一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 砂漠のウネウネ

 三人は町人達を別の町に運ぶ…………


ベリー・エル(王国、兵士)          フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)


「さあ行くわよ! うおりゃあああああああああああああ!」

 町の人達は百人も居なかった。
 馬のいない馬車を無理やり何台も繋げ、それに人を押し込んでフレーレさんが先頭を引っ張っている。
 普通だったら運ぶ事すら難しい重量ですが、フレーレさんにとっては違うみたいです。 

「ちょっと速いです! 怖い、フレーレさん速い! 速いです! もうちょっとゆっくり、聞いてますかフレーレさん! フレーレさん!」

 先頭の馬車から声が聞こえてくる。
 そこに居たのは湖に居た男達です。
 あの人達も水が無くなってしまったからと私達について来ている。
 因みに私とレアスさんは空から眺めています。 

「ぎゃああああああ!!」

「怖いよおおおおお!!」

 他にもつながれた馬車からは悲鳴が聞こえる。
 しかしそんな声を聴いてもフレーレさんは止まらない。
 一定以上の速さを出せば、多少荷重が減るからでしょう。
 フレーレさんは一昼夜走り続け、目的の隣町まで到着しました。

 しかしこの町で歓迎はされないでしょう。
 百人分の食い扶持が増えるのだから。

 そんな私達が突然現れ、町の門を護っていた女の人が迫って来ている。

「ちょ、ちょっと、何ですか貴方達。これは一体何なのですか!」

「ねぇ、ここの町長さん居るかしら? 少し頼みたい事があるんだけれど」

 しかし私達の存在を確認して、ビクッと体を震わせています。

「わ、分かりました、少し待っていてください」

 女の警備兵は町中に消え、少し待っていると、町長がやって来た。
 モノクルを付けた恰幅の良い……いえ、もう完全に太った初老の男でした。

「私に頼みとはなんだ? まさかこいつ等を町に住まわせろとかじゃないだろうな?」

 怯まないのは流石町長と言った所でしょうか?
 その態度のよろしくない男の前に、レアスさんが前にでました。

「ええ、そうですわよ。彼等をこの町で雇って貰いたいのです」

「こんな人数を受け入れられるほどこの町は大きくない。……だがお前がワシの相手をしてくれるなら考えない事も無いぞ?」

 レアスさんの体に触れようと町長が手を伸ばす。
 この姿を見てまだそんな考えが有るとは、案外大物かもしれませんよ。

 ですが、レアスさんは男の態度を許しません。
 一瞬にして町長の体から全身の服が消えさりました。
 常人には見えなかったかもしれませんが、レアスさんの爪が町長の服のみを瞬時に刻んだのです。

「ああ、すみません。少々おかしなことが聞こえましたので、少し手が滑ってしまいましたわ」

「お、お前がやったのか! どうしてくれるんだ。この服は髙かったんだぞ! 全額弁償してもらうからな!」

 あ、レアスさんの顔つきが変わった。
 かなりイライラしています。
 これ以上は不味いでしょう。

「……待って」

「エルさん、引き止めないでくださいまし! この男には血の制裁を!」

 私はレアスさんの手を掴み止めると、先に町長をぶん殴った。

「んぎゃ!」

 かなり手加減しましたし、レアスさんに殺されるよりマシでしょう。

「こ、こ奴等をひっ捕らえろ!」

 町長の命令で、十人もの警備兵達が私達に襲い掛かる。
 しかし、その程度の敵が私達の敵になることはありません。
 フレーレさんが嬉々として戦闘を始めると、私達も軽く手を貸し直ぐに戦闘は終わりました。
 まあ手加減するのに多少手間取りましたが、全員倒す事に成功しましたよ。

「お、お前達、こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」

 私は倒れた町長の首元に、炎の剣を突き立てた。

「あらあら、タダでなければ命でもくれるのでしょうか?」

 私は少し剣を傾けた。
 ようやく自分の立場が分かったようです。
 町長は青ざめて尻もちをついています。

「ひぃ、わ、分かった! 言う事を聞く、聞くから助けてくれぇ!」

 しかしまだ態度が悪い。
 私はもう一段階剣を倒す。

「言う事を聞きますから、助けてくださいいいい!」

 ふう、良かった。
 ちゃんと誠意を伝えれば聞いて貰えるものですね。

「分かってくれて嬉しいわ。じゃあよろしくねー」

 フレーレさんは軽く挨拶をして、馬車を町中へと引っ張っていく。

「あー、後ね、この人達に酷い事したら許さないからね?」

 フレーレさんが真剣な目で町長を見つめています。
 殺気に射竦められた町長は、ガクガクと震え始めた。
 たぶんもう逆らえないでしょう。
 でもなんというか、こんなことをしてるから悪名がとどろくのかも知れませんね。
 ちょっと反省しなければ。

 町の人を移動させた私達は、町長に後の事は任せると、目的の砂漠へと向かいました。
 砂漠はとても暑く、肌が火傷するほど……と思います。
 正直炎の耐性を持つ私には感じません。

 その私達は空を飛んでいる。
 砂漠は空の方が涼しいらしいです。
 地面の砂は熱を持ち、焼けた鉄の様で、その熱が地面から上がって来ていますから。

「暑いし、熱いわエルちゃん! 何処か日陰に入りましょうよ」

 フレーレさんは暑さにやられています。
 しかしそう言われても、こんな砂漠の真ん中でそんな場所は見当たらない。

「私も服が汗でベトベトになってしまいました。はぁ、少し休憩したいですが、良い場所が見当たりませんね」

 休憩しないと私以外の二人の体が持たないでしょう。
 だけど周りには岩場もない。
 どうしましょう。

 ?

