一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 その花の名は

 ブードさんから花の話を聞く事になった三人…………


ベリー・エル(王国、兵士)          フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)   ブード(覗き野郎)


 その花の事をブードは語った。

「ラビュラビーツの花は存在します。貴方達が居たあの泉の場所こそがそれです。そして四日後、それは咲くでしょう!」

 ラビュラビーツの花?
 ガイアフラワーの別の名前でしょうか?

「えええ、タイミング良すぎない~? 私達が来て四日後に咲くなんて、そんな事あるの~?」

「騙そうとしているのではないでしょうね? もしそんな事を考えているならば酷い目に遭いますわよ?」

 フレーレさんとレアスさんは二人共疑っている。
 確かに百年周期の花がこのタイミングで咲くなんて相当タイミングが良すぎです。

「いえいえ、これは私が調べた結果なのです。我が家の代々付けた日記を私が引き継いだのです。その日記には花の咲く場所の記録が付けられています。まあニ、三日抜けた部分もありますが、その日以外は全て日記が付けられているのです」

 その抜けている三日部分で咲いたじゃないでしょうね?
 まあ日にちも近いですから、その四日後を見れば分かる事ですが。

「しかし貴方達の様な強い方が来てくれた事は幸いです。花を咲かせるには準備が必要なのです。この器に泉の水を入れて、それを此処から東の方向にあるピラミッドの頂点に置いて、朝日の最初の光を当てる事。その水を花が咲くと言われる場所に掛けると、不思議と次の日には芽が出て花が咲くと言われています」

 植物がその変な儀式をしないと咲かないって事は無いでしょうけど、念の為にやっておくべきでしょうか?
 万が一咲かなかったら困りますからね。

 つまりブードさんは、私達に付き合えと言ってるのでしょうね。
 それはたぶん、ブードさん一人では行けない場所だからでしょうか?

「それじゃあその場所へ行ってみましょうかー。まずは泉の水を汲んでこればいいのね?」

「泉の水はあります。お二人が水浴びをしている時にその水を採取しました! あとは遺跡にいけばいいのです!」

 ブードさんは、バチンとレアスさんに引っぱたかれています。
 何となく嫌だったんでしょう。

「ブードとやら、そのピラミッドとやらに案内なさい。まさか断らないですわよね?」

「はい勿論です。花を咲かせるのは我が一族の使命ですので。その代わり私を護ってくださいね」

 ブードさんは元気に返事をしている。
 元からそのつもりだったのでしょう。

「……善処しますわ」

 レアスさんは了承するとは言っていない。
 善処だけになりそうな予感がします。

「じゃあ明後日の夜出発しましょうかー」

 何となく貞操の危険を感じるのですけど、それでもブードさんの家で泊めてもらいました。
 もし何か有れば、ブードさんには命懸けで抵抗して貰います。
 私達はブードさんの家で眠ったのですけど、ブードさんの命は無くならずに済んだようです。
 もう少し評価をあげてもいいのかもしれません。

「じゃあピラミッドに向かいましょう。ブートさん、水は持ったわよねー?」

「大丈夫です、この筒に入っています」

 フレーレさんの問いに、ブードさんが竹で作られた水筒を見せて来た。
 あの中に水が入っているようです。

「じゃあ出発ー!」

 フレーレさんの掛け声で、私達四人はピラミッドの場所まで向かいました。
 ブードさんには二人の裸を見られているので、正体を隠す必要がありませんよね?
 私はブードさんを掴み、空へと飛んだ。

「あらあら、残念ながらキメラは出て来ませんでしたわね」

「おかしいですね、この辺りには巨大な蛇の様な魔物が巣を作っていたはずですが、別の場所に移ったんでしょうか?」

 巨大な蛇……前に倒した奴でしょう。
 そいつは倒して死んでます。

 そのまま飛び続けピラミッドの頂上におりた私達は、朝日が昇るのを待ち続けた。
 日が見え始め光が伸びて来ると、ブードさんは水が金色に輝く器に移し、その時間が来ました。
 太陽が影を切り裂くように、頂上に置いてある器に光が当たった。

 しかしそれで終わりでした。
 他には何も起こりません。

「これだけかしら? 何か反応があるんじゃないのー?」

 フレーレさんはかなり怪しんでいる。

「たぶん無いでしょうね。それではこの水を持ち帰りましょう」

 ブードさんは水を水筒に移し替えている。
 まあ器ごと水を運べとか難易度高すぎますからね。
 じゃあ帰りましょう。

 だけど、村への帰り際にそいつが現れた。
 物凄いスピードで向かって来たのは、大型の鳥の魔物でした。
 全身が真っ黒で、巨大な翼を持ったカラス。
 まさかべノムが出て来るとは思いませんでした!

