一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 王道を行く者達27

 プラネットの町、電気という技術が発達していた…………


リーゼ(赤髪の勇者?)  ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)     ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母) 


「ふーん、昼間は他の町と変わらないのね」

 プラネットの町。
 夜とは違い、昼間は他の町とそれ程変わった所はみられない。
 道には露店が立ち並び、人々が買い物を楽しんでいる。
 その町をリーゼはキョロキョロと見回している。

「昼に灯を点けても太陽の光で遮られてしまうからな。夜だけの楽しみというやつだな」

 ハガンはリーゼの隣を歩いている。

「こんな技術は見た事がないね。この国独自の技術なのかもね」

 リサも町の中を見回している。
 誰もが不思議な技術に見とれ、どうなっているのかと考えていた。
 しかしリーゼ達のいた大陸でもこんな技術は見た事がなく、考えは答えに至らない。

「そんなのは良いけどさ、ちょっと腹減らないか? 何か食いに行こうぜ」

 日が高く昇って、そろそろ昼になる頃だ。
 腹を空かせたラフィールが、食事を提案していた。

「私もお腹が空きました! 食事しましょうよ食事! 私肉が食べたいです」

 マッドも相当腹が減っているようだ。

「そうね、食事にしましょうか」

 リーゼもお腹が空いていて、道に並ぶ露天で食べれる物を買って食べている。
 売られているのは肉だが、何の肉かは分からない。
 それでも味としては文句がないものだった。

「意外と美味しいわねこれ、一体何の肉かしら? 食べた事が無い味だわ」

「お客さん、ラットは初めてかい? ほらこれだよ」

 店の店主が見せたのは内臓が取り出され、燻製にされた鼠のようなものだった。
 鼻が突き刺さりそうなほどに尖り、肉を噛み千切るほど鋭い歯を持っている。
 ラットと言う名前だが、大きさぐらいしか鼠と同じ所は無い。
 色も完全な黒だ。

 店主に聞いた話で、このラットが一匹だと腕を噛み千切る程しかできないが。
 二匹、三匹と集まると、周囲に電撃が発生するらしいことを知らされた。
 完全な害獣なのだが、ある研究者がこの電撃を使って、電気という物を作ったという。

 情報を得たリーゼは、持っている肉にかぶりついた。 
 リーゼ達は旅で鍛えられ、ラット程度では怯みはしない。
 肉で腹を満たした五人が、魔法の情報収集を始めた。

「リーゼちゃん、魔法の情報なんてどうやって探すんだ? 魔法を使う人が居ても、他の人と見分けが付かないぜ」

 色々と聞き込み情報を探しているが、魔法の情報は集まらない。

「う~ん、そうよね……ギルドでも行ってみましょうか? 傭兵達なら魔法を使う人も居るだろうし、お金を払ったら教えてくれるかもしれないわ」

 そう提案したリーゼだが、しかしギルドに行くまでもなかった。
 ギルドに向かう途中の道で、建物の壁にボロボロの張り紙があったのだ。

 魔法教えます。
 一つ五千でメーズまで、と。
 場所まで詳細が乗っている。

「リーゼちゃん、これ怪しくない? 魔法って普通は秘匿するものだと聞いてたんだけどね」

 ラフィールが言う様に、魔法の扱いは国や町によってまちまちだが、教えただけで罰せられる所まである。
 庶民が力を持つ事を国の上部が恐れた為だった。
 張り紙が有る所を見ると、この町では違う様だが。

「他に当ても無いし、ちょっと行って見ましょうよ」

 リーゼはその場所へ向かうことを提案する。

「そうだな、本当に五千で魔法を覚えられるのなら安いしな」

 その場所へと移動したリーゼ達。
 しかしそこにある建物は、特に看板もなく、ただの民家の様に見える。
 窓から覗くと、中にはいかにも魔法を使いそうな格好をした女性が居た。

 魔法使い風と言っていいだろう。
 広いツバをしたトンガリ帽子に、それに合わせたコートを着ていた。
 その女性に聞いてみるものの。

「ああ、あれね。この町の警備の人に怒られて止めちゃったのよ。剥がし忘れてがあったのね。残念だけど教える事は出来ないわ」

 マーズと言った女性に早速断られてしまった。
 だが簡単には諦められないと、リーゼは食い下がる。

「マーズさん、何とかなりませんか? 私達は魔法の事を知りたいんです。お金は倍支払ってもいいですから」

「う~んでもねぇ、見つかったら私が怒られちゃうし~」

 マーズは教えるのを躊躇っている。

「なら四倍出します! 私達はこの町の人間じゃないので、教えて貰っても見つかりませんよ!」

「四倍! 分かったわ、そこまで言うのなら受けましょう! でも決してお金に釣られた訳じゃないのよ。貴方達の誠意が伝わった結果だからね!」

 お金に釣られたのは確かだが、こんな人が居るからこそ魔法を覚える事が出来るのだろう。

「それで何を教えれば良いのかしら? 私が教えられるのは火、そして水の魔法ぐらいね」

「私は火の魔法を使えるので、水の魔法を教えてください。それと魔法を防ぐ方法ってありませんか? 私達はそれを探しているんです。」

「へ~、貴方炎の魔法が使えるのね。どんな魔法なの?」

「え? 手から炎を飛ばす魔法ですよ? マーズさんは違うのですか?」

「どうやら貴方達は魔法の素人の様ですね。十万、それだけ貰えれば魔法の全てをお教え致しましょう。それと防御の魔法、私は一つしか知りませんが、それも教えてあげます。防御の魔法なんて普通は教えないのですよ? もし覚えても他の人に教えては駄目ですからね」