 あれは何だろう?
 地面から砂が噴出している場所がある。
 そしてそこから蛇の様な……?

 いや明らかに蛇とは違うものです。
 体は鱗ではなく、サイの様な硬質化した体になっている。
 頭の周りはライオンの様な毛で覆われていて、巨大な口しか無かった。
 相当巨大で、私達三人なら一口で飲み込んでしまいそうだ。

 でも丁度いい所に現れました。
 あれを倒して日陰にしてしまいましょう。
 私が指をさし、二人に現れた敵を指摘した。

「随分大きな奴だわねー、気を紛らわすにはいいのかしら? 殴り甲斐もありそうだわ!」

 普通殴って勝てる様には見えませんけど、フレーレさんならやれそうですね。
 私はフレーレさんを地上に降ろすと、戦闘準備を始めた。
 フレーレさんが地面を踏みしめ。

「あっつううううううううううい! ちょっと無理ー! エルちゃん助けて!」

 焼けるような砂には負けてしまったようです。
 期待外れでしたね。

 私はフレーレさんを掴み、うごめくウネウネの背中へと落とした。
 でもそんな事には気が付いていないようで、ウネウネは気にもせずに砂漠を進んで行ってます。
 舵を取れれば乗り物として使っても良いかもしれないですね。

「ふう、ここならまだマシかしらー? いくわよ。うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 背中に乗ったフレーレさんの手刀が、ウネウネの背に突き刺さる。
 でもウネウネの皮膚が厚すぎて全くダメージが無い。
 レアスさんの爪、私の剣を突きさしても変化が見られないです。
 う~ん、相手が気付かないのなら、このまま掘り進めてみましょうか!

 そのまま続けていると、ウネウネの皮膚の感覚が変わりました。
 硬い皮膚の部分を抜けたのかもしれない。
 私はその部分に全力で剣を突き立てた。
 大地が、いやウネウネが揺れている。

「フレーレさん、手を貸しますわ」

「レアスちゃんありがとうー」

 かなりの揺れに、他の二人は空に逃げた様だ。
 私はその場に残って剣を更に奥に押し込み、刃から炎を噴出させた。
 その部分から、肉の焼ける美味しそうな匂いがしてきました。
 こんなものに食欲をわかせてしまうとは、私も疲れているのでしょうか?

「……!」

 その炎の痛みでウネウネが暴れまわり、頭から砂の中に潜り始めた。
 流石にこれ以上ここに居ては不味いでしょう。
 私は剣を手放し、空へと脱出しました。

 もうウネウネの巨大な姿は砂の中へ消えてしまった。
 私は少し待ちますが、待っていても出てこない。
 どうやら逃げられたらしいです。

 でも良い事もあります。
 ウネウネが通った道は、地下へと続く大穴として残っています。
 底は見えずに砂が流れ込んでいますが、穴は固められて洞窟として使えそうです。

 この穴の中なら少し涼めるかもしれないと、私は中を指さした。
 二人を手招きして穴の中へ移動して行く。

「中に入るのー? あれが戻ってきたら危なくない?」

「ですが他に休める所もありませんし、仕方ありませんわよ」

 地上の熱は地下にまで届かず、深く掘られた砂の洞窟はかなり快適でした。

「このまま進んだら目的地に着かないかなぁ?」

 そこまでは無理でも、少しは距離が稼げるでしょうね。

「皆さん、もう少し行った所で今日は休みましょう」

 そうですね、結構進みましたからね。

「うーん、大丈夫かなー? 何となく嫌な予感がするのよね」

 と言っても他に休める場所は無いですし、油断しなければ何とかなるでしょう。
 私達はその穴の中で休息を取り、少しの眠りに付く。
 充分に休めた私は、何かが体に当たるのを感じて目が覚めた。

 当たっていたのは上から落ちて来た砂で、洞窟のひび割から落ちてきているようだ。
 それは少しずつ広がり、洞窟の壁が脆く崩れ出している。
 私は炎を灯として飛ばし、来た方向を見ると、奥はもう半分程埋まってしまってた。

 やばい、急いで移動しないと!

 私は二人を揺さぶり起こして、手を引っ張った。

「如何したのですかエルさん。何かあったのですか?」

「んー、何?」

 私は崩れた洞窟を指さす。
 崩れた付近からジワリジワリと此方に崩れて来る。

「に、逃げな……きゃ!」

「急ぎましょう!」

「しっかり摑まっててね!」

 私とレアスさんはフレーレさんに捕まり、空中を飛んでいる。
 そのままフレーレさんが全力で走った。
 洞窟が崩れるスピードが上がって来ている。
 このままでは追いつかれてしまいそうです!

「出口は何処なのよ!」

 少し先に太陽の光が見えます!
 あった! あそこから上に出られます!

「もう少しです!」

 あと少し!

 その光の出口の、数メートル手前。
 私達の目の前に、あのウネウネが現れた。
 巨大な口を広げ此方に向かって来ている。

「なッ! これはッ!」

 このままだと私達は食われてしまいそうです。
 万事休すかと思われたこの時、フレーレさんは何かを思いついたらしい。

「突っ込みましょう! 噛まれる前に体内に飛び込めば可能性はあるわー!」

 時間が無いと私達は頷き、フレーレさんは全力でウネウネの体内へと突っ込んだ。

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