 べノムは私達に向かって滑空し、大きな足の爪が迫って来る。
 私達はその攻撃を旋回して躱すのですが、私とレアスさんは、それぞれにブードさんとフレーレさんを抱えている。
 その二人も飛び道具などは持っていないので攻撃できません。

 まず二人をおろそうと私達は地上に降下し始めた。
 しかしべノムは、私達の周りを旋回し下降したりして、許してはくれない。

「レアスちゃん、此処で良いわー。手を放して」

「分かりました、では!」

 レアスさんは頷きフレーレさんから手を放した。
 まだ地上までかなりの距離があります。
 フレーレさんは大丈夫でしょうか?

 手を放されたフレーレさんは、空中を落下していく。
 そして膨大な砂ぼこりを上げて地面に激突した。

 フレーレさんも気になりますが、此方もそれどころではありません。
 べノムが私を狙って来ています!
 私はべノムは趣味じゃありませんので、キッパリ諦めてください!

 大きなクチバシを向けて攻撃してくるも、私はギリギリで回避出来た。
 しかし直ぐに二発目がやって来る。
 この攻撃は完全には避けられない。

 私にべノムの体が当たり、空中でバランスを失ってしまった。
 まず体勢を立て直さないと。

 出来る限りバランスを取り、地面に落ちる前に立て直すのですが、そんな私に向かってべノムは巨大な爪を向けている。
 あれで掴まれたら終わりだ。
 ブードさんを落とすべきでしょうか?

 ここから手を離せば最悪は死、良くて大怪我でしょう。
 私は回避する為に上体をそらそうとするが、その爪の攻撃は来ませんでした。

わたくしを忘れてもらってはこまりますよ!」

 私をフォローするようにレアスさんが動いてくれた。
 レアスさんの爪がべノムの右目を切り裂いています。

「カラス如きが、有れるわたくしが切り刻んであげますわ!」

 そういえば、レアスさんとべノムは仲があまり良く無かったですね。

「お二人共手を出さないでくださいね。こんな鳥如き、わたくし一人で充分ですわ!」

 レアスさん一人で戦う積もりなのですね。
 私はそれに頷くと、ブートを下ろして地面へと降りた。
 上空を見上げると、レアスさんが先に動いている。
 魔法を精製し、べノムへと放出する。

「ダークネス・スフィア!」

 レアスさんの掌から、拳大の黒色の球体が放たれた。
 しかしべノムの速さではそれは当たらない。
 飛ばした黒の球体は簡単に避けられてしまった。

 そして黒球はスピードを失い、空中で静止している。
 でもレアスさんはべノムの攻撃を躱し、二度三度と同じ魔法を使い続けている。
 その玉が十を超えた頃。

「ふふふ、わたくしがただ逃げていると思いましたか? 後悔なさいべノム! さあ、準備は出来ましたわ!」

 空中に浮かぶあの玉、確かに避けにくいです。
 べノムはあの玉を避けて攻撃を続けている。
 だがいくら攻撃を続けても、素早いレアスさんには当たらない。
 あの玉が有るからこそ攻撃方向が絞り込めた訳ですね。

 そして決着がついた。
 べノムがレアスさんの正面から突っ込み、そこへレアスさんの魔法が放たれた。

「ダークネス・スフィア!!」

 その魔法は躱されましたが、黒球の進む先には、もう一つの黒球がありました。
 二つの球は触れ合うと、飛んできた球が弾き飛ばされ、べノムに直撃した。

 直撃した球は広がり、電雷がほとばしる。
 でもそれだけでは終わらなかった。
 直撃した球の元へ止まっていた球が次々と集まり、その威力を増していったのです。

 べノムはその威力に耐えきれず、虚しく地面へと墜落して行った。
 頭から落下したべノムは、自重に耐えきれずそのまま命を落としたようです。

 しかしべノム本人が聞いたら怒りますかね?
 まあ居ないから大丈夫だと思いますけど。
 あっ、そういえばフレーレさんはどうなったでしょう?

「レアスちゃん、勝ったみたいねー」

 私が横を向くと平然と上を見上げていました。
 怪我も無いみたいです。

 そろそろ太陽の光が段々と強くなってきている。
 急いで泉に向かいましょう。
 再び二人を掴み持ち上げた私とレアスさんは、急いで飛び続け泉にまで到着した。

「ねえブードさん、何処が花が咲く場所なのー?」

「ほら、泉のほとりに四角く印がされた場所があるでしょう。その中に花が咲くのですよ」

 おや本当だ。
 地面と同じ色の石が使われていて気付かなかった。
 ブードさんはその場所に向かうと、儀式を行った水を取り出しています。

「それでは水を掛けますね」

 ブードさんはその場所に水を掛けた。

「それじゃあ後は待つだけですので、明日また来ましょう」

「分かったわー。村に戻りましょうか」

「ええ、そうですわね」

 もうやることもないみたいですし、村に帰りましょうか。

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