 十万は痛かった。
 渡せば宿に泊まる事も出来なくなってしまうだろう。
 しかしこのチャンスを逃せば……。
 そう考えたリーゼは、バンと机に財布を置いた。

「十万払います。その代わりちゃんと教えてくださいね」

「毎度ありがとうございます!」

 リーゼ達はマーズから、魔法の炎と水の魔法、そして防御の魔法を教えて貰った。
 リーゼが炎の別アレンジ、爆発の魔法バーストを覚える。
 マッドも使ってみたが、爆発を扱う事が出来なかったらしい。
 その代わりに水の魔法を覚える事が出来た。
 攻撃には使えそうも無いが、旅には必須の水の確保が出来るものだ。

 そして防御の魔法、これはラフィールだけが覚えられた。
 一度だけ魔法を無効化出来るようだ。
 剣と合わせれば四回防ぐ事が出来る。

 リーゼ達はマーズにお礼を言い、ギルドに向かう。
 もう魔法の知識は必要ないが、お金が無いのだ。
 緊急に仕事をしなければ生活が出来ない程に無くなってしまった。
 だからこそ仕事をうけようとしたのだが、そのギルドの中は慌ただしかった。

「急げ! 誰でも良いからかき集めろ! 早くしないと厄介な事になるぞ!」

 何かあったのだろう。
 リーゼ達は事情を聞く。
 しかし良いから来てくれとしか言われなかった。
 相当な緊急案件らしい。

 緊急案件ならばその値段も高いはだ。
 お金が無いりーぜ達はそれを受けた。

「お金ははずんで貰いますからね」

「ああ分かった。さあこっちだ。急いで来てくれ!」

 ギルドの男の案内で、この町の中心、電気研究所へと向かって行く。

 電気研究所。
 それはこの町に電気という物を作り、町中に光を送っている重要な施設だった。
 夜の光はこの施設で作られているものだ。

「それで? 此処で何をするの?」

「この施設からラットが逃げ出したんだ。急いで捕まえてくれ!」

「露店で売られた奴よね? そんなに緊急度が高いの?」

「そうだ。もし逃げたのが雌だったなら、日に十匹は子供を産む。一週間もすればとんでもない数になるんだ」

 その特性だけでも途轍もなく危険だった。
 日に十匹子供を産むとなると、倍倍で済む話ではない。

「リーゼ、ラットでこの町が溢れる前に急いで見つけるぞ!」

「リーゼちゃん、日に十匹ならもう増えてる可能性があるよ。手分けして探しましょう!」

「私は戦えませんので、ハガンさんに付いて行きます」

「リーゼちゃん、俺は向うを見て来る。何かあったら魔法か何かで知らせてくれよ」

「分かった、じゃあ私はこっちに行くわ」

 五人がそれぞれが研究所を探索する。
 研究所の中は、何人ものの傭兵達も探し回っている様だ、
 やれる事は虱潰しらみつぶしに探すしかない。

 研究所中には、そこら中に配管が伸び、訳が分からない物が沢山置かれている。
 リーゼ達には理解出来ないが、機械という物だ。

「何処から探しましょうか?」

 一階は人が多く、リーゼは最上階に行ってみる事にした。
 上階はまだ人が少ない。
 そして此処には似つかわしくない肉の焼けた臭いが……。

 リーゼは、サンダーラットの習性を思い出した。
 集団になる程強い電撃を放つ。
 焦げた臭いが、それがもし人の匂いだったなら。
 ラットの数は一匹や二匹では無いはずだ。

 そしてリーゼの予想は当たってしまった。

 リーゼは見つけた。
 物置の奥道具の影に黒焦げの死体があったのを。
 そして十匹以上のラットが死体をかじっていた。

 リーゼがそれを見つけると、ラットもリーゼに気づく。
 多くのラットの体から、バチバチと音が鳴っている。
 ラットに近寄る事は出来ない。
 覚えたての魔法を組み合わせ、リーゼは炎の魔法を放った。

「バースト・ファイヤー!!」

 狙った場所に炎が弾ける。
 約半数のラットが燃えている。
 残ったラットはリーゼに走り寄る。

 接近戦は不味い。
 人が焼かれる程の電撃、それの半分だとしても、リーゼには耐える自信が無い。
 リーゼは迷わず部屋から逃げた。

「こんな数を相手にしてられないわ!」

 リーゼは階段を降りて行くが、それをラットも追って来る。
 近くに居た傭兵達の射撃で二匹のラットが沈んだ。

 残り六匹。

「風よッ吹き付けろ!」

 ラフィールの魔法で、先頭の二匹ラットが吹き飛んだ。
 騒ぎを聞いて駆けつけてくれたらしい。

「俺が囮になる。リーゼちゃんは魔法で俺ごと撃て!」

 ラフィールの防御魔法の出番だ。

「分かった!」

 飛ばされたラットが着地し、再び走り寄った。
 リーゼの前に居たラフィールに、一斉にラットが飛び掛かり、そして強烈な電撃を放つ。
 ラフィールに掛かった魔法障壁がそれを防ぐと、力を失った電撃がパリンと割れた。

「風よッ吹き付けろ!」

 風を受け、ラフィールに接近していたラットが空中に舞う。

「今だリーゼちゃん!」

「バースト・ファイヤー!!」

 リーゼの魔法はラフィールを巻き込み、ラット達を燃やし尽くした。
 炎がラットを焼いた瞬間ラフィールは剣の防壁を使た。
 すると、リーゼの放った炎が砕けた。

 ラフィールは少し炎に巻き込まれていたが、ハガン達と合流を済ませマッドに回復して貰った。

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