一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 花の咲いた時

 四人は水を入手し、目的の場所に水を掛けた…………


ベリー・エル(王国、兵士)        フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士) ブード(覗き野郎)


「それじゃあ皆さん、泉へ向かいましょう。きっと芽が出ているはずです」

 私達はブートさんを連れて泉の場所へと向かいました。
 泉の横にある石で区切られた場所には、ブートさんに言われて通りに花の芽が出ていた。

 いや、もう芽と言うより苗木と言っても良いでしょう。
 なんか成長早過ぎませんか?

「三日で花が咲きますので、それまでその芽を荒らされない様にしてくださいね」

 ブートさんに言われて私は気付いた。
 芽が出る前に動物やキメラに食い荒らされる事もあるのでしょう。
 三日は張り付いて護らなければ駄目なのですね。
 保存食は三日分も持ってきてないです。
 ブートさんに運んで貰いましょうか。

「ブード……さん……食料……運んで……来て」

「あ、ああそうですよね、分かりました。私が持って来てあげましょう。朝方なら魔物も出ませんし、私一人でも持って来れますからね。それじゃあ私は帰ります。皆さん頑張ってくださいね」

「頼んだわよー」

 私達が手を振ると、ブードさんが帰って行った。
 居座られて護衛するよりはマシですね。

 一日目、砂漠の暑さが身に染みる。
 日差しを遮る布やカーテンでもあれば日陰を作れますかね?
 明日ブードさんにお願いしてみましょう。

「やっぱり暑いわ~、こんな所で、三日も過ごすなんて死んじゃうわよ」

「はぁ、三日ですか、結構長いですわね…………」

 私としては何ともありませんけど、お二人は辛そうです。
 やはり何か対策をしないとですね。

 う~ん、この間の様に穴の中なら良さそうですかね?
 この土地なら地面を掘っても大丈夫でしょう。
 フレーレさん、地面を掘ってみてくださいと、私はフレーレさんにお願いした。

「此処を掘ればいいのね? 分かったわ。やってみるねー」

 フレーレさんの手刀が硬い地面を切り裂いて行く。
 相当硬い地盤のようで、穴は崩れないですね。
 どんどん穴が掘り進められ、人二人分の深さに到着しました。

 私は手振りでその事を伝え、フレーレさんはそれを理解しました。
 真っ直ぐの穴だと日差しがきつくなるので横へ穴を掘り進めるて行く。

 
「でやあああああああああああああああ!!」

 かなりの深さの穴が開き、私は合図してフレーレさんを止めた。

 フレーレさんもういいですよ。

 掘られた洞窟を手で触ってみましたが、洞窟は頑丈で崩れそうには見えない。
 まあ大丈夫でしょ。

 此処にウネウネの鬣を入れれば防寒にもなりますからね。
 お二人は洞窟の中で涼んでいる、私は外で見張りましょうか。
 そのまま一日目は特に何も無く過ごした。

 二日目。
 キメラ達が見える。
 水を飲みに来たのでしょうか?
 こんな所で暴れられたら苗が駄目になってしまいます。
 やり過ごせたら良いのですが、ちょっと様子を見ましょうか。
 私は空に上がり魔物の動きを観察します。

 キメラはサソリの大きいサイズで、動きは鈍く硬そうです。
 体にはハサミが四本と長い尻尾が三本ありますね。
 植物を食べるタイプじゃないみたいですから、踏まれそうになったら誘導ましょうか。
 でもサソリは苗に近づかず、小魚を食べて満足したらしいです。

 三日目の朝。
 芽は倍程になってつぼみを付けていた。
 もうそろそろブートさんが来る時間です。
 村の方向を見ると、丁度よく遠くにその姿を発見した。
 手には籠を持っていて、たぶんあの中には食事が入っています!

「皆さん食事を持ってきましたよ。どうぞ食べてください」

 と、運んできたのはやっぱり食事でした。
 料理はパンと焼いた肉、ゆでた鶏の卵、それとこの地方では珍しいフルーツを絞ったジュースも持ってきてくれた。

「貴方中々気が利きますわね。まあ今までの事は許してあげますわ」

 レアスさんからブードさんはやっと許して貰えたのですね。
 フレーレさんとレアスさんは手を伸ばし、その食事を取っている。
 私はジュースを飲む振りをして、食事には手を付けなかった。

「エルちゃん調子悪いの? 洞窟で休んできたらどう?」

 フレーレさんが心配している。
 私はそれに、首を振って答えた。

 大丈夫です、私が気にしているのは違う事ですから。

 ブードさんは代々この花を調べているなら知っているでしょう。
 この花が願いを叶えると言われている事を。
 もしも彼が願いを独り占めにしたいと考えているなら、そろそろ何かしてくるはずです。

