーゼはついに足を斬られた。

「あぐッ!」

 リーゼはたまらず膝を突き、その場に崩れてしまった。

「帰りなさい。まだ貴方達が来るべき時ではないです」

 そしてサタニアの剣がリーゼの眼前に付きつけられる。

「リーゼちゃん!」

 ラフィールはハガンを運び終えリーゼの加勢に入ったのだが……。

「ルーキフェート様大変です! 町に魔物が進行してきています。お願いします、どうにか、どうにか助けてもらえないでしょうか!」

 サタニアに助けを求めに現れたのは、屋敷の主であるルマだった。
 この町に魔物が攻めて来ると言っている。

「分かりました。此方の決着も付きましたし、其方に向かいましょう」

 サタニアは剣を収め、リーゼに背中を向けた。

「待て、まだ私は死んでない! 逃げるなサタニア!」

 どうあっても勝ち目のないリーゼだが、負けたくない一心で強がっている。

「それ程元気があるのならば、一緒に付いていらっしゃい。どうせ暇なのでしょう」 

 ルマに連れられてサタニアとラムは行ってしまう。

 リーゼ達は体を癒し、それを追う事にした。

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