 確かに願いを叶えると言われているけど、それが本当なのか誰も真実を知らない。
 不確定な事で殺しまではしないと思う。
 彼がそこまで狂っているとは思えないです。

 まあ考念の為です。
 三人動けなくなったらどうにもなりませんからね。

「食べないんですか? 勿体ないので私がもらっちゃいますね」

 ブードさんは私が手を付けなかった食事を食べていく。

 気にしすぎだったんでしょうか?
 そう感じた私は私は、再びジュースに手を伸ばした。
 そのジュースに口を付けようとした時。

「う、何だか眠い……」

「意識が……保てません……」

 フレーレさんとレアスさんが倒れた。
 食事でないとしたらこのジュース、睡眠薬でしょうか。
 私は立ち上がりブードの前に立ちはだかった。

「貴方には効かなかった様ですね。安心してください、ただの睡眠薬ですよ。私の願いが叶うまで少し眠ってもらうだけですよ」

 一人で私と戦える訳がないですよね。
 何かあるのですか?

 私は剣を構えなおし、ブードに切っ先を向けた。

「私の相手をしていてもいいのですか? そろそろ来る頃ですよ。ほら聞こえてきたでしょう?」

 何かの足音が聞こえる。
 私はその方向を見た。

 それは頭が二つある以上に筋肉が発達したラクダだった。
 それ以外は特に変わった所は見られない。
 二つコブがあるラクダです。
 それでも意識が無い二人が踏まれれば最悪は死です。
 二人を護らなければ。

 ラクダの動きは鈍く、ゆっくりと此方に向かって来る。
 その隙にブードは蕾の場所へと避難して行った。
 相手が来るのを待っていても仕方がないでしょう。
 ラクダの元へと飛び、剣を振り下ろした。

 その斬撃はラクダには当たらず、何かにぶつかって弾かれた。
 剣を弾いたものとは別に、もう一撃の攻撃が私の左腕を貫く。

「……ぐうううぅッ」

 これは舌だ。
 腕に突き刺さった舌から、ゆっくりと血液が飲まれて行く。
 血を失うと不味い!
 とっさにその舌に剣を振ったのですが、随分と硬くて弾かれてしまう。

 剣では駄目だと私はラクダの舌を素手で引き抜き、来る攻撃を躱してその場を離れた。
 傷口から血が零れ落ちる。
 血を止めなければと、私の炎が血液を蒸発させ固めて行く。

 左腕は使えない。
 自分の能力で作られた剣は重さなど殆ど感じないが、両手が使えなければ強烈な一撃を放つ事が出来ない。

 これは見た目に騙されました。
 弱そうな外見に惑わされ、怪我を負うとは私の失態です!
 ブードの方も気になりますから、早く倒さないと!

 こいつは動きが遅い。
 なんとか背後を取ってみますか。

 私はラクダの背後を取ろうと動きますが、流石に簡単には取らせて貰えない。

 なら!

 私は翼を広げ上空へと昇る。
 その間にも二人の下へラクダが動き出した。

 そうはさせない!

 力の入らない左腕の代わりに、上空からの落下により速さと重さを加える。
 ラクダの背後、心臓がある辺りを狙い全力で降下した。

 ラクダは空からの攻撃に対応出来ず、背中の中心に大剣が深々と突き刺さる。
 だがラクダの首が背中に回り、凶悪な舌が伸びてきます。
 私は刺さった剣を手放し、その場を離れました。

 これでも致命傷にはならなかったのでしょうか?
 もう一手です。
 私はラクダの背に刺さった剣を消失させると、その傷口から血が溢れています。

 だけど思った程のダメージは無いみたいです。
 背中のコブの脂肪が思ったよりも厚かったのでしょうか?

 もう一度です。
 私は上空へ昇り、今度はラクダの首を目掛けて降下する。
 しかしそれほど甘くは無かったみたいです。
 ラクダは首を回転させ、上空の私を見ると、矢の如き舌を伸ばして来た。

 このまま攻撃したら二本の攻撃を躱すのは難しい。
 だから私は、その舌を躱すのを諦める。

 ラクダの首を狙い、私はそのまま直進する。
 舌の一本が左肩を抉り、二本目が腹を狙う。

 横っ腹辺りの筋肉が抉られたが、私は止まる事なくラクダの右首を断ち切った。
 ラクダの右半身が力を失い、そのまま地面へ倒れこむ。

 どうやら半分ずつ動かしていた様ですね。

 私は自身の怪我の治療をして、動けないラクダに止めを刺しました。

 でも血が流れすぎました。
 少々意識が飛びそうです……。

「咲いた! 咲いたぞ! さあ私の願いを叶えてくれ!!」

 ブードの声が聞こえる……お二人共、後は任せましたよ……。

 私は二人の近くで意識を失った